#20 五人精霊
「ミスリル銀!?」
アルスルさんにそう言われ、マジマジ見てもこれが「金属」とは思えない。と言うかこの人、ミスリルをただの棒にしたのか?
「まあ、イトスケに言っても分からないだろうが、ミスリル銀というのは銀の同位体で同素体らしい」
うん。さっぱり分からない。
「ダイヤモンドみたいな物だと思えばいい」
なるほど、ダイヤか。それなら透明で硬そうだ。あれって確か炭と同じ炭素なんだよなぁ。確か結晶の原子配列が違うとか。同じ銀でも原子配列が違うとこうなるのか。いや、もしかしたら魔法がある世界だからこうなるのか?
「不安があるなら魔力を通せ。それでミスリル銀は更に硬くなる」
オレがずうっとミスリルの棒を見ていたからだろう。アルスルさんが更に付け加えて教えてくれた。
「あ、はい」
「話はそれだけだ。部屋に戻っていいぞ」
オレはミスリル棒を自分の〈インベントリ〉に仕舞い、広間から退出した。
広間を出ると、回避組五人が揃ってオレが退出するのを待っていた。
「で、どうだったんだ?」
滝口がニヤニヤ笑いながら訊いてくる。オレがアルスルさんに怒られてきたと勘違いしているのだ。見れば他の四人もニヤニヤしている。
「どう、と言われてもな」
恥ずかしいのかオレの後ろに隠れていたポルックスとカストールを五人に見せる。
「ただ精霊契約をしてきただけだよ」
驚く五人。どうやら有る事無い事アルスルさんに吹き込んで、オレを叱って貰おうと思っていた魂胆が瓦解したらしい。
こちらが吹き出しそうになるほど動揺した顔を見せたが、直ぐに平静を装い「ふ〜ん」などと言っている。この内二人が勇者というのだから笑えない。
「しっかし何だよその精霊、茶筒じゃないか」
それは反論出来ない。オレも思った事だ。
「スキルや加護もショボけりゃ、精霊もショボいな」
精霊も戦闘向きじゃない、と言いたいのだろう。しかし引っ掛かる言い方だ。
「その感じだと、そっちも精霊と契約しているのか?」
「はっ、当たり前だろ。って言うかオレ達より先にアルスルさん達にお世話になってて、今頃精霊貰うとか、お前どんだけ期待されて無いんだよ」
まあ言われれば反論の余地は無いな。
「そうか。じゃ」
厄介事には関わらないのがオレの処世術なのだが、厄介事というのは、向こうから関わってくるから厄介だ。きっと寂しがり屋なのだろう。
「オレ達がどんな精霊と契約したかだって?」
訊いていない。だが今後の戦闘に備え、戦力をある程度把握しとく必要はある。因みに騎士隊の戦力はサルテニアとの往復で分かっている。
連れてこられたのは訓練スペースだ。どうやら廊下でおいそれと出せる大きさではないそうだ。
で見せられたものはといえば、
「出てこい、サラマンダー!」
滝口が召喚したのは、ゲームなどで有名なサラマンダー。体長五メートルはある火で出来たトカゲだ。確かにこれは廊下で出せないな。
「出てきて、エアリアル!」
大越が召喚したのはエアリアルと言う名の風の精霊だ。軽い竜巻を起こしながら現れたそれは精霊というより妖精って感じ。手の平に乗るほどの体長の女の子で、背中に羽が生えている。
「出てきて、ピグミー!」
三島に喚ばれて地面を鋭く天高く隆起させてから出てきたのは、モグラである。三島の腰ほどの体長の服を着たモグラがピグミーらしい。
「出てきなさい、ルー!」
朝井が出したのは光る一対の手だった。右手と左手が宙に浮いている。見ているとグググッと大きくなり、朝井を護るように覆う。いや、見ているのは、手であるあなたの方で朝井じゃないんだが。
「出てこい、ミカヅチ!」
佐々木が声を張り上げると、空が暗雲に覆われる。その中から雷を帯びた龍が姿を現した。全長にすればこの砦をすっぽり覆えるぐらいに大きな龍だ。
なるほど確かにスゴい。きっとたった二日で五人がここまで強くなれたのは、この精霊達のお陰なのだろう。
そのスゴさに呆けていると、五人がこちらをニヤニヤ見ているのに気付いた。
「ああスゲエよ、参ったよ、オレの敗けだよ」
オレが両手を上げて降参すると、五人はあっさり自身の精霊を引っ込めてしまった。もっと自慢すると思ったのだが、よくよく見れば、肩で息をしている。
「何でそんなに疲れてんの?」
「逆にこっちが訊きたいよ。何でそんなずっと精霊出していられるんだよ?」
後で食事時にヴィヴィアンさんに訊いたら、精霊には大気中の魔力を吸収して常時顕現していられる自立型と、召喚者の魔力以外受け付けない支援型が存在するとのこと。オレのポルックスとカストールは自立型で、五人のは支援型だったらしい。




