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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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28.バトルフラグ?そんなものは無かった(断言)

「と、いう訳でドラゴンと怪しい二人組と怪しい二人組が、三つ巴で戦ってたんだけど、どうしたら良いと思う?」


 危険地帯目前から、一旦退避して、元の分かれ道に戻った俺。

 早速待機していたウルシとアルカに、状況を説明する。

 すると、案の定二人は、妙な顔をした。

 そりゃそうだ。

 俺だって、こんな話を急にされても、多分納得しないだろう。

 面白がるかもしれないけど。


「怪しい二人組が二度出て来ましたが、間違いではございませんか?」

「間違ってたら三つ巴って説明しないだろ。怪しいとしか言えないような二人組が二組いたんだよ」


 ウルシに疑われたよ、俺。

 怪しい二人組AとBって説明すれば良かったか?

 つっても、どっちがAでどっちがBだよって話になるしなぁ。


「どのような方々でしたか?」

「うーん。片方は、黒いフードっぽいの目深に被ってて、全然顔とか見えなかったから、どうって言われても分からん」

「もう一方は?」


 見覚えがある、と言おうとして止まる。

 そうだ。

 あのすげー見覚えがある二人組は、先日城で遭遇した、魔王だとか言う人と、その友人…知人?の二人組だ。

 確か、ジルと、クライハルト。


 それを言えば一発で分かるんだが、アルカの前で言って良いのか?

 アイツらは、何だかんだ言って地位のある奴らだろう。

 なら、俺みたいな一般庶民(仮)がその二人を知ってるってアリなのだろうか。

 うーん、考えても分からんな。

 適当に説明しとくか。


「何かすげード派手な紫色の髪の目立つ男と、すげー暗い陰気そうな男の二人組みたいに見えたな」

「まさか…ジル殿とクライハルト殿か!」


 ハッとしたように声を上げるアルカ。

 やっぱ知り合いだったか。

 これは、下手に名前を出さなくて正解だったみたいだな。

 あと、髪の毛の色と雰囲気言っただけで分かるって、アイツらキャラ濃過ぎじゃないか?ヤバくね?


「知り合いか?アル」

「そうだ。先日しろ…ではない、とある場所に自身で所有なさっている芸術品を多数展示した、変わり者の収集家と、その主だ」

「へぇ…」


 魔王って説明が出ないな。

 知らないのか?

 いや、あの魔王は、自らの立場を隠してるような様子でもなかった。

 単に伝えそびれていたのだろうか。

 つっても、相手は王子だぞ?そんなことあるか?

 うーむ。


「芸術品を展示ってことは、偉い人なのか?」


 ちょっと攻めてみる。

 まぁ、多少疑われたところでどうにでもなるだろう。

 何しろ、相手は子供だし。

 俺もだけど!


「ああ。ジル殿は元々、とある国を治めていたと聞いている。今はその位を弟に譲り、世界中を放浪しているとのことだったか」


 …元?

 新しい情報が出て来てしまった。

 別に、ユリアナたんの手の甲にキスなんぞした男の情報は、これ以上欲しい訳ではまったくもってないんだが。

 とりあえず、アルカはジルが魔王だって知らないらしい。

 でも、その役職が元だってことは知ってるらしい。

 どういうことだよ。

 どうでも良いけど。


「ふーむ。アルはそのジルとクライハルトって人達は、何しに此処に来たのか分かるか?」

「いや…残念ながら、何も。簡単に挨拶をしただけだからな」


 それで良く印象に残ったものだ。

 まぁ、あんだけド派手な紫色の髪の毛してたら覚えるか。

 クライハルトの方も、ホラーに出て来そうな程陰鬱(いんうつ)だからなぁ。

 ある意味、すげー組み合わせだ。


「そうか。まぁ、仕方ないな。それよりもアル」

「何だ?」

「お前、そのエンシェントルビーの見た目は知ってるか?」

「図鑑で見ただけだが、記憶している」

「なら、一旦一緒に来てくれ。絶対声は出すなよ?」

「?分かった」


 壁には気を付けろとか、色々注意をしながら、俺は一度アルカとウルシを伴ってあの地獄前まで向かって、すぐに引き返す。

 もう一回見たら、もっと酷い状況になってた。

 何だ、あの大洪水とか、その中で発生してる雷とか。

 誰の魔術だ。

 つーか、レベル高過ぎ。


「はぁ…はぁ…な、何だあれは…?」

「怪獣大戦争」

「ご主人様。あれはカイジュウ?というものではなく、ドラゴンでは?」

「分かってるよ。雰囲気で言ってんの」


 だって、怪獣大戦争としか言えないだろ。

 妖怪っつーには、ちょっと雰囲気違うし。


「し、しかし、エンシェントルビーは見つけたな。確かに、あの額にある宝石が、エンシェントルビーに違いないだろう」

「絶対か?骨折り損は嫌だぞ」


 思わず念押ししてしまう。

 いやさ、あの中に行って、無駄でしたーなんて言われてみろよ。

 泣くぞ。


「見間違うものか。絶対だ!」

「しかし、アル様。恐れながら申し上げますが…」

「何だ?」

「気になることがあるなら、何でも言ってくれウルシ」


 今は、不敬だとか一切言わないから。

 命かかってるし。

 多分、アルカも何も言わないだろ。

 言ったら流石の俺もおゲンコだ。


「はい。それでは、失礼致します。…遠目ではございましたが、あちらの壁の色はリーユー炭鉱のものとは異なっておりましたし、繋がっていた穴も、どこか崩れたかのような特徴がございました。あちらは、何らかの衝撃によって繋がってしまった、リーユー炭鉱とは、まったく別の洞窟なのではないでしょうか?」


「……」

「……」


 OH、想定外。


 ウルシの投じた一石は、俺の心に大きな波紋を生み出した。

 これ…あの地獄に飛びこまなくても良いんじゃね?

 波紋っつか、逆か。

 心の中の荒れ狂った波を、一瞬で鎮めてくれた感じだ。


「だ、だがあれは…」

「確かに、あのドラゴンの額にあるものも、エンシェントルビーなのかもしれません。ですが、危険を冒してそれを確認するよりも、先に別の道を探して、本当に他に存在しないのか確認する方が、堅実なのではないかと、愚考致します」


 仮にそれで、あの二人組二組にあのドラゴンの額の宝石を回収されたところで、正直痛くもかゆくもないもんな。

 だって、このまま突撃してみろよ。

 普通に殺されるぞ、俺達。


 それを考えれば、遠回りでも何でも、危険の少ない方に行くのが正しいだろう。

 残念。俺は主人公気質じゃないから、知り合いが戦ってるからって言って、助けには入らないぞ。

 大丈夫だ、アイツらなら。まったく強さとか知らないが。


「…分かった。お前の言う通りにしよう。その代わり!早く確認しに行くぞ!」


 ゆっくりと頷いたアルカは、勢い良く立ち上がってあちらの穴とは、別の曲がり道へと向かった。

 俺とウルシも頷き合って、すぐにそちらの方向へ向かう。

 いずれにせよ、早いところ確認して来ないとならない。

 実際、エリアが変わっただけで、あの地獄がリーユー炭鉱の一部だ、という可能性も、否定し切れた訳ではないのだから。


**********


「…何かデカブツ死んでるな」

「そうですね」

「そうだな…」


 それから、体感時間で30分ほど後。

 思ったより早く、恐らくリーユー炭鉱の最深部と思われる場所に到着した。

 最早曲がり道は存在せず、さっきの地獄空間ほどではないが、だだっ広い空間が広がっている。


 その中央には、やはりさっきのドラゴンほどではないが、巨大な異形のモノが血を流して横たえられていた。

 ドラゴンというよりは、角とか生えてて羽とか生えてて、悪魔みたいな見た目をしている。

 でも手足は太くて、恐らくは四足歩行なのだろう、と推察出来る。

 悪魔というには、動物に近いのか。


 更に観察を続けると、角は折られ、爪ははがされ、尾は切り取られ…みたいな、グロテスクな惨状になっていることに気付いた。

 アルカは、男の子だからか子供だからか、全然気にしていないようだ。

 興味深そうに眺めている。

 な、なんという残酷な。

 …まぁ、俺も何とも思わないけど。


「このような醜悪なモノの身体など削り取って、何の意味があるのでしょうね?」


 不思議そうにペタペタと死骸に触れるウルシ。

 気持ち悪くないのだろうか。

 流石、異世界民は違うな。

 俺の勤めてた高校の女子なんて、普段は全然女らしくしてない癖に、虫とか出たら大騒ぎだったが。

 しかも、小さくて死にかけの奴相手に。


「素材にでもするんじゃないか?」

「素材?」

「そうそう。剣とか盾に加工する為の材料にするんじゃないのかなーって」

「こんなモノをですか?」


 あれ、もしかしてこの発想って、ゲームならではなんだろうか?

 でも現実だって、昔は亀の甲羅を盾にしたりとか、そういうのあったよな。

 別に必ずしも木とか鉄とか使う訳じゃないよな。


「このようなモノが武器になるのか…凄いな…」

「理解不能です」


 何か二人共納得して、更には感心しているようだ。

 …頼むから、持ち帰りたいとか言うなよ。

 何かすげー臭いから、一部でもカバンに入れて行くのはお断りしたいし。


「それよか、もし此処が本当に最深部なら、エンシェントルビーがあるかもしれない。早く探してみよう」

「ああ」

「かしこまりました」


 二人が、慎重に辺りを探し始めると、俺は改めて死骸に目をやる。

 まさかとは思うが…コレがリーユー炭鉱に巣食うなんちゃらじゃないよな?

 もしそうなら、もう死んでるんですけど。

 情報収集どころじゃない状況なんですけど。


「…どうすっかなぁ」


 思わず呟く。

 証拠として、どこかの部位を切り取って来るのは(やぶさ)かではない。

 臭くなさそうな場所を持っていけば良いからな。

 でも、何処を持っていけば良いのかが分からない。

 こういうのは、これは…ゴブリンの耳!みたいな感じで、特徴がハッキリ分かるモノを持って行かないと、証明にならないだろうから。

 困ったもんだ。

 仕方ないから、角の根元の方が残ってるし、そこを削って行くか。


 あとは何処か…ああ。

 何かが硬質化して、模様みたいになってる場所を持って行くか。

 これなら臭くなさそうだ。


 それらをカバンに丁重に詰め込むと、二人から声がかかった。

 幸いにも、それらしい物を見つけた様子だ。


「ブラック、見ろ!間違いない、エンシェントルビーだ!」

「うお…ありがたみねぇ…」


 ズン!と寺にある木魚レベルでデカい塊が、そこには鎮座していた。

 いや、流石にこれは持って帰れないだろ。

 ちょっとドン引きしていると、ウルシがその隣を指した。


「小ぶりな物もございます。こちらがよろしいのでは?」

「そうだな…必要量も分からないし、こっちを持って帰るか」


 こっちは、家庭用の木魚くらいのサイズだ。

 これならカバンに入る。

 さっきの死体の一部と一緒に入れることになるのは申し訳ないが、これはもう仕方ないだろう。

 俺は、塊をゆっくりとカバンに入れる。

 触れたら爆発するとか溶けるとか、そんなギミックも何もなく、普通にカバンに収まった。

 マジでありがたみねぇな。


「よっしゃ、じゃあ帰ろうか」

「ああ!今帰るぞ、シエロ!」

「あの争いはよろしいのですか?」


 ウルシが軽く首を傾げる。

 おいおい、冗談言うなよ。

 もう、とりあえず目的は達成したんだ。

 俺は嫌だぞ、あんなものに関わるのは。


「当然だ。サクッと帰るぞ、サクッと!」


 俺達には、これから地獄が待っているのだ。

 ばあやの説教という名の地獄がな…。


 恐ろしさに震えながらも、俺は必死に歩いて、行きよりもずっと早い時間で炭鉱を抜けた。

 驚く程何も障害はないままに。

 更に言えば、そこからノンストップで街に戻って、門のところで外から王子が来たってんで、大騒動になったが、俺とウルシは何食わぬ顔で他人の振りをして抜けて来たから、お咎めなしだ。

 あ、勿論エンシェントルビーは、街に入る直前にアルカに渡しておいたぞ。


 そして俺とウルシは、屋敷に無事に帰りついて…ばあやに叱られるって言う。


「一日何の連絡もなく外泊とは…ユリアナ様!ばあやは、ユリアナ様をそのように教育した覚えはございませんよ!!」


 でも、めちゃくちゃ謝り倒して、何とか外出の許可だけは継続して受けられることになった。

 俺は冷や汗を拭うと、自室に戻って、カバンに入っていた二つの素材と……エンシェントルビーを取り出して机の上に置く。


 いやー、あれだけ苦労したんだから、やっぱ駄賃くらいは貰わないとな。

 え?王子にも渡したんじゃないかって?

 勿論。

 誰が一個しか持って帰って来なかったって言ったよ?

 こんな怪しげな宝石があったら、調べてみないと失礼だろ。


 でも、そんな諸々は全部明日だ。

 俺はもう疲れたよ、パトラッ…自重。

 そして俺は、ベッドに横になると、眠りに落ちて行くのだった。

クロ「帰って来たー!」

ウル「何とか生きてますね」

クロ「これでひと段落だー」

ウル「許して頂く代わりに、大量に課題が出ましたがね」

クロ「……」

ウル「……」

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