#12 泣虫弱虫
結論から言えば勇者は二人いた。
朝井と佐々木だ。
朝井はスキルは〈インベントリ〉だが、加護に〈魔力補正〉と〈身体能力増大〉、そして何より〈弓聖〉とか言うとんでもないのが付いていた。
佐々木の方も負けず劣らずで、〈剣王〉と〈天雷〉というふざけたモノだ。
もしかしたらもっといたかもしれないが、もうそれは誰にも分からない。
「お前らだったらもっとちゃんと戦えよ」
と言ったら、
「怖かったんだ! 仕方ないだろ!」
と佐々木に逆ギレされ、横で朝井が頷いている。アルスルさんが呆れて閉口してしまった。
オレの中でも、討伐回避組の士気なんてこんなものかもしれないと諦観するしかなかった。
佐々木は背は高いが眼鏡を掛けていて線が細く、元々争い事は好まないタイプだ。異世界でスローライフ云々と言っていたのが佐々木だ。
朝井も同じで、図書委員の文芸部と、文化系を地で行く感じだ。背も低く華奢で、前髪で目が隠れている。
とは言えこの二人には魔王討伐に参加してもらわなければ困る。
アルスルさんとヴィヴィアンさんの話では、勇者というのは加護とは違い人間の中に時々生まれる特異体質のようなものらしい。その特性と言うのが邪を退ける退魔の力だそうだ。
この力は邪が強ければ強くなるほど、その退魔の力も強くなるらしく、邪の頂点である魔王からしたら天敵になる。
逆に邪がさほど強くなければ退魔の力も発揮されないので、先程の小鬼の集団みたいなものを差し向けていたらしい。
オレ達が森で悪魔に襲われたのは、神殿跡が元々奴らのテリトリーだったらからだそうだ。
オレはつくづくついてないと思った。
「で、どうするんだ隊長さん?」
アルスルさんに問われても沈黙のままの騎士隊長。
「ど、どうするって、どういう事ですか?」
佐々木が恐る恐るといった感じでアルスルさんに尋ねる。
「お前、佐々木って言ったか? 佐々木、お前らを王都に入れてやる事が出来なくなったって話だ」
「? どういう事ですか!?」
「当然だろ、お前らを王都に入れたら漏れなく魔王軍が攻めてくるんだぞ。そんな危険を冒してまでお前らを招き入れる意味があるか? お前らの命は王都にいる何千人の命より価値あるものなのか?」
本当なのかと佐々木は騎士隊長の方を見るが、隊長は相変わらず沈黙を続けている。それが肯定と取られると分かったうえで。
「そんな、それじゃ僕らの安全は誰が保証してくれるんですか!?」
「魔王がいる限りお前らに安全な居場所なんて無い」
アルスルさんにキッパリ言われて泣き出す五人。はっきり言ってめんどくさい。
やれ「こんなところで死にたくない」だの「こんなところ来たくなかった」だの「こんなはずじゃなかった」だの、こんなこんなこんなと、皆自分の事ばかりだ。少しでも死んでいったクラスメイトをどうにかしてやろうと思ったオレが馬鹿か間抜けに思えてくる。
それを呆れた目で見詰めるアルスルさんに、ヴィヴィアンさんなんてもう興味が失せたのだろう、アルスルさんの頬をツンツンしている。
「いいか、お前らが安寧を得られる方法は一つだけ。魔王を倒すことだ」
アルスルさんに突き付けられる現実に更に泣き喚く五人。
こいつらと魔王討伐なんて絶対無理だと思う。