6話 前向き
「うむ、まぁいいか。見た目なんて世界を救うのに関係ない」
彼はすぐに思考を立て直す。
今やるべきは周囲でうごめく魔物たちをどうにかすること。
「二人共、ここに居るように」
笑い転げて使い物にならなそうな二人はそっとしておく。
「ま、笑える世界のほうが幸せだ!」
二人をドーム状の結界が包み込む。
それと同時に彼は空へと飛び上がる。
全体が見通せる位置まで浮かび上がっていく、洞窟部分の天井のギリギリまで到達すると、眼下に広がる風景を眺める。
「よくぞ、この数を相手に10年戦い抜いてきた……見事なり」
上空の強い風に頭髪がバサバサと舞い上がり、つややかな頭頂部が顕になりながら右手を振り上げる。
「魔石を抜けば良いのだったな」
目の前に広がる魔物たちの魔石に、意識の中でマーキングしていく、同時に振り上げた右手から巨大な光の玉が作り出される。
城壁の上では彼の作った防壁をガリガリと大量の魔物がかじりついているが、びくともしない。
笑い転げていた二人もようやく冷静になり、その防壁の異質さに気が付き驚いている。
「打ち砕け、フォトンレイ」
右手をかざすと光球から幾千幾万の光線が射出される。
光が放たれた。と、認識した時には魔石を貫いている。
魔法を食う魔物も関係なく一瞬の抵抗も許されず撃ち抜かれている。
《ま、魔法……しかし、魔法陣もなく……》
周囲の魔物たちが一瞬で消え去った原因の異常さにオリエンテスは驚愕する。
「おっと、わざわざ魔王に力を戻す気はないんだぜ」
砕けた魔石とともに魔物の灰のようなものが風に乗って飛んでいくが、それが魔王の元へと戻ると更に新しい魔物として利用されることを『知って』いる。
かざした手に力を入れると洞窟全体を暴風が包み込みその塵芥の魔物の残渣を一塊にして集めていく。
「完全に滅するのは骨だから、異次元で処理していくか……」
集められ圧縮された禍々しい珠をそのまま異次元に繋がる穴へ放り込む。
内部には太陽を凌駕する巨大な熱量の常時展開魔法が発動している。
簡単に言えば彼のゴミ箱だ。
「これでよし。あとは、この世界に人々にしばしの休息を与えてあげないとな」
彼はバタバタとマントを翻しながら地上へと降りていく。
陥没した大地の上空で停止すると軽く手を払う。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
地響きとともに巨大な谷がせり上がりあっという間に元の平原が作られていく。
「な、なんだと……」
周囲の防壁が解除され、バハムリッドとオリエンテスは謎の人物を追うように防壁から今、目の前で起きた光景を見下ろしていた。
《か、神……か……?》
「パンツの神……ぶふっ」
バタバタとはためくマントの隙間から短い足とパンツが見え隠れしている。
どうしてもシリアスにならない。
「我が友よ、大地を糧に我が力とならん」
呪文の詠唱とともに地面が盛り上がり人形を模っていく。
土塊の人形がみるみるとりっぱな騎士の姿に変わっていく。
魔力を込められた土は変質し、あっという間に白銀の輝きを放つ鎧と大剣を持つ騎士がずらりと立ち並ぶ。
「この世界の住人にしばしの休息を与えてあげてくれ。頼んだぞ我が友たちよ」
「イエス、マイロード」
先頭に立つ一段と豪華な騎士は抑揚のない声で彼の指示に従う。
完全に均整の取れた動きで、騎士の部隊は大洞窟の深部へと歩を進めていく。
その勇敢な姿を満足気に見つめて、彼は二人の元へと戻ってくる。
少し気にしたのか、きちんとマントで身を包んでいる。
ちょっと短いマントから出る素足も結構シュールではある。
パンツとランシャツよりは幾分かましなのは間違いない。
「これでしばらくは魔物たちは押さえ込める。
その間に戦いの準備をしよう、ここからは反撃の時間だ」
「あ、貴方は……神なのか?」
「神ではない。だが、この世界を救いたいと思い馳せ参じた。
ラインハルト、前の世界ではそう呼ばれていた。
バハムリッド候とオリエンテス氏で相違ないか?」
《我らのことを……知っているのですか……?》
「ああ、君らの神は決して君らのことを見捨てはしない、御自らの力は振るうことは叶わないが、こうして私が来た」
めっちゃかっこいい名前といい声がシュールさをかもちだす。
つぶらな瞳を見つめてしまうと笑いのツボにクリティカルなので、目を合わしながら焦点を合わせない作戦を即座に実行している。
歪んだ視界の上部でひらひらと揺れる頭髪の攻撃に耐えれば、澄んだ眼攻撃よりは楽になる。
「すまないな、私もこの世界に転移されたばかりで、取り敢えず掃討と敵の攻勢はしばらく押さえてある。依然の力があれば、一気に世界全体を作り直したのだが……仕方ない。今できることをしよう」
ラインハルトは努力する天才だ。
こっそりと腹をつまみながら、この腹を引っ込めるトレーニングをすでに考え始めている。
「と、とにかくこの戦いの顛末を皆に知らせないと……」
《そうですね。少しでも早く、強力な仲間ができた事を知らせないと!》
どう説明しよう……二人の頭はそれでいっぱいだった。
お互いにお前が連絡しろよ、いや、そっちが連絡してくださいよと静かな攻防を繰り広げている。
「さて、いつまでもこのようなみすぼらしい姿では失礼だな」
ラインハルトは自らのアイテムを収納している時空から過去の愛用品を探す。
それからしばらく色々と試していたが……サイズが合わないので装備できなかった。
仕方ないので幾つかを素材に戻して即席で今の体型に合わせた物を作り出した。
目の前で広がる見たこともないような装備品、それをあっという間に素材にしたり作り直したり、奇跡のような所業をまざまざと見せつけられる二人、きつくて入らない瞬間に吹き出したが、その驚きは計り知れないほどだった。
ちゃんとサイズを合わせた装備を着れば、妙に目がくりくりの頭の薄い太ったおじさん。
くらいには見た目は落ち着く。
見方への連絡を悩んでいた二人は、少し安心したのでありました。




