#23 道中不満
「はあ……」
「なんかスミマセン」
皿洗いの途中の事だ。ソニアさんが溜め息を吐いたのでオレは反射的に謝っていた。
それというのもこの集団、なんだか雰囲気がギスギスしていて居心地が悪いのだ。
ミサイルボルカ討伐後、砦に居るのはマズイという全会一致で、ガルゼイネスの居城がある元ナスターン帝国の帝都を目指す事になった。
それは一台の馬車を騎士隊が護衛として騎馬に乗り周囲を囲うというものだ。ぶっちゃけ騎士隊より佐々木達回避組の方が強いと思うのだが、そこはそれ、騎士隊にも王の勅命という大人の事情があるそうだ。聖武器もそうだが、なんとか勇者のおこぼれに与ろうという気見え見えだ。
そんな訳でソニアさんが馭者をする馬車の中はオレ、アルスルさん、ヴィヴィアンさん、回避組五人というなんかカオスなメンツで占められ、回避組は五人だけで話をし、ヴィヴィアンさんはアルスルさんにしか興味がなく、アルスルさんはそれを無視、オレはといえば、
「じゃんけんぽん。良し、オレの勝ち」
ポルックスとカストールとじゃんけんをしているという、端から見たらおそらく可哀想な奴になっていた。五人にもクスクス笑われてたし。
因みにポルックスとカストールにじゃんけんなんて出来るのか? と思うかもしれないが、メタリックなその表面にグー、チョキ、パーを器用に表示して難なくこなしている。難点があるとすれば、両者全く同じ手を出してくるので、オレが勝つか二体が勝つかになってしまう所だ。
そしてその日の夕食後、オレが〈インベントリ〉から出す水でソニアさんが食器を洗いながらさっきの溜め息を漏らしたのだ。
「いや、イトスケくんが悪い訳ではありませんから」
と疲れた顔で言ってくれたが、原因の一端であろうオレとしては申し訳ない気持ちだった。とはいえ五人と和解して仲良くするのも考えられないが。
旅は相変わらずモンスターとのエンカウント率が高いが、五人が気張ってモンスター達を倒していくので、オレを含め他の皆の出番はほぼ無かった。
ヴィヴィアンさん曰く、オレがミサイルボルカをひとりで討伐した事で、五人にはオレに負けてられない、という思いが強くなったのだそうだ。
夕食後など、隙を見付けてはアルスルさんやヴィヴィアンさんに修行をつけて貰っている姿を見掛けた。
そんな中オレはと言えば、〈詠唱魔法〉を〈心内詠唱魔法〉に進化させるため、目下ポルックスとカストールに〈詠唱魔法〉を習っている所だ。
「我と精霊の御名の下、我が力を行使する。天地あまねくその者なりて、我が居所を決めるは我の精神なり。我が一歩を防ぐ者無し。〈浮遊〉」
体が軽くなったのを感じて、オレが宙に浮かぶ自分を意識すると、フワリとオレの体が実際に宙に浮く。
「おおお!」
オレが喜びの声を上げるので、皆の視線がこちらに向くが、なんて事はない、五センチ程浮かんだだけだ。直ぐに皆は自分がしなければならない作業に戻っていった。
だがオレからしたらスゴい事である。なにせここまでくるのに一週間掛かったのだから。〈圧縮砲〉の時といい、自分の物覚えの悪さには泣きたくなるが、アルスルさん曰く、始めの一歩は誰でも重いものだ。それさえ踏み出せれば二歩三歩なんて軽い。との事なので、ここからブーストが掛かってくれる事を期待したい。
森の中をひた走り十日後、オレ達は森を抜けた先にある村にたどり着いた。
そこでオレ達を出迎えてくれたのは優しい村人達、ではなく、アンデットと化した村人達の末期の姿だった。




