マヤちゃんのはじめてのおともだち(前)
第一章に登場、馬人族の姫長マヤちゃんの物語。
「伯父上!今日こそは手伝…」
「いい。大人しくしていろ」
「むっ…」
私の名はマヤ。
馬人族の村長をしている。
数日前、色々と大変なことが起きて、今は村を別の場所に再建すべく行動しているのだが、何故か皆が私には手を出すなと言う。
父上と母上を失った原因が判明したから、気を使ってくれているのだろうが、寧ろ余計なお世話だ。
私は村長として、皆を助ける為に働きたいと言うのに。
「シンジュ!私も手伝うぞ!」
「ん、有難う。だが、平気だ。マヤは遊んでいろ」
「むむっ…」
シンジュは良く私の頭を撫でる。
木から身体を作って動いているらしいから、ゴツゴツしていて硬いのだが、決して不快では無く、寧ろ父上の手を思い出して私は好きだ。
シンジュ自身も、口数は多くないが、元々味方していた森のエルフだけでなく、他の種族の者たちにも気さくだし、優しいから好きだ。
でも、私を仕事から遠ざけるのは不満である。
折角、村長として働こうと思って、シンジュに頼み込んで、他の種族の言葉を習得したと言うのに、大して発揮することが出来ないまま、もう数日だ。
私だって村長だ。
出来ることならたくさんあると言うのに。
「お前、馬人族って種族なんだって?」
どう言ったら理解してくれるだろうか、と悩んでいると、森のエルフの少年が声をかけて来た。
森のエルフ共通の特徴である、黄緑色の髪と、青い目を持っている。
確か、森のエルフには二人しか子供がいないのであったな。
とすると、彼と…その背に隠れた少女がその二人なのだろう。
私とは背格好も近い。
きっと年齢も近いのだろう。
此処は角が立たぬようにせねばならんな。
「うむ。そうだが?」
こくりと深く頷いてみせると、少年は大袈裟に目を丸くした。
な、何だその反応は。
訝しく思って見ていると、少年は突然笑い出した。
「えぇー、全然見えねぇけど」
な、なななっ!
言うに事欠いて、何たることを言うのだ!
同じ年くらいだからと思ってナメおって!!
「何だと!?」
思わず叫ぶが、少年は気にした様子もない。
くっ…まさか馬鹿にされるとは思わなんだ。
今まで年の近い者…ましてや他種族の者と会話したことなどない。
いや、他種族の者とは数えるくらいだが、会話したことはあるな。
年の近い者だからか?
対応に困ってしまうぞ。
「ジーマ!イジワル言っちゃダメだよぅ!」
何と対応したものかと悩みつつ唸っていると、少年の後ろにいた少女が、少年に注意をしてくれた。
おお…彼女は話が通じそうだな。
少しばかりホッとする。
別段、私は彼らと喧嘩をしたい訳ではないからな。
「イジワル?何が?だってコイツさぁ、他の大人と違って、フツーの顔じゃん。ホントのこと言って何が悪いんだよ」
「でもぉ…」
…久しぶりに聞いてしまった。
確かに、私の顔は馬人族の普通ではない。
村の者で、私のように人に近い顔を持つ者はいない。
両親も、普通の顔をしていたのに、何故か私だけが、人に近い顔を持っている。
耳もある。尾もある。
けれど、どうしてこの顔はこんなに薄いのだろう。
気にしなくても良いことだ。
伯父上も言っていた。
偶にそういう作りで生まれてくる者もいるのだと。
村の外にいる馬人族には、私に似た者も多いのだと。
「うっ…」
「ああー!ほら、ジーマが泣かせた!!」
「え!?オレのせい!?な、泣くなよ!何で泣くんだよ!!」
「な、泣いてなどおらぬわ…っ」
思った以上にショックを受けた自分にショックを受ける。
ポロポロと目から水が流れ落ちる。
それを私は強引に拭う。
見なかったと言えば、それはないものと同じだ。
「泣いてなどおらぬ!」
「二回も言わなくていいよ…。…わ、悪かったな。まさか泣くとは思わなかったんだよ…」
「泣いてなどおらぬわ!」
「わ、分かった分かった!お前は泣いてねぇよ!」
「うむ」
少年は謝ってくれたが…いや、何のことか分からぬな。
私は泣いておらぬのだから、その謝罪は必要のないものだ。
「で、何でお前だけ顔違うの?」
「ジーマ!」
「だ、だって気になるだろ?」
ふ…子供だから仕方ないのだ。
此処は、私が大人になって譲ってならねばな。
「何と言うことは無い。獣人とは人と獣の特徴を兼ね備えた者を指す。その割合は人によって様々であるからな。私は偶々、人の特徴が色濃く出ただけなのだ」
スラスラと、以前伯父上から聞いた理由を語る。
すると、二人はポカンとして目を瞬いた。
「む、どうした?」
「いや、その…さ。……つまり、どういう意味?」
「……」
子供には難解すぎたか。
それは分かったが、言い換えるのも難しい…いや、面倒だ。
け、決して私も意味が良く分かっていないなどと、そのようなことはっ。
…こ、此処は誤魔化すこととしよう。
「そ、それよりもだ。私に何用だったのだ?」
「用事?いや、特にねーけど?」
「は?」
誤魔化すことには成功したようだが、反対に私が言葉を失ってしまった。
こ奴は何を言っているのだ。
何故、用事もなく話しかけることがあると言うのか。
「見ない顔だなーと思って声かけただけ!」
「シンジュ様が、大人相手はダメだけど、子供相手だったら遊んでもいいって言ってたんだよ」
「こ、子供!?いや、まぁ子供か。うん…」
実際、私を大人か子供か分類したならば、間違いなく子供に当たるだろう。
悔しくはあるが、悔しがったところで、身長は伸びない。
…うむむ。
やはり、私の外見が幼いから、大人たちにも爪弾きにされるのだろうか。
私だって村長なのに。
「そーだ。オレ、ジーマって言うんだ!」
「あたしソーニャ!」
「お前は?」
「…マヤだ」
特に隠す必要もないよな。
以前であれば、他種族に名乗ることは御法度とすら言われていたが、今はあ奴…シンジュの元で協力して生活しているし。
「そうか、マヤ!オレたちと友だちになろう!」
「は?」
「だから、あたしたちと、おともだちになろうよ!」
「と、友達?」
急に話が飛ばなかったか?
私は思わず目を瞬く。
ギュッと両側から手を握られて、友達になろうと迫られる。
一体どういう状況なのだ。
理解出来んぞ。
「オレたちさー、ずっと二人で遊んでたんだよ。でも、二人じゃつまんないし、シンジュ様はたまにしか遊んでくれないし、マヤが入れば楽しいだろ?」
「うんうんっ!」
「だから、友だちになろうぜ!」
「なろうなろうっ!」
「近い!!」
目を輝かせながら、ジリジリと距離を詰めて来る二人。
た、他人とこんな距離感になったことなんて、今までなかった。
何だろう、この胸がむず痒くなるような感覚は。
今私は、非常に逃げ出したい気持ちでいっぱいなのだが。
「離れてくれ、頼むから!」
「えぇー?何でだよ。友だちになるくらいいいじゃんか」
プクッと頬を膨らませる少年…ジーマ。
ち、違うのだ。
別に嫌がっているとか、そういう訳では…。
けれど、他に何と言ったら良いのか、さっぱり分からない。
「じゃあ、友だちはいいから、遊びましょう?」
「おっ。めーあんだな、ソーニャ。よし、行こうぜマヤ!」
「は!?」
掴んだ腕を、今度は強く引っ張って何処かへ駆け出そうとする二人。
力は、間違いなく私の方が強いから、引っ張れば此処に留まることは出来るのだろうが、これ以上渋って二人の機嫌を損ねてしまうのも望ましくない。
うむぅ…悩ましいが、此処は素直に従っておくか。
「ほらほらー、行くぞ!」
「いくよぉっ!」
「わ、分かった!分かったから、そう急くな!」
村長として仕事を任されるのにはどうしたら良いか考えていた筈だったのだが…どうしてこうなったのだろうか。
けれど、不思議と不快では無い。
心臓がバクバクと煩い。
この感情は、一体何なのだろうか。
私は、首を傾げながら二人について駆けて行くのだった。
木「(いやー、子供が仲良くしてるの見るとホッコリするなぁ)」
スレイ「子供だけで歩かせるのは危険では?」
木「…つ、ついていくのは止してくれ、スレイ」
スレイ「何故だ?」
木「何故って…いや、だからそれストー…ちょ、待っ!!」