#5 能力開示
「イトスケをサルテン王国に送り届けるのは了承しよう。出発の前にイトスケの加護とスキルを教えてくれ。どのくらい出来るのか知っておきたい」
東の国はサルテン王国と言うらしい。
護衛対象がどのくらい出来るのか知っておくのは当然だろう。子供と大人、人数の多少で護衛の仕方が変わってくるようなものだな。
「加護は知りませんけど、スキルは〈インベントリ〉です」
「……は? 今なんて言った?」
何かおかしいところがあっただろうか?
「だから〈インベントリ〉です。あの、異空間に物が仕舞えるスキルです」
「いやそっちじゃなくて、今、加護が分からないって言ったのか?」
「? はい。オレ達が召喚の時に与えられたのはスキルです。加護ではないですね」
二人が頭を抱えている。それだけ加護と言うのが大事なのだろうか?
「俺、自分より才能に恵まれてない奴初めて見るわ」
思いっきしディスられた。そりゃ二人に比べれば才能が無いかもしれないけど。
「仕方ないかもしれません。イトスケくん達を召喚したのはこの世界の神、ルノア様ではなく、たかが一国の王なのですから」
二人して同情目線になるのは止めて欲しい。
「その、加護? って言うのはそんなに大事なもの何ですか?」
「そうだな。この世界を含めたディヴァース世界ってのは一神一世界になっててな、神は直接自身の世界に介入できない代わりに、庇護者に加護を与えることで代行させるんだ。この庇護者には人間が選ばれることが多い」
なるほど、神様から加護を与えられていないオレ達は、勇者どころか人間ですらなかったということですね。
「本当に使い捨てだったのね」
ヴィヴィアンさん同情の視線が痛いです。
オレが現実に打ちひしがれていると、
「だがまあそれについては大丈夫だろ。どの世界の人間でも、生まれた時から加護の付いてる奴なんて稀だからな。教会や神殿でこれから加護をもらえばいい」
なんと、これからでも加護がもらえるのか。それを聞いてオレが胸を撫で下ろしていると、
「私は生まれた時から加護持ちでしたよ」
ヴィヴィアンさん空気読んでください。
「しかし〈インベントリ〉か。いいのを引いたな」
アルスルさんがスルーした。
「そうでしょうか? こんなのただの荷物持ちですよ。クラスメイトは〈剣術〉やら〈魔法〉やら、強くてカッコ良さそうなのを一杯持ってましたし」
無双するなんて贅沢は言わないから、モンスターひしめくこの世界を生き抜くために、戦闘系のスキルは欲しかった。
「懐かしいな。俺も自分の才能の無さを認められず、スキルを取りまくってた時期があったよ」
「え? アルスルさんにも? というかスキルって取れるものなんですか?」
「当然だろ。加護は普通一生に一度だけだが、スキルはいくらだって取り放題だ」
なんてこった。オレ、マジでこの世界じゃ一般人以下じゃないか!
「言い過ぎですよアルスルさん。スキルの修得だって一朝一夕で出来るものじゃないんですよ? 普通の人間で二、三個。多くても十はいきません。アルスルさんみたいに千個もスキルを覚えるなんて、それこそ才能ですよ」
千個!? ……ダメだ、全然想像出来ない。
「そんなもんかな? いくら千個スキルを覚えたって、一個の加護でひっくり返されることの方が多いけどな」
マジか、加護スゲエー。
「まあ今は俺の話より、イトスケが使えないと思っている〈インベントリ〉をどうにかするのが先決だろう」
と言ってアルスルさんは立ち上がると、ついてこいとどこかへ歩き出す。
素直に後をついていきながらもオレの胸中は不安で一杯だった。
〈インベントリ〉をどうにかするってどうゆうことだろう?