#10 能力格差
手をグーの状態から親指と人差し指を立てて昔チョキを作る。ゴム鉄砲で遊んだ時のあれだ。
だが飛ばすのは輪ゴムじゃない。水だ。
ズピイィッ!
〈インベントリ〉の吸排口から、高密度に圧縮された水が発射される。狙いはゴブリンとか言う人の半分程の小鬼のモンスターだ。
手にこん棒を持った小鬼の眉間を、オレが発射させた圧縮水が見事に貫く。そしてそのまま小鬼は絶命した。
「よし、いいだろう」
「……はぁ」
緊張が解け、嘆息したオレはその場にへたり込んだ。二週間この練習ばかりやってきて、やっとアルスルさんからオーケーが出た。
「何このくらいで座ってるのよ、だらしないわねぇ」
「そうは言いますけどヴィヴィアンさん。平和で戦う必要が無い国から来たオレにしたら、二週間で生き物の命を奪える銃を扱えるようになったのと同等の事をしたんですよ? オレは自分で自分を褒めてあげたいですね」
まさかこの台詞を自分が言う日が来るとは思わなかった。
「何言ってる。まだ戦闘に片足突っ込んだ程度のものだ。これからが実践編だぞ」
「マジですか!?」
オレはガックリ項垂れた。
「ほら立てイトスケ。後はサルテン王国へ移動しながら行う。どうせお前の仲間の所にも魔物が送り込まれているだろうからな。早く行かねば仲間は全滅。イトスケ一人で魔王に挑む事になるんだぞ?」
「ええ!? お二人は助けてくれないんですか!?」
「甘えるな。自分らの望みだろ。俺達の出番はお前達が死んでからだ」
「うそ〜ん」
「安心しろ。生き残れるように鍛えてやる。五体満足とはいかないかもしれんが」
どう考えても五体満足の方が良いんですけど?
圧縮水を撃てるようになって二週間。森を抜けたオレ達は、草原を渡り街道に出ていた。その間「これも修行」と言われて、襲ってくるモンスターの相手をオレ一人でした。
お陰様で〈インベントリ〉のレベルはどんどん上がっていくし、〈身体能力増〉と〈魔力増〉のスキルも覚えた。何か多少自分が出来る人間になったと思い上がっていた時だった。
オレの目の前では戦争が繰り広げられていた。
勿論本物の戦争なんて体験した事がないから比喩なのだが、五台の馬車に対して、百体程の小鬼の集団が襲い掛かっている。
防戦する騎士の格好をした人々の数は十数人といったところだ。
あまりにも多勢に無勢で、人が小鬼に殺されていく様に、心臓が縮み上がる。
オレが助けを請うように後ろの二人を振り返ると、
「分かってる。見て見ぬフリは出来ないからな」
「私にまっかせなさい!」
言うが早いか、ヴィヴィアンさんが先陣を切って小鬼の集団へ走り出す。
パチンと指を鳴らすと、ヴィヴィアンさんの頭上に十本の光の剣が現れた。
「行きなさい!」
十本の光の剣はまるでそれぞれに意思があるかのように動き出し、それぞれが小鬼を攻撃していく。
この攻撃でこちらに気付いた小鬼達の何割かが、仲間の屍を越えてこっちへ向かってやってくる。
その小鬼達に向かってアルスルさんがリボルバーを構えた。
ダダダダダダダダダダダダッ!
まるでサブマシンガンのように発射される弾丸。さすが〈魔王殺し〉が使う銃だ。只のリボルバーじゃなかったらしい。と言うかこの人も大概反則級だ。
百体程いた小鬼の集団のほとんどを、アルスルさんとヴィヴィアンさんの二人で倒してしまった。オレが倒したのなんてたったの二体だけだ。
「お疲れ様です!」
「ああ」
「ま、このくらい私とアルスルさんに掛かればこんなものよ。愛し合う二人による愛の共同作業。ロマンティック」
アルスルさんが呆れて物も言えないって顔でヴィヴィアンさんを見てる。
「い、伊藤くん?」
不意に女性の声で話し掛けられ振り返ると、騎士の一人が兜を脱いで顔を見せてくれた。
魔王討伐に加わらなかったクラスメイトの一人、朝井 日向だった。




