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お見舞い







最近変な噂を聞く。

リュカが臥せっているらしい。



「あら〜心配ねぇ、ノアちゃん貴方お見舞いにいくべきよ」



そうして有無を言わせず見舞いの品を侍女に持たせ、のんびり過ごそうとしてた私を馬車に乗り込ませたのは母だ。天然でいるようで言い知れぬ何かを持っている。強い…。















「殿下…」

「ノア、よ、よく来たね!ほらお茶飲む?それともお菓子が良いかな!夕食食べていく?いや食べて行ってよ、い、一緒に食べよう?」

「殿下…お元気そうですね。では失礼致しますわ」

「ま、待ってよ!」



なんだこれ。

誰が臥せっているって?ガセか?いやでもリュカはパジャマで私が来た時は間違いなくベッドで唸っていた。

あーあ、来なけりゃよかった。

そんなにおどおどして無理するほど私が恐いのか?ムカムカする。

言うか?言っていいかな?あ、でも人居るからダメか。不敬罪はまずい。



「ノア、とりあえず座って?」

「わかったからベッドへお戻りください。」



しまった、イラつきすぎて敬語が崩れてしまう。いかんいかん。

侍女が見舞いの品を執事に渡したのが横目に見えた。よしよし、これで任務は果たしたわよ。あとはこの接待モードの王子様をどう大人しくさせるかだ。こんなのでも王子だから彼が言ったことは優先されるし私もおおっぴらに逆らう事は出来ない。

さっきからお茶だの夕食だの言ってくれたおかげで今のところそれを遂行せねばならない。それをこの人の口から撤回させなくては。




ベッド脇に置かれた椅子に浅く座る。

布団に戻った彼は急に動いたせいか顔も赤い。体調が悪いのは嘘ではないのか。



「殿下、熱があがったのでは?医師を呼びましょう」

「熱?熱はないよ。ただ胃もたれだもの」



きょとんとした顔でこちらを見るリュカを殴りたい衝動に駆られる。え?胃もたれ?胃もたれで私ここまで来たの?

ていうか胃もたれで寝込むなよ。ああ、さっき唸ってたのは胃痛か。



「ノア、夕食一緒に食べようね」

「胃もたれで寝込んでおいて夕食をご一緒になるなんて出来ませんわ」



貼り付けた笑顔には自信があったのに目元がピクピクと引きつってしまう。

へにゃりと笑うリュカにいつもの王子様面はどこへやったと問いたくなる。この人のこういうところが嫌だ。私の前でもかっこいい完璧な王子様でいてくれればいいのに。そうであってほしいのに。



「君の食べたいものを用意させるよ」



躾の行き過ぎた犬のようだ。これが未来の王かと思うと頭痛がする。

彼にとって私はなんなのだろう。

夕食は撤回させるつもりだったがこのテンションでは無理かもしれない。

私は諦めることにした。



「…リゾットとポトフが食べたい気分ですわ」

「ポトフ好きだったっけ?」



気遣ってんのよバカ。

察するとか理解とかしなさいよ。

こっちが恥ずかしくなるわ。


「ええ、最近よく食べますの」


私はにこやかに答えた。

もちろん嘘である。

だけどこんなアホらしい会話いつまでもしたくないからそういうことにしておこう。

ああ、イライラする。




「すまないね、こんなことでお見舞いに来てもらってしまって」



へらりと笑う彼に何故か申し訳なさを一切感じない。

私の中で何かがプチリと切れる。

ちらりと部屋を見渡すといつの間にやら私たちは二人きりだったらしい。

よし、もう我慢しなくていいわ。



「ええ、胃もたれだなんて体の弱い男性って本当に嫌ですわ。こんな風に見舞いにくる身にもなってくださいな。ベッドで唸ってると思ったら胃もたれだなんて本当に驚きです。体調管理もできない王族とかありえないんですけど。将来貴方に仕える方は可哀想…ていうか妻とかありえないしいい加減にしなさいよほんと」



言い切った。

笑顔で。

はいはい、そして出ましたこのリュカ殿下のぼーっとした顔!!わかってんの?って襟首掴んで揺さぶりたくなるわー。流石にやらないけど。

とりあえず口閉じなさい。



呆れたように見ていると彼はにこりと嬉しそうに笑った。



「良かった、いつものノアだ」

「言われっぱなしで笑ってんじゃないわよ」

「うん、元気になるね」



呆れたように返す。

“いつもの”ノアと言われて地味に傷ついてる自分が嫌になる。

そんな権利ないのに。

私は彼をなじるのを未だにやめられない。

ええそうよ、もう無理なの。

可愛い淑女でいることなんて貴方の前では一生無理。





(いまさらずっと好きでしたなんて言えやしないわよ)














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