寧ろ聞きたい。何で僕の方が強いの??
この世界は、五歳になると才能を量る。
神から与えられて才能は神の祝福とも言われていた。
一般人ならよっぽどの努力をしないと手に入らない【剣術レベル5】などといった才能を五歳の時点で持っている可能性もあるのだ。子供たちは、いや、その両親達も子供にどのような才能があるのかとその日を心待ちにしているものだ。
さてある大貴族の館には、今年五歳になる子供が六人ほどいた。
何十人ほどの妻や愛妾がいるその貴族には、子が数えきれないほどいた。その中で五歳になる子供が六人もいたのだ。ちなみにすべて母親は違う。
母親がどういう者であろうとも、才能を持ち合わせている可能性があるということで子供たちすべてを少なくとも五歳になるまでは養っているのであった。才能がないものはすぐに屋敷を追い出されていた。
茶色の髪の少年――シュウトもその中の一人だった。
緊張した面立ちで順番を待つシュウト。
シュウトも含めてこの場には、六人の五歳児がいる。
一人目の少女は、【剣術レベル3】と【身体強化レベル3】の才能を持ち合わせていた。
二人目の少年は、【魔法陣レベル5】の才能を持ち合わせていた。
三人目の少女は、【槍術レベル7】の才能を持ち合わせていた。
四人目の少年は、【火魔法レベル2】、【水魔法レベル2】、【闇魔法レベル3】の才能を持ち合わせていた。
五人目の少女は、【全魔法適正】、【全武器適性】を持ち合わせていた。
彼らの父親が戦争において英雄として名を響かせていたのもあって、見事に戦闘系の才能ばかりであった。さて、ここまで才能を持っているものが続けば、六人目のシュウトにも期待の目が注がれた。
しかし、
「な、才能がゼロだと!?」
「神からの祝福がないものがいるだと!?」
シュウトは何の祝福も持ち合わせていなかった。
貴族の血を引きながら何の才能も持ち合わせていないものというのは異例だった。
平民でさえも細かな才能だったとしても何かを持ち合わせているものだ。
「え……」
戸惑うシュウトをよそに、彼らの父親に命じられた者達の手によってシュウトは屋敷から追い出されてしまうのであった。
――それから屋敷ではシュウトのことは噂されることもなく、いなかったものとされてしまった。
――それから10年後。
その大貴族の屋敷がある王都に、ドラゴンが襲い掛かるという非常事態が起こった。言うまでもなく、ドラゴンというのは強者である。
翼を持ち、炎を吐き、知性を持ち、何よりも大きな巨体を持つ。
そんなドラゴンが二頭も王都を襲った。十五歳になったシュウトと同じ年で、華やかな才能を持ち合わせていた少年少女たちは――、逃げ惑っていた。
ドラゴンと戦おうとしたものの、まともに戦うことは出来なかったのだ。
幾ら才能を持ち合わせていようともドラゴンという存在を前に、戦う力は彼らにはなかった。もっとも彼らがもっと自分を磨き続けていれば違ったかもしれないが、大貴族の子息子女として生きてきた彼らにドラゴンと戦う力はなかった。
鎧を身に纏った騎士達が敗れる。
ローブを纏った魔法師たちが敗れる。
ドラゴンが、街を破壊している。
――人々が倒れ、血の海が広がり、建物が破壊されていく。
もう、この国は終わりだと思われたその時、
「なんだ、このトカゲ」
ドラゴンが吹っ飛んでいった。
一つの人影が、火を吐いていたドラゴンを蹴り倒し、続いてもう一匹の王都を破壊していたドラゴンを切断した。
たった一瞬の出来事である。
その光景を見ていたものたちは、目を見開く。
「な、ド、ドラゴンが一瞬で――」
声をあげる人々の耳に入るのは、まだ若い少年の声だった。
「あーあ、折角帰ってきたのになんだよ、あのトカゲ。ただの雑魚に王都壊されてるし、意味わかんない」
その声の主に生きているものは注目する。
茶色の髪のまだ若い少年だ。背もそんなに高くはない。その背中には大きな大剣が背負われている。その剣で、ドラゴンを切断したのだろうか。
「ななななななっ、あんた、まさかシュウト!?」
「なんで、お前が……」
「才能なしの癖に、何をどうやって……!!」
「シュウトがドラゴンを切断した??」
「わ、私たちがどうしようもなかったのに」
シュウトはその声に、そちらへと視線を向ける。
そこにいるのが一緒に才能を確認した異母兄弟たちだと知って、シュウトは驚いた顔をした。
「は? 何で才能があるお前らがいてあのトカゲ倒せてないわけ? 意味わかんないんだけど」
「い、意味分からないのはあんたよ!! 何で才能なしがドラゴンを倒せてんのよ」
「はー? 何でってあんなトカゲぐらい頑張れば倒せるだろ。才能なしとか散々言われて追い出されて腹立ったから強くなって見返してやるかって思ってきたのに。あんなトカゲ倒せないわけ??」
「なんでって、……相手はドラゴンよ!? っていうか、何で才能なしが私たちが倒せない相手を倒せるのよ!! 私達より強くなっているとかおかしいでしょ!!」
「寧ろ聞きたい。何で僕の方が強いの?? なに、才能があろうとも才能なしに越されるぐらいの才能しかないっていうわけ? 何それ、お笑いものなんだけど。あれだけ散々無能とか僕にいっといてどっちが無能ですかーって」
シュウトは才能がないと言われたのが嫌だったので見返してやろうと、一人黙々と修行をしていた。客観的に自分を見ていなかったシュウトは自分が兄妹たちよりも強くなっていたことなど考えもしていなかったのだ。
なので、いざきてみれば自分の方が強くてシュウトは拍子抜けしていた。
「あーあ、つまんない。僕、もう帰る」
「はぁああ!? ちょ、ちょっと待ちなさい」
「ま、待ちたまえ!!」
そして拍子抜けしたシュウトは兄妹たちや、王都に住むものたちの制止の声も聞かずに、そのまま嵐のように去っていくのであった。
――その後、王都の復興がなされ、シュウトの事を知った王国は才能重視な考え方を改めることになるのだった。
――寧ろ聞きたい。何で僕の方が強いの??
(才能才能言ってたけど、才能ある方が弱いってどういうこと?? とシュウトは思ってならない)
何で僕の方が強いの?? っていう台詞を思いついて、言わせてみたかったので書いた短編です。
何人もいる子供の中で一人だけ才能がないって状況から書こうと思ったら書いてたら異母兄妹になりました。