#15 無益内争
「聖武器というと、勇者が使うあれか」
「はい」
首肯した騎士隊長が二つのケースを開けると、片方にはターコイズブルーの剣が、もう片方にはエメラルド色をした弓が納められていた。
「聖剣ブルージンと聖弓ナフラです」
「ほう…」
オレにはキンキラな武器の凄さなんて分からないが、アルスルさんの反応から、それなりの逸品だということが分かる。
「佐々木、朝井」
二人を呼んでそれぞれ武器を握らせてみると、聖剣も聖弓も、二人に応えるようにほんのり光を発した。
「二人とも今日からそれを使え」
「「はい!」」
それで広間での話はお仕舞いとなり、オレはアルスルさんに命じられた滝口に、砦を案内された。
まずはオレの部屋。狭いながらも個室で、ちゃんとベッドもあった。王都ではとんぼ返りだったから、ちゃんとしたベッドで寝るなんて一ヶ月以上振りだ。
オレがベッドの感触を確かめようと横になると、
「ほら、さっさと次行くぞ」
滝口に急き立てられた。こういう事が面倒臭いのは分かるが、あまり態度に出さないでもらいたいものだ。
砦はモンスターからの攻撃を防ぐ外壁と、オレ達が寝泊まりをする建物に別れていた。
建物は個室とキッチンダイニングにバストイレ、それにさっきの広間ぐらいものだ。広間は作戦会議室を兼ねてるとか。
外壁は二重になっていて、中を移動したり、壁の上を巡回出来るようになっている。
壁と建物の間のスペースは一ヶ所広く造られていて、そこで戦闘訓練なんかが出来るそうだ。
今もオレの案内をしている滝口と、騎士隊を案内している三島以外の三人が訓練していた。
朝井と佐々木は聖弓と聖剣を貰って気合いが入っているのがよく分かる。
「伊藤もやっといた方がいいんじゃないか? ってお前戦闘系のスキルも加護も無いんだったな」
と言う滝口。始めは面倒臭いのかと思っていたが、ここまで逐一オレの神経を逆撫でる言葉を吐き続けてきていたので、これは明確にオレの事が嫌いなんだな。と分かった。
オレの事を嫌いな人間とは付き合わないのがオレの主義であり処世術なのだが、騎士隊を含めても二十名に満たないこの集団で、オレ一人我慢するのは何か違うかも、と思った訳で、
「いや、戦ったらオレの方が勝つし」
売り言葉に買い言葉なんて、オレの人生には無縁だと思っていたのだが、なんだかんだでオレと滝口は訓練スペースで戦う事になっていた。
口は災いの門って本当だ。
「今謝るなら無かった事にしてやってもいいんだぜ」
両手に戦斧を持った滝口が宣う。
「謝らねぇよ。そっちこそ一人と言わず四人で掛かってきてもいいんだぜ? 勝つのはオレだからな」
「イトスケ、それは聞き捨てならないな」
これに反応したのは佐々木だ。
のんびり観戦モードだったのが、聖剣を鞘から抜いて構えている。
朝井と大越も、オレと戦う気は無いみたいだが、こちらに冷ややかな視線を送っている。
どうやらこの二日アルスルさんにみっちり鍛えられた事、そしてあんなに苦戦していたモンスター達を自分達の力で撃退出来た事が、四人の、いや、五人の自信になっているのだろう。
それを戦闘系のスキルも加護も持たないオレにバカにされたのだ。ムッとするのも分かる。が、こちとらその訓練を四週間以上やってきているのだ。いくら才能が無いからって格下に見られるのは腹が立つ。
「いつでも来な」
オレを挟んで構える二人。と佐々木と滝口がオレに向かって手を突き出す。
(魔法か!)
直後雷と炎がオレを包んだ。
「ち、ちょっとやり過ぎたんじゃない?」
「一応加減はしたさ」
「千晴回復魔法頼む」
「全くこういう時だけ頼らないでよ」
白煙の中で四人が勝手な事を言っているのが聞こえる。
風がオレを覆う白煙を取り去った後、四人が見たのは、無傷のオレだった。
「な!?」
「嘘だろ!?」
「返すぞ」
オレが両の手をそれぞれ佐々木と滝口に向けると、〈インベントリ〉の吸排口から雷と炎が吹き出し二人を攻撃した。
「かはっ?」
「ぐわっ」
倒れる二人。朝井が佐々木を、大越が滝口を介抱する。
「は〜い、そこまで」
ヴィヴィアンさんの声だ。




