はじめまして王子様
バカは嫌いよ
太ってるなんてなんて怠惰なの?
運動できる人が良かった
汚い字ね見てられない
くるっくるボサボサの髪とか不潔
たくさん言った。
グズ、デブの類。
なにか欠点を見つける度に私は彼を酷い言葉でなじってきた。特にデブは中々治らなかった。
彼が王子だとかなんだとかは関係ない。
だって本当に太っていてグズで頭が悪かったのだもの。こんな人のお嫁さんになるなんて当時はとてもじゃないが幼く夢見がちな私には受け入れられなかった。
彼が私の嫌味を聞くときは聞いてる?と聞きたくなるほどぼーっとした表情で(それがまた私の苛立ちを煽っていたのは間違いない)その場ではなにも言い返しやしないのに私に会う度になにかしらちまちま改善してくるもんだからこちらとしても意地だったのかもしれない。
でも実際には私は婚約者でもなんでもなくて正しくは候補者の一人だった。
そんな事実について正しく理解できたのは彼が完璧な王子へと変貌を遂げた後のこと。
「終わってるわ」
「今更なによ、最近じゃ話しかけも出来ないくせに」
「…もう言うことがなくなったのよ」
欠点のデパートメントだったグズデブ王子は見る影もなく、彼の幼い頃の姿を見たことない人間に彼がどんな子供だったかを説明したところで絶対に信じないレベルには成長してしまった。
背はすらりと高く、艶やかな黒髪は少しばかり癖のあるウェーブ、切れ長で涼しげな目に深い青の瞳が魅力的だともっぱらの評判。
学院を主席で卒業し、二年前に成人も済ませた。字が汚いバカデブは一体どこへ行ったのか。私と一緒に家庭教師の指導を受けていた幼少期を思うと本当に腹立たしい。
思えば嫌味を言うのはいつも二人きりの時だった。これについては幸いと言うしかない。人に見られていたら不敬罪で捕まっていた所だ。子供のすることって本当にえげつない。
でも仕方ない。
彼は私を苛立たせる天才だったのだ。
いやこれに関しては「だった」は間違いかもしれない。
「リュカ様、今日も素敵ですわ」
「今度我が家に来てくださいな」
「あらずるい!わたくしの屋敷にも来ていただきたいわ。ぜひお茶会を致しましょう」
「ええ、機会があればぜひ」
可愛らしいご令嬢方に美しい微笑みで愛想振りまくパーフェクト(もちろん皮肉を込めた嫌味である)殿下は目下私のストレス発生機のままである。
(昔は見向きもされなかったのにあんなの詐欺だわ)