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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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27.炭鉱とバトルフラグ

 カツンカツンと、薄暗い炭鉱に三人分の足音が響く。

 反響する音は幾重にもなり、果たしてそれが、自分の出す音かすら分からなくなるようにも思えた。

 RPGで言えば、序盤に出てくるような一本道の、単純な炭鉱ではない。

 ぶっちゃけ、朝目が覚めた時、諦めて一旦戻れば良かったと、後悔すらしてる。

 百歩譲って、俺は入ったところで、二人は連れて来るべきじゃなかったかなーとは思う。

 考えるのが好きじゃない俺が、そう思うほどに道が入り組みまくっているのだ。

 RPGみたく数歩歩けばモンスターに当たる、とか、罠を踏んだら死ぬ、みたいなことは、今のところないのが幸いとしか言えない。


 現実は道が入り組んでるだけで、こんなにも神経が擦り減らされるのだから、事実は小説よりも奇なりとは、良く言ったものだと思う。

 ん?それは違うと思う?

 いーんだよ、ニュアンスだよ、ニュアンス。

 言葉は生き物だから、感じた通りに言えば良いの。


 一応マッピングしながら歩いてるが、行き止まりに当たったり、大きく曲がって元の道に戻ってきたりと、なかなか難解だ。

 アルカの持って来てた地図も、残念ながら内部構造については一切記されていなかったから、自力でやるしかないんだけどな。

 つーか、連絡しないで一日経ってるのが怖い。

 少なくとも、アルカについては無事に送り届けないと死ぬ。

 あらゆる意味で死ぬ。


「ん、大丈夫そうだな。よーし、曲がるぞ」

「ところでブラック。お前、先程から一体何を確認しているのだ?」


 曲がり道に至ると、俺は一々足を止めて、各方向から何か気配はしないか、怪しいものはないかと確認して、それから二人を伴って進んでいた。

 それがどうにも、アルカには疑問だったようだ。

 今のところ何も起きてないから、そりゃ不思議にも思うよな。


「モンスターとか罠とか、危ないものはないか確認してるんだよ」

「何故だ?ここは既に放棄されているとは言え、人の手によって掘り進められた炭鉱だぞ。危ないものがある訳ないだろう?」


 これは果たして、アルカの常識なのか、この世界の常識なのか。

 微妙に難しい話ではあるが、前者としておこう。

 いやー、俺も本当に日和ったもんだ。

 十代の頃はなぁ、盗んだバイクで走り出せるレベルだったっつーのに。

 今や石橋は叩いて渡る。

 あー、つまらんつまらん。


「転ばぬ先の杖は重要だぞ。やってなかったって後悔するより、やんなくても平気だったなっつってホッとする方が嬉しいだろ」

「そういうものか?」

「そういうもんだ。なぁ、ウルシ?」

「ご主人様は、もう少し杖の数を増やすべきかと存じます」


 もう、ウルシの辛口は愛情表現だと思って受け容れることにするよ。

 ウルシは可愛いから、万事オーケーなのだ。

 可愛いは正義。


「つーか、アルは何で一人でここに来ようと思ったんだ?」

「それは…」


 今の今まで、何となく聞かないでいたことを尋ねてみた。

 あんまりにも無言の時間と、カツカツ音を聞く時間が長過ぎて、飽きて来たせいでもある。

 一応メインは、城内で起きた出来事を知っておきたいっつー理由な。

 不真面目なだけじゃないぞ。


「兵士…じゃない。周囲の大人たちが、弟のことは任せろと言っておきながら、一向に行動しようとしなかったからだ」


 行動しようとしない、ねぇ。

 これもしかして、俺達を試す為の依頼と関係ないか?

 リーユー炭鉱に巣食う者の討伐依頼。

 もしそれの正体が、ニスナン王国の兵士たちですら討伐を躊躇うようなデカブツだったとすれば、冒険者たちでも討伐は厳しいのかもしれない。

 そうすると、俺達は体よくそれの討伐、或いは情報収集役を押しつけられた…更に言えば、捨て駒的な役割を期待されてる可能性がある。

 ちょ、マジで勘弁してくれよ。


「ウルシ」

「そうですね…。判断に迷いますが、あの方がご主人様のことを御存知ないのであれば、ご主人様はポッと出のただの冒険者。所属するギルドも、最早風前の灯火ですし、失敗したところで、大きな痛手は受けない…と考えられるのが自然かと存じますので、捨石に使われている可能性はかなり高いと考えます」

「うへぇ…」


 普通に考えて、男爵が俺の正体を看破しているとは考えにくい。

 幾ら冒険者として名前を馳せた男爵でも、ここまで完璧な変身をする人を、知っているとは思えない。

 こう見えても俺は、つーかばあやは、この変身能力が、本当に他にバレる可能性はないのかと、厳密な調査を重ねている。

 その上で、こうしてポンポン気軽に変身していることからも分かる通り、まず間違いなくバレないだろう、という結論を得ているのだ。

 例え伝説的な冒険者相手でも、バレない自信がある。


 因みにその根拠だが、まず一つは超変身(メタモルフォーゼ)という魔術自体が、何処にも存在していないこと。

 何名かの魔術師にこのような魔術はないかと、名前は伝えずに尋ねてみたところどの魔術師も揃って、存在しない、不可能である、との回答を出した。

 魔術によって、身体の構造から変えることは、出来ないのだ。


 二つ目は、魔術の効果を打ち消す魔術を受けても、効果が消えなかったこと。

 一旦、ばあやが変身している状態の俺に、その魔術をかけてみたけど、何も起こらず、相変わらずそこにはユリアナ様が立っていた。

 更に、ばあや以上の使い手を呼んで、目的は適当に誤魔化してかけてもらったけれど、やはり変化はなかった。


 つまり、バレるとすれば、魔術によって解除されるから、ではなく、俺の言動とか、行動とか、振舞いとかで結びつけて、あれ?何か似てない?おかしくない?と思って、俺をストーキングするとか、そういう原始的な手段によるもの、という可能性が最も高い。

 ということは、まずバレない。

 確信があるぞ、俺は。


「やっぱそうだよなぁ…捨石かぁ…」


 話を戻すと、俺がユリアナ、或るいはユリアナが俺、と男爵が気付いていないとすれば、俺は貴族令嬢でも何でもなくて、普通の冒険者、という認識になる。

 しかも、何の経歴もなく、信頼性に欠けるが、代わりに失う物も少ない。

 そんな丁度良い存在が、脅威になるのかもしれないモンスターが現れた時に、偶然やってきたら。

 そんなの、押しつけるに決まってる。

 誰しも、自分の手駒を喪うくらいなら、どこの者とも知れない駒を使うだろう。


 それを責める気はない。

 俺だってそうするだろうし。

 でも、だったら最初から言って欲しかった。

 そしたら、こんな無茶は流石にしなかったっつーのに。

 溜息出るわー。


「来ちまったもんは仕方ねぇ。完璧に仕事済ましてサッサと帰るぞ」

「御意にございます」

「おい。先程から何の話をしている?」


 訝しげに俺を見上げて来るアルカ。

 こいつの目的物である、エンシェントルビーとやらも入手して来ないとならないんだし、結構骨が折れそうだ。

 俺は苦笑しながら頭を撫でてやった。


「気にすんな。大人にゃ、やんなきゃならん時があるっつー話だよ」

「ご主人様もまだ子供でらっしゃいますが」

「雰囲気で流しとけ!」

「?ブラックは15、6だろう?大人ではないのか?」


 中学生くらいってイメージの姿だったが、そうか。

 アルカから見たら、15、6なのか。

 それもう高校生じゃね?

 どっちでも良いけど。


「大人の階段上る真っ最中ってところさ」

「そうなのか…そのような階段があるのか」


 感心したように頷いてるが、アルカよ。

 そんな階段ないんで、帰ってから変な事言うんじゃないぞ!

 お兄さんとの約束だ!


「!ご主人様、お気を付けを…」


 小声で、しかし鋭い声で、ウルシが注意を促す。

 確かに、急激に周囲の温度が上がってきている。

 こりゃどうしたもんだ。

 随分地下に来たもんで、溶岩にでも近付いたとかか?

 そんなまさか。

 まだ一回も階段なんて下りてないぞ?


「あ、暑いな…何が起きてるんだ?」

「アル。ウルシとこの岩の陰に隠れて待機な。俺が見て来る」

「分かった」

「お気を付けて」


 そこでウルシは普通に待ってるって言うね。

 まぁ、わたしが行きます!って言われても困るが。

 何か危険なものがあった時に、逃げやすいのは俺だし。


 チラリと、熱気が増している方向に視線をやる。

 枝分かれしている道の片方の方が、特に暑い。つーか、熱い。

 俺はグッと身体を屈めて、万が一誰か居た際に、気付かれないように気を付けながらその道の先へ進んで行く。


「熱っ!」


 壁に手を当てて進んでいると、思わず岩の熱さで悲鳴を上げてしまった。

 危ない危ない。

 進めば進むほど温度が上がっているようで、視界もユラユラとして来た。

 茹でイケメンが出来あがるぞ、このままだと。

 俺は、茹であがりかけた頭で、とりあえず手を守ろうと、厚手の手袋をした姿に変身する。

 いやー、超変身(メタモルフォーゼ)先生マジ万能。

 服を着替えるだけも出来るとかさ。


 ついでに、魔術で塩水を生成して飲む。

 熱中症にはなりたくないからな。

 ミネラルも重要だぞ!


 それから、俺は道の先に切れ目があることに気付いた。

 道が終わって、どこかの空洞に繋がっているようだ。

 この道を抜けた先に空間が広がっている、と言えばそうだが、この位置からだと床も見えない。

 恐らくは、地下空間の空洞に繋がっていて、その空間から見れば天井付近に出るような感じになるのだろう。

 これは、気を付けないと、意味分かんないシーンでデッドエンドだ。

 俺は、ジリジリと道の終わりに近付いて行く。


「…よし、着いた」


 小さく呟くと、俺は一拍置いてから、そっと空間を覗き込んだ。

 そして、そこで広がっていた怪獣映画みたいなシーンに、思わず目を丸くする。


「おいおい…嘘だろ…」


 そこには、東京ドーム何個分、で表現される程広い空間が広がっていた。

 鍾乳石みたいなのが、ぼんやりと輝いていて、非常に幻想的だ。

 何も起こっていなければ、デートにピッタリのロマンチックスポットである。


 ただ、そのだだっ広い美しい空間の半分には、これまた巨体のドラゴンが陣取っていて、所構わず炎のブレスをブッ放していて、その度に美しい鍾乳石があまりにも強い火力によって、炭と化していく。

 本当は炭じゃないのか?良く分からんが、真っ黒でボロボロになる。


 その斜め横には、小さくて見づらいが、怪しい黒いローブっつうのか?を、目深に被った人間が二人いて、その向かいには、何か妙に見覚えのある二人組がいる。

 どうやら、彼らは三つ巴で争っているようで、まさに怪獣大戦争みたいな光景が広がるに至っていた。


 あんな中に紛れこんだら、マジで死ぬ。

 予想外に訪れた二度目の人生。

 そこまで命は惜しくも無いが、意味もなく散ると分かってるところに突っ込んで行くほど、流石に俺も馬鹿ではない。


 さて、どうしたものかと考えていたら、こっちの方にドラゴンのブレスが飛んで来た。

 こんなもんに巻き込まれて、戦いに参加する前に死亡とか、それも最悪だ。

 俺は慌てて飛びのいたが、結果として、それは不必要だった。

 途切れている道の、丁度境目に透明の壁でもあるかのように、炎は弾かれて消えて行くのだ。

 良く考えてみれば、あれだけの激しい戦いを繰り広げていて尚、振動や破壊音が一切聞こえて来ないのは妙である。

 恐らく、あの中の誰かが、結界を張って戦っているのだろう。


 そりゃそうだ。

 結界の一つや二つ張らないで戦えば、恐らく全員振動でお陀仏だ。

 何しろ、ここは外ではなくて、炭鉱の中だ。

 天井が落ちて来て生き埋めになるリスクが高過ぎる。

 つーか死ぬわ。

 あー、でもドラゴンは死なないのかな?堅そうだし。


 というか、結界張ってて尚漏れてくる熱気でこれだけ熱いってことは、この中は一体どんなことになってるんだ。

 阿鼻叫喚、地獄絵図だな、きっと。

 くわばらくわばら。

 多分、あの中のどれかが依頼にあった討伐対象だろうから、ここから情報収集だけは頑張ってやって、それからこの道は避けて、別の道を行くか。

 討伐対象、あの中だとどれが一番マシなんだろうなぁ。


 そう思った時、ふと俺の視界にキラリと光るものがあった。

 炎や、攻撃によって起こる煙の合間で、一瞬だけ見えたそれ。

 もう一度目をこらす。


 すると、ドラゴンの額に、温かい光を放つ、赤い宝石が埋め込まれているのを見つけた。見つけてしまった。


「…おい。まさか、エンシェントルビーってあれじゃねぇよな…?」


 バトルか?

 本格的なバトルなのか?

 血が騒ぐより先に、防衛本能が騒ぐわ!

 あの中はムリ!


 嫌な予感からか、それとも戦いの熱気からか。

 俺の頬を、つぅと一筋の汗が流れるのを、俺は感じていた。

クロ「マジ帰りたい」


アル「遅いな、あの男」

ウル「茹でイケメンになりそうとか、馬鹿なことを考えてらっしゃって遅いのでしょう。どうせ」

アル「お前主に対してヒドイな…」

ウル「お褒めに預かり光栄です」

アル「ほ、褒めてはないぞ…?」

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