#14 帰還変化
復路は厳しかった。
何体ものモンスターがひっきりなしに襲い掛かってきて、夜寝る時間を獲るのも難しかった。
俺を含め交代で夜の番をしながらも、朝までモンスターとの交戦は続き、結局皆一睡も出来なかったようだ。
このままではモンスターではなく睡魔に殺される、という結論に至り、モンスターの駆逐より砦に辿り着く事を優先し、馬車を全力で走らせる。
途中途中でオレが圧縮水を撃ってモンスターを間引いたが、間引いたそばからモンスターが涌いて出て数が減らなかった。
三十体を超えるモンスターを引き連れ馬車がもうすぐ砦に着くという所で、空に暗雲が立ち込めてくる。
ドオオオンンッ!!
物凄い轟音と共に幾条もの雷が砦のすぐそばに墜ちたのが見えた。
馬車を牽く馬が驚きその脚を止める。馬だけじゃなく、オレ達を追うモンスター達まで動きを止めていた。
砦を見ると大量のモンスターが周りを取り囲んでいる。そこに炎が立ち上ぼり、竜巻が吹き上がり、岩が円錐形に盛り上がり、砦からは光が幾条もモンスター達目掛けて打ち出されていた。おそらく五人が戦っているのだろうが、それはもう蹂躙、いや災害だった。
三十分程そんな事態が続いただろうか。砦を襲っていたモンスターは全て打ち倒され、気付けばオレ達を追っていたモンスター達は、恐れをなして逃げ出しいなくなっていた。
馬が落ち着いた所で恐る恐る砦に近付くオレ達。
「おう、早かったな。もっとゆっくりしてても良かったのに」
モンスターの死体の中に立つ滝口が、そんな軽口をオレに向ける。出発前とは大違いである。
砦の中に入ると広間に通された。
佐々木、朝井、滝口、三島、大越の五人は、広間の端で鎧を着込んだままビシッと起立している。
広間には広いテーブルが一つと簡易な椅子が人数分用意されていた。
そこにアルスルさん、ヴィヴィアンさんが入ってくると、
「お疲れ様です!」
大きな声で揃って九十度頭を下げている。アルスルさん一体何をしたんだ?
「おう、お疲れ。イトスケ達もお疲れさん。座っていいぞ」
広間の上座にヴィヴィアンさんと座るアルスルさんに言われ、広間の端の椅子に着席する五人を見てから、オレと隊長さんがアルスルさんの対面に座る。ソニアさんら他の騎士は隊長さんの後ろに立ったままだ。
「で、どんな加護だったんだ?」
興味深いといった目でこちらを見据えるアルスルさん。
「〈ディレイ〉という能力でした」
「〈ディレイ〉?」
アルスルさんの顔が怪訝なものになる。千のスキルを持つというアルスルさんでも初めて聞く、といった顔だ。
「どういう能力なんだ?」
「多分言うより体感して貰った方が早いと思います」
「ほう」
アルスルさんに先を促され、オレは〈ディレイ〉を発動させる。
「どーうーでーすーかー? うーごーきーがーおーそーくーなーっーたーでーしーょーうー?」
「たーしーかーにーなー」
ここで〈ディレイ〉の効果が切れる。
「ふむ。面白いな。周りが遅くなった中で一人だけ速く動けるって事か」
「いえオレの動きも遅くなります」
「それだと思考加速、といった感じだな」
「かもしれません。しかも困った事にこの能力味方だけに有効じゃないんです。敵も一緒に〈ディレイ〉状態になるんです」
「はあ? それだと知能の高い魔物相手だと逆に利用されるじゃないか」
「オレにそんな事言われても。文句ならこんな加護をオレに与えた神様に言ってください」
「〈ディレイ〉…か。他の加護は?」
「これだけです」
これを聞いて呆れた顔で数秒固まるアルスルさん。
「〈インベントリ〉に〈ディレイ〉。イトスケはつくづく期待を裏切らないな」
「それが褒め言葉じゃない事ぐらい、オレでも分かりますよ?」
オレのこの反論には応えず、アルスルさんは騎士隊長の方を見遣る。
「そういえば用意するものがあるとか言っていたが、出来たのか?」
頷く隊長さんが片手を挙げると、後ろに控えていた騎士の一人が前に出て、空中からケースを二つ取り出した。
「サルテン王国に代々受け継がれてきた聖武器です」




