#11 回避組後
朝井 日向はオレと同じ〈インベントリ〉のスキル持ちだ。
つまりオレの代わりに魔王討伐に加わらない道を選んだのが朝井だ。
騎士の鎧に身を包んだ朝井の後ろで四人の騎士が兜を脱ぐ。
四人とも見覚えがあるクラスメイトだった。
滝口 悠に佐々木 直人、三島 咲妃に大越 千晴。ここに朝井 日向を加えた男子二人に女子三人だけがオレに顔を晒してくれた。
と言う事は、そういう事なんだろう。
「伊藤くん、他の皆は?」
すがるような目をする四人に、オレは首を横に振ることでしか答えられなかった。
「そんな……」
「嘘だろ……」
皆力無くその場に崩れ落ち、女子三人は身体を寄せ合い泣いていた。
小鬼の死体があっては落ち着いて情報交換も出来ないので、少し離れた場所でキャンプをする事になった。
魔王討伐回避組も、早々に魔王軍の追っ手と交戦する事になったらしい。
元々有用なスキルであっても、戦闘に向かないスキルばかり有していたのが回避組だ。
一人減り、二人減り、サルテン王国との国境にやって来た時には、その数は半分になっていたという。
そこで助け船を出してくれたのが、今現在も同行してくれているサルテン王国軍国境警備隊の皆さんである。
わざわざ朝井達の為に騎士隊を編成し、王都サルテニアまでの護衛を買って出てくれただけでなく、朝井達回避組が加護を持っていないと知ると、教会で加護の授与が出来るように計らってくれたそうだ。
「え? 朝井達ってもう加護持ってるの?」
「え? 伊藤くん持ってないの?」
「イトスケよく今まで生き残ってこれたな」
逆に感心されてしまった。
オレの事は置いておくとして、サルテン王国に入ってからも魔王軍の攻勢が弱まる気配は無くむしろ強くなる一方で、騎士の護衛付きでも回避組はモンスターにやられて死んでいったそうだ。
そして今日、百体を超える小鬼の軍勢に、最早命運尽きたと思っていたところに、オレ達が通り掛かったらしい。
「本当にありがとうございました」
五人いや、護衛の騎士達も含めてアルスルさんとヴィヴィアンさんに感謝を述べる。
「別に構わん。行き掛けの駄賃代わりだと思っといてくれ」
「そうそう。旅は道連れって言うもの」
「そう言って頂けると助かる。つまりはアルスル殿らも王都を目指していたと?」
騎士隊長らしき銀髪の男性の言に、アルスルさんは首を横に振る。
「俺達の目的はそこの異世界転移者五人だ。その五人に確認しなきゃならない事があってな。おそらく、そちらさんも同じ事が気になってたんじゃないのか? でなきゃ、わざわざ騎士隊まで編成してガキ共を護衛する理由がない」
アルスルさんの問いに騎士隊長は口をつぐんでしまった。
「それは是と言う事か? つまりはサルテン王国でも〈予言〉があったのはだろう? こいつら異世界転移者の中に、本物の勇者がいると」
朝井達回避組が驚き、騎士達の顔色を伺う。
その視線に隠しきれないと思ったのだろう、騎士隊長が口を開く。
「その通りです。ではアルスル殿らも〈予言〉の元に行動を?」
「それも違う。只の考察だ。イトスケを狙う魔物の数が尋常じゃなかったからな。そっちもそうだろ?」
「はい。まさか魔王軍がここまで攻勢を仕掛けてくるとは…」
「アルスルさんの考えじゃ、魔王軍にも〈予言〉や〈予知〉が出来る奴がいるみたいよ。そうでなきゃこれだけの攻勢はおかしいって」
「なるほど」
騎士隊長が深く考え込んでいる。
「王都に入る前に、本当に勇者がいるのかどうか、知っておきたいんだろ?」
「出来るのですか?」
「ヴィヴィ」
「はいは〜い」
ヴィヴィアンさんが光から聖剣を造成する。
「この剣に触れることが出来た者が勇者よ」