#36 山頂決戦
ロイゼル・ミュシェンだった六首のドラゴンに、蝙蝠のような羽根が四つ生える。
バサリと羽根で一掻きするだけで暴風が起こり、その巨体を宙に浮かせた。
その風によって光線で焼けた大地から立ち上る煙が晴れ、今自分達がどこに居るのか理解する。山の頂上だ。
眼下に見える城下町は既に半分焦土と成り果てている。
魔王の配下である四魔将が、城を崩壊させるような行為をしていいのか頭を過ったが、その疑問は直ぐに解決された。
見上げる巨竜の更に上に、巨大な城が浮かんでいるのだ。城門からは雲に隠れて分からなかったが、城下町を山頂まで登って行ったとしても、魔王の座する城にはたどり着けなかったのだ。
バサリッ
ミュシェンドラゴンが巻き起こす羽根の暴風で地面に押し付けられる。そしてオレ達目掛けてまた大口が開けられる。
「くっ!」
オレがとっさに〈ディレイ〉を使った事で、光線の一撃は寸での所で皆かわす事が出来たが、議場はひどい有り様。と言うよりほとんどがマグマのようにグツグツと燃えたぎり、オレ達は議場の一隅に追いやられていた。
「ったく、やってらんないな」
「その割りにはニヤついているぞ?」
アルスルさんに言われて自分の頬を触るが分からない。周りを見れば皆頷いているのでオレは笑っているのだろう。
「何か解決策でも見つかったか?」
「まさか!? 弱点も分からなければ、魔力も底をついているんですよ。オレに何が出来るって言うんですか?」
「弱点が分かって魔力が回復すれば倒せるのね?」
ヴィヴィアンさんが人の言葉尻を取るような事を言う。
「…………それが出来るんなら、やってやりますよ」
ニヤリと笑うヴィヴィアンさん。
「エンヴィーちゃん、イトスケにキスして!」
「はっ?」
言うが早いかオレはエンヴィーさんに口を塞がれる。
「今から〈魔力譲渡〉でエンヴィーちゃんの魔力をイトスケに送り込むわ。キスはその伝達を早める効果があるのよ」
絶対嘘だ! 言いたいがエンヴィーさんの唇に阻まれて言葉に出来ない。第一、エンヴィーさんは〈加護封殺〉のスキル持ちだ。〈魔力譲渡〉なんて出来るのか? などと考えている間にオレとエンヴィーさんの肩に手を置くヴィヴィアンさん。
すると肩がじんわり温かくなり、それが全身に広がっていくのが分かる。魔力が回復していってるのだ。
だが悠長にキスなんてしている場合じゃない。
ミュシェンドラゴンが大口を開けて、三度目の光線を吐き出そうとしている。
オレは無理矢理エンヴィーさんの唇から唇を離すと、〈インベントリ〉で盾を作り六首からの光線を吸収する。
「あら? もういいの?」
「ええ。魔力は十分回復しました」
オレは唇を離した時にエンヴィーさんの犬歯で切った口を拭いながら答える。
「そう。いけそう?」
「もう一発分は欲しい所ですね」
「じゃあ今のうちにあのドラゴンの弱点を教えるわね」
言ってヴィヴィアンさんは〈百科事典〉を取り出す。
「あのドラゴンの名前は〈悪鬼禍竜〉。その弱点は六首と四つ羽根の間にある五つの心臓を一度に潰す事。ちょっとでもタイミングがズレると直ぐ様回復するわよ」
「でしょうね。あの手の首の多いドラゴンは、回復力が高いのがゲームやアニメのお約束ですから」
とそこに四度目の光線が頭上から降り注ぐ。しかもタイミングをずらして撃ち続ける事でオレをこの場に足止めするつもりだ。
オレは直ぐ様ポルックスとカストールの力でミュシェンドラゴンの側まで飛び、至近距離から今食らっている光線をぶっ放してやろうと思っていたのに当てが外れた。
「朝井! お前の〈インベントリ〉でここの防御を頼む!」
「無理よ!」
「はっ!?」
「私そんな使い方した事ないもの! それに魔力だってもう尽きそうだし」
朝井は精霊のルーを使って弓を射るから魔力の消費が激しいんだよな。
「エンヴィーさん!」
「任せて!」
ぐだぐだ言ってる朝井の口をエンヴィーさんの唇が塞ぐ。そこへ直ぐ様ヴィヴィアンさんが肩に手を置き〈魔力譲渡〉での回復。
「これで回復したな! さっさとやれ!」
「はっ、はい……」
まだボーッとしながらも〈インベントリ〉の盾を展開する朝井。皆が朝井に盾の下に入ったのを確認したオレは直ぐ様ポルックスに触れる。
次の瞬間、オレはカストールのいる場所、ミュシェンドラゴンの背の上に立っていた。
「さあ、御返しの時間だ!」
オレは右手の五本指をミュシェンドラゴンの背に突き立てる。
指一本一本から放たれるのは、糸のように凝集圧縮されたミュシェンドラゴンの光線。その威力はオレ達に向けられた数倍はある。ドラゴンの防御力がどれ程か知らないが、これなら貫けるだろう。
「くらえ、〈圧縮砲〉!!」
ズピイイィ!
オレの〈圧縮砲〉は強固なドラゴンの鱗を、表皮を、肉を、骨を貫き、心臓を貫き絶命させた。