#13 加護獲得
「アルスルさん、オレ王都の教会行って加護を授かってきたいんだけど」
討伐回避組と歩調を合わせていたら、魔王討伐がいつになるのか分からない。ここはオレだけでも強くなっておいた方がいい。オレの中の何かが警報を鳴らしている。
「そうだな。こいつらは……隊長さん、頼めるか?」
「いや、彼の護衛には我々が付こう。王に諸々報告しなければならないし、用意しなければならない物もある」
沈黙を破った騎士隊長に五人が向ける視線が冷たい。と、
「それならオレも…」
「それ以上は言うな」
滝口が何か言おうとしたのをオレが止める。滝口は中二にしてはかなりがっちりした体型だが、これで漫研なんだから不思議な奴だ。
何故止めるんだと滝口がオレを睨むが、
「ここでそれ以上言ってみろ、お前日本に帰った後居場所がないぞ」
こう言われた滝口は閉口してそれ以上何も言わなかった。
大越や三島も気持ちは同じだったのだろう、なんとも恨めしそうな顔でこちらを見ているが、オレは本当に加護を貰いに行くのだ。決して安穏を求めてサルテンの王都に行く訳じゃない。
大越は快活でおしゃべり、話の中心にいつもいるような奴だ。髪は短く、陸上部で短距離走をやっている。対して三島もその相方といった感じて大越の隣にいる。吹奏楽部で髪は長く巨乳な事をクラス男子にからかわれ、よく怒っていた印象だ。
この二人に恨まれるという事は、グループから弾かれる事を意味する。これは帰ってきてもオレの居場所が無いかもしれない。
「分かった。イトスケの事は隊長さんに任せよう。その間にこの五人を少しはマシにしておく」
そんな事出来るのだろうか? 疑わしくなる所だが、オレをこれだけ強くしてくれたアルスルさんだ、今露骨に嫌そうな顔をしている五人も、それなりになっている事だろう。そう願いたい。
「さて、そう決まったなら」
アルスルさんが大地をドンッと蹴叩くと、今まで草原だった地面が隆起し、あっという間に砦が構築される。
「な、なんすかそれ!?」
「砦だ」
「いや、それは見れば分かるんですが、そんなん出来るんなら何で今まで野宿だったんですか!?」
「今まではイトスケ一人面倒見てればよかったが、今度は五人。しかも女もいるからな」
なるほど、って納得出来ないから! 今までもヴィヴィアンさんいたし!
「それに野宿も飽きたしな」
うん。絶対そっちが本音だ。
何だか釈然としないまま、オレは騎士隊に護衛されなが一路馬車にて王都に向かうのだった。
王都には途中キャンプを挟みながら丸一日で着いた。
途中二度程モンスターの襲撃があったが、オレ一人でどうにかしていたら驚かれた。
それはオレの戦い方が圧縮水を使った遠距離型なだけで、接近戦になったら騎士には敵わないと言ったのだが、それでも成り立ての騎士より強いと褒めてくれたのは嬉しかった。アルスルさんは全く褒めてくれないからな。
サルテン王国の王都サルテニアは、都市を高い城壁で囲われた大陸でも古い都なのだという。
魔石や金で近年栄えたヒルト王国の王都のような華やかさは無いが、古都らしい赴きのある街並みがそこにはあった。
「我々はこれから王に報告をせねばならん。イトスケくんはどうする?」
王様に会っても別に話す事なんて何も無い。それに王様には良い思い出も無いんだよな。
「オレは出来ればこのまま教会に直行したいのですが」
「分かった」
あっさり許可された。
「だが見知らぬ土地では教会探しもままならないだろう。ソニア付いていてやれ」
監視を付けられた。
「はい」と騎士隊長に呼ばれて一歩前に出たのは、隊長と同じ銀髪の女性騎士だった。ヴィヴィアンさんがカワイイ系だとすると、このソニアさんはキレイ系だ。
「では教会へご案内致します。私の後へ付いてきてください」
言うとソニアさんはまるで独り行進といった感じで歩きだす。いや、騎士としては正しいのかもしれないが、衆目が集まりちょっと恥ずかしかった。
さすがは王都の教会。巨大でありながらも荘厳で街の景観に溶け込んでいる。
オレが教会の雰囲気に圧倒される中、ソニアさんは独りでどんどんと教会の中に入って行ってしまう。慌てて後を追った。
平日だったからだろう。教会は空いていて、ソニアさんが話を通すと、すぐに加護の授与式を執り行ってくれた。
女神ルノアの像の前で、差し出された聖水を飲み、分厚い教典のような物に名前を書くと、オレの加護が名前の下に文字として浮かび上がった。
「〈ディレイ〉ですね」
「〈ディレイ〉ですか」
ディレイってなんだよ?
 




