25.ウルシの誇りって、俺をディスることじゃないよな?
さてさて。
これからやらなければならないことが山積みになっている。
迷惑なことこの上ないが、やらなければならない。
…なんて、シリアスっぽく考えるのがもうダルいわー。
マジダルいわー。
ちょっとギャル風に言ってみた。
けど、ウルシに睨まれるからもうやめようか。
じゃあ、本格的にもう一回まとめてみよう。
俺達がやるべきことは、主に三つ。
一つ、採集。
とある村の村人たちの多くが、謎の発熱。
原因は不明で、何が必要なのかの提示もないが、考えられるだけすべての薬草を採集すること。
二つ、狩り。
サンオトウ?とかいう珍味の捕獲すること。
デッドオアアライブ。
三つ、討伐。
リーユー炭鉱に住まう、謎の敵対生物を討伐すること。
事前に正体について情報提供を行ってから討伐に赴く必要あり。
…………。
うおお、面倒臭ぇぇ。
如何にもザ・ファンタジー!って感じで、響きは格好良いが、全部同時に受けることになるとは思わなかった。
勿論、冒険者ギルドとして軌道に乗せて行くことを考えれば、いずれは子供たちだけで依頼に臨むことだってあるだろうし、同時にこのレベルの依頼を受注することもあるだろう。
でも今は、完全に人手が足りていない。
子供たちは回収してるから、正確に言えば人自体はいるのだが、まー教育が行き届いてない訳だ。
そりゃ仕方ないってもんだが…なぁ?
出来るんなら避けたかったところである。
ムリだったと思うけど。
まぁ、そんでとりあえず三日間は情報収集に徹することにした。
採集はヴェルデとルイズ。
二人に違う方向から攻めて行って貰う。
そうすれば、補完さえすれば結構な情報量になってくれると踏んでいる。
頼むぞー。
狩りは、カシコが聞き覚えがある生物だってことだったもんで、彼女に頼むことにした。
ついでに、手持無沙汰っぽかったおっさんを護衛につけた。
可愛いカシコが誘拐されたりでもしたら大変だからな。
おっさんさえいりゃ、多分大丈夫だ。
おっさんは見た目だけでも十分用心棒としての役割を果たせるからな。多分。
で、最後。
討伐に関しては、俺が事前の調査をすることに決めた。
みんなには、計画を立てとく、と言うに留まったが、実際は正体を確かめるところまでは俺がやるべきだろう、と考えていた。
何故なら、敵が物凄く有り得ないレベルで強かった場合、逃げられるのは俺しかいないだろうと思ったからだ。
子供達は、ウルシやヴェルデを含めて、まだ敵地に乗り込んで情報収集出来るレベルには達していないだろうし、ルイズは良く分かんないけど、結構目立つと思うんだよな。
そんで、リューゾは…何か見つかった時、うっかり立ち向かっていきそうだろ。
情報収集には向かないと思うんだよな。
おっさんの強さは知らないけど、結構依頼受けてるってことは、それなりの実力を持ってるってことだろ?
だと、反対に報告前に退治しちゃう可能性もあるんだよなぁ。
それはそれで勘弁してもらいたい。
つまりだ。
結論として、情報収集を行いつつ、可能な限り戦闘を避けて、成果を報告出来る人員っつーのが、もう消去法で俺しかいないって訳だ。
最悪過ぎるだろ。
どこの世の中に、自ら率先して動く貴族がいるんだよ。
いや、ここにいるし、物語の中の王子とかって、結構アグレッシブに、自分から動いてるか…。
「それで、ご主人様。これから如何なさいますか?」
早速書庫に行って調べて来る、と言ったヴェルデと別れて、俺は一旦街中のベンチに腰かける。
やや斜め後ろに立っているウルシは、他の人には会話が漏れない程度の小声で、そう問いかけて来た。
ウルシには、俺のサポートをしてもらおうと思って他の指示を出さなかったが、直接炭鉱だっけ?に行くには、置いて行った方が良いかもしれない。
なら、ここで俺についていてもらうのは勿体ない。
でもなぁ…ウルシ、ヴェルデと同じ仕事を回されるのは嫌いだし、カシコと一緒にされるのも嫌がるんだよな…。
てか、元浮浪児な子供達全員嫌いっつーか、苦手っぽい。
そこに回すのは可哀想だな。
「俺さぁ、とりあえず討伐に関してどうするか考えるっつってたけど、この三日以内に、情報収集と報告だけ終わらせちまいたいなぁって思うんだよ」
「かしこまりました。それでは、そのように準備を致しましょう」
「え!?」
考えていることを言っただけなのに、何ですんなり頷くんだよ、ウルシ!
早速動き出そうとするウルシを慌てて止める。
「ちょ、待った待った!何で躊躇いなく準備始めようとするんだよ!?」
「わたしは、ご主人様の使用人ですから」
「いやいや、危険かもしれないんだぞ?止めるとか嫌がるとかないのか?」
あっさりと言ってのけるウルシに、俺は思わず困惑する。
前世じゃ、女生徒と会話することだって職業柄多くあったが、こんな子は全然いなかったから、対処に困る。
そりゃ、俺の職業高校教師だから、ここまで小さい子と会話する機会なんてないようなもんだったけどさ。
そう言うのじゃなくて、ウルシは変わってるって言うか、不思議って言うか。
うーむ、表現が良く分からんなぁ。
「わたしは、ご主人様の使用人ですから」
同じ言葉を繰り返すウルシ。
その目は至って真剣だ。
「ご主人様は、変な人です」
「え!?」
ここでディスる!?
やっぱウルシ良く分かんねぇよ!
「ご主人様は、良く変だと言われるわたしなどを買った、変な人です」
だってさぁ…磨けば光るタイプだって思ったし。
やべ、動悸が不純過ぎるわ、俺。
おっと、でも人間正直に生きるべきだろ?
ウルシ助かる。俺満足。
ほら、オーケーだ。
「後から、このように買われた娘が、こうして使用人としての教育を受けることが出来るのは、稀であると耳にしました。ご主人様は、変な人です」
「変変言い過ぎだろ、ウルシ!?」
優しいとかさ、器が大きいとかさ、他に無い訳?
…自分で言うとうすら寒いな。
もう良いよ、変な人で。
「常識的でないご主人様です。わたしでは量れないご主人様です。主を危険に晒してはいけないのが使用人の常識であっても、ご主人様はその常識にはまり切らないお方なので、わたしは止めないのです。それが、わたしの考える、ご主人様に相応しい使用人でございます」
ウルシ…色々と考えてたんだな。
つーか、ウルシからも量れないって思われていたとは。
俺、マジでそんな変な人か?
自分ではこっちに来てから、割と常識的に動いてたつもりだったんだけど。
「そして、ご主人様が望んで危険に飛び込まれるのでしたら、わたしは何も言わずにご用意し、お手伝いし、共についていきます。誰もが躊躇っても、わたしだけは決して、躊躇せず、共に危険に飛び込んでみせましょう。それが、わたしの誇りなのです…」
静かに、けれど強く宣言された言葉。
それは、俺の胸にジーンと響いた。
何だかんだと振り回したり、振り回されたりしてる気はあったけど、こうして直接ウルシの気持ちを聞くのは初めてだったな。
俺に買われたこと、後悔はしてないみたいだ。
これは嬉しい。
自分から率先して仕えてくれる気があったとは。
結構ディスられるから、俺のこと嫌いなのかと思ってたよ。
「…分かったよ、ウルシ」
ここまで思ってくれていて、今回の作戦に置いて行くなんて、あって良いだろうか?いや、ない!ここぞと言う時の反語だ!
俺は深く頷いて、立ち上がるとウルシに向かって手を差し出した。
「ウルシがそこまで言うんなら、探鉱調査、一緒に行こう!大丈夫だ、俺達なら必ずやれるさ!」
「あ、それはお一人でお行きください。準備はさせて頂きますので」
「…………ええええええ!???ここで断る!?」
…駄目だ。
俺にはウルシがまったく理解出来ない。
今、そういう話じゃなかったの?
ウルシ、あっさり首を横に振ってるけど。
「…それよりも、わたしは他に調べてみたいことがございます」
「俺の同道より重要なことがあるのか?」
「はい」
厭味っぽく言ってみたらアッサリ返されるという。
虚しすぎるだろー。
でも、俺は器の大きいご主人様だから見逃そう。
ウルシは可愛いしな。
「この三つの依頼が、我々に回って来た理由です」
「俺達を試すってだけじゃなくて、他にか?」
「はい。何かしらかの意図があるのではないかと、わたしは疑っております」
「確かにな…」
男爵が俺達にこの話をした時は、何かを気負ってるような様子はなかったし、とても楽しそうだった。
俺達を単純にからかってるだけにも見えたが、それだけじゃない可能性も、確かに疑っておいても良いかもしれない。
ただ愚鈍に言われたことだけを遂行していれば、痛い目を見るような…。
そんな可能性だってあるのだ。
特に、あれだけの会話でも、ちょくちょく俺を試すような言葉運びをするあの男爵の人間性が引っかかる。
裏に何もないなんて、あり得るのか?
いやー、そう思わせといて何もないとかー…。
「…考えるの面倒臭ぇ。調べてみりゃ分かるだろ。じゃあ、ウルシはそっちに当たるつもりってことか?」
「はい。お許しくださいますよね?」
「何で断られない前提なんだよ」
「キャーご主人様格好良い素敵ー」
「棒読み乙」
無表情で棒読みとか。
流石は俺のウルシだ。
寧ろあの男爵より、ウルシのがよっぽど偉そうだわ。
だが、男爵にはない可愛さが、うちのウルシにはある。
勝ったな。
「一番最悪なのは、捨て駒にされるパターンか。入念に調査しないとな」
「わたしが動くのですから、ご主人様も是非面倒臭がらずに、きちんと調査を行ってくださいませ」
「どんだけ上から目線なんだよ」
子供特有のあれなのか、ウルシの性格なのか。
まったく、将来が楽しみだ。
俺はMじゃないけど。
「それでは、本日は如何なさいますか?調査に赴くにしては、少々時間が足りないようにも思いますが」
「そうだな…。まずは一旦家に戻って、地図を確認するか…」
「それでしたらお供致します」
「安全そうなところにだけ付いて来る使用人」
良いんだけど、全然。
何なら最悪俺は逃げられるから、先に逃げて貰った方が安心なんだけど。
複雑な気持ちになるのは何故だ。
さっきの発言のせいか。
「お待ちください!」
「どこに行かれたのですか!?」
溜息混じりに歩き出そうとした時、ふと周囲が騒がしいことに気付く。
数人の兵隊たちが、誰かを探しまわっている。
…は?
「そこを行く少年少女!このくらいの身長の…高貴な服を着た上品な坊ちゃんを見かけはしなかっただろうか?」
その内の一人に、急に声をかけられる。
どんな説明だ。
えーと、俺の肩より少し下くらいの身長…ウルシと同じくらいか。
そんな子供どころか、そもそも子供自体見ていない。
「いいえ。見ていません」
「そうか。もし見かけたら教えてくれ!それでは!」
慌てて別の場所を探しに行く兵士。
…これ、おかしいだろ。
兵士が慌てて探す人って言えば、要人だ。
一人の兵士だったら、家族とか知人って可能性もあるけど。
あとは、反対に悪人ってパターンもあるけど、悪人だったらもっと敵意溢れる感じで探しているはず。
そうでないとすると、まず間違いなく要人。
それで、坊っちゃんと来ると…。
「…なぁ、ウルシ」
「はい、ご主人様」
「もしかして、王子行方不明なのかな」
「わたしはそう受け取りましたけれども」
…終わった。
俺が関わる必要性はないのかもしれないが、ゲームの過去編のイベントが前倒しになる可能性とか、色々考えると、感情的に関わりに行きたいところだ。
聞いてしまった以上、見捨てておけない。
勿論、善意では無くミーハー心だ。
おい、王子ってどっちだ!?
それによって結構変わるんだけど!
「よし、ウルシ。計画変更だ。今日の残り時間は王子探索に当てよう」
「よろしいのですか?」
「ああ。困っている人を見捨ててはおけないだろ?」
「本音は?」
「面白そう」
「結構でございます。わたしもお付き合い致しましょう」
王子の行きそうなところくらい、俺のゲーム知識が火を吹けば一瞬で分かる。
気がする。
と、いう訳で、暇つぶし…ではないな、気分転換か。に、王子を探しに行くことが決まったぞ!
全然展開が別方向だって?
良いじゃないか。
人生、楽しい方が良いしな!
ウル「ご主人様にとってより良いと思われる行動をとってまいります。決して、でぃするのが好きとか、そのようなことはございません。ご主人様は素晴らしいお方ですので」
クロ「はい。最後棒読みー」