20.子供たちをゲットだぜ!
渋々ながらかは分からないが、ヴェルデが俺に従ってくれることになった。
イエーイ、ひとまずの目標達成だぜ。
喜びつつ、俺はヴェルデに子供たちを出来る限り全員連れてギルドに来るよう、初めての指示を出す。
嫌がるかと思いきや、ヴェルデはきびきびと子供たちを誘導し始めた。
他の子供たちも、ヴェルデが決めたのならってな様子で、あっさりと誘導に応じて、高校の避難訓練よりもずっとスムーズに移動することに成功した。
思ってたよりもずっとヴェルデの言うことを聞く子供の数が多かったから、一気に移動すると周囲をザワつかせちまうから、何陣かに分けて移動したが、特に混乱が起きることもなかった。
まったく、呆れるレベルで高いリーダーシップを発揮してくれた。
この年齢で、既にこんだけ有能なら、あのユリアナたんが側仕えにしてたのも頷けるってもんだ。
ユリアナたんはプライドも高ければ、本人のレベルも高いから、ちょっとやそっとの人物じゃ、側仕えになれないからな。多分。
勧誘した手前、全部投げっぱなしってのも悪いなー、と思って、俺はギルドへのすべての誘導に付き添った。
ぞろぞろと、でも目立たない程度の行列を、俺は全員眺めた。
ようやく歩いているような小さな子から、中学生くらいの子まで、様々いる。
高校生以上は見当たらない辺り、そっちは派閥が違うのかもしれない。
うーん、ならそっちも回収しておきたいな。
高校生以上の浮浪者がいないとも思えないし。
そうじゃないと、これだけの浮浪児の数に納得がいかないっつーもんだ。
少し身体の大きな女の子の背には、まだ赤ちゃんなんじゃねーの?ってサイズの子までいた。
おいおい、あの子は流石に働けないだろ。
こりゃ確かに、慈善事業で全員助けよう!って発想にならねぇよな。
数が多過ぎる。
…ああ、いや、別にマンモス学校くらい数がいるって訳じゃないぞ。
数えてみれば、一学年くらいだ。
100いくかいかないか、くらい。
でも、この国の…この街の人口はまだ知らないが、結構な割合占めてないか?
うちの国は、そこまで荒れてないだろう、と見た目で思っていたが、案外厳しいのかもしれない。
だって、ヴェルデのグループだけでこの人数だぞ?
真面目に考えてみたらおっそろしいな。
発展途上国だ、発展途上国。
この辺りも、その内テコ入れしてかないとならんのかなー。
流石にそこまでは嫌だなー。
俺の手に余るし、貴族の仕事って言えばそうだけど、俺、令嬢だからな!
おう、任せろ。
俺は幾らでも責任から逃げて行くぞ。
殺される運命からだって、逃げてやるのだ。
「全員ギルドに入ったぞ。…デス」
「おう、お疲れー」
遠慮がちに俺に声をかけて来るヴェルデ。
ぎこちない敬語が萌えを刺激するな。
ほら、見ろよ全国の腐女子仲間共。
これがあの、爽やか正統派イケメンのショタ時代だぞ。
「何だ?…デスカ?」
ニヤニヤしていたら、不思議そうな顔で見られた。
なんかこの反応、新鮮だな。
新鮮って思ってること自体が悲しいが…。
とりあえず、誤魔化しておく。
「いんや。俺んトコ来てくれて、嬉しいなぁ、と思ってさ」
「そ、そうか。…じゃない、そうですか…」
そして、素直に受け入れてくれたことにも、また新鮮味を覚えた。
チラリと、思わずウルシに視線をやる。
すると、ウルシはこっそりどころか、堂々と鼻で笑うところだった。
「…敬語下手過ぎですね。ハッ」
「っ、煩いぞ!オレだって練習すれば話せる」
「わたしは最初から話せました」
ウルシの、史上最高のドヤ顔、頂きましたー。
めっちゃ腹黒そうな顔なんだけど。
最高だな、俺のウルシは。
素直に、ムッと眉を顰めるヴェルデを見てたら、何でか泣けて来たぜ…。
「あー、ハイハイ。そこまでにしとけ、ウルシ」
「本当にご主人様は空気を読まない天才でいらっしゃいますね」
「めっちゃ読んで割って入ったんだけどな!」
「…アンタ…。…じゃない、ごしゅじんさま!」
何だか、ジーンと嬉しそうというか、感動してるみたいな顔をするヴェルデなんだが、えーっと、その反応はどう解釈したら良い?
俺が、庇ってもくれない最悪な人間だとでも思ってて見直した?
そんなことないぞ!
俺ほど優しいご主人様はそうはいないと思うぞ。
「後で文句なら幾らでも聞くから。とりあえず、これで全員なんだろ?中に入って話を済ませようぜ。じゃないと、ばあやに殺されちまう」
「それはいけません。早急に話を終わらせましょう」
「…オマエ、何でそんなコロッと態度変わるんだ…?」
うん。
それは、ばあやを知ってるからだな。
ばあやを知る人は、彼女を怒らせたらマジヤバイってことが分かってるはずだ。
常識常識。
「じゃ、入るぞ。ただいまぁー!」
「おう、ブラック!何だ、この騒ぎは??」
「……」
扉を開いた瞬間に、むさくるしいおっさんの顔のドアップを見た気がした。
でも、多分気のせいだ。
俺、今扉なんて開けてない。
今のは白昼夢か何かだろう。
「何で閉めたんだよ!?」
「夢じゃなかった」
「?何の話してやがる」
俺が、単におっさんの顔はドアップでは見たくなかったって話だよ。
「聞こえてるぞ!このガキが…」
「あっ。思わずツルッと本音が…悪い悪い。嫌いではないからさ」
「ったく、仕方ねぇなぁ…」
溜息一つで許してくれるリューゾのおっさんは最高だ。
ほら、ウルシも見習うんだぞ。
むさくるしくはならなくて良いけどな。
「ちょっとー!何でこんなに急に子供たちが入って来るのよー!?」
ルイズが悲鳴を上げている。
彼女の姿が珍しいのか、子供たちが群がっているのだ。
あー、あれは触るよ。
つるつるー!とか、嬉しそうに笑ってる子供たち、癒しだな。
ルイズはまぁ、くすぐったそうにしてはいるが…頑張れ。
「えー、これから簡単に説明するから、みんな集合してくれー」
俺の言葉に、子供たちは素直にー…言うことを聞くはずも無く。
好き勝手にわいわい騒いでいる。
この野郎。
これから先の雇い主…いや、プロデューサー様だぞ。
「みんな!ちゃんとごしゅじんさまの言うことに従うんだ!」
めっ!て感じでヴェルデが指示を出すと、子供たちは一瞬で集合した。
おいおい…どんだけ俺、カリスマ性ないのさ。
いや、この場合はヴェルデにめっちゃ求心力があるってことか。
ここでしょげても意味ねーし、良い掘り出し物拾ったって思っておこう。
そうだよ、考えてみりゃ、俺が動く必要ないんだから良くね?
よし、そういうことにしておこう。
「ごしゅじんさま。みんな集合したぜ…デス!」
「おお、ありがとう」
「…暑苦しい」
俺の横で、ウルシがポツリと呟くが、決して今のやり取りについての感想ではないぞ。
これは、子供たちが集合して、密度が上がったせいで、体感温度も上がったっつーあれだよ。
俺も暑いからな。分かる分かる。
「さーて。まずはどういうことか説明してもらおうか、ブラックよぉ」
「そうよ。急にこんなことになった私たちの身にもなってくれる!?」
心底参っているらしいルイズは、どこか責めるように言う。
リューゾのおっさんは、単純に状況を早く理解したいって感じだ。
うむうむ、そう焦るでないわ。
「ギルドの人数が圧倒的に足りねぇから、集めて来たんだわ。この子たち全員…とまでは流石に言えねぇけど、そこそこの人数が今日から協力してくれるぞ」
「はぁ!?本気で言ってんのか!?」
「あれからすぐに集めて来たって言うの?嘘ぉ…」
完全に偶々の要素が強いが、そんなことを言う気はない。
ぶっちゃけ、会いに行った先にいたのが、全然知らん浮浪児で、しかも俺にとって魅力的じゃなかったら、ここまで身を入れなかったかもしれないし。
結果オーライだよな!
「で、この子がこの集団のリーダー!名前はー…無いんだっけか」
「ああ…そう、デス」
ヴェルデの背を軽く叩いて紹介する。
そう言えば、まだ名前付けてなかったな。
「俺が付けても良いか?」
「え…?」
困惑気味に俺を見るヴェルデ。
え、何?
そんなに嬉しいのか?照れるぜー。
「じゃあ、この子の名前は今から「ヴェルデ」で!」
「えっ」
「えっ」
本人から文句が来ることは覚悟してたが…何でウルシまで不満そうなんだ。
結構分かりやすくブスッとしてるんだが…。
「ウルシ、何かあったか?」
「わたしの時は、アンコクショクとか、意味の分からない名前を推して来ていたのに…どうして彼だけ、そんなマトモな名前がすぐ出てくるんですか。贔屓ですか」
納得。
そう言えば俺、ウルシって名前付ける前に、その名前推してたっけな。
だって、ウルシの漆黒の瞳に合わせるのに、黒関連で思いつくのが、案外なかったんだもんよ。
仕方ないだろ。
「そのお陰で、ウルシっつー可愛い名前が付いたんだから、オッケーだろ」
「…可愛くないです…」
不満あったの!?
んー…でも、これ以上の名前はもう思いつかないしな。
「ウルシはウルシ。ヴェルデはヴェルデ。もう決定!反論は受け付けないんで!」
「あの!ヴェルデって、どういう意味だ?デス?」
ヴェルデが興奮気味に問いかけてくる。
名前に興味を持つのは良いことだよな。
普通なら親御さんに尋ねろよ、って言うところだが。
俺が名付け親になる訳だからな。
ウルシはともかくとして、ヴェルデは製作者が付けた名前だけど。
「古い言葉で、緑。お前の髪の色から付けてみた」
「ミドリ…」
噛み締めるように繰り返すヴェルデ。
うんうん。
ウルシと違って素直で良いぞ。
ウルシは捻くれてるからなー。
最終的に、それで良いです、的なノリで決まったからなー。
「オレ…オレ、もっと頑張るから!」
「ん?うん、頼りにしてるぞー」
どうしてやる気が出た。
子供心は分からんな。
正確に言えば、もう二十数年は昔のことだからなー。
こっちに転生してからも加味すれば、俺結構な年じゃね?
これは、考えちゃいけないヤツだな。
「ああ…街中うろついてた、あのガキ共か!良く説得出来たなぁ」
「まぁ、実力ですよ。…つーか、こいつらのこと知ってたのか?」
「そりゃ、この街で暮らしてりゃ嫌でも顔を合わすっつーもんだ。特に、俺らは悪ガキ共懲らしめたりする仕事もあるかんな」
「ほー。なるほどな」
そりゃ、面識くらいあってもおかしくないよな。
広い街だとは言っても、互いに普通の街人って感じじゃないし。
一方的にであれ、知ってるものだろう。
「仕事くれんのなら、オレたちもう盗んだりしねーよ。だから、ヨロシク」
「おっ。話の分かる坊主じゃねーの。ブラック!良く見っけて来たなぁ」
おっさんは、何故か嬉しそうにヴェルデの頭を撫でた。
父性にでも目覚めたか。
おっさん、家族いなそうだもんなぁ…しみじみ。
「俺はリューゾってもんだ。このギルドを預かってる」
「私はルイズ。リューゾと一緒に、このギルドで働いているわ」
よろしく、と言って代表として握手を交わし合う三人。
ここは上手くいきそうだな。
かえって問題はウルシだろ。
頑張って上手くやってくれよー?
「じゃあ、今日のところは俺に時間がねーから、顔合わせのみだけど、俺が戻ってくるまでに、子供たちのことは頼む」
「おう。見込みのありそうなヤツに鍛錬付けてやりゃ良いんだっけか?」
「ああ。後、宣伝も頼むぞ」
「お姉さんに任せて!」
よしよし。
ギルドも、まだ汚い場所はあるが、部屋数は十分なはずだ。
全員、元々ベッドなんてない生活だっただろうし、毛布の一つでもあれば平気なはずだ。
安定して仕事が取れるようになるまで、そこは我慢してもらわないといけない。
「じゃあ、頼んだぞ二人共。で、ヴェルデは俺と一緒に来る」
「え?みんなと一緒じゃ…」
不審げに俺を見るヴェルデ。
話が違うってか?
何を言うか。
ちゃんとみんなと一緒にいられるようになるさ。
将来的には。
「俺は、お前のことは買ってるからな。ただ適当に寝かせとくつもりはないよ。俺の家の方で別の修行だ」
「え…」
「大丈夫だ。別に完璧に拘束するつもりはないから。幾らでも自由にって訳にはいかないけど、会いたい時には出来る限り会わせてやるよ」
「…分かった」
渋々ながらに頷くヴェルデ。
子供たちが、最初はごねたが、本人の説得で引く。
やっぱヴェルデ使えるな。
ばあやにしっかりと仕込んでもらおう。
そうすりゃ、思ってるより早く、ゲームのヴェルデみたいに育ってくれるはず。
「よーし、じゃあ大人しくしてろよー」
「…必ず戻ってくるからな!」
「……はぁぁ」
そこで何で溜息をつくんだウルシ!
色々と後回しだけど、万々歳じゃないのか?
「コイツと一緒なんて、最悪以外の何ものでもございません…」
あ、そんな嫌なんだ。
ちょっと俺も嫌な予感がしてきたよ。
この二人…上手くやれんのかな…?
クロ「大した説明もしてないのに納得して受け入れてくれる、リューゾのおっさんプライスレス」
ウル「今回の話のタイトルの、ご主人様の変態っぷり、プライスレス」
クロ「だから、ウルシ!頼むから俺の評価を下げるようなことばっかり言わないで(以下略)」