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#40 旅後日譚

 今は廃れた元新興住宅地。閑散として人通りのまるで無い駅前通りから、更に路地一本入った所に、その雑居ビルはあった。

 昔入っていた店の看板だけを残し、全て空テナントになったビルの二階で、オレは仕事相手と相対していた。

 そこら辺の会社員と変わらないスーツ姿の男が五人、いや六人か。オレの後ろ、ドアの向こうで息を潜めているが、あれで隠れているつもりだろうか? 隠れるならもっと巧くやってほしい。


「で、例のモノは持ってきたんだろうな?」


 正面真ん中で眼鏡を掛けた男が、ドスの聞いた声でこちらを威嚇してくる。

 一見そうとは見えないが、オレが相対しているのは893である。最近はこうやって一般人に偽装するのが流行らしい。

 五人で一斉に睨んできているのだが、異世界帰りのオレからしたら、小鬼に劣る迫力だ。いや、もしかしてドッキリでオレを笑わそうとしているんじゃないか?


「どうなんだよ!?」


 違った。オレが何の反応も示さないからって、軽くキレられてしまった。

 仕方なくオレは中空に〈インベントリ〉の吸排口を展開すると、そこからドサドサっと彼らが言う所の例のモノを出してあげた。

 おそらく500キロはあるであろう例のモノに、子供のように目を輝かせる893。そういう目は新作ゲームにでも向けて貰いたい。


「やりましたねアニキ」

「ああ、こいつがいればどんなヤバいものでも手に入れ放題だ」


 そういう本音は本人のいない所で漏らして欲しい。


「で、そっちこそちゃんと用意しているんだろうな?」


 オレが素早く例のモノを〈インベントリ〉に仕舞ってしまった為、目の輝きが暗くなった真ん中アニキと呼ばれていた893が、横の舎弟にアゴで指示すると、舎弟は持っていたアタッシェケースを床に置き、中身をオレに見せる。

 オレが頷くと舎弟はアタッシェケースを閉じ、それをオレの下まで蹴って渡した。

 そのアタッシェケースを拾おうとした時だ。カチャリと金属音がしたのは。


「そいつに触れるのは勘弁願おうか運び屋」


 見れば五人がこちらへ向かって拳銃を構えている。オレは構わず〈インベントリ〉にアタッシェケースを仕舞った。


「おい! 聞こえなかったのかよ!」


 舎弟が喚く。聞こえていたが無視したんだよ。


「一度痛い目見ないと分かんないみたいだな」


 痛い目ね。魔王に体を真っ二つにされるより痛い目に、目の前の五人に出来るとは思えないが。

 オレがそれも無視して踵を返すと、


 パンッ!


 という乾いた音が響いた。


「へッ。ホントに撃つとは思わなかったか? 甘いな。ここら辺は人通りが無いから撃っても気付かれ……」


 アニキはそう言って凄んでいたが、オレのどこを見ても傷一つ付いていない事に気付くと、その言葉は止まった。

 振り返って確認すれば、五人皆狼狽えている。


「くっそ!」


 今度は五人でパンパンッと拳銃を撃ってくるが、オレは前面に〈インベントリ〉展開し、拳銃の弾を全て吸収していまう。

 分かりやすく青ざめる893。オレは893が弾を撃ち尽くした所で〈インベントリ〉からミスリル棒を取り出すと、バコッボコッと叩いて気絶させて終わりである。

 ドアの向こうに隠れていた一人はといえば、


「こっちは片しておいたわよ、イトスケくん」


 とウィンクを飛ばしてくるエンヴィーさんだった。隠れるとはこういう事を差すのだ。


 エンヴィーさんが何故現代地球の日本のこんな寂れた新興住宅地にいるのか。端的に言えば、ヴィヴィアンさんの置き土産である。

 アルスルさんを回収する時に、代わりにエンヴィーさんを地球に置いていってしまったのだ。

 エンヴィーさんに渡された手紙には、「イトスケ、イトスケ、うるさかったから」とだけ書かれていた。

 このエンヴィーさん。角が生えているのだからさぞ悪目立ちしているだろうと思いきや、元々アジア風な面立ちな事もあり、何かのコスプレイヤーとして日常にとけ込んでいた。現代日本は度量が広いようだ。うちの親ともいつの間にか仲良くなってるし、日常がエンヴィーさんに侵食されていきそうだ。


 雑居ビルを出た所でもう一人の美女が待ち構えていた。


「全く、なんて力の使い方をしているの」


 ビルに背を預けながら美女が語る。


「これは、時空監視局のソニア・オクトパトラ捜査官ではないですか」


 大仰に驚いて見せると、ギロリと睨まれてしまった。

 オレ達と一緒になって魔王討伐の旅をしていたソニアさんは、実は数ある世界が魔王の脅威に晒されていないか監視する為に、様々な世界が協同で設立した、時空監視局という所に所属している捜査官だったらしい。騎士隊長の娘ではなかったようだ。

 しかし魔王の脅威に対抗するなら魔王監視局でいいと思う。


「大丈夫ですよ。警察には通報済みです。例のモノと一緒に直ぐに逮捕されますよ、ソニアさん」


 そう言ってもソニアさんからは溜め息が漏れるだけだ。因みにアタッシェケースの中身は頑張ったオレへのご褒美だ。


「まあいいわ。今日はあなたの行いを諌めにきた訳じゃないから」

「捜査官ならなりませんよ」


 ソニアさんは魔王ガルゼイネスの一件以来、何度もオレに接触してきては捜査官にならないか打診してきている。その度に断っているのだが、と言うか何でオレ? 勇者である佐々木や朝井、ましてやヴィヴィアンさんに〈魔王殺し〉のアルスルさんがいるのに。ああいう面倒事は御免被りたい。


「それも魅力的ですが、イトスケくんにとっては更に一大事でしょう」


 オレにとっての一大事? そう言われて真剣になって耳を傾けると、それは思ってもみない事だった。


「アルスルさんが魔王に捕まりました」

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