#6 修行開始
アルスルさんに連れてこられたのは湖だった。
「ここの水を吸い込んでみてくれ」
「あ、はい」
なんだ水源の確保か、と思いオレは湖に手を翳す。
すると手の前には直径にして五十センチほどの吸排口が現れ、水をどんどん吸い込んでいく。
「その吸排口は大きさはそれなりに変えられるんだろ?」
「はい。十メートルぐらいまでなら大きくできます」
「十メートル?」
そうかメートルなんて言っても分からないのか。
「えっと、馬車ぐらいまでなら一度に吸い込めます」
「ふ〜ん」
え? そう言う事を聞きたかったんじゃないの?
オレは訳が分からないまま、このぐらいあれば当分水には困らないだろうという量を〈インベントリ〉に確保する。まあ元々水は大量に確保してあったんだけど。
「水の確保終わりました」
「分かった。じゃあそれを吐き出してみてくれ」
「は?」
「〈インベントリ〉に入れた水を、湖に吐き出してみてくれ」
二回言われた。聞き違いじゃなかったようだ。
オレはまた五十センチほどの吸排口を開くと、ドバドバと水を湖に吐き出す。
(何の意味があるんだ?)
と思っていると、
「それは出す時と吸い込む時で同じ大きさじゃないとダメなのか?」
「いや、ダメじゃないですけど」
アルスルさんにそう言われたので、オレが吸排口を大きくすると、
「違うそうじゃない、小さくするんだ」
と指摘された。
(小さく? …………!)
オレはそこでアルスルさんがオレに何をさせたかったのか理解した。
オレは一端水の排出を止めると、頭の中でイメージする。イメージするのは指で潰したホースの先だ。そしてその小さくなった吸排口から水を吹き出す。
ビシィィィ!
鋭い水がオレの〈インベントリ〉の吸排口から吹き出される。
「おお〜!」
自分でやっといて自分で驚いてしまった。
「な。〈インベントリ〉だって戦闘で役に立つんだ。今程度だと魔物には全然通用しないが、もっと細い、糸のような水が出せるようになれば、敵を貫く事だって可能だ」
考えた事もなかった。〈インベントリ〉は収納用だという固定観念に囚われていた。
「他にも風でも同じことが出来るだろうし、炎を吸い込んでそれを出すことも可能だろう。何なら敵自体吸い込んでしまったっていい。〈インベントリ〉だって戦い方はあるんだよ」
スゴい、オレ自体は何も変わっていないはずなのに、何だか強くなった気がする。
「あ、あの、もうちょっとここで練習していっていいですか?」
「ああ。こっちとしても戦力は少しでも多い方が助かる」
これは嘘だとオレにも分かる。オレがちょっと強くなったところで、1000が1001になるようなものだ。だがここはその嘘に甘えさせてもらいたい。二人には必要なくても、オレの今後の人生には絶対必要になってくるものだからだ。
そしてオレはアルスルさん、ヴィヴィアンさんとこの湖の畔でキャンプを張り、〈インベントリ〉の練習に勤しんだ。
モノになるのに二週間掛かりました。