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3話 悪夢

 戦闘はいつも通りの展開を迎えていた。

 今までで最大規模の攻撃能力を持つ砦からの絶え間ない攻撃は、一定の効果を上げている。

 倒れた魔物に群がる魔物たちは、そのまま的となって石に撃ち抜かれまた他の魔物の餌になる。

 しかし、それでも少しづつ魔物の波は防壁に近づいてくる。

 並の先端部分に射出を調節していくが、それは限界がある。


 投石のカラクリの限界距離を越えて敵が接近すると作戦は次のステージへと移行する。

 投石は有効射程限界まで射角を戻す。

 後方をダラダラと歩いていた魔物たちに石弾が浴びせられ、そこで魔物の停滞が起き始める。

 こうして波が一部途切れたように分断を図るのだ。


 接近して来た魔物には、魔導部隊による攻撃が浴びせられる。

 有効射程を伸ばす魔法を使うグループ。

 威力を増幅する魔法を使うグループ。

 そして複数の魔術師による大型魔法を発動するグループによる共同作業だ。


 その魔法部隊を率いるのは、魔法の歴史を50年進めたと呼ばれる精霊の国エレクリアの若き天才オリネンテス。

 若いと言っても年齢は230歳、この世界が生まれて、人間族が初めて暦と言う概念を作り出してバルゴン歴という物を作る以前から生きている者も多くいる精霊の国。

 230歳は普通の人間で言うと成人してちょっと程度の年令になる。らしい。

 彼女は生まれた瞬間から魔法に愛されていたという。

 精霊は、戦闘時には少し透けたような人型を取ることが多い。

 オリネンテス、彼女は神秘的な美しい女性の人型で戦闘の指揮を取る。

 

《穢らわしい魔物たちの足を停めます。大規模魔法展開!》


 頭に直接響くような独特の声で魔法陣を発動させる。

 幾重に魔法陣が重なり合う複雑な形態の立体魔法陣。

 彼女が作り出すまでは魔法陣は平面に描かれることしか無かった。

 高さと傾きという概念が加わった魔法陣は、それぞれを複雑に組み合わせることで、今まで考えられないような様々な事を行うことが出来るようになった。

 あまりに複雑な制御理論は、極少数の天才たちにしか理解されなかった。

 それをこの10年という戦闘中に、マニュアル化し、一般の上級魔道士にも使用可能にしたのは、このオリネンテスという美しい女性の精霊ただ一人によるものだった。

 

 防壁の中段に作られた魔力工房から、何千人という魔法使いが一斉に魔法陣を展開していく。

砦に迫る魔物たちの塊を囲うように敵方にも魔方陣が構成されていく……


《全魔方陣同期完了!! これでまた魔法史が書き換えられる! 起動!!》


 ガチリ、魔方陣がかみ合い回転し始める。

 魔力が法則にしたがい魔方陣へと流れ込んでいく、魔物を包み込んでいる魔方陣が激しく光を放ち、組み上げられていく。


《超大規模魔法、守護者の光! 発射!!》


 その合図とともにすさまじい閃光が戦場を包み込む。

 光が来たほんの少し後に、ドゴゴゴゴゴという地響きが砦を包む。


《成功だ! 見ろ! 敵の第一波が消え去ったぞ!!

 残存敵勢力に精密魔法攻撃! 完全に消失させろ!!》


 若き天才の周りにいる魔方使い達も、今起こした歴史的偉業に興奮を隠せなかったが、すぐにするべき仕事に取り掛かる。

 少数とはいえ今の魔法攻撃に耐えた魔物を殲滅しないといけない。

 すぐに第二波は迫りくることは間違いない。

 それでも今まで成し遂げたことのない殲滅という結果に砦内にいる戦士たちは喜びを隠しきれなかった。

 戦場は超大規模魔法の影響で大地はマグマ化やガラス化を起こしている。

 しばらくすると熱波が砦側に吹き付けてくる。

 魔力防壁がなければ砦の防壁最上段にいた兵士たちが火傷くらいは負ってしまったかもしれない。

 この魔法攻撃による味方の負傷者は、配布されていたプレートを通さずに光を見てしまった17名生じていた。

 マグマ化した大地は魔王軍の侵攻をさらに遅らせることに成功した。

 嬉しい副産物だ。

 工場兵器と大規模魔方陣による攻撃は実に17度の魔王軍の侵攻を防ぎ続けた。

 何度も戦士たちは睡眠や食事などによる交代を余儀なくされたが、今までにない殲滅という結果が戦士たちの脳裏に勝利による昂騰という鈍い毒をはびこらせていた。


 その事実に気が付くのは、致命的な状態になってからであった。


「魔王軍、マグマに突入した魔物を踏み台にしながら進行を開始しました!」


 18度目の侵攻を知らせる物見の報告に、バハムリッドは燻製のハムを水で流し込んで監視所へと向かった。

 監視所につくと、そこにオリネンテスの姿を認める。


「おお! こたびの戦いの最高の功労者にようやくお目にかかれた!」


 龍族の大きな口を開き、目の前にいた精霊族の天才に最大の賛辞を贈るつもりだった。

 お互いに前線指揮が忙しく、これが開戦以来久しぶりの再会だった。


《バハムリッド卿……恐ろしいことが起きました……》


 目の前にいる若き天才は、まるで亡霊でも見たかのように遠見鏡をバハムリッドへと手渡すと、ボスンと椅子にうつむいて座り込んでしまった。


「どうしたというのだ? いったい何が……」


 バハムリッドは遠見鏡を受け取ると敵部隊へと向ける。


「なんだ……あの色は……」


 そしてすぐに異常に気が付く。

 魔物たちの目印である魔石が、いつもの血のような赤い輝きではなく、紫色に輝く個体が散見される。


「バハムリット卿! 魔法攻撃が発動します! 対閃光用具を使用ください!」


 構成されていく魔方陣、敵を蹂躙する光の奔流が始まる。


《こんなことが……ここまで大規模な魔法攻撃を持続的に使用したことがなかったために、気が付かなかったんだ……魔法攻撃にも、進化してしまう可能性を……》


 バハムリットは目の前で起きている光景を認めたくはなかった……

 特殊な色の魔石を持つ魔物が、味方の魔法攻撃を……


「魔法を……喰っている……」


 


   

 

やっと次で主人公が……

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