表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王殺しの弟子  作者: 西順


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/40

#25 無視素通

 オレ達全員が背中合わせで一塊になり、迎え撃つのはアンデット。

 十重二十重の軍団が、オレ達目掛けて襲い掛かってくる。

 対してオレ達はと言えば、死人の軍団相手に無敵と思われた佐々木、朝井も〈武技〉や〈魔法〉の連発で、既に魔力は底を尽き、滝口、大越、三島に騎士隊は、言わずもがなで既にボロボロ。アルスルさんはやる気がなく、オレの攻撃はゴーストには通じない。

 ひとり気を吐くヴィヴィアンさんだが、さすがにピストの全国民を相手取り、ひとりで滅せる訳がない。

 最早一行の命運もここまでか? と誰もが思った所で、


「〈ディレイ〉!」


 とオレが唱え、時間がゆっくりと進みだす。

 何事か、と全員の視線がオレに集中すれば、オレはポルックスに今にも触れようという格好だった。

 それだけで意図を伝えるには充分だ。皆は我先にとオレを掴みに掛かる。

 ある者は腕に、ある者は脚に、胴に、首に、頭、指先、全員がオレに触れたのを〈ディレイ〉のゆっくりとした時間の中で確認し終わると、オレはポルックスに触れる。

 次の瞬間オレ達が居たのは、今まで居た廃村を見下ろせる高台だった。


『はあ〜……』


 全員が嘆息してその場にへたり込む。余裕があるのはアルスルさんとヴィヴィアンさんだけ。他の皆は一言も発さなかった。


 5分経っただろうか、10分経っただろうか、おもむろにアルスルさんが口を開く。


「よし、ここは素通りだ。目的地はピストではなくナスターンだからな」


 いや、素通りって、と全員思ったのだろうが、口には出さなかった。


「素通りといってもどうするんです? 馬車や騎馬はあの村に置いてきちゃいましたけど。多分徒歩だと直ぐに追い付かれて、さっきの二の舞ですよ?」


 オレの至極もっともな言い分に皆が頷く。


「そういえばそうだったな」


 アルスルさんはおそらく普段単独行動なのだろう。基本的に他人に興味がない所が珠に傷だ。この場でも、アルスルさんひとり、またはヴィヴィアンさんと二人なら逃げの一手で切り抜けられたのだろうが、今はお荷物が大勢いるのだ。


「イトスケ」

「嫌です」


 即答した。あんなアンデットだらけの場所に、もう生存しているかも分からない馬の為にテレポートするなんて御免こうむる。オレはアンデットと相性が悪いのだ。


「仕方がない。ならテレポートで……」


 がアルスルさんはのろのろとオレの元に帰ってくるポルックスを見て言葉を止めた。

 そうなのだ。ポルックスとカストールは決して早くは移動出来ないのである。理屈は分からないが、オレの移動速度以上は早くならないのだ。

 だからオレが走ればそれに合わせて付いてくるし、馬車に乗ってても問題ない。多分オレが新幹線に乗っても同じ速度で付いてくるだろう。しかしオレより早い速度では動けないのだ。

 眉間に皺を寄せてオレを睨んでくるが、オレにだってどうしようもない。肩をすくませ返事の代わりにした。


「仕方がないな。ヴィヴィ、〈グランドクロス〉だ」

「ええ〜」


 おっと意外。アルスルさんのお願いなら何でも素直にきく人かと思っていたが、こんな露骨に嫌がる事もあるんだな。


「あれやると、私暫く使い物にならなくなっちゃうんだけど」


 そこまでの大技なのか。ヴィヴィアンさんは大事な戦力だ。使い物にならなくなられると困るな、オレ達が。


「〈グランドクロス(あれ)〉をやればここらの魔物は一掃されるだろう。動けなくなったらオレがおんぶしてやる」

「え? ホント? ならやる!」


 どっちも現金だなぁ。ヴィヴィアンさんはアルスルさんにほだされてやる気満々だ。


「〈グランドクロス〉ってどういうモノなんですか?」


 オレがスススッとアルスルさんの横にきて尋ねると、


「勇者四人で行う聖属性最強魔法だ」


 とのお返事。えっと、勇者四人? この場には三人しか勇者が居ないのですが。それって佐々木や朝井まで使い物にならなくなるって事ですかね?

 などと心配していると、ヴィヴィアンさんが〈増殖〉で四人に増えた。なるほど。

 そして四人のヴィヴィアンさんが十字に位置取ると、ヴィヴィアンさん達の足下で魔法陣が光りだす。


「我、ヴィヴィアン・ニムエの名の下に、我が力を行使する。我が力は世の理、我が進むは真の軌道。天地あまねく我が声に従属せよ。我に敵なす全ての者に、真理の裁罰を与えよ。〈グランドクロス〉!」


 ヴィヴィアンさんが詠唱を終えると、世界が眩ゆい光に包まれた。


 徐々に光量が落ちていき、なんとか周りが見渡せるようになり村を見てみると、あれほど居たアンデットの軍団は全て綺麗さっぱり居なくなっていた。


「つ、疲れた〜」


 振り返るとひとりになったヴィヴィアンさんがへたり込んでいる。

 そんなヴィヴィアンさんをアルスルさんがお姫様抱っこ、する訳もなく、まるで俵でも担ぐかのように片肩に担ぐ。

 それでいいのだろうか? とも思ったが、当のヴィヴィアンさんは「ぐへへへへ」と笑っているのでいいのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ