三流剣士の所以Ⅱ
「どうなったの?」
轟音が消え、群衆の一人が目を開け呟く。
「あれを見ろっ!!」
群衆の中の一人が、階段あたりまで吹き飛んでいる氷雨を見つけた。階段までは、10メートルほどあった。さらに、階段は原型をとどめていなかった。ボロボロになり、崩れ落ちていた。しかし、氷雨は〈虎が雨〉を持っていた。
この時、群衆のほとんどはアレクシアの勝利を確信した。
「アレクシアさんはどこ?」
群衆の中の一人がまた呟く。
群衆はアレクシアを見つけた。元の位置にはいたが倒れ、〈クラウ・スラスト〉は消えていた。
「どっちが勝ったの?」
一人のつぶやきから群衆が騒ぎはじめる。
「アレクシアだろ〜」
「いや、ワンチャン氷雨だろ」
「でも…」
そんな会話が群衆を取り巻いていたが、その会話は一瞬にして消える。階段付近から、ボロボロっという音がなり、うつむいていた氷雨が立ち上がったのだ。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
歓声と同時に氷雨はフラフラしながらアレクシアのところへ向かう。
「マジかよ。あんだけ吹っ飛ばされて気絶すらしてないのかよ」
群衆は再び騒ぎ始める。
そして、氷雨はアレクシアの元にたどり着くとゆっくりとアレクシアを担ぎ上げた。
「どこに行く気だ?」
決闘が終わり、多くの群衆はいなくなっていたが5、6人ほどは氷雨について行っていた。
氷雨は校舎に入り保健室を探していた。だが、朝入学したばかりの学校で、しかも校舎はかなり広い。キョロキョロ周りを見渡し、氷雨は残っていた5、6人の一人の女子に話しかけた。
「あのー、保健室ってどこですか?」
女子は頰を赤らめ、氷雨に返答した。
「あ、案内します。こっちについてきてください」
ゆっくりと女子の案内に沿って歩く氷雨。だが、まだフラフラしている。
「ありがとう」
優しく微笑み氷雨は彼女について行く。
「そういえば、さっきの試合ってなんで氷雨さんが吹き飛ばされていたのに勝ったんですか?」
案内している子が、疑問になって話しかける。
「あぁ、そのことか、簡単だよ。魔力を目に集中させて、魔眼を起動した。そこから、アレクシアの目を睨んで気絶させたんだ」
その場にいた人達は驚いて話しかける。
「「魔眼!?」」
剣士がほとんどを占めている学校に魔眼使いがいることも驚きだが、それ以上に驚いたのは、氷雨は剣士であり魔眼使いということだ。
「え、剣士じゃないの?」
驚く女子。周りの人もウンウンと頷いている。
「あ、やべ。言っちゃった!」
冷や汗をかきながら、氷雨はこれ以上ボロをこぼさないために黙っていた。
「まあ、俺は二つの種類の魔法を使えるんだよ」
明らかに不自然な話し方だったが、周りの人達は驚いて動揺していたのでそれには気づかなかった。
「すごいな」
「だったら三流でも強いわけだ」
「スペックが違うな」
その言葉に氷雨は嫌悪感を抱いた。
(まるで俺は何も努力していないようじゃないか。ふざけるなよ俺にはお前らとは比べほどにならないほどの野望があるんだよ)
だが、氷雨はそこで感情は爆発させず、上手く接した。なぜなら、今喧嘩してもかてるきがしなかったし、キレすぎると体に悪影響が及ぶ体質なのだ。
◆
保健室に到着した。
「すいません。この子気絶してるので、寝かせといてやってください」
氷雨は保健室の先生に話しかける。
「分かったわ。って、あなたが一番重傷じゃないっ!」
おっとりとしていた先生は、激しく驚き立ち上がった。
「これぐらい慣れてるんで大丈夫です。自室で自分で手当てするので、」
そういうと、氷雨は止める先生の話を無視し保健室を後にした。
保健室を出たが、余っていた群衆の姿はすでになかった。すると氷雨はその場で立ちくらみを起こす。
(ソウルロックを一段階解除しないとこんなに魔力が制限されるのか…。もう少しでも魔力を使っていたら、考えたくもない)
再び立ち上がり、壁に沿って自室へ向かって歩き始める。
(あいつは、二度とこの世に召喚させない)
決心が揺るがないように、しっかりと精神を整えた。
◆
自室に着くと、すぐさま手当を始めた氷雨。
「…………………………………」
シーンとした空間。一人しかいないため耳鳴りがなる。だが、氷雨は思い出したのだ。
(ここは、俺の部屋なのかっ!?)
焦り始める氷雨。手当の途中だが、急いで部屋番号を確認する。
[501]
しっかりと部屋番号が書かれている。氷雨は間違ってはいない。だが名札は、[アレクシア]という名札が貼られている。そして、その横には名札が張れるスペースが。
(おいおい、嘘だろ。なんで、俺があいつと同じ部屋なんだよぉおおお)
廊下に倒れ込み頭を抱え、うつむく氷雨。
外から見ると完全に頭がいかれちゃってる人だ。
「あの人どうしちゃったの?」
「関わらなほうがいいだろ」
近くを通った二人組の女子がヒソヒソと喋る。
氷雨は、すぐさま振り返り二人組の女子に向かい走り、一人の両手を思いっきり握り話し始める。
「誤解なんだ。俺は決して頭のおかしい人じゃないっ!ショックな出来事があったんだ!信じてくれっ!」
手を握られた女子はドン引きし、
「あ、えっ?はい」
と今すぐ手を離してほしいというような顔だった。だが、もう片っぽの女子は氷雨をじっくりと見て、手を顎に当て考え事をしていた。
「もしかして、あなた氷雨っ!?」
顎に手を当てていた女子が手をポンと鳴らし、驚きながら氷雨に質問をしていた。
「あぁ。そうだけど?」
さっきまでの泣きそうな氷雨はどこかに消え、真面目な氷雨へと変わっていた。
「私、風谷伊吹っ!覚えてるよねっ!ひっ君!!」
急に明るくなった女子と謎のあだ名に状況を理解できなくなった氷雨。
(何言ってるんだ?)
「あの…」
「いやぁ、ひっ君髪染めてるの?なんかイメージも変わってるね!」
氷雨が話しかけようとするも、それを打ち消し一人で話を進める伊吹。手を握られていた女子は完全に空気と化している。
「あの俺、記憶喪失してるから自分のことや家族のことしか覚えてないんだ。ごめん。でも、昔の俺なら気があう子だと思うんだ。だから、よろしくね!風谷さん」
伊吹はかなりしょんぼりしていたが、最後の氷雨の言葉に全て持ってかれ、素早く答える。
「うん!」
伊吹と氷雨が盛り上がっていると、空気と化していた女子が伊吹に話しかける。
「あの〜、私部屋戻るね」
と、言い放ち消えていった。
「わかった!ごめんね!少し離したら戻るわ」
と離れていく女子に声を送った。
「いいのか?」
氷雨は、確認を行うが伊吹はそれをきっぱりと否定し、氷雨に話しかけた。
「そういえば、妹のことは覚えてるの?」
氷雨の眉が、ピクッと動いた。そこには少し怒りの感情がこもっていたが、その感情はすぐに引いた。
「あぁ。なぜか妹たちのことはハッキリと覚えているんだ。」
伊吹が、ふてくされた顔をして氷雨を困らせる。
「ヘェ〜。そうなんだ。妹のことはしっかりと覚えてるのに私のことは一ミリも覚えてないんだ。そんなに私はひっ君に影響力がなかったのね〜」
氷雨はあたふたしながら返事をする。
「いや、なんか、その、あの、僕にも色々あるんだよ。ごめん」
しょんぼりすると、伊吹が、
「冗談よ。それより、この後どうするの?寝るだけ?」
伊吹の軽い発言で氷雨はある事を忘れていることに気づいた。
「あっ!ごめん!ちょっと話中断させて!忘れ物しちゃった!」
そう言った瞬間、氷雨は保健室に向かって走り出した。
「えっ!?どこ行くの!待って!ねえ!ねえってば!」
と、伊吹が言うが、伊吹はそこから動かない。そして、氷雨も止まらない。次第に伊吹は氷雨を見失い、ため息をついて
「でも、やっぱりひっ君らしいなぁ」
と独り言をつぶやき、小走りで自室へ向かう。
◆
ガラッ!勢い良く保健室のスライドドアを開け、アレクシアが寝ているベッドを覗く。
「ふぅ。間に合った。先生、まだこの子は起きてませんよね?」
先生に大きめの声で質問をする氷雨。
「っ!?」
驚きながら、手当途中の氷雨の方を向き返答する。
「ええ。まだ起きてないわよ。それより、あなたの手当をしてあげるわ。もうそこだけでしょ?」
先生の発言に対して氷雨は、手当が中途半端な状態でいることに気づく。
「あ、お願いします」
少し恥ずかしがりながら返答する氷雨。そして、ゆっくりと先生の元へ近づき席へ座る。巻き途中の包帯を綺麗に巻き、一礼してアレクシアのベットの横に座る氷雨。
アレクシアの寝ているベットは窓側で、昼過ぎの日光が心地よかった。氷雨は目をつぶり、うとうとしていた。
◆
(ん?なんか膝のあたりが重い?)
目をこすりながら、膝を見てみると人が寝ているではないか。もう一度目をこすり、膝を確認する。そこには、氷雨がいた。
「きゃああああああ!!変態ぃ!!」
氷雨の顔にアレクシアの鉄拳が飛んできた。
「いてぇえええええ!やめろぉ!」
寝ぼけていた氷雨は手を振り回す。
(ん?柔らかい?)
目をもう一回閉じ、ゆっくりと開く。そこには、自分の手がアレクシアの胸を揉んでいたことに気づく。
「ぇ?ぁ、あの、」
アレクシアの顔は赤面しさらには鬼と化していた。拳には膨大な雷がまとわりついていた。
「この、淫獣がぁあああああああ」
全力のパンチは綺麗に氷雨の顔面に決まる。
「オフッ!」
ベットから落ち、氷雨は思いっきり尻餅をついた。
「ご、ごめんって!しょうがないだろ!君が心配で見にきただけなんだから!」
氷雨が呟いた瞬間。先ほどまでの雷鳴がなるほどの雷は静電気のような弱々しい雷へと変わっていた。
「ま、まぁ、感謝はしといてあげるわ!」
そっぽを向き、アレクシアは氷雨に感謝の気持ちを表す。だが、だんだんアレクシアの表情が変わっていく。
「だけど、あなたにはまだ大きな大罪があるわっ!」
アレクシアがまた怒り始める。
「なんだよっ!?大罪って」
少し笑いながら、氷雨は質問する。
「覗きよっ!!」
アレクシアが勝ち誇ったように言い放つ。
(そう言うと思ったよ)
「あのねぇ、さっき気づいたんだけど俺らルームメイトっぽいんだよね」
少しの沈黙。
「はぁあああああああ!?」
予想通りの返答。
「なんでよ!?この学校は、生徒主体の学校でしょ!?生徒に決定権はないわけ?」
大声で怒鳴り演説を始めるアレクシア。
「校長に文句言ってくるわっ!」
アレクシアはベットから飛び出し、保健室を後にする。
「おいっ!ちょっと待てよ!」
氷雨はアレクシアを追いかけ、保健室を後にする。
「あ、ありがとうございましたっ!」
氷雨は、保健室の先生にもう一度お礼をして、保健室を後にする。
「ちょっと待てよっ!」
氷雨がアレクシアの方を掴み。アレクシアを止める。
「何よっ!?」
逆ギレしながら、氷雨を睨むアレクシア。
「なんで、校長室に突っ込むとか、頭おかしいことが頭に浮かぶんだよ!?お前はそんなお偉いさんなのか?それとも、日本に慣れてないのか?」
氷雨は、自分の手に人差し指を当てアレクシアにきつく当たる。
「ええ。私は偉いもの。だし、今日あなたに覗かれなきゃあの後校長室に向かう予定だったのよ。アレクシアって言う名前に聞き覚えはない?」
氷雨の脳の中は、ごちゃごちゃになっていたが、最後のアレクシアっていうのに聞き覚えはないかという言葉が妙に頭に引っかかった。
(アレクシア?)
頭を抱え、考え始める氷雨。
「わからん!」
と一言言ってから、ポケットに入っていたスマホで[アレクシア]と検索したら、驚きの結果が出てきた。
「嘘だろ?」
氷雨の顔はみるみる青くなっていき、アレクシアの顔はドヤ顔へと変わっていく。
「まさか、ニュースでやってたウェールガント王国の皇族が来日したってやつ?」
腕を組みドヤ顔をやめないアレクシア。
「で、その第一皇女様?」
顔を変えないアレクシア。氷雨はすぐさま正座をして、
「すいませんでしたぁあ!」
と、綺麗な土下座を決めた。それに対してアレクシアは驚いた。
「大丈夫だって!頭上げてってば、ねぇ!」
そんなアレクシアの言葉は焦っている氷雨には届かない。
「本当にごめんなさい。殺さないで。物理的にも社会的にも絶対殺さないでっ!」
氷雨は頭を上げては、下げ地面におでこをぶつける動作を繰り返している。
「顔を上げて!大丈夫だから!」
もう一度アレクシアが、声を大きくして謝るのをやめさせようとする。
「本当に?」
涙目で、アレクシアを見る氷雨。
「ええ。でも、まずは校長室に行きましょ?」
サラッとえげつない事を言っているが、いちいち突っ込んでいたら気が持つ気がしなかったので、氷雨はそれを流しながら話を進める。
「分かったよ。で、校長室で何を話すんだ?」
氷雨は一番の疑問をアレクシアに伝える。
「えーと、まずは挨拶とあとは、あれね!えーと、なんでこんな部屋割りになったのかと言う抗議よ!」
平然とそのような事を言っているが、氷雨は呆れていた。
「へぇー。そうなんだ。教えてくれてありがとな!」
と、表では言っていたが、心の中では
(うわぁ、すげぇわがままだな。これは痛い目見るな)
と思っていた。
◆
校長室のドアの前で氷雨が止まった。
「ちょっと待って、心の準備が、」
「何言ってんのよ!緊張することなんてないじゃない!」
アレクシアが、氷雨を急かす。
「いや、でも、、、」
氷雨が話を逸らそうとするが過去はアレクシアの一喝により話が終わる。
「男はもじもじしないで、さっさと肝座らせろ!」
「...はい。」
流されやすい性格は氷雨の悪いところだ。
「「失礼します!」」
二人は声を合わせ、校長室に入った。
すいません。
更新遅くなりましたー。
ご覧になってくれている方々本当にありがとうございます!
これからも投稿続けていくので、よろしくお願いします!!