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10話 快進撃

「総員パーティを意識して突っ込みすぎるな!」


「左翼がやや遅れてる中央、右翼は調整しろ!」


「少しでも負傷したら後方と交代だ! 絶対に無理はするな!」


 指揮官クラスから矢継ぎ早に指示が飛び交う戦場。

 戦場全体の情報収集はラインハルトが召喚した人魂に似たスピリッツ達が上空から集めている。

 その情報を司令部で一括処理し、最適な戦法を皆で話し合う、情報処理と助言のためにラインハルトの友である変幻自在ミラージュ指揮者コンダクターと呼ばれたバセットという軍師が召喚されている。

 バハムリッド達の意見も踏まえて、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変な対応を即座に提案してくれる。

 グラン軍は12人を1セットとする小単位のパーティを集めるという行軍を行っている。

 敵と正面で当たる前線、後方から援護する部隊、そして交代要員という3軍団で進行していく。

 パーティにはラインハルトの召喚した英霊騎士、英霊魔術師、英霊司祭の3名が必ず同行していく。

 それぞれのパーティへの情報伝達にも召喚された集合思念体であるオリジンという精霊の特製を利用して、3次元映像や即座の状況説明や戦術伝達が行われる。

 これも、ラインハルトが召喚した。

 全ての戦士たちは勇者の友の加護の元にいるために身体能力には強力な支援がかかっている。

 さらに、すこしでも負傷者が出ればパーティごと交代要員と交替して急速につく。

 移動式の休息用コテージはさながら動く高級ホテルと呼ばれている。

 驚くことに生産拠点も可動式で司令部などと一緒に移動要塞のごとく軍に追従する。

 兵站の概念を完全に無視できるチート行軍だ。


「すごい、もうドラガイアント中腹までを取り返せそうです!」


 喜びの声がゾクゾクと届く。


「皆さん、うまくいっているときほど慎重に」


 ラインハルトは一応苦言を呈する。

 今のところは彼の予想通りに戦線は進行している。

 落とし穴はうまくいっている時に現れることをラインハルトはよく知っている。

 バセットの助言も合わされば、その落とし穴は未然に防げるだろうとも思っている。


 快進撃は続いている。

 敵勢力の打破の情報を魔王軍に持ち帰らせない対策をしているために、進化を行った個体が広がらないというのも非常に大きい。

 すでに戦力としてこちらが上回っている上に、敵に戦力の補充をさせない。

 理想的な展開に持ち込めていた。

 戦線の押し上げは順調に進んでいるが、前方面をきちんと戦線の押上をして封じ込めをする必要が有るために、実際の行軍距離は緩やかに進んでいく。

 それでも2年程でエレクリア、ドラガイアントの奪還に成功する。

 地上世界に避難をして暮らしている人々は日々の勝利の報に喜びを隠すこと無く表している。


「魔王を、敵が最後の一人であっても、魔王を倒すまでは決して安心できない」


 ラインハルトは繰り返しそう唱え続けて、軍全体を引き締めている。

 もちろん油断する人間は出てこない。

 連戦連勝であるにも関わらず。


 なぜか?


 それは、勇者の友の庇護下にある人間は勇者が如く、おのれを驕らず、常に謙虚に、人民のために勇気を持って戦う心意気を与えられるからだった。


 こうしてマグナ軍は長き道を経て、とうとう最初に魔王が現れた国、マシリナムにたどり着く。


「コレが……我ガ故郷か……」


 機械化生物の戦士は思わず小さくそう呟いた。

 今までの行軍でも荒れ果て、打ち壊された国を進んできたが、マシリナムの国には、何も残っていなかった……

 悲しみを一時感じるが、ぐっと飲み込み彼らはまた一歩を踏み出す。


 戦場の変化はそれだけではなかった。

 濃密な魔物の存在が、偶発的な捕食や、ストレスと関係のない突然変異による進化を促された特殊個体魔物が多く見受けられるようになったのだ。

 さらに、魔王のお膝元とも言える戦場で、情報や魔石の力が魔王側に戻るのを防ぎきれなくなってきていた。


「ここからは、さらに厳しい戦いになるな……」


 ラインハルトも今後の激戦の予感を感じていた。


「最後の戦いになるだろう、私も出るぞ! バセット、頼んだ!」


「任せておけ我が友よ」


 ラインハルトはもちろん前線にも何度となく参戦している。

 しかし、これからはもう司令室に戻ることはない、そういう覚悟で最前線に戻っていく。

 

「ラインハルト様だ!! ラインハルト様がいらしたぞ!!」


「バハムリッド様にオリエンテス様もいらっしゃるぞ!!」


 前線の士気は非常に高い。しかし、今回の反攻作戦の立役者達が一同に現れればその士気は頂点に達する。


 最前線に立つラインハルト、目の前には巨大種から変異種までの数多の魔物達。

 

 バリッ!


 突然ラインハルトの立つ隣の空間に裂け目が生じる。

 敵の奇襲か!? と周囲の人間は身構えるが、当のラインハルトは困った顔で頭をかいている。


「呼んだ覚えはないぞ……デゲンス、カーラ、マイレニア……」


「おいおい、喧嘩すんのになんで俺呼ばねーんだよ! 

 ズリーぞラインハルト!」


 デゲンスと呼ばれた男は2mはあろう大男だ。

 真っ赤な皮膚に天を衝く角が目を引く。

 筋肉の要塞と呼べる恵体に巨大な日本刀を背負っている。

 なぜか虎柄のパンツ一丁だ。


「酷いですわラインハルト様! 私を呼んでくださらないなんて!!」


 カーラと言う女性は透き通るような白い肌に見るものの魂を奪い取るのでは無いかと思うほどの面妖な美貌。更には女性としての魅力を最大限に溢れ出すスタイルとそれを目立たせる薄手のローブ、周囲の男性陣の視点が集中している。


「カーラ、君も出てきたのか……もう私の見た目は以前の者ではない。失望させたくなかったのだ」


「嫌ですわラインハルト様、このカーラが入れ物の見た目に惹かれたとお思いなのですか?

 私は貴方様の魂の輝きに惚れ込んだのです。入れ物なんて何の価値もありませんわ……」


 ラインハルトにベッタリと抱きつき耳元で囁く。

 変形した胸が、強制的に周囲の男性の喉をごくりと鳴らす。


「ハハハ、ありがとうカーラ。今までのどんな口説き文句よりも俺の心を揺らしたよ」


 太ったおっさんがかっこいいこと言ってる。


「それにしても、まさかマイレニア、君まで来るなんて……デゲンス! また彼女を唆したのか!?」


「ち、ちがっ……」


 ブンブンとデゲンスが首を振る。


「違うのラインハルト様……僕が……僕が皆に頼んで連れてきてもらったの……」


 おずおずとデゲンスの背後から覗き見るようにラインハルトの様子をうかがっているのがマイレニア。

 少しサイズの合っていない大きめな紫色のローブをクシュクシュと手で掴みながらチラチラとラインハルトを見上げている。

 見た感じは幼い少年か、少女かわかりにくいが、れっきとした女性だ。

 銀髪と濃い緑の瞳が神秘的な可愛さ、美しさを作り上げている。

 褐色の肌がまるで瞳を宝石のように模っている。


「怒ってる……」


 上目遣いでラインハルトに尋ねるマイレニア、この可愛らしい仕草を前にどんな怒りがあったとしてもたち消えてしまうだろう。


「怒ってないさ、ただ、君たちはこと戦闘においては……やり過ぎにならないか心配だったから今回は呼ばなかったんだよ、ここはこの世界に住む人にとって大切な国なんだ。わかるね?」


「……うん。わかった。この空間が壊れないようにすればいいのね?」


 マイレニアは何もない空間から一本の杖を取り出す。

 9つの頭を持つ蛇が一つの巨大な宝石にかじりついているデザイン。

 彼女の愛杖であるケレテンパストラの杖。

 彼女はその杖をよろよろしながら高々と掲げる。


「えいっ」


 可愛らしい声で杖を振るう。

 その可愛らしい仕草に周囲に居る兵士たちの顔にも笑顔が溢れた。

 一方ラインハルトは必死の形相で本気で全部隊を覆う魔法障壁を構築し、展開した。

 

 その刹那。


 ゴワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!


 っという巨大で強大な風が、『マシリナム国の全て』を通り過ぎていく。


「これで外壁部分全ての次元固定出来た……もう壊れない。これでいい?」


 つぶらな瞳でラインハルトを見上げるマイレニア。


「あ、ああ……ありがとう。ただねマイレニア。君が魔法を使う時は一言、言ってくれるかな?

 俺も本気にならないと味方全体守るのは大変だからさ、でも、ありがとう」


 ぱあっと笑顔になるマイレニア。


 ラインハルトの仲間も規格外の人物ばかりだった。





 

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