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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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18.何か悪いフラグとか?いやいや、違うよな?

「少年と、その貴族…恐らくは、ヘスモンティ侯爵なのでしょうけど、彼らの関係について、これ以上私たちで考えていても仕方ありませんわ。ばあや、次に参りましょう」


 俺は、おつかいに行っているウルシが、お土産を持って来てくれてから、その話についてもう一度考えることにして、ばあやに続きを促す。

 ばあやから聞きたかった話は、もう一つある。

 あの、怪しい二人組についてだ。

 何だかんだ言って、俺に直接関わりが起きそうなのは、あっちだ。


「ジルと名乗る男性と、クライハルトと呼ばれる男性ですね」

「ええ。正直、名前と…昨日の展示品の提供者であろう、ということしか知りませんの。何でも構いませんから、情報がありましたら、教えてくださいませ」


 あの二人のやり取りが、すげー聞いたことある気がするんだよな。

 その辺りは、あんまり掘り起こしたくない記憶のような気がするから、スルーしてたけど、場合によっちゃ、あんまスルーしてらんないんだよな。

 あー、関係ないといーなー。


「何でも、ジル殿は魔人の国の王だそうですわ」


 シレッと放たれた核爆弾。

 俺は、その威力にしばし言葉を忘れた。


「…はい?」


 やっとのことで出て来た返事は、返事とも言えない音だった。

 ちょ、え?

 理解追いついてないんですけど。

 混乱する俺に構わず、ばあやは続ける。


「そして、クライハルト殿は魔人の国の貴族の方でいらして、趣味の芸術品集めが高じて、世界一の芸術品収集家…芸術王と呼ばれるようになったとのことですが、そんな彼のパトロンを買って出たのがジル殿だそうでして…」

「ちょ、ちょっと待ってくださる?」

「はい」


 今、急に一気に色んな要素ブッ込まれなかった?

 待て待て、おかしいだろ。

 まず、何だって?


「…ジルとか言う男が、何だと言いました?」

「魔人の国の王をなさっているらしいですわ」


 MAOHHHHー!!???


 おいおいおいおい、ちょっと待て!

 俺、久しぶりに脳内だけど、大声上げちまったぞ。

 魔人って何?

 しかも王って!

 それ、魔王じゃねーの?人類の敵とかじゃねーの?


「どうかなさいましたか?」


 怪訝そうなばあやの様子を見れば、少しは落ち着いて来る。

 つまり、ばあやが普通に説明出来るくらい、魔王って、俺が思ってる程、そうヤベー感じじゃないってことか。


 ふははは、人類共!我が支配下に下れ!とか。

 これより世界は我が手に落ちるのだ!とか。

 こんな世界滅ぼしてやる!とか。


 そんなアホみてーなことは言わないってことだよな。

 それなら、ただ単純に人種の一つみたいなもんってこった。

 よし、落ち着こう。


「コホン。いいえ、何でもありませんわ。気にしないで頂ける?」

「かしこまりました。まさか、他国の王がそのように城内を歩いているとは思わなかったのでしょう。お気持ち、お察し申し上げます」


 いや、違うけどな。

 確かに、普通に城内に入ろうとしたところで、王様に遭遇とか、どんなイジメだよ、と思わないでもないが。

 そんなことでショックを受けるような乙女心じゃないぞ。

 ま、俺見た目は乙女でも、乙女心なんて持ってないけどな。

 あはは。


「他国の王が、一体どのような経緯を経て、我が国へいらしたのかしら?」

「我らが王が、芸術王の噂を耳にし、是非ともその素晴らしいコレクションを見てみたい、と仰ったようです」


 ふむ。

 ジルとか言う魔王がパトロンなら、そっちに話が行ったってところか。

 まぁ自然っちゃ自然な流れだな。


「ただ、彼らは芸術品を収集し、世界中を回っているようでして、なかなか会うことも侭ならなかった、と伺っております。開催出来たのは、一重に我らが王の人徳の成せる業でしょう」


 どんなレアキャラだ!

 連絡付くんだか付かないんだか知らないが、どっちにしろ、世界中を巡ってる放蕩王なんて、どうやって捕まえりゃ良いんだよ。

 …すげーな。

 何よりも、王様いないのに国が成り立ってるのがすげーよ。

 流石は魔人の国。

 ハンパねぇ。


「それでは、相当に貴重な機会を与えて頂けたのですね」

「ええ。普通に過ごしていては、とてもではございませんが、目にする機会の巡って来ないような希少品も、数多く展示されていたと伺っておりますわ」


 全然記憶にないわー。

 ごめん、魔王と芸術王!

 大層な二つ名持ってる二人の提供品、女の子の魅力の前には無力だったわ。


「ユリアナ様」


 さて、そろそろ良い時間だ。

 怪しい二人組は、一応出自が判明して、ひと安心というところだし、ヴェルデの方に意識を回さないとならないな。

 そう思った時、丁度良くウルシが戻って来た。


「あら、戻ったのね」

「はい。お待たせ致しました」


 スッと頭を下げるウルシは、もう立派な側仕えだ。

 偶に俺に対して厳しい以外は。

 何なんだろう。

 俺がしっかりすれば良いのか?

 御免だけど。


「ご命令通り、街へ降りて、彼らが貴族様によって立ち退きを要請された当日と、それが止んだ最後の日のやり取りを回収して来てございます」

「良くやりましたわ、ウルシ!」


 俺は、内心で激しくガッツポーズをする。

 俺の作戦勝ちだな。

 一人勝ちになるかは、まだ分かんないけど。


「!ユリアナ様…これは、どういう意味でしょう?」


 事態を理解出来ないのか、それとも理解したからか、ばあやは渋い顔をする。

 そして、ゆっくりと俺に視線を向けた。

 うん、これ多分後者だよな。

 そりゃそうか。

 過去のやり取りを回収なんて、普通出来るはずがない。

 それをやったとなれば、手段は限られる。


「見ての通りです。魔術具「ヨミト~ルくんEX」を使用させましたわ」

「ま、まさか…」


 ウルシの手の中にあるのは、日本ではおなじみ、スタンダードな形のビデオカメラみたいな形をした魔術具だ。

 所謂魔法的効果を閉じ込めた道具で、ある程度魔素を持っていれば使用出来る、という優れ物だ。

 これを使用すると、目的の日時に、映した場所で何が起きていたのか、映像と音声で再現して、使用者に見せてくれるのだ。

 なんて素晴らしい性能。

 うちの倉庫という名の空き部屋に入ってたから、そんな素晴らしいものを眠らせておく訳にはいかないと、ありがたく使わせてもらった。

 めっちゃ高いらしい癖に、名前超ダセェけど、性能はピカイチだ。

 そこに一緒に取扱説明書まで置いてあったから、安心して使った。


「ユリアナ様。それは旦那様のコレクションにございます。勝手に使われるのは」

「分かっておりましてよ。ですけれど、私の緊急事態ですもの。お父様もお許しくださいますわ」

「ですが…」

「くどいですわよ、ばあや!壊れないのですし、仮に壊れたところで、コレも私に使われて壊れるのであれば本望というものでしょう」


 うちの親父は、魔術具コレクション癖があるらしい。

 らしいって言うのは、仕事で忙しいせいか、全然姿を見ないからだ。

 実際そうなのかは、まったく分からない。

 けど、気付くとガタクタ…じゃない、素晴らしい魔術具が増えているんだから、多分本当に好きなんだろうと思う。


 取り扱い説明書には、あまり多くの魔素を与えると限界を迎えるかも、とは書いてあったが、見たい時期の範囲から考えて、そこまで魔素を使うとも思えない。

 計算上では、まったく平気なはずだ。

 まぁぶっちゃけ、仮に一度使ったら壊れる仕様でも使ったけどな。


「はぁ…。そうですね。もう使ってしまったものは仕方がございません。今回は、目こぼし致しましょう。ただし、旦那様へ報告はさせて頂きますよ」

「構いませんわ」


 報告するんなら、目こぼししてないんじゃないの?って思った方。

 全然目こぼししてくれてるよ。

 ばあやが目こぼししてくれなかったら、今頃俺の内臓、ストレスで飛び出るレベルで説教食らってるから。

 あはは、ありがとうばあや。


「話はお済みですか?」

「ええ。ウルシ、お願い」

「かしこまりました」


 恭しく頷いたウルシは、中央のテーブルにカメラ…じゃない、「ヨミト~ルくんEX」を置いた。

 そして、本体にそっと手を触れる。

 次の瞬間、カチャリと鍵が開くような音がして、空中にあの掘立小屋周辺の映像がプロジェクターで映し出されるみたいな感じで広がった。

 …マジでクオリティー高ぇな、これ。

 名前だけで判断したら駄目だな、うん。


『いえーい!オレいっちばーん!』

『あー、ずるいーっ』

『きゃははー』


 子供たちが、小屋の周辺で遊びまわり、楽しそうにしている声が聞こえてくる。

 色もついてるし、音も聞こえる。

 こんなハイテク品が、出回らないのは何故だろうか。

 …ああ、覗きとかし放題だからか。なるほど。


「…ところで、ウルシ」

「はい」


 映像は、どうやらリアルタイムで進んでいるようだ。

 しかも、映っているのは、普通の日常風景。

 まったく問題になっている瞬間の映像が出て来ない。


「これは、いつまで続くのかしら」

「いつまで、と仰いますと?」

「当然、私が求めていた会話は、いつになったら聞けるのか、と聞いているのよ」

「うーん。範囲内には入っている感覚がありましたので、いつかは見れるのではないですか?」


 …ウルシー!!


 おい、マジでか。

 マジで言ってるのか。

 俺が指示した範囲って、ばあやの話聞く前に出したヤツだから、かなりの期間が余計に入ってるんじゃないか?

 それ全部見るって、アウトだろ!

 今日中に俺はヴェルデに会いに行きたいんだけど!


「は、早送りとか出来ませんの?」

「ハヤオクリ?」


 残念ながら、映像再生機器になんて馴染みのないウルシは首を傾げる。

 ばあやすら理解出来なかったようだ。

 ガッデム!


「目的の場所まで飛ばすんだよ」

「飛ばす?何を飛ばすのですか」

「ユリアナ様、言葉遣い」


 うおおお、ばあやチェックがこんな時まで!

 つーか全然伝わらねーし。

 早送りって何て言えば良いんだ?


「スピードを早くすると言うのでしょうか」

「スピード…展開を早めればよろしいのですか?」

「その通りですわ!」

「ユリアナ様、大声」


 ばあやチェックの厳しさよ!

 胃は痛くなって来るが、何とかウルシに言いたいことが伝わったようだ。

 映像が物凄い勢いで進みだす。

 そうそうコレ!…って、いやいや、今度は速過ぎねぇ?


「終了致しました」

「早過ぎますわ、ウルシ。もう少しゆっくりなさい」

「チッ…かしこまりました」


 ウルシの舌打ちには、ばあやチェック入らないって言うね!

 何だよ、このえこひいきは!

 くぅぅ…確かに、俺にしか聞こえないくらい一瞬だったけどさ。

 みんなしてウルシのこと甘やかしやがって!

 俺も甘やかしてるけどさ!!


「では、もう一度参ります」


 今度は良く聞いとけよ、ゴラァ!ってな副音声が聞こえそうだ。

 分かったよ、ウルシ。

 今度はもっと真剣に見るから、睨まないでくれ、頼む。


「この辺りですわね。ウルシ、通常の会話速度に」

「はい」


 ザー、と勢い良く流れて行く映像の中で、俺は見慣れない男たちが映っている場所に気付き、早送りをやめるよう指示する。

 少し進んだところで映像が止まった為、少しばかり巻き戻して、もう一度見る。


『此方は、ヘスモンティー侯の所有する土地である。貴殿らには早急に退去してもらおう』

『オレたちは、ずっとここに住んでたんだ!何で急に…!?』

『安心せよ。ヘスモンティー侯は慈悲深いお方。それに、公平さを重んずる我が国において、一方的に住む場所を取り上げることなどはない。別の場所に住む場所を提供しよう』

『従えば、オレたちは引き離されるんだろう。なら、ゴメンだね!』

『…ふむ。仕方あるまい。今日のところは引こう』


 騎士らしき男が、ピシッと背筋を伸ばして交渉を行っていた。

 見た目もチンピラなどではなく、公明正大、といった印象を受ける。

 偉そうなのは偉そうだが、まぁ貴族関係なんてこんなもんだろう。

 それに、説得に応じなければ引くなんて、相当紳士じゃないか。


 うーん。

 退去した理由は、別にヴェルデには関わっていなそうだ。

 こ、この少年は…!みたいな理由には期待してたんだけどな。

 ただの親切って訳でもなさそうだし、あの土地に固執してる感じでもないし…。

 早急に退去しろっつってる割りには、結構緩いし…。

 駄目だ、意味分からん。


 そこからしばらく見て行っても、大体同じやり取りが繰り返される。

 ヴェルデの説得材料は、まぁこれである程度十分揃った気はするが…。


「何故彼らに退去を求めるのか。その理由が依然として不明ですね」

「そうですわね…。一応、命名式前後も見てみましょう。ウルシ」

「かしこまりました」


 また一気に早送りをする。

 そうして、恐らくは最後の交渉を確認する。

 やり取り自体は、そう変わらない。

 ただ、去ろうとしかけた一瞬後、騎士らしき男が伝令から何ごとかを耳打ちされて、訝しげな表情をする。

 そして、何かを確認し始めたようだが…。


「ウルシ。何を言っているのか聞こえません。何とかなりませんの?」

「…はぁ」


 何故溜息をつく!

 態度に、嫌々やってるのがアリアリと見てとれるが、ウルシは仕事は出来る。

 映像に変わりはないが、マイク?が彼らの方へ寄ったようで、声が先程よりも大きく聞こえるようになった。


『何?中止?侯爵がそう仰っていたのか』

『はっ』

『理由は?』

『いえ。それが…命名式に出席なさった直後、そのような命令を出されて…』

『あの!お耳に入れて良いものか分かりかねますが…』

『何だ』

『その、自分、侯爵様が独り言を話されているのを偶然聞いてしまって…』

『告げ口などせん。言ってみろ』

『はっ!侯爵は「まさかそう来るとは思わなかった。よもや表沙汰にするとは」…そう仰っておりました!』

『どういう意味だ?それとこの土地と、何か関わりが…?…どうも、ここ数年の侯爵の行動には、分からないことが多い、な』

『如何致しましょう?』

『いや、疑問などもっての他だ。我らはあの方の剣であり、盾である。あの方の決定に従うのみだ』


 ……。


 映像の中に、めぼしい情報はこのくらいだった。

 表沙汰って、何が?

 命名式の日、そんなヤバイ感じのことが起きてたってことか?

 むーん、意味が分からん。

 スルーするっきゃないか、仕方ない。


「如何致しますか、ユリアナ様」

「ばあやは、私が戻るまでに、もしも探ることが出来るようであれば、この情報についての裏付けをお願いします。ただ、どうも嫌な予感が致します。とにかく私たちが、探っていること、絶対に勘付かれない様になさって」

「はい」


 ばあやは大丈夫だろう。

 経て来た年齢は伊達じゃない。

 怪しまれずに逃げるくらいは出来るはずだ。

 何なら触れないことも出来るはずだ。

 老兵をナメたらいけない。


「そして…ウルシ。早速街に下ります。先にあの彼を回収したいですからね」

「はい。お供いたします」


 何か嫌な予感がするし、とりあえず俺の手の届く範囲に保護しておきたい。

 ヴェルデの説得方法は、まぁ思いついた気もするし、急ごう。


 …つーか、俺何か最近頭動かし過ぎじゃね?

 もうヤダー!

クロ「えー、この優れもの!一家に一台、「ヨミト~ルくんEX」!忘れたことも、すぐに再生!旦那様の放った余計なひと言も、永遠に再生出来ます。そちらの商品がなんと特別プライス…¥19,800!税抜きです」

ウル「キャーお買い得ー」

クロ「ちょ、ウルシ棒読みとか」

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