28.バトルフラグ?そんなものは無かった(断言)
「と、いう訳でドラゴンと怪しい二人組と怪しい二人組が、三つ巴で戦ってたんだけど、どうしたら良いと思う?」
危険地帯目前から、一旦退避して、元の分かれ道に戻った俺。
早速待機していたウルシとアルカに、状況を説明する。
すると、案の定二人は、妙な顔をした。
そりゃそうだ。
俺だって、こんな話を急にされても、多分納得しないだろう。
面白がるかもしれないけど。
「怪しい二人組が二度出て来ましたが、間違いではございませんか?」
「間違ってたら三つ巴って説明しないだろ。怪しいとしか言えないような二人組が二組いたんだよ」
ウルシに疑われたよ、俺。
怪しい二人組AとBって説明すれば良かったか?
つっても、どっちがAでどっちがBだよって話になるしなぁ。
「どのような方々でしたか?」
「うーん。片方は、黒いフードっぽいの目深に被ってて、全然顔とか見えなかったから、どうって言われても分からん」
「もう一方は?」
見覚えがある、と言おうとして止まる。
そうだ。
あのすげー見覚えがある二人組は、先日城で遭遇した、魔王だとか言う人と、その友人…知人?の二人組だ。
確か、ジルと、クライハルト。
それを言えば一発で分かるんだが、アルカの前で言って良いのか?
アイツらは、何だかんだ言って地位のある奴らだろう。
なら、俺みたいな一般庶民(仮)がその二人を知ってるってアリなのだろうか。
うーん、考えても分からんな。
適当に説明しとくか。
「何かすげード派手な紫色の髪の目立つ男と、すげー暗い陰気そうな男の二人組みたいに見えたな」
「まさか…ジル殿とクライハルト殿か!」
ハッとしたように声を上げるアルカ。
やっぱ知り合いだったか。
これは、下手に名前を出さなくて正解だったみたいだな。
あと、髪の毛の色と雰囲気言っただけで分かるって、アイツらキャラ濃過ぎじゃないか?ヤバくね?
「知り合いか?アル」
「そうだ。先日しろ…ではない、とある場所に自身で所有なさっている芸術品を多数展示した、変わり者の収集家と、その主だ」
「へぇ…」
魔王って説明が出ないな。
知らないのか?
いや、あの魔王は、自らの立場を隠してるような様子でもなかった。
単に伝えそびれていたのだろうか。
つっても、相手は王子だぞ?そんなことあるか?
うーむ。
「芸術品を展示ってことは、偉い人なのか?」
ちょっと攻めてみる。
まぁ、多少疑われたところでどうにでもなるだろう。
何しろ、相手は子供だし。
俺もだけど!
「ああ。ジル殿は元々、とある国を治めていたと聞いている。今はその位を弟に譲り、世界中を放浪しているとのことだったか」
…元?
新しい情報が出て来てしまった。
別に、ユリアナたんの手の甲にキスなんぞした男の情報は、これ以上欲しい訳ではまったくもってないんだが。
とりあえず、アルカはジルが魔王だって知らないらしい。
でも、その役職が元だってことは知ってるらしい。
どういうことだよ。
どうでも良いけど。
「ふーむ。アルはそのジルとクライハルトって人達は、何しに此処に来たのか分かるか?」
「いや…残念ながら、何も。簡単に挨拶をしただけだからな」
それで良く印象に残ったものだ。
まぁ、あんだけド派手な紫色の髪の毛してたら覚えるか。
クライハルトの方も、ホラーに出て来そうな程陰鬱だからなぁ。
ある意味、すげー組み合わせだ。
「そうか。まぁ、仕方ないな。それよりもアル」
「何だ?」
「お前、そのエンシェントルビーの見た目は知ってるか?」
「図鑑で見ただけだが、記憶している」
「なら、一旦一緒に来てくれ。絶対声は出すなよ?」
「?分かった」
壁には気を付けろとか、色々注意をしながら、俺は一度アルカとウルシを伴ってあの地獄前まで向かって、すぐに引き返す。
もう一回見たら、もっと酷い状況になってた。
何だ、あの大洪水とか、その中で発生してる雷とか。
誰の魔術だ。
つーか、レベル高過ぎ。
「はぁ…はぁ…な、何だあれは…?」
「怪獣大戦争」
「ご主人様。あれはカイジュウ?というものではなく、ドラゴンでは?」
「分かってるよ。雰囲気で言ってんの」
だって、怪獣大戦争としか言えないだろ。
妖怪っつーには、ちょっと雰囲気違うし。
「し、しかし、エンシェントルビーは見つけたな。確かに、あの額にある宝石が、エンシェントルビーに違いないだろう」
「絶対か?骨折り損は嫌だぞ」
思わず念押ししてしまう。
いやさ、あの中に行って、無駄でしたーなんて言われてみろよ。
泣くぞ。
「見間違うものか。絶対だ!」
「しかし、アル様。恐れながら申し上げますが…」
「何だ?」
「気になることがあるなら、何でも言ってくれウルシ」
今は、不敬だとか一切言わないから。
命かかってるし。
多分、アルカも何も言わないだろ。
言ったら流石の俺もおゲンコだ。
「はい。それでは、失礼致します。…遠目ではございましたが、あちらの壁の色はリーユー炭鉱のものとは異なっておりましたし、繋がっていた穴も、どこか崩れたかのような特徴がございました。あちらは、何らかの衝撃によって繋がってしまった、リーユー炭鉱とは、まったく別の洞窟なのではないでしょうか?」
「……」
「……」
OH、想定外。
ウルシの投じた一石は、俺の心に大きな波紋を生み出した。
これ…あの地獄に飛びこまなくても良いんじゃね?
波紋っつか、逆か。
心の中の荒れ狂った波を、一瞬で鎮めてくれた感じだ。
「だ、だがあれは…」
「確かに、あのドラゴンの額にあるものも、エンシェントルビーなのかもしれません。ですが、危険を冒してそれを確認するよりも、先に別の道を探して、本当に他に存在しないのか確認する方が、堅実なのではないかと、愚考致します」
仮にそれで、あの二人組二組にあのドラゴンの額の宝石を回収されたところで、正直痛くもかゆくもないもんな。
だって、このまま突撃してみろよ。
普通に殺されるぞ、俺達。
それを考えれば、遠回りでも何でも、危険の少ない方に行くのが正しいだろう。
残念。俺は主人公気質じゃないから、知り合いが戦ってるからって言って、助けには入らないぞ。
大丈夫だ、アイツらなら。まったく強さとか知らないが。
「…分かった。お前の言う通りにしよう。その代わり!早く確認しに行くぞ!」
ゆっくりと頷いたアルカは、勢い良く立ち上がってあちらの穴とは、別の曲がり道へと向かった。
俺とウルシも頷き合って、すぐにそちらの方向へ向かう。
いずれにせよ、早いところ確認して来ないとならない。
実際、エリアが変わっただけで、あの地獄がリーユー炭鉱の一部だ、という可能性も、否定し切れた訳ではないのだから。
**********
「…何かデカブツ死んでるな」
「そうですね」
「そうだな…」
それから、体感時間で30分ほど後。
思ったより早く、恐らくリーユー炭鉱の最深部と思われる場所に到着した。
最早曲がり道は存在せず、さっきの地獄空間ほどではないが、だだっ広い空間が広がっている。
その中央には、やはりさっきのドラゴンほどではないが、巨大な異形のモノが血を流して横たえられていた。
ドラゴンというよりは、角とか生えてて羽とか生えてて、悪魔みたいな見た目をしている。
でも手足は太くて、恐らくは四足歩行なのだろう、と推察出来る。
悪魔というには、動物に近いのか。
更に観察を続けると、角は折られ、爪ははがされ、尾は切り取られ…みたいな、グロテスクな惨状になっていることに気付いた。
アルカは、男の子だからか子供だからか、全然気にしていないようだ。
興味深そうに眺めている。
な、なんという残酷な。
…まぁ、俺も何とも思わないけど。
「このような醜悪なモノの身体など削り取って、何の意味があるのでしょうね?」
不思議そうにペタペタと死骸に触れるウルシ。
気持ち悪くないのだろうか。
流石、異世界民は違うな。
俺の勤めてた高校の女子なんて、普段は全然女らしくしてない癖に、虫とか出たら大騒ぎだったが。
しかも、小さくて死にかけの奴相手に。
「素材にでもするんじゃないか?」
「素材?」
「そうそう。剣とか盾に加工する為の材料にするんじゃないのかなーって」
「こんなモノをですか?」
あれ、もしかしてこの発想って、ゲームならではなんだろうか?
でも現実だって、昔は亀の甲羅を盾にしたりとか、そういうのあったよな。
別に必ずしも木とか鉄とか使う訳じゃないよな。
「このようなモノが武器になるのか…凄いな…」
「理解不能です」
何か二人共納得して、更には感心しているようだ。
…頼むから、持ち帰りたいとか言うなよ。
何かすげー臭いから、一部でもカバンに入れて行くのはお断りしたいし。
「それよか、もし此処が本当に最深部なら、エンシェントルビーがあるかもしれない。早く探してみよう」
「ああ」
「かしこまりました」
二人が、慎重に辺りを探し始めると、俺は改めて死骸に目をやる。
まさかとは思うが…コレがリーユー炭鉱に巣食うなんちゃらじゃないよな?
もしそうなら、もう死んでるんですけど。
情報収集どころじゃない状況なんですけど。
「…どうすっかなぁ」
思わず呟く。
証拠として、どこかの部位を切り取って来るのは吝かではない。
臭くなさそうな場所を持っていけば良いからな。
でも、何処を持っていけば良いのかが分からない。
こういうのは、これは…ゴブリンの耳!みたいな感じで、特徴がハッキリ分かるモノを持って行かないと、証明にならないだろうから。
困ったもんだ。
仕方ないから、角の根元の方が残ってるし、そこを削って行くか。
あとは何処か…ああ。
何かが硬質化して、模様みたいになってる場所を持って行くか。
これなら臭くなさそうだ。
それらをカバンに丁重に詰め込むと、二人から声がかかった。
幸いにも、それらしい物を見つけた様子だ。
「ブラック、見ろ!間違いない、エンシェントルビーだ!」
「うお…ありがたみねぇ…」
ズン!と寺にある木魚レベルでデカい塊が、そこには鎮座していた。
いや、流石にこれは持って帰れないだろ。
ちょっとドン引きしていると、ウルシがその隣を指した。
「小ぶりな物もございます。こちらがよろしいのでは?」
「そうだな…必要量も分からないし、こっちを持って帰るか」
こっちは、家庭用の木魚くらいのサイズだ。
これならカバンに入る。
さっきの死体の一部と一緒に入れることになるのは申し訳ないが、これはもう仕方ないだろう。
俺は、塊をゆっくりとカバンに入れる。
触れたら爆発するとか溶けるとか、そんなギミックも何もなく、普通にカバンに収まった。
マジでありがたみねぇな。
「よっしゃ、じゃあ帰ろうか」
「ああ!今帰るぞ、シエロ!」
「あの争いはよろしいのですか?」
ウルシが軽く首を傾げる。
おいおい、冗談言うなよ。
もう、とりあえず目的は達成したんだ。
俺は嫌だぞ、あんなものに関わるのは。
「当然だ。サクッと帰るぞ、サクッと!」
俺達には、これから地獄が待っているのだ。
ばあやの説教という名の地獄がな…。
恐ろしさに震えながらも、俺は必死に歩いて、行きよりもずっと早い時間で炭鉱を抜けた。
驚く程何も障害はないままに。
更に言えば、そこからノンストップで街に戻って、門のところで外から王子が来たってんで、大騒動になったが、俺とウルシは何食わぬ顔で他人の振りをして抜けて来たから、お咎めなしだ。
あ、勿論エンシェントルビーは、街に入る直前にアルカに渡しておいたぞ。
そして俺とウルシは、屋敷に無事に帰りついて…ばあやに叱られるって言う。
「一日何の連絡もなく外泊とは…ユリアナ様!ばあやは、ユリアナ様をそのように教育した覚えはございませんよ!!」
でも、めちゃくちゃ謝り倒して、何とか外出の許可だけは継続して受けられることになった。
俺は冷や汗を拭うと、自室に戻って、カバンに入っていた二つの素材と……エンシェントルビーを取り出して机の上に置く。
いやー、あれだけ苦労したんだから、やっぱ駄賃くらいは貰わないとな。
え?王子にも渡したんじゃないかって?
勿論。
誰が一個しか持って帰って来なかったって言ったよ?
こんな怪しげな宝石があったら、調べてみないと失礼だろ。
でも、そんな諸々は全部明日だ。
俺はもう疲れたよ、パトラッ…自重。
そして俺は、ベッドに横になると、眠りに落ちて行くのだった。
クロ「帰って来たー!」
ウル「何とか生きてますね」
クロ「これでひと段落だー」
ウル「許して頂く代わりに、大量に課題が出ましたがね」
クロ「……」
ウル「……」