第八話:存在の否定
俺はあんな言葉平気だと思っていた。
だけど気付くと頭の中が真っ白になってぐちゃぐちゃになっていた。
親父が去っていくと辺りは中道さんしかいなくなった。
「くっそぉおおお!!」
俺は負けた。
あんな親父に…
俺のプライドはぐちゃぐちゃだった。
その後、中道さんは俺の肩に手をおき、そのまま雅人を抱かえて去っていった。
俺はそのまま跪いた。
その時に誓った…。
もう泣かまいと…
生きるという大きい壁を越える事が出来たのか、今の自分には分からなかった。
そして人を信じる事をやめた。
雅人も中道さんも……ツ!
部屋に戻り、いつものようにハーモニカを握り屋根の上にのぼった。
そして空を見て呟く。
「そうだ…今日は満月かぁ。」
満月をみた俺は悲しみなど消えてなくなっていた。
満月はそんなモヤモヤ感を吸い取ってくれた。
誰も信じなくてもいいような、そんな気持ちになれたんだ。
そしてハーモニカを吹く。
いつもよりいい音がした。
でも何処か悲しい感じがした。
俺がいつも吹いている曲は『COSMOS』なのだが…
今日は違う曲を吹いているように感じた。
今日はいつも見える街が騒々しく荒立っていた。
一時間ほどが経過すると…
ひょいと屋根の上を走って俺の前で立ち止まった。
ハーモニカの音色は止まりそいつの方をみた。
そいつは目を丸くして俺を見つめた。
暗闇の中に目だけがうつっていた。
「誰だ…?」
俺はそいつに言った。
そいつの顔がハッキリ見えたのは満月をおおっていた雲が晴れた時だった。
……女?
俺はもう一度聞いた。
「誰だ?泥棒か?」
その子はクスッと笑った。
そして声を発した。