#32 末期乃声
※グロ注意
そんな定型文が出てくる自分に吐き気がする。
広間の奥に見えた物体は醜悪な一塊の人肉団子だった。
巨人か誰かが、何十もの人間の死体をぐちゃりと一塊にしたように、腐臭漂う眼前の人肉団子からは手や足が生え、崩れた顔は苦悶の表情をし、そして声が漏れ聴こえる。
「うあああうああ……」
「助けてくれ……」
「痛い……痛いよ……」
その声はオレ達六人にとって聞き馴染みのあるものだった。
全身が一気に冷え込むような恐怖に息が止まる。
もう一度その肉塊をよく見れば、苦悶の顔は垣根中2年2組のクラスメイトのものだった。
女子三人がそのショックに堪えきれずに気絶し、滝口は吐いている。佐々木はさすが勇者と言うべきか、聖剣ブルージンを構えているが、手は震え今にも泣きそうだ。
『フッフッフッ、よく来たな』
肉塊からクラスメイトとは違う男の声が聞こえる。きっとこの声の主がマミークラウンだ。
『あの迷宮を抜けて来るとはしぶとい奴らだ。だが俺様としたら好都合だ。何せ前の肉体を灰塵にしてくれた連中を、俺様自らぐちゃぐちゃにしてやれるんだからなあ!!』
無数の手が、足が、伸びてこちらへ迫ってくる。
だがこちらはオレもアルスルさんもヴィヴィアンさんも疲弊している。五人はショックで使い物にならない。エンヴィーさんは、どうだろう?
ここで前に出たのが騎士隊だった。その強固な鎧に盾で攻撃を防ぎ、剣の一振りで肉を切り裂く。
「いやあああああ!」
「痛い! 止めてくれえ!」
肉塊から悲痛な声が届く。
目を反らしたくなる光景だった。肉塊からの攻撃は止む事をしらず、騎士隊は背後のオレ達を守る為にその手足を切り裂くも、その度に肉塊からはクラスメイト達の悲鳴が響き聞こえてくるのだ。
「佐々木!!」
オレに呼ばれてビクッとこちらを振り返る佐々木。
「お前がトドメを差せ」
「出来るか! クラスメイトを殺せって言うのか!?」
「もう死んでる!」
苦い顔をする佐々木にオレは更に進言する。
「このままにはしておけないんだよ! あんなモノに魂を囚われていたら、神の力でも地球に戻して貰えないかもしれない!」
ハッとしてアルスルさんとヴィヴィアンさんを見遣る佐々木。二人は無言で頷くだけだった。
それを是と取った佐々木は、短い逡巡の後、手の震えが止まる。覚悟を決めたのだろう。
「出でよ! カグツチ!」
佐々木の喚び掛けに応えるように、雷龍カグツチがその巨体を現す。広間の天井を覆い尽くすカグツチ。
「カグツチ!」
佐々木が聖剣ブルージンを天に翳すと、
ドンッ!
という轟音と共に雷が聖剣に落ち、雷龍カグツチはその身を聖剣の中へと納める。
雷迸る聖剣ブルージンを顔の横に構えた佐々木は、そのまま肉塊へ、マミークラウンへと走って行く。
対するマミークラウンも手足を伸ばし攻撃してくるが、その悉くは聖剣が纏う雷によって灰に変えられていく。
「はああああああ!!!」
気迫と共に肉塊を縦一文字に切り裂く佐々木。聖剣に込められた雷が広間中に迸り、マミークラウンは蒸気爆発を起こして灰塵と消えた。
佐々木は泣いていた。




