08.森のエルフの村長とお話(2回目)
ストックが尽きた為、推敲が追い付いていません。
誤字脱字等ありましたら、スルーするか、ご報告頂ければ幸いです。
「それでは早速で申し訳ありませんが、お話をお聞かせ頂けますね?」
「うん」
たっぷり一時間くらい休ませてもらった後、再びミーシャちゃんから声をかけられ、俺は階下へと降りて行った。
すると、やはりと言うか何と言うか、村長さんが待ち構えていた。
笑ってるけど雰囲気怖いなぁ…。
若干ビビりながらも、俺はゆっくりと示された席に座る。
「俺は、元々人間だった。気付いたら木になっていて、あそこにいた」
「え?」
村長さんが聞きたかったのは、この人型の俺が一体どうして現れたのか、とかそういうところだというのは分かってるけど、それにはまず本当に最初から話さなくてはならない。
俺は、細かいところは記憶喪失で押し通しつつ、有る程度本当のことを話すことに決めた。
決して考えるのが面倒になった訳ではないのであしからず。
「神様、みたいな人にあった。それで、世界を救う可能性のあるヒトを、俺に集めるように言った」
「神様みたいな人?世界を…救う?」
村長さんのキャパを、明らかに超えている。
けれど、気にしている余裕は残念ながら俺にはない。
質問は後にしてもらいたい。
何しろ俺の語学力は、エルフ語基礎Gだ。
上手く話せない。
「その為には、木の身体だけでは難しいからって、この身体をくれたんだ」
「……」
「分かったか?」
分かる訳ないだろ。
セルフツッコミをしてみるけど、これで分かってもらわないと俺は困る。
これ以上上手い説明が思いつかないのだ。
仮に、エルフ語基礎を極めていたとしても、分からなかっただろう。
「…申し訳ありません。少し理解を超えてしまって…私にも分かるように説明しては頂けませんか?」
やっぱそうだよなぁ…。
俺はひっそりと溜息をつく。
説明出来るのならとっくにしている。
そんな意味を込めて、軽く首を横に振る。
「俺も、良く分かっていない」
「と、言いますと?」
「押しつけられた」
言い得て妙だ。
管理人は、確かに俺に厄介事を押しつけて去って行った。
だが、管理人の言葉を全て信じるのであれば、彼女に厄介事を押しつけてもらえなければ、何も知らずに争いに巻き込まれていた可能性がある。
まぁ、あくまでも可能性だけど。
「神様とは…どのような方ですか?」
ひとまず俺の言葉を信じてくれたのか、村長さんは次の問いを口にする。
いや、とりあえず全部話を聞いてからだ、と思ったのかもしれない。
どちらにしても、俺はこれ以上の説明は思いつかないのだから、幾らでも答えることにしよう。
都合の悪いことには、答えるか分からないけど。
「神様じゃない。神様みたいな子。…女の子だった。このくらいの」
手で彼女の身長を表現してみる。
まぁ、俺管理人の姿見てないから分からないけど。
声から推測出来るのは、小学生とかそのくらいだったから、良しとしよう。
「そんな小さな女神は知らないな…新しい女神か?……ふむ。それでは、世界を救う可能性のあるヒトとは、一体何でしょう?」
「詳しくは、分からない。世界を滅ぼそうとしているヤツを倒せる可能性を持ったヒトたち、らしいけど」
「滅ぼす!?」
俺の言葉に、ミーシャちゃんがガタリと立ち上がった。
唐突過ぎるし、それは当然吃驚もするだろう。
配慮が足りなかったのは申し訳ない。
けど、本当に他に言いようが分からない。
「シンジュ様!それは一体どういう…」
「ミーシャ」
焦った様に話を掘り下げようとするミーシャちゃんを、村長さんが制する。
「気持ちは分かるが、少し落ち着きなさい」
「ですが…」
「ミーシャ」
「……はい」
ミーシャちゃんは、しゅん、と肩を落として力なく椅子に腰を下ろす。
見ていると、何だか非常に心苦しくなって来る。
全体的に俺のせいです、って叫び出したくなってしまうところだ。
けど、まぁ俺の方こそ落ち着くべきだ。
説明しなければならない場面でテンパッてどうする。
「失礼致しました。それで、話を戻しますが…貴方は、その神様のような存在から話を聞いたのですよね?」
「そうだ」
「世界を滅ぼそうとしている者の詳しい情報は、得ていないのですか?」
「隠れるのが上手らしい。色々と裏から手を回すヤツだと言っていた」
「なるほど…」
村長さんは目を伏せて、しばらく考え込む。
その絵画のような美しさは、ミーシャちゃんのようなお子さんがいるとはとても思えないくらいだ。
…思考が逸れてしまった。
「シンジュ様」
「ああ」
「貴方がその存在を信じるに至った根拠は、何でしたか?」
「根拠か…」
そう聞かれてみると悩む。
完全に信じた訳ではないとは言っても、一定範囲は受け容れることにしたし、それには俺なりに根拠があるはずだよな。
勘と言えば勘だけど、もっと具体的な根拠があるとしたら…。
「普通」
「え?」
「彼女は、四種族を、普通のヒトたちだと言った。だから、信じることにした」
それが一番強い理由のように思う。
俺が会った、森のエルフ以外の種族は、馬人族。
しかも、悪人よろしく舌舐めずりしながら、ミーシャちゃんを追い回すところだけだから、まぁ、あいつらは悪いヤツ、と認識しても良いはずだった。
けど、俺の日本人としての常識がそうさせるのか、俺は一概にそう断言したいとは思えなかった。
人を一面だけで判断しては痛い目を見る。
妙に、実感を伴っている気がするけど、良く思い出せない。
思い出せないということは、そんなに重要ではない、ということだ。
そんな違和感は無視して、俺は続ける。
「俺は、貴方たちしか知らない。貴方たちのことも、良く知らない。けど、みんな争いたい訳じゃないと、信じたい。だから、普通のヒトたちだと言われて、信じることにしたんだ」
それは、或るいは願望なのかもしれない。
日本だって、争いがまったくないなんてことは有り得ないのに。
身近に、常に存在しているというのに。
見ない振りをしながら、それでもみんな、平和を保とうとしている。
そんな日本人だからこその。
悪いヤツは悪いヤツ。
良いヤツは良いヤツ。
そんな、シンプルな勧善懲悪で終わらせて欲しい、と思う俺だからこその。
「……ふむ」
村長さんが眉を顰め、顎に手を当てて考え込む。
突然意味不明な難題を提示して申し訳ない。
けどそこは、俺もそうだったという理由で納得してもらうしかない。
「シンジュ様は、その神様の言う通りにするつもりですか?」
しばらく悩んでから、また村長さんは質問を口にした。
その問いに対して、俺は軽く頷いてみせる。
「うん」
「それは何故ですか?」
「本当は無視したいけど、無視したら俺の平穏が乱されそうだから」
俺は聖人君子じゃないから、俺の見えないところで誰かが争っている分には、見ない振りが出来る。
けれど、管理人の言う通りなら、目を逸らせない程戦火が広がるだろう。
そうならないにしても、転ばぬ先の杖を用意しておくのも良いと思う。
「それに、俺はサポートする側だから。俺に世界は救えないけど、世界を救うヤツを助けることは出来るかもしれないし」
命を賭けるのはまっぴらごめんだ。
だからこそ、人を集める役割は、俺には合っているような気がした。
「シンジュ様は、この森を出て行かれるおつもりですか?」
「ううん。先に悪いヤツを捕まえる」
「悪いヤツ?」
「普通のヒトたちを巻き込んだ、悪いヤツ。まず、そいつを捕まえてから探しに行くことにする」
「シンジュ様…まさか、それは……」
村長さんは数度目を瞬くと、スッと細めて手を組む。
まるで、どこかのグラサンかけた司令官だか何だかみたいなポーズだ。
物凄いカッコ付けてるポーズなのに、全然似合ってるのが不思議だ。
…いや、俺と比べちゃ駄目なんだろうな。
「シンジュ様は、この森の長きに渡る諍いが、その世界を滅ぼそうとしている存在によって引き起こされたものだとお考えですか?」
ジッと、探る様な目線に、俺は真っ直ぐに目を見て答える。
根拠なんて、俺の勘と、自称管理人の言った内容だけなんだけど、そこを疑ったら始まらない。
俺はそれらを信じたのだから、迷う余地などないのである。
「思ってる」
そこから数分間、睨みあいが続いた。
睨みあいって言う程じゃないかもしれないけど、目を逸らさずに何分いられるでしょうか、と勝負しているのだろうかと錯覚するレベルで、俺と村長は見つめ合っていた。
「ミーシャ」
「っはい」
先に目を伏せたのは村長だった。
はぁ、と重い溜息をついて、視線は向けずにミーシャちゃんを呼ぶ。
名を呼ばれたミーシャちゃんは、ビクリと細い肩を揺らして村長を見た。
たっぷりの間をあけて、村長さんはミーシャちゃんに尋ねる。
「お前はどう思う?シンジュ様のお話を」
「その…」
ミーシャちゃんは、躊躇うように俺をチラチラと見て来る。
俺は、申し訳なさそうにしているから、多分信じられないんだろうなぁ、と思いながら、気にしなくて良いとフォローする。
「正直に言って良いよ。俺は傷付かないから」
「あ、いえ。まさかそんな。シンジュ様のお言葉を疑うなんてこと、あり得ません…が、その、確かにすぐには受け入れがたいお話である、ということは事実です」
しどろもどろになりながら取りつくろうミーシャちゃん。
まぁ、仕方ないと思う。
俺だって、こんな突拍子もない話、自分が異世界に来ていない限り、信じなかっただろうと思う。
「確かに、長年私達と他の種族達は争っています。ですが、それは他の種族が私達に攻撃を仕掛けて来たからですよ?そこに他の誰かが介入していた、だなんて話は聞いた事がありません。それに、世界を滅ぼそうだなんて…」
争い始めた頃の記録なんて、恐らく記憶しかないだろう。
争う前ならばともかく、争い始めてしまっては、記憶はきっと、塗り替えられてしまう。
根拠には程遠いと思う。
とはいえ、常識というのは得てしてそういうものだ。
ミーシャちゃんが信じ難く感じるのもムリはないのだ。
「そうだな。私もそう思うよ、ミーシャ。けれど…」
ミーシャちゃんに信じて貰う以上に、村長さんに信じて貰うのは難易度が高そうだ、なんてのんきに考えていると、村長さんが重い口を開いた。
自嘲めいたその声に、俺は首を傾げる。
「私は同時に、シンジュ様の仰ることが本当なのでは…とも思っている」
「お父様?」
酷く迷っているような表情だ。
だけど村長さんは、俺を信じようと思ってくれている。
俺としてはありがたいんだけど…あんな説明で良かったのか?
「それ程、この争いの発端は理解しがたいものだった。確かにあの頃の私は、まだ争いを殆ど知らなかったとは言え、それでも、他種族への警戒を完全に怠ったことなどなかった。それなのに、気付けなかった」
なるほど。
村長さんは当時のことが記憶にあるのか。
塗り替えられることもなく、焼きついていたと。
「私は今も疑問に思っている。何故、他種族は私達に牙をむいたのか。…そして、可能なのであれば、その答えが知りたい……」
グッと拳を握った村長。
そして、再びあった視線。
そこには、一人の麗しいエルフではなく、小さくとも村を率いる、一人の為政者の、強い瞳があった。
「シンジュ様。私は、すべてを信じた訳ではありません。しかし、納得出来る部分も確かにあった。それらを無視出来る程、私は身軽ではありません。村に少しでも危険が及びそうなことがあるのならば、刈り取ります」
「村長…」
「ですから、私も可能な限り協力しましょう。村に悪影響が出ない範囲で、と限定させて頂くことにはなりますが」
「十分だ」
管理人さん。
何かとんとん拍子に話が進むんだけど、もしかして何かしてくれてます?
「それならば、私も。徒に争いを広げようとたくらむ者がいるのであれば、誇り高き森のエルフの子として…私もそれを阻む力になります!」
「頼んだぞ、我が子よ」
「助かる」
第一関門はひとまず突破、といったところか。
俺は、即行で燃やされる、なんて最悪なオチをスルー出来たことに、内心で歓喜しつつ、協力を約束してくれた二人に頭を下げるのだった。




