#3 召喚真相
「食べられるか?」
クラスメイトを埋葬し呆然と座り込んでいるところに、青年銃士がパンとスープを差し出してくれた。
その匂いを嗅いだ瞬間、ぐうううっと自分の腹の虫が鳴く。どうやらこんな時でも腹は空くようだ。なんだか自分が卑しい人間に思えた。
とは言え一度鳴き始めた腹の虫は、腹に何か入れないと治まりそうにない。ご相伴に与ることにした。
「今回はありがとうございました」
三人で焚き火を囲い食事を済ませた後、改めて命を助けてもらったこと、クラスメイトの埋葬を手伝ってもらったことの礼を言う。
「それは構わんが、お前らこんなところで何をしているんだ? ここらは端とはいえ魔族領だぞ」
「…………魔王討伐の旅に……」
「本気で言って……いるんだな」
「はい」
オレはここに至るまでのあらましを話した。
「なるほどな召喚勇者か。ヒルト王国も考えたな」
「ええ。成金王国らしい下衆な策だわ」
「? どういうことですか?」
二人の会話が何やら不穏な雰囲気を醸し出した。
「お前らはヒルト王国が国内外に我が国は魔王と戦う意志がありますって示すために召喚されたんだ」
「? ……はい」
オレは首肯はしたが、何かが噛み合っていない気がする。
「要はパフォーマンスってことよ」
と呆れたように赤毛の美少女が口にした。
「パフォーマンス……ですか?」
「この世界は今魔王の脅威に晒されている。つまり魔王が自国の領地を拡大させている途中なんだ」
「はい」
首肯するオレ。それは既知の情報だ。
「当然各国とも軍を出して自国領の防衛に充てている。だが戦力差は大きく、このままでは強大な魔王の軍にいつか押しきられて、破滅の未来しか待っていないと言うのが現状だ」
「はい」
そうなのだろう。だからそこ強力な戦力となる勇者を召喚したんだ。
「この現状を打破するには、守ってばかりではなく、どこかで攻勢に転じなければならない。そこで本来なら自国の軍を動かすところなのだが、ヒルト王国は勇者召喚という手に出たんだ」
「はい」
…………成程。
「何故なら、下手に自国軍が攻勢に出て死者が出ようものなら、国内世論が黙っていないからだ」
「……は?」
思わず変な声が漏れた。
「当然だ。軍人や兵士にだって家族がいるからな。いくら自国の未来のためとは言え、身内から死者を出したくないというのが人情だろう」
「はあ」
それはそうかもしれないけれど。
「だがそれだと他の国が黙っていない。我が国は魔王討伐のためにこれだけの軍を動かしているのに、そなたの国はどうだ? となる」
「はあ」
心の中まで溜息でいっぱいだ。
「この二つの問題の解決策が勇者召喚なんだ。自国の軍は国民の目があって出せない。だが他国の目があるから何かしらの対抗策を講じているように見せなければならない」
なるほど読めてきた。それでパフォーマンスなのか。異世界から事情も何も知らない人間を勇者として召喚し、魔王にぶつける。国民には自国軍は失われないと言い訳できるし、他国には勇者という戦力を魔王討伐に充てたと言い訳できる。つまりオレ達は言い訳の材料として召喚された訳だ。
「は、ははははは、なんだよそれ! 何でオレ達がそんな所のために召喚されて、そんな事のために死ななきゃならないんだよ!」
感情が爆発してしまった。でも仕方なかったと思う。その為にオレのクラスメイト十九人は死んだのだ。
「他の国ならこんなことはなかったと思うわ。ヒルト王国は金や魔石の産出国で、だからこそ国民は裕福で発言力が強いし、だからこそお金に任せて〈召喚〉が出来る魔術師を雇い勇者召喚なんて出来たのよ」
「そんな……………」
「これからどうするつもりだ」
どうするつもりだって言われても、荷物持ちのオレ一人じゃ魔王討伐なんて出来るはずない。東にある国に逃げた他のクラスメイト達を頼ってそこに、いや、それ以前にオレ一人でこの森を抜けることが出来る訳がない。
ならこのお二人に力を借りるしかない。となるとやるべきことは、
「すみません、お二人の名前を教えてください」