#27 傾城傾国
ガギンッ!
ミスリル棒で美女の一撃を受け止めるが、その膂力に押され膝を付く。
見た目は華奢だというのに、どこにそんな力があるというのか、〈身体能力増〉で筋力は上がっているはずだが、オレはどんどん押し込まれ、既に背中が地面に付いている。それでも更に押し込まれる。
美女の美しい顔は怒りに歪み、その目は憎しみの炎で爛々としている。積年の恨み、と言っていたが、これだけの美女だ、忘れる訳がないし、たかが十四年の人生で他人から恨みを買うなんて……あるかも知れない。いや、滝口達のは逆恨みだろ。オレのせいじゃない。
「うあああ……」
ミスリル棒が喉まで押し込まれて、地面と棒とで首が締まる。とここでようやく五人が我に返り美女に攻撃を仕掛ける。
雷、炎、かまいたちに大地の槍にトドメの聖剣の矢、一斉に攻撃を仕掛けるが、バカか!? 直ぐ側にオレがいるんだぞ!?
だがそんなものは杞憂に終わった。美女に攻撃が触れた瞬間、霧散してしまったからだ。
ダァン!
全員が驚くと同時にアルスルさんが弾丸を美女のコメカミに撃ち込む。が、少し顔を仰け反らせただけで美女は血の一滴も流さず、顔に傷も付いていない。
当然オレを押し込む力が弱まるはずもなく、どうするべきかと気絶しそうな頭で考えていると、フッと突然体が軽くなった。
いきなり空気が吸えるようになって咳き込みながら周りを見ると、オレの前にはアルスルさんがいて、その向こうに美女が居る。その側にはポルックス。そしてオレの横にはカストール。
どうやら二体がオレを助けてくれたようだ。
「あ、ありがとう…ゲホッ…。しかし何なんです? あの人? 鬼?」
そういえば角があった。何だか色々突然過ぎて頭が回っていない。
「こっちが聞きたいわね。積年の恨み、とか言ってたわよ?」
「少なくともあんな美女に恨みを買った覚えは無いですし、買ってたら忘れる訳がありません」
聖剣を支えにアルスルさんの後ろに立つヴィヴィアンさんに弁明しておく。
「彼女は四魔将のひとり、傾城傾国の闇鬼ブラッディーエンヴィーです」
ソニアさんが答えてくれる。傾城傾国と美女の代名詞を冠するだけある美しさだが、更にブラッディーなんてあだ名されると、彼女をめぐって男達が地獄絵図を繰り広げているのが目に浮かぶ。その美しさで国が一つ滅んだという事なのだろう。
「ブラッディーエンヴィーは〈加護封殺〉というスキル持ちで、加護もスキルも全く効かないんです。そこに大樹さえ一撃でなぎ倒す鬼の膂力。彼女の進軍を止める事は誰にも出来ず、ナスターンの西国ザルケッシュとビタミアは彼女ひとりに潰されました。
違った。傾城傾国(物理)だった。
「そんな彼女といつ出会ったんですか?」
ソニアさんの問いに全員の視線がオレに向くが、本当に覚えていないのだ。
「あの〜、どこぞでお会いしましたっけ?」
意を決して出来るだけ怒らせないように、笑顔でブラッディーエンヴィーさんに尋ねて見る。
思いっきり怒り顔に変わるエンヴィーさん。ですよね~。
「貴様は私をフッたザルケッシュの王子にそっくりなのだ!」
思いっきり逆恨みだった。
「慈悲深き私が、折角この私が、側に迎えてやろうと言ったのに、既に隣国の姫と婚約しているだと!? 知った事か! 隣国ごと滅ぼしてやったわ!」
うわ〜、残念極まれりだなぁ。その王子も何やってんだよ。王族の婚姻なんて政治の道具じゃないのか? 何を純愛貫いてんだよ。
「あの、オレその王子じゃないんですけど」
「知った事か!」
ですよね~。
「イトスケ」
アルスルさん!
「任せた」
えええ〜!?




