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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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19.これが本当の説得回。…かも?

「それでは、行って来ますわ」

「はい、ユリアナ様。お気を付けて、いってらっしゃいませ。…ウルシ。ユリアナ様のこと、頼みましたよ」

「お任せください」


 ばあやに挨拶すると、俺はすぐに、いつものハトに変身をする。

 ウルシを一度見てから、俺は羽ばたき始め、空に舞い上がる。

 ユリアナたんの格好じゃ、門番が出してくれないし、あまり同じ人の姿で出入りし過ぎて目を付けられるのも御免だから、ばあやが目こぼししてくれるようになってからも、俺は基本的にハトに変身して、門を抜けていた。

 そうじゃないと、門番に覚えられちゃうからな。

 ウルシはー…仕方ないだろ、うん。


 門の先、街に出たところで、ウルシと合流する。

 ウルシは基本的に歩いて移動するから、当然彼女に合わせて飛ぶ。

 つっても、今日ばかりは結構時間が限られてるから、少し急いでもらった。

 何だかんだ情報聞いてる内に、半日くらい過ぎてるからな。

 もう夕方だ。

 流石にまだ寝てないとは思うけど、大丈夫か?

 子供の就寝時間は早いとかない?


「ご主人様」


 人目につかないところで、また変身をする。

 俺がギルド関係の動きをする時に変身する、世を忍ぶ仮の姿、通称ブラックくんの姿だ。

 勿論、服装は庶民っぽい抑えめの黒ベースの服だ。

 日本ならコスプレっぽいと注目されて然るべきなデザインではあるが、この世界…っつーか国?では、普通な感じになっている。

 これで完璧、ごく普通の町人の少年だろ、俺。

 抜かりはないのだ。


「よし、行くか」

「はい。もう大分時間を消費してしまいましたから」


 コクリと深く頷くウルシ。

 うんうん、素直で協力的なのはありがたい。

 ここでなんやかんやと言い争いをしていたら始まらない。

 普段ならな、可愛いから良いんだけどさ。

 今ばかりはそうも言っていられない。


「ギルドには顔を出さずとも良いのですか?」

「んー…まぁ、話が終わってから急に行っても平気だろ。だって、あの開店休業っぷりだぞ。別に誰に迷惑をかける訳でもあるまいし」

「そうでしょうか」

「ああ。俺はアドバイザー様だしな。好きにやらせてもらうよ」

「……」


 何で顔を歪めるんだよ、ウルシ。

 めっちゃウゼェみたいな顔されると、ホント傷付くから、俺。

 傷付く詐欺じゃないから。マジだから。


 …なんて言ってる場合じゃない。

 俺は、スッと前を睨む。

 人の気配の殆どない、狭い小道。

 この先に、ヴェルデたちがいる。

 前はヴェルデだけだったけど、今日もそうとは限らないし、大丈夫だろうか。

 ほら、他の子とかいると、説得大変にならない?


 そんなこともないか?

 つっても、他の子供たちがどういう影響を及ぼして来るか分からない以上、正直いない方がありがたいか。

 交渉、説得なんて、相手の味方がいない内にササッとやるべきだ。

 押しが大事なのだよ、押しが。


 などと、営業経験もない公僕が言ってみる。

 ははは、実践あるのみだから。

 別に理由とか内容とか根拠なんてどーでも良いだろ。

 ノリと勘と勢いだよ!

 成功したもん勝ちだ。


「では、参りましょうか」

「おーい、ウルシ。何でお前が仕切ってるんだー?」

「気にしないでください。器の小さな方ですね、ご主人様は」

「俺のこと貶さないと会話出来ないの?」


 ちょっと涙目になりつつも、気負ってた分は軽くなってたから、内心で少しウルシには感謝しておく。

 俺でも緊張とかするんだなー。

 前世ではあんまり、そういうことなかったんだけど。

 やっぱこれから先に影響するって、目に見えて分かってるからだろうか。


 この世界が、ゲーム通りにどこまで動くかはまったく分からんが、見た限り、登場人物の性格とか来歴とか、ある程度…それも、相当のレベルで一致してるから、ストーリーも、ゲーム通りに辿る確率は高い訳だ。

 ということは、ゲームを殆どコンプしていた俺は、この世界の誰よりも、この国が辿る未来に詳しいっつーことになる。

 それがすべての可能性とは言えないにしても、複数個知ってるというのは強い。


 まぁ、金太郎飴なストーリーだったから、誰の話に分岐しても、ラスボスなんてものは変わらなかったし、俺がやってない最後の方の話で、大どんでん返しでもない限り、ほぼ一つの未来しか知らないとも言えるけどな。


「たぁーのもー!」

「…アンタ、本当に来たのか」


 至って軽いノリで掘立小屋の方に声をかけた。

 辺りを見回してみると、掘立小屋の前には、何故かヴェルデしかいなくて、そんで彼は木刀を振っていた。

 素振りの練習でもしていたのだろうか。

 でも、おかしいな。

 ヴェルデは、早朝の素振りを日課にしていたはず。

 こんな、人目に付く可能性が、万が一にでもあるようなタイミングで木刀を振ることなんて、あっただろうか。


「あれ、もしかして待っててくれたのか?」

「待ってなんかない」


 ブスッとした表情で目を逸らすヴェルデ。

 これは待っててくれたな。

 来ない可能性も、俺達がすげー悪いヤツだって可能性も考えて、敢えて一人で、こうして素振りをして待っていた。

 うーむ。

 可愛いヤツじゃ。


「ご主人様」

「ん?」

「目付きが厭らしいです」

「…」


 ちょ、気持ちに水差さないでくれるかな、ウルシちゃん!?

 厭らしいって…厭らしいって…!

 俺はショタコンではないし、ホモォでも断じてないぞ。本気で。


「えー、コホン。気を取り直して…俺の誘いに対して、腹は決まったかい?」

「……」


 チェケラ!みたいなノリで尋ねてみると、めちゃくちゃ真剣な視線が返って来たんだが、ちょっとどうしよう。

 まぁ、ヴェルデにとってみれば、これからの人生を左右するような、重要な事柄だからな。

 俺みたいに能天気にはいられないだろ。

 分かってる。

 分かってるから、ウルシ!冷たい目で見ないで!


「条件があるんだ」

「条件?俺に出来ることなら、大抵はやってやるけど」


 沈痛な面持ちでそう言うヴェルデ。

 気分如何によってはやらんがな。

 生真面目一直線なヴェルデのことだから、そう悪い条件は出て来ないと思うし、大丈夫だとは思うがな。


「…アンタは、オレたちにギルドに入ってほしいんだよな?」

「ああ、そう言ったな。勿論、給金は依頼の受注状況にもよると思うが、ちゃんと払ってやれると思うぞ」

()()()()()、入ってほしいんだよな?」


 やけにオレたち、を強調するな。

 俺の中の、自分たちの位置づけを量ってるってところか。

 ふむふむ。

 なら正直に教えてやっておくか。

 下手に隠し立てする気も起きないし。


「強いて言うんなら、俺は()()()入って欲しいよ」

「っ」


 ピクリと、小さく反応を見せるヴェルデ。

 どうやら、俺の返事のニュアンスを、正確に理解したらしい。

 おお…まだひと桁くらいの年齢だろうに、やっぱり頭良いな。

 俺が同じ年くらいの頃は、全然もっと馬鹿だったぞ。

 今も馬鹿だけどな!

 ははー。


「人手は欲しいし、めっちゃ困ってはいるけど、別にお前んところの子供たちである必要性はないんだよな」

「…何でオレに声をかけた」

「そりゃあ、人手を抑えるならまずはトップからって、ウルシ…この子が言ったからだな」

「ご主人様。責任転嫁なさらないでください」

「し、してねぇし!?」


 サラリと言われると、本当に俺が悪いような気になってくるから不思議だ。

 俺悪くないよ!


 そんなアホみたいな会話が目の前で繰り広げられてるっつーのに、ヴェルデは全然笑わない。

 そりゃそうか。

 何だかんだ言って、賢いヴェルデにはこれが絶好の機会だっつーのは理解出来てるだろうし、その機会ってのが、偶々俺がヴェルデを気に入ったことによって繋ぎとめられてるってことも分かってるだろう。

 なら今が、本当に今が、開けた未来か、停滞の未来か、その分かれ目にあるってことだって分かってるはずだ。

 そりゃー深刻にもなるだろう。


「ただ、分かってると思うけど、俺が返事を待ってやったのは、俺がお前のこと気に入ったからだ。お前がギルドに入らないっつーなら、わざわざ他の子供だけを受け容れる気もねーからな?」

「…何で、オレのこと気に入ったりなんかするんだ…?」


 不安そうに震えながら尋ねるヴェルデはヒロインにも負けないレベルで可愛い。

 ちょ、おま。

 いつから萌えキャラみたいになったんだ。

 それじゃ、乙女ゲームの攻略対象者じゃなくて、ギャルゲーの攻略対象者じゃねーかよ。

 ショタ枠じゃないんだから、格好良くしてろ。

 今はショタだけど…。


 つっても、ショタって単にあざと可愛い系もアリだけど、見た目はショタなのに行動がめっちゃ男前って方が、ギャップにキュンとするヒロインが可愛いと思うんだよな、俺。

 正直、変身して大人にならなくて良いと思うんだよ。

 成長した数年後のエピローグとかでデカくなってりゃさ、十分だろ。

 何で本当の姿は大人なんですって出て来なきゃいけないんだ。

 いいよ、ありのままの姿で恋してろよ。

 見た目だけで好きになるような軽い女じゃないんだよ、ヒロインちゃんは!


 ……ん?話逸れた?


 いやー、しまった。

 ついつい乙女ゲーム語りをしてしまったぜ。

 話について来れなかったヤツは、一回乙女ゲームやってみようか。

 買うなり借りるなりしてだな。

 あ、無料アプリで良いんじゃね?

 ヒロイン三人から一人選べる、9の付く変わった乙女ゲームが、スマホでも出来た気がする。

 因みに俺は、ツンデレお嬢様推しだ。


「ただの、気まぐれ…か?」


 あれ、何の話してたっけか。

 ヴェルデから複雑そうな表情で尋ねられて、ハッと現実に立ち返る。

 そうだそうだ。

 何で気に入ったのか聞かれてたな。


「いや、見た目が気に入ったんだ」

「見た目?」

「ああ!ウルシと二人で俺を挟んで左右に立った時、バランスが良さそうだろ?」


 理解出来なかったらしく、更に微妙そうな表情になってしまった。

 あれ、何でだ。

 この上なくシンプルで分かりやすい回答だったじゃないか。


「どの辺りがでしょう?」


 ウルシまでもが不機嫌そうに尋ねて来る。

 えっ、そんなにおかしかったか?

 俺は理解してもらえなかったことに対して不満に思いながら答える。


「女のウルシと男の彼。漆黒のウルシと新緑の彼。毒舌のウルシと純真の彼。…ほらさぁ、めっちゃピッタリじゃね?」


「意味が分かりません」

「意味分かんねーよ!」


 おっ、感想が被った。

 やっぱピッタリじゃね?

 え、そう思うの俺だけ?


「…とにかく!良く分かんないけど、アンタはオレを…気に入ってくれたワケだ」

「うん、そーだな。変に悩まないで、シンプルに考えてくれ」

「なら、条件も飲んでくれるよな?」

「そいつは聞いてみないと分からんけどな。ほい、言ってみろ」


 偉そうに仁王立ちで、小学生くらいの少年に命令する見た目中学生くらいの俺。

 傍からみたらイジメの現場っぽいな。

 ははは、ウケる。


「オレと…戦ってくれ」

「ん?」


 TATAKAU…たたかう……戦う?


 俺は、突拍子もない条件に目を瞬く。

 それが条件って…どういう意味だ?


「それが条件か?」

「本気で、絶対手を抜かないでくれ。正々堂々と一対一で」

「一応聞くけど、俺とお前が戦うって意味だよな?」

「そうだ」


 実直なヴェルデっぽいけど、他に幾らでも条件付けれたろうにと、俺は理解が出来ない。

 強いヤツになら従ってやる!なんて脳みそ筋肉な理由でこの条件をあげたとも思えないんだがなぁ。

 まぁ、本人がそう条件を付けて来たんだから、それで良いか。


「それくらいなら良いぞ。あー、でも勝敗はどうする?」

「アンタが勝ったら、オレはアンタに従う。で、負けたらオレは従わない」

「ほー。そいつはシンプルだ」


 非常に分かりやすい。

 丁度判定人になりそうな第三者もいるし。

 ウルシは第三者じゃないだろって声が聞こえてきそうだが、いやいや、第三者だから。

 この場で戦わないし。


「オッケー!了解だ。じゃあ、戦うか」

「?武器は構えないのか?」


 ヴェルデが木刀を構え直すのをのんびり眺める俺に、ヴェルデは不可解そうな顔で首を傾げる。


「俺、魔術のが得意だからさ。あ、魔法はアウトとかあるのか?」

「ない。手を抜くなって言っただろ」

「そいつぁー良かった!」


 俺はニッと笑って軽く手を構える。

 チート変身超変身(メタモルフォーゼ)以外の魔術は、一回も誰にも披露したことないけど、何気に相当筋が良いって褒められてる俺だぞ。

 勝ったな。


「じゃあ審判します。……はじめっ!」


 ウルシが適当に開始の合図を放つと同時に、ヴェルデが斬りかかって来る。

 なんつー反射速度だ。

 若いって良いよな。


 俺はのんびりとそんなことを思いながら、一つの魔術を完成させる。


「ー影法師マリオネット・シャドウ!」

「えっ」


 別に、一切の詠唱とか必要ないこの世界の魔術は、考えるだけでも発動する。

 コマンド形式のRPGみたいな感じだが、敢えて俺は術名を言う。

 その方が楽しいし、威力が上がる。…気がするからだ。


 俺が魔術を使うと、駆けて来たヴェルデの身体が、軋むような音を立てて静止してしまう。

 ヴェルデ自身は動こうとしているらしく、偶にゆらゆらと前後左右に揺れたりするが、それまでだ。


「何だこれ…」

「俺の魔術だよ。タネは説明してやらなーい」

「…動きを封じられんのか…」


 ズルイとか何とか言って来ないところが良いヤツだよな、ヴェルデって。

 因みにこの魔術は、名前は格好良いけど、別に対象者を操れるとか、そんなレベルの高いものじゃない。


 対象者の影を踏むと、相手の動きを止められる。

 それだけだ。


 でも発動すると、俺も動けなくなるから、結構難しいところだ。

 初級の魔術だし、別に魔術に長けてれば、多分一瞬でレジスト出来るだろう。

 つっても名前格好良いってだけで、使う価値はあると思うけどな。

 中二心が騒ぐぜ!


「さて。これで俺の言うこと聞いてくれるのか?」

「……」


 悔しげに俯いていたヴェルデは、やがてゆっくりと顔を上げる。

 そして、睨むように俺を見て、尋ねて来た。


「他のアイツらにも…ちゃんとした仕事はくれるんだな?」

「ああ。お前が俺んトコに来てくれるならな」

「…分かった」


 ヴェルデは、深く深く頭を下げる。


「…よろしく、お願いします……」


 うわー、めっちゃ悔しそう。

 何か俺、悪いことしてる気分になってくるわ。

 あんま良いこともしてないかもしんないけど。


「おー。これからよろしくな!」

「…ふん」


 あー、でも、ウルシはツン100%って感じだし、俺くらいは甘やかしてやらないと駄目かな。

 何にせよ、ヘスモンティー侯爵がどう動くか分からない中、俺のところに来てくれる決断してくれて助かったー!

 ただでさえ俺っつーイレギュラーが居るのに、更に訳分からん要素入ってきたら流石の俺も困っちゃうからな。


 よし、まだその辺への対応は決めてはないが、これで一安心だ。

 だから…とりあえず、ばあやに叱られる前に帰る為に、サクッとギルドに行って人員紹介とかちょっぱやでやって来るかな!うん!

クロ「俺、アプリゲーはあんまやらないんだよな。ソフトとか集める派」

ウル「何故でしょう。天から、ウルシはゲームなんてやらない派、と聞こえてきます…」

クリス「私は勿論、アプリゲーからソフトのあるものまで、幅広く嗜みます!あとあとっ、やっぱり同人ゲームとか…」

クロ「…クリスから、日本人の俺よりやべぇ腐臭がするぜ…。やっぱり、腐女子にはかなわないな」

ウル「そこでアンニュイな顔してるご主人様が気持ち悪い件」

クロ「俺の使用人が俺に対して異常に冷たい件ー!!」

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