09.入都審査
※風邪をひいた為、予定より短いです。
みなさんは体調にはくれぐれもお気をつけください。
明日、体調によってはアップ出来ないかもしれませんので、念の為に予告しておきます。
「そうかぁ。じゃあ君は、中で冒険者を受ける予定なんだ」
「そうです」
門にくっついている、小部屋みたいなところに通された後は、一人の優しそうな男の人のところへ割り振られて、簡単な審査を受けることになった。
男の人は普通のシャツっぽい服の上に、とってもシンプルな、多分革製の鎧を着ているけど、上半身しか守られてないみたいだし、ついでに言ってしまえば失礼だけど、腰に下げられた剣の重みで、ちょくちょくフラフラしてるみたいで、全然門番とか門兵には見えなかった。
門で囲まれてるくらいなんだから、戦うこともきっとあるだろうに、どうしてもそうは見えない。
こうした手続きだけを任されている人なんだろうか。
…私の言えたことじゃないけどね。
「一応うちに入るにはお金が必要って知ってるかな?」
「当然です」
「良かった。じゃあ準備してあるかな。まぁ、もし無くても、ある程度なら此処で貸してあげられるけどね」
朗らかに微笑む審査官さんに、ロインくんは無言でお金を差し出す。
審査官さんはちょっと驚いたように目を見開いてから、お金を確認する。
それから苦笑して言った。
「はい、確かに…って言いたいところだけど、これじゃあちょっと多いな。半分で十分だよ」
「それで間違いありません」
「え?」
表情を変えずに言い切るロインくん。
審査官さんも驚いてるけど、私もビックリだ。
まさかロインくんが計算が出来ないとは思えないし…敢えて?
「この子の分です」
「ぶっ!?(ふぁっ!?)」
「え?その子の??」
ロインくんが、何だかとんでもないことを言い出した。
もしかして、ペットもこの街に入るのにお金がかかるのかな!
でも確かに、幾らかは関税みたいなノリでかかってもおかしくはない。
私、お金も稼げないのに、またお金がかかるなんて!
「いや…君。その子豚ちゃんが食料なのかペットなのかは分からないけど、どっちにしても、個人の所有物に関してはお金はかからないんだよ?まぁ、ギルド所有の商品とかに関しては、モノによっては規定されてるけどさ」
呆れたように説明してくれる審査官さん。
どうやら、ロインくんが間違えていたみたいだ。
私もこれ以上お金がかかる子豚にならなくて一安心だ。
そう思っていたのに、ロインくんはなおも続けた。
「いえ、間違いありません」
「だから君さ…」
「この街に入る際、お金を払った者に住民証明が貰えると聞きました」
「え?あ、うん。まぁそうだけど…」
審査官さんは、豚に住民証明なんて欲しいのかよ、みたいな怪訝そうな顔をして私を見下ろしている。
嫌悪感とかがないだけ有難い。
それはそうなんだけど、居心地は悪い。
ロインくん!私のことは気にしなくても良いよ!
「街中であれば、登録した者同士に居場所を探ることが出来るんですよね」
「それもその通りだけど、身につけていないと駄目だし、襲われたら救援信号が飛ばせるとか、そんな高機能じゃないよ?あんま使えないって言うかさ」
まさか、私の場所を確認しておきたいから欲しい…とか?
はぐれた時用なのは分かるけど、ロインくん。
私豚だから、証明書持てないよ!
「それで構いません。安心料のようなものですから」
「そこまで言うなら、こっちとしては構いやしないんだけどね。…ほい」
溜息混じりに、審査官さんが引き出しから何かを取り出して、ロインくんに手渡した。
ロインくんは片方をポケットに丁寧にしまい込むと、もう片方を私の方に近付けて見せてくれた。
それは宝石と言うには色の悪い、ただの石と言うには不思議な光を湛えた、コロコロとした丸い物体だった。
「良かったな。これでお前も立派な住民だ」
「ぶ、ぶいぃ…(あ、ありがとう…)」
少し嬉しそうに、ロインくんはそれを小さな巾着袋みたいなものに入れて、私の首にかけてくれた。
結構しっかり結ばれたから、落ちることはなさそうだ。
気持ちは嬉しいんだけど、本格的にペットになったみたいで、非常に複雑な気持ちになってしまう。
何となく、首輪を思い出すのだ。
残念だけど、私にはそれで喜べる特殊な趣味はない。
「本当に重要なのはこっちの書類で、ソレはオマケみたいなものなんだ」
審査官さんが、石を指して言う。
どうやら説明してくれるらしい。
「ソレはこの街でしか採れない特別な魔石。と言っても、わんさか採れるし、希少とは言えないような、ありふれた物だ。けど、二つだけ変わった特性がある」
そこから結構審査官さんは溜める。
盛り上がるポイントだからって、溜め過ぎじゃないかな?
思わず喉が鳴る。
どんな変わった特性なんだろう。
「…一つたりとも、同じ魔素配合の物が存在しない。最も近しい魔石に反応する」
「あー、何だ。やっぱり知ってたのかぁ」
「ぶぶっ!?(何がっ!?)」
痺れを切らしたのか、それともじらされる私が不憫に見えたのか、先にロインくんが説明してくれた。
審査官さんは残念そうにしているけど、どうもロインくんが知ってると思って試してたみたいだ。
「普通、ペットの豚に持たせようなんて変な人いないけど、確かに可愛いし、別に豚にあげちゃいけない規定もないしね。気にしないで持ってお行き」
「ぶいー(ありがとうございます)」
「はは。君が大事にするのも分かる気がするなぁ。会話してるみたいだ」
「…当然です」
どうしてロインくんがドヤ顔をしているんだろう。
…まぁ、それはさておき。
とにかく、入国って言うか入都を認められたロインくん。
と、ついでに私。
自由都市との名前に恥じない、かなり自由な街らしいけど、一体どんなことが待ち受けているのだろうか。
人がいっぱいいるってことは、私が人に戻る手段も、日本に帰る手段も分かるかもしれないし、物作りにも良い環境かもしれない。
新しい街だ。
早く馴染めるように頑張ろう。
あと、ロインくんにも迷惑をかけないように!
私は、グッと胸の中で決意を固めると、ロインくんに抱っこされたまま、ちょっと情けない入都を遂げるのだった…。
審査官「ほれほれーっ」
子豚「ぶぶぶぶー(き、気持ち良い!!)」
ロイン「…うちの子に何を…!」
審査官「うちの実家、牧畜やっててさぁ。懐かしいなぁ。子豚もいっぱい面倒みたっけぇ」
子豚「ぶぶぶぅ(うぅ、抗えないこのヨシヨシ…!!)」
ロイン「……。……僕にも教えて頂けます?」
審査官「いいよー!」
子豚「ぶっ!?(ロインくんが覚えたら、毎日でもこのマッサージが!?い、いらないよ!駄目子豚になっちゃうよ!!)」