#30 迷宮攻略
騎士隊が驚いた理由をソニアさんが話してくれた。
「ミュシェン家はナスターンでも筆頭に挙げられる名家です。そのミュシェンの名を持つ者が四魔将のひとりになっていたとは」
サルテン王国でも探りは入れていたが、四魔将の最後のひとりは分からなかったようだ。
次いでヴィヴィアンさんが驚いた理由は、
「ロイゼル・ミュシェンはナスターン帝国の歴史最後のページで、魔王復活を予言した予言者の名前よ」
その言に驚く一同。
「ナスターンの筆頭名家が、魔王復活の予言者か。魔王によって予言を操作されたと考えるべきか」
アルスルさんの言に皆が深く頷く。
そしてオレが驚いた理由だが、
「いままで相対してきた四魔将は、ミサイルボルカ、マミークラウン、ブラッディーエンヴィーさん、と三人共に英語名だったので、四人目も英語名だと勝手に思ってました」
オレの言には皆、首を傾げる。
「え~と、英語っていうのは、オレの世界で広く使われている言語で…」
「ふむ、なるほど。イトスケの言った事が示唆しているのは、四魔将を侍る魔王ガルゼイネスは、イトスケ達と同じ世界から来たかも知れないという事だな」
アルスルさんの解説でどうやら皆、理解出来たようだ。
「これら三つの言を合わせた所で、俺達が魔王を討伐するという最終目標に何ら変更はないがな」
アルスルさん、身も蓋も無い事言わないでください。皆苦笑いしています。
「さて、当面の目標はこの迷宮になっているという城下町の攻略だな」
アルスルさんの言葉で全員の視線が町に向けられる。
「イトスケ」
「は~い」
オレはアルスルさんに言われてカストールを先行させる。別に迷宮になんて付き合う必要は無いのだ。ポルックスとカストールの能力で魔王の城まで一ッ飛びで片が付く。
だが四魔将がそう易々と通してはくれないようだ。
カストールは城壁の上を通ってショートカットしようとしたが、まるで見えない壁にでも阻まれるように城壁より先に行けない。
「おそらくミュシェン家の〈秘術〉でしょう。ミュシェンの〈絶対防壁〉と言えば大陸中にその高名が響き渡っているほどですから」
とはソニアさん。そういう事は最初に言って欲しかったよ。いらん事をしてしまった。
「はあ。こんな大勢で罠に飛び込む愚行をしなければならないとは、湖の主と釣り勝負をするよりバカらしい」
なんかスミマセン。と心の中で謝っておく。
大口を開けて我々を迎い入れる城門を潜ると、案の定城門の門扉が閉められる。
そして城下町の家屋から出てくるのはアンデットだった。
「どうやらマミークラウンは死んでなかったみたいですね」
「そうだな」
アルスルさんが露骨に嫌そうな顔をしている。今回はヴィヴィアンさんの〈グランドクロス〉に頼る訳にもいかないからな。
ヴィヴィアンさん自身は自分で動けるようになったが、まだスキルを使えるほどには魔力が回復していないそうだ。
となれば、出来るのは逃げの一手である。
ロイゼル・ミュシェンとマミークラウンと会敵するまで、出来るだけ体力魔力は温存しておきたい。
しかし相手は迷宮の主だ。走り回り逃げ回り、追い縋るアンデットの軍団と戦わない道を選択していれば、行き着く先は行き止まり。とはならなかった。
「延々と走らされてる感じですね」
「ここまで失敗続きだったから慎重になっていると考えるべきか、しかし…」
「はい。前方の敵影がまばら過ぎるのが気になります」
アンデット軍団は大量に後ろから追い縋ってくるのだが、前方にはほとんど出てこない。何ならオレ達が通り過ぎた後に後方に現れるくらいだ。お蔭で後方のアンデットの数は、数えるのも嫌である。
「これだけ走らされると、どこかに誘い込まれているという線も薄くなってくる」
「城下町で建物が画一的なせいで、同じ所を延々と走らされてる気がしますね」
「! そういう事か!」
と、いきなり足を止めてアンデット軍団を振り返るアルスルさん。つられてオレ達の足も止まる。
「イトスケ、お前の勘が多分当たりだ。この迷宮に出口は無い」
それって一体?




