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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第一章/木になった俺と、最果ての森の四種族
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05.森のエルフの村長とお話

「(間もなく到着致しますよ、シンジュ様)」


 ミーシャちゃんに呼びかけられて、俺はハッと意識を取り戻す。

 辺りを見回して見ると、大して出発した時と景色は変わっていない。

 相も変わらず木々が生い茂っているだけだ。

 強いて言うのなら、俺が最初にいたような広場のような空間がないくらいか。


(俺、気絶してたのかな?)

「(少し手荒だったようですね…申し訳ございません。ただ、シンジュ様に触れていれば、撹乱(ディスタルバンス)で誘導出来るのですが、それにしても早く安全な場所に行く方が優先されるだろうと思いまして)」

撹乱(ディスタルバンス)?)

「(昨日、馬人(まじん)族たちを遠くへ追いやった魔術にございます)」

(ああ…)


 ミーシャちゃんに襲いかかって来た直後、急にミーシャちゃんを見失ったみたいに見えたのは、やはり彼女の魔術だったらしい。

 あんな目の前にいるのに見失わせるなんて、協力な魔術だ。

 それが、俺に触れていれば使える。

 …うーむ、この辺りも原因を調べておきたいところだ。


「(シンジュ様におかれましては、お加減は如何でしょうか?私は、今までのシンジュ様しか、シンジュ様を存じませんので、つい今までの通りに動いてしまったのですけれど、貴方様にとってみれば、負担が大きかったのですよね?まさか、意識を失ってしまわれるだなんて…申し訳ございませんでした)」


 スピードは緩めないものの、ミーシャちゃんはしょぼんと肩を落としてそう謝罪の言葉を口にする。

 俺が失神してしまったことに責任を感じているようだった。


(いや、気にしなくても良いよ)

「(けれど…)」

(と言うか、他のシンジュ様は強いんだね。急に引っこ抜かれてビックリしなかったってことだろう?)


 フォローのつもりもあって、他のシンジュについて尋ねてみると、ミーシャちゃんは、少しだけバツが悪そうに首を横に振った。

 どういう意味だろうと俺が不思議に思っていると、ミーシャちゃんはおずおずと口を開いた。


「(今までのシンジュ様は、貴方様のようにはっきりした人格をお持ちではなかったのです。曖昧な感情のようなものはお持ちだったようですが、具体的に会話が出来る程のものではございませんでした)」

(えっ)


 つまり俺は、シンジュとして見ても異常な存在、ということだろうか。

 ただでさえシンジュなんて希有な存在っぽいというのに、その中でも更に変わっているとなると、いよいよ何者かの意図を感じてしまう。

 俺は、これからどうなるのだろうか。

 物語の主人公みたいに、世界の命運とかに巻き込まれて行くのだろうか。

 俺、そんな特別な存在じゃないはずなんだけどなぁ……。


「(貴方様は、私達の希望の光です。自信を持ってくださいまし)」


 ニッコリと微笑んでフォローしてくれるミーシャちゃん。

 多分、俺が気落ちしたのを感じ取ったからだろう。

 良い子だ。

 良い子なんだけど、希望の光とまで言われてしまうと、胃が痛くなる。

 胃なんてないんだろうけどさ。


 何でミーシャちゃん、俺が協力する前提で話をしているんだろうって、ちょっと疑問だったけど、要するに無意識の内に今までのシンジュと同じ物だと考えてるのが原因なんだろうなぁ。

 自分の意見なんて、基本的にはないシンジュと。

 そうじゃないと、俺が渋っているのに気付かないはずがないと思う。

 …まぁ、俺が態度に出してないことも理由に入ってるかもしれないけどな。


(俺は、平和に生きられればそれで良いんだけどね)

「(私達も、早くこの森に本当の意味での平和が訪れることを祈っております)」


 俺も祈ってるけど、それは自分でどうにかするようなことじゃない。

 ミーシャちゃんの言わんとするところとは、ズレているだろう。

 ああ、本当に気が重い。

 期待されることは嫌な気分ではないけど、どれだけ特別な存在だと言われようとも、なかなかに納得がいかない。

 俺は多分、主人公というよりも、それに巻き込まれた一般人の方だと思う。

 そんな俺が、シンジュ様。

 カッコ良いけど、どんなものだか…。

 普通に冒険者とかが良かった。


「(到着致しました)」


 ミーシャちゃんがそう言い、足を止める。

 俺は考え事をやめて、視線をミーシャちゃんの見ている方へと向けた。

 すると、そこには村が…ある訳ではなく、ただ今までと変わらない景色が。

 一瞬不思議に思ったが、結界というものが、未だ機能している影響なのだと気付き、俺は何も言わずにいた。

 すごいな…全然分からないぞ。


「▼◆●+*-」


 ミーシャちゃんが、結界の向こう側へだろうか、何事か呼びかける。

 そうすると、少しして目の前の景色が薄くなって来る。

 ぼんやりと形が二重に見えて来て、やがて、そこには簡素な木造の家が立ち並ぶ小さな村が広がっていた。


(おお…村だ…)

「(ふふ。驚かれました?力を失って来たとは言え、未だシンジュ様の力は健在なのですよ)」


 先代と言えば良いのか、シンジュ様の力は相当に強いようだ。

 俺にも、これだけのことを期待されているのだろうか。

 俺自身には出来なくても、ミーシャちゃんか他の人かが俺から力を借りて結界を張るのだろうから、期待されてる役目を果たすこと自体に不安を感じることはないと思う。

 それはそうだが、これだけの結界を張り続けて、俺は大丈夫なんだろうか。

 一切その辺説明ないけど、本当に大丈夫か?

 …と、気軽に聞けないのが難しいところだ。

 何しろ俺は、魔力的なもの以外はただの植物で、歩いて逃げることも出来ないのだから。


 ん?魔力?


 良く考えてみれば、俺は自分のステータスを確認している。

 そこで見た魔力は…確か、20。

 多いのか少ないのか分からないが、色々ゲームをやって来た現代日本人としての感覚を信じるのならば、あまり多い数値ではないだろう。

 それで、はっきり意志疎通が出来て、森のエルフ(フォレルフ)が力を借りるに値する特別な木であるシンジュだと言われて、俺は素直に納得して良いのか?

 色々なことが起こり過ぎて、普通にスルーしていた。

 俺、本当にシンジュなのか?

 いや、でもミーシャちゃんが俺に触れたら魔術が使えたのは本当だし…。

 ああ、くそ。全然分からん。


「(シンジュ様。村の広場にお連れ致しますね)」

(あ、ああ…)


 村の他のエルフたちと何事かを話していたミーシャちゃんが、俺に声をかける。

 俺は、何とか絞り出すように返事をする。

 頭の中が混乱して、意思疎通すら満足に出来なくなるところだった。

 騙されている、ということはなくても、村に連れて来たけど、結局はシンジュではなかった、的なオチはあり得そうだ。

 いずれにせよ、着いて来る以外の選択肢はなかったのだから、仕方ないのだろうが…俺はここで自分の死を覚悟した方が良いかもしれない。


「■)(#”%!?」

「>>。*+@:」


 村の広場なんだろう場所に到着すると、ミーシャちゃんはその真ん中に俺を下ろした。

 村はざわめきに包まれる。

 どちらかというと、喜色満面、といった感じだから、歓迎されていると見て良いだろうか。

 不安に思いながら、村人たちの様子を観察すると、皆疲れた様な顔をしていて、働き盛りの男の姿は見えなかった。

 戦いで喪ってしまったことの影響だろうか。


 あと、皆例外なく耳はとがっていて、美しい顔をしている。

 妙齢の女性も、儚げで影のある笑顔は、魅力的に見える。

 小さな男の子も女の子も、将来を期待させるような、整った造作をしている。


 俺を見て、口々に何かを言っているが、生憎と言葉が分からない。

 困ったものだ。

 彼らが何を言っているのか、悪い方向へ想像が膨らんでしまう。

 ミーシャちゃんに、今の状況を尋ねたいところなんだが、彼女の視線は、こちらへとゆったりとした動作でやって来る、若い男へと向いていて、それどころではなさそうだった。


 働き盛りが殆ど見えない中、彼だけが若い男のようだ。

 スッと通った鼻筋に、涼やかな緑の瞳、流れるような金髪。

 ほっそりとした体躯は、それでも森で生きるに相応しい筋肉を備えている。

 その雰囲気から、俺は彼が一番この村で偉いのだと悟る。

 そして、その想像は正しかったようで、ミーシャちゃんがこっそりと、彼が村長であるのだ、と教えてくれた。


「=‘}▼~?」

「<%」


 ミーシャちゃんは、村長さんと何事か話し始める。

 これが英語だったら、せめて少しでも単語が聞き取れれば、何とか話についていけたかもしれないのにと、俺は内心で溜息をつく。

 法則性も何も分かったものではない。


 ハラハラと二人のやり取りを見守っていると、やがて視線が俺に集中する。

 そして、村長さんの手がゆっくりと俺の枝に触れた。

 直後、どこかミーシャちゃんと似た雰囲気のする、優しげな男性の声が頭の中に響いて来た。


「(お初にお目にかかります。私は、この村を治める長…イヴァンと申します)」

(こちらこそ)

「(ここにおります、ミーシャの父でもあります。まずは、我が子を救って頂いたことへ

の感謝を…)」

(えっ、お父さん!?)


 思わず変な声が出た。気がする。

 それまで考えていたあれこれが、一気に頭からスポーンと抜け落ちるくらいの衝撃が走った。

 そう言えば、ミーシャちゃんは「長一族の末子」と名乗っていた。

 それなら、当然村長はお父さんということになる。

 が、あまりにも外見年齢が若いから、まったく想像がつかなかった。


 そんな失礼な俺の反応にも、けれど村長さんは穏やかな笑みを浮かべるだけだ。

 強いて言うのなら、俺がはっきりとした意志疎通を行ったことでか、少しだけ驚いたような表情ではあるけれど、怒っているようには見えない。

 ついでに言えば、探る様な雰囲気も感じられない。

 素直に良い人だという認識で良いだろうか。


(あ、すみません。少し驚いてしまって…。まさか、親子とは思いませんでした。村長さん、お若いんですね)

「(いいえ、お気になさらず。私は、我々の中でも驚かれる程ですから。仕方がないことだと思います)」


 俺から手を離しているミーシャちゃんは、不思議そうに目を瞬かせている。

 うん、知らないでいてくれた方が、俺の為になるから、そのまま触れずにいてくれると助かる。

 村長さんは、他の村の人が持って来た木製の椅子に腰かける。

 それから、目を閉じて何かを探り始める。

 探り始める、と言っても、俺がそう思っただけで、実際そうではないのかもしれないんだが、突然雰囲気がピリピリとし始めたから、その通りだと思う。


 しばらく俺に触れたまま黙っていると、やがて村長さんは薄っすらを目を開く。

 それから、苦笑気味に笑って俺を見た。


「(…今度のシンジュ様は、かなりの変わり者のようですね)」

(えっ?)

「(まさか、ステータスをお持ちとは思いませんでした)」


 どういう意味だろうか。

 ステータス…村長さんの言葉からすると、俺のステータスを見ることが出来た、ということは分かる。

 ただ、それで一体何が分かったのか。

 普通のシンジュはステータスを持ってないのだろうが、それで何が分かるのか。


 …情報が少な過ぎて、高度な交渉とか、やり取りは出来そうにない。

 やはり諦めて、俺は素直な対応に徹することにしよう。

 俺は溜息をつきたい気持ちになりながら、ストレートに疑問をぶつけた。


(それは、どういう意味でしょう?今までのシンジュ様は、ステータスを持っていない、ということですよね?)

「(おや。ステータスをご存じでしたか。やはり、貴方は特別な方のようだ)」


 …試されていたのだろうか。

 嬉しそうに笑う村長さんは美しいが、ちょっと癇に障る。

 とは言え、ここで怒っても仕方がない。

 何しろ俺は植物。

 命は握られているものも同然なのだから。


「(気分を害してしまったようですね。申し訳ございません。長年争いが絶えない土地で、村長などしておりますと、自然と相手のことを探るのが癖のようになってしまいまして)」

(…いえ、訳が分からないままここへ来たようなもので、気が立っていたんです。あまり気にせず、話を進めてもらえませんか?)

「(何やら事情がおありのご様子。…そうですね。お分かりかもしれませんが、私達には貴方の力が必要なのです。その代わり、私に分かることでしたら何でもお答えしましょう)」

(ギブアンドテイク、といったところですか?)

「(ふふ。その代わり、とは言いましたが、私は先にシンジュ様からの信頼を得たい。この村を守ってもらいたいと言うのです。まず私からシンジュ様へ誠意を見せるのは当然のことでしょう。私が貴方へ情報を提供するのは、あくまでも交換条件ではなく、交換条件を提示する前段階のことだと解釈して頂いて結構です。勿論、情報を聞いた後、我々に協力しなくとも構いませんよ)」


 にこやかに言っているが、村長さんは、俺が一人では動けないことに気付いて、こうしたことを言っているのが分かる。

 流石に村長なんて役職についているだけあって強かだ。

 俺が断らないのを、分かって恩を売って来ているのだから。

 …実際、買うしかないんだよなぁ、これが。


(…分かりました。俺も、困っている人を助けること自体にはやぶさかではありません。俺に出来ることはします。だから、色々と教えて下さい)

「(先に了承をして良いのですか?貴方はまだ私達を疑っているようですが)」

(協力せざるを得ないのなら、気持ち良く協力したいんですよ)

「(おや…。貴方は存外気の良い方のようですね。これは、私の方が悪いことをしているような気になります)」


 ふふ、と申し訳なさそうに笑う村長。

 何だかこの人と話していると、俺の胃が更に悲鳴を上げそうだ。

 助けてミーシャちゃん、と視線を向けるも、彼女は俺の視線には気付かない。

 そりゃそうだ。

 何しろ俺には目がないんだから。


「(それでは、何からお教えしましょうか)」

(まずは、ステータスを持つ、ということの意味についてからお願いします)

「(分かりました)」


 村長さんが教えてくれたことによると、ステータスは、植物、ただの動物、物、などなどには付与されていないのだと言う。

 他人のステータスを見ることが出来る魔術も存在するものの、それでステータスを持たないものを見てみると、名称くらいしか出て来ないらしい。

 代々のシンジュ様も、豊富に魔力を蓄えてはいても、ステータスは存在しなかったのだとか。

 意識のようなものがあるシンジュ様もいたけど、それが明確に意志ではなかったせいなのではないか、とは村長さんの言葉だ。


「(ステータスを持つ貴方は、少なくともただの植物…普通のシンジュ様ではないということになりますね。分類上は、ヒト…と呼べるのでしょう)」


 俺、ただの植物じゃなくて、ヒトだった。

 何だろう、少しだけ嬉しいような。

 なんて、喜んでいるような状況じゃないのは分かってるけどさ。


(あと、俺って本当にシンジュなんですか?ステータスを見てみたら、あんまり魔力が高くないように感じたいんですけど)

「(おや。自分のステータスを見ることが出来るんですか?まさか)」


 気になっていたことを聞こうと思ったら、村長さんが目を丸くした。

 また地雷を踏んでしまったのだろう。

 やっぱり、情報というのは重要だ。

 一体何が常識で、常識ではないのかが分からないと、交渉のしようもない。

 俺の異常性が露見するのは、最早完全に諦めた方が良さそうだ。

 その上で、村長さんから聞けるだけの情報を集めてしまおう。

 村長さんのくれる情報の精査は後回しだ。


(村長さんも、俺のステータスを見たんでしょう?)

「(はい。この「真実の鏡」を使用しました。他にも幾つか存在するとは聞いていますが、形態こそ違えど、魔術具を使用すること以外でステータスを見ることは不可能なはずです)」


 村長さんは、首に下げている小ぶりの鏡を指し示す。

 そう言えば、俺に触れる手と反対の手で鏡に触れていた様な…。

 俺の観察眼の弱さよ。


「(まぁ、貴方自身も理由が分かっていない様子ですし、深くは聞かないでおきましょう。あまりつついて、嫌われたくは無いですからね)」

(そうして下さるとありがたいです…)

「(それでは、話を戻しましょう。貴方の魔力は現在20。これだけあれば、十分村の結界を保つことが出来ます)」

(20は多い方、ということですか?それとも、一日経てば回復するから、全然間に合う数字、ということですか?)

「(貴方の魔力総量は、基本的にはまったく関係がありません)」

(え?)


 突然話をぶった切るような回答が返ってきた。

 意味が分からないと目を白黒させる俺に、村長は微笑む。


「(我々森のエルフ(フォレルフ)は、他のエルフと異なっていて、あらゆる魔素と感応することが出来ますが、その代わりに何か媒介となるものに一旦魔力を通さないと、上手く扱えないのです。様々な魔素が体内で喧嘩をしてしまうと説明すれば良いのでしょうか。それは、特に力の強い者に多く現れる特徴でして、私の血筋は、シンジュ様を介さないと、魔術を扱うことすら出来ないのです)」


 ん、何となく見えて来たぞ。

 つまり、俺は媒介、ということか。


「(その上、ただの植物では上手く魔素を通してくれません。ですので、魔素を受け容れられるだけの器を持った植物が必要になります。それが、シンジュ様、という訳です)」

(俺の身体に魔素を通してからでないと、魔術を行使出来ないだけであって、使用する魔素は、森のエルフ(フォレルフ)が持つ魔素だ、ということですね?)

「(流石に理解が早くていらっしゃる。その通りです)」


 俺に触れないと魔術が使えない、というのは正解だけど、それは別に俺が特別な存在だから、というよりは、魔素の伝導率が高いから、という感じのようだ。

 それでも特別、という表現になるかもしれないが、俺でないといけない、という理由にはならないから、少しは納得出来るというものだ。


(それで、貴方たちが俺に求めるのは、村の結界を張る為の媒介になること、ですよね?)

「(ええ)」

(それで俺にデメリットはないんですか?ミーシャちゃ…さんは、今のシンジュ様は、力を借り続けて来たせいで限界を迎えている、といった説明をしていました。俺も、同じように寿命を縮めるというか…そういったことはないんですか?)

「(まったくない、とは申し上げられません。本来自分の身体に存在しない魔素を一時的とは言え受け容れる訳ですから、何度もそれを繰り返していれば、それは身体にとって負担となるでしょう)」


 デメリットの話は、きっと本当のことだろう。

 ここで嘘をつくのなら、単純に今のシンジュは寿命だ、とでも説明すれば良いだけの話だから。

 それはありがたいけど…また難しい話になって来たぞ。


 話を聞く限り、今のシンジュは何年も…それこそ、百年くらい結界を張り続けていたようだし、俺の人間的な感覚から言えば、それくらい生きられれば十分とも言える。

 だけど、本来であればもっと長く生きられるところを削っているのかと思うと、微妙な気分になる。

 それはあくまでも自分の感覚の話だから、無視すれば良いと言えばそうかもしれない話なんだが。

 別に今日明日死ぬという話でなければ、人助けだと思って受ければ良い。

 分かっているが…素直に頷けるような話でもないな。


「(とは言え、貴方にはステータスが存在する。魔素に対する親和性を高めていくことが可能なはずです。そうすれば、もっと限界は伸びるでしょう)」

(…それは良い話を聞きました)


 要するに、スキルとかそういうものを取って、抵抗力を付ければ寿命の話は心配ない、ということだ。

 それはかなり良い話だ。

 絶対ではないかもしれないが、希望が出てくる。


 で、これで寿命については問題がなくなる。

 すると、もっと気になることが出てくる。


 俺は、意識的にはまだ人間だ。

 結界を張る為だけに、この村に留まり続ける。

 それは果たして、人間としての死と、何か違うだろうか。

 時が止まったかのような生活を、向こう数百年続けるのかと思うと、気が狂いそうになってしまう。

 たった一日程度一人でいただけで限界だったのだ。

 村の人を見守りつつ、俺から力を借りる人だけと会話をする。

 そんな人生、哀し過ぎるじゃないか。

 俺は残念ながら、そこまで悟ったりしていない。


「(我が子も協力致しますから、明日から、魔素への親和性を高める訓練を致しましょう。その結果如何では、結界への協力をお願い出来ますか?)」

(そうですね。言った通り、出来ることであれば)


 断るという選択は、俺の中には存在しない。

 何しろ、このままでは逃げることも出来ないのだ。

 例え足が生えていたところで、逃げるという選択をするかと言われると分からないが、選ぶことがそもそも出来ない、という状況が辛過ぎる。

 まずは、もっと村長さんたちから話を聞いて、選択肢を増やすに限る。

 折角俺には図鑑があるんだ。

 とにかく知識を増やして、お飾りの木から脱却しよう。

 そうでないと、きっと何も始まらない。


 俺はそう決意すると、村長さんに促されて、眠りにつくことにした。

 木にも疲れとかあるらしい。

 朝起きたら燃やされてた、なんて状況になっていることはなさそうだけど…一刻も早い選択肢の追加が求められるな。


 うん、頑張るぞ。

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