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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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17.偶にはしっとり思考回

 あの楽しかったお茶会…じゃない、美術鑑賞の日の翌日。

 俺は、いつも通り貴族としての訓練に励みつつ、ギルドを安定して運営する為に行動を続けていた。


 なんかこう言うと、俺すげー働いてるっぽいな。

 まぁ、働いてるけど。

 嫌だわー。

 楽しい未来の為とは言え、働きたくないでござる。


 大仰に深い溜息をつく。

 でも、それに対する返事はない。

 寂しい。

 とは言え、仕方ない状況だ。

 何しろ、丁度ウルシには簡単な仕事を任せているし、クリスは実家の方で用事があるとかで、二人共いないのだから。

 ああー…美少女要素が俺しかいないとか、哀し過ぎるだろ。

 感覚としては、俺が此処にいるだけだし。


 与えられた課題も終えてしまって、もうお茶を飲むくらいしか出来ない。

 随分と優雅にお茶を飲めるようになったものだと思いながら、一人でお茶の銘柄を当てるゲームをし始めて、一人じゃクイズになってねーなぁ、と肩を落とす。

 …やべぇ、虚しい。


「ユリアナ様。お待たせ致しました」

「あら、ばあや。どうなさったの?」


 何度目かの溜息をついた時、ばあやから声がかかった。

 俺は、もうこの際、暇を潰せるならどんな無茶ぶりでも構わん!とばかりに、溢れ出る喜びを必死に抑えながら、あたかも興味などないかのようにティーカップに口を付けた。


「ふふ。ユリアナ様も、随分と令嬢としての立ち居振る舞いが板について参りましたね。ばあやは誇りに思います。ですが、あともう一歩ですわね」


 どうやら、ばあやには筒抜けだったらしい。

 いかんいかん。

 もうちょっと上達しないと、貴族社会なんてあれだろ?

 タヌキ親父とか、女帝とか、そんなんばっかだろ?

 騙し合い化かし合いの世界に、自分を偽れずして飛び込めるはずもない。

 …許されるなら、飛び込みたくねーけど。


「そのようなことより、何の用事ですの?」

「これは…ユリアナ様の成長を垣間見た喜びで、つい余計なことを…」


 申し訳ございませんと、優雅に一礼するばあやを眺めながら、興奮が抑えられない俺。

 あっ、何かこう表現すると、俺が変態みたいだ。

 全然違うよ!

 ばあや萌えの属性は流石に持ってないよ、俺。

 女性のストライクゾーンは異常に広いって良く言われてたけどな。


「ユリアナ様のご指示により探っておりました、例の件につきましての報告でございます」

「まぁ。進展があったのですね?」

「ええ」


 頷くばあやを見て、俺はごくりと喉を鳴らす。

 勿論、気付かれない様にひっそりと。


 俺がばあやに頼んでいた件とは、街の浮浪児ヴェルデくんに関することと、美術品を提供していた、怪しい二人組についてのことだった。


 ヴェルデに関しては、何としてもヴェルデを手に入れる…こう言っても俺が変態みたいだな…違うから!ショタコンの属性も持ってないから!…為に、必要な情報を手に入れたい、というところだ。

 一昨日、「明日か明後日また来るわ!」って言っちゃった以上、少なくとも今日には会いに行かないと、早速ヴェルデに対して嘘をついたことになるから、是非とも今日中に、ヴェルデの説得材料が欲しいなぁ、と思っていたところに、ばあやの来襲。

 これは、完璧なタイミングじゃないか?

 ただし、貰った情報を早速使わないといけないから、結構頭を使わないとならないのがネックっちゃネックだけどな。

 自分を信じろ!負けるな、クロード!


 ヴェルデ本人の話によると、あいつの住んでる掘立小屋周辺の土地に関して、誰か貴族が関わっているらしい。

 でも、ならば何故あの土地を追い出されていないのか。

 あの土地は誰の持ちモノなのか。

 利用価値はないのか。

 色々と気になるし、それに関して情報を得られれば、ゲームにおいては、生真面目な性格だったヴェルデが、俺に恭順してくれる確信がある。

 あんな街中の開けた土地を、敢えて目こぼしする理由は、俺には綺麗な理由とは思えない。

 ぶっちゃけ、何か不正とかそんなのに関わってるんじゃないかなーって感じだ。

 その辺突ければ、多分俺の一人勝ち決定だ。


 とは言っても、貴族の人がめっちゃ良い人で、単に浮浪児が哀れで見逃してくれたパターンもあるよな、普通に。

 その場合は、ヴェルデがその人を信用してる可能性もあるから、その人の協力を取り付けて、ギルドに来るように言ってもらう。

 つっても、あんまこのパターンはなさそうな気がするよなぁ。

 じゃないと、また追い出そうって言うのか!みたいな反応みせないよなぁ、ヴェルデ。


 むーん。

 難しいが、こればっかりは俺が一人で考えようが意味はない。

 何しろ、現実には、答えはどれか一つしか有り得ないのだ。


 ほんで、もう一個の方。

 怪しい二人組に関して知りたいことは言わずもがな。

 とりあえず全部だ。

 何だよ、アイツら怪し過ぎだろ、ってことだ。

 俺が知らないってことは、ゲームのキャラじゃないはずだが、あの妙なイケメンオーラっつーか、有力者オーラっつーかは、その辺のモブキャラとはどうしても思えない。

 知れるだけの情報を知っておくのは、重要だと思う。

 俺のキャラじゃないけど、そう言って知るのを怠ける気はない。

 流石にな。俺、一応でも貴族だし。


 調べてみて、何にもなければそれで良いし。

 ただキャラが濃いだけの普通の人って可能性もあるからな。

 転ばぬ先の杖。

 そんな信条は、どっちかっつーと前世の友達っぽいけど、仕方ない。

 あーあ、アイツがいてくれれば、考えるの全部投げ捨てられたんだけどなぁ。


「ユリアナ様。ご報告申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論ですわ。まずは、浮浪児たちの住む土地に関わった可能性のある貴族に関して教えて頂ける?」


 俺の要求に、ばあやはしっかりと頷く。

 そして、俺に丁重な感じで簡潔にまとめられた資料を手渡す。

 ばあや…この短い時間でまとめたのか。

 何て有能なんだ、流石ばあや。


「あの周辺の土地を所有しているのは、ヘスモンティー侯爵です。従って、浮浪児たちに接触する可能性がある貴族は、ヘスモンティー侯爵本人か、或いは彼に従う者たちでしょう」

「ヘスモンティー侯爵…ですって?」


 俺は思わず息をのむ。

 そして、間違いではないかと、目を皿のようにして資料を眺める。

 けれど、正確にまとめられた資料に、矛盾点などは見つからない。

 それに俺のばあやがまとめた資料だ。

 間違ってるはずがない。


「まさか…」


 考えていた中から、思い切り脱線した印象だ。

 ヘスモンティー侯爵だけは、入っていてほしくなかった、という感じだ。

 ヘスモンティー侯爵は、主人公であるリラちゃんの後見人になる人である。

 絶対的な味方であるはずのヘスモンティー侯爵が、悪い人である可能性は、あんまり考えたくない。

 やっぱな、ゲームファンとしてはな。うん。


 けど、そうも言ってられない。

 まったくもって良い人、って結論もあり得るし、とにかく確かめないとならん。

 ぶっちゃけ、俺…別にヘスモンティー侯爵が悪い人でも良いけどな!

 あんまり考えたくないってだけで、最悪、俺と、俺の可愛い俺の味方以外はどうなろうが、知ったこっちゃねーし。


「他の人が接触した可能性はありますの?」

「まず、あり得ないでしょう。ヘスモンティー侯爵と言えば、武勇に秀で、不正を許さない実直なお方と呼び声が高いと伺っております。誰も、好き好んでそのような方の所有地に関わろうとは致しませんよ」

「…そう、ですわね」


 ゲームじゃ、ヘスモンティー侯爵登場してなかったからな。

 人柄が想像し辛い。

 いや、正確に言えば最初にチョロッと登場してた。

 リラを招いた最初のシーンで。

 つっても、本当に短かったからなー。

 大したことも言ってなかったし。

 こんなんじゃ、知ってるとは言えない。


「ばあやは、どのように考えます?」

「どのように、とは?」

「…分かっている癖に」


 表情を一切変えずに切り返して来るばあやに、俺は口を尖らせる。

 俺なんかの思考如き、ばあやの手にかかれば余裕で看破出来ると思うんだけど。

 てか、ばあや絶対分かってて言ってるよな?


「あら。この程度で揺さぶられていてはいけませんよ、ユリアナ様。心を広く、そしてまた大きく持って、相手の調子に流されぬよう、対処してくださいませ」

「……ふんっ」


 ばあやの意地悪ーっ。

 なんて、普段なら調子に乗って言っているところだが、それどころじゃない。


「浮浪児の少年のことですわ」


 一旦短く切って、シンプルに応える。

 結論からまとめるのも重要だよな。

 俺は基本的に、すぐ話が飛ぶから辛いんだけど。


「私は、彼が欲しいのですけれど、彼を説得するには材料が足りません。彼に対して土地を明け渡せと言っていたはずの貴族が、一体どのようにアプローチをかけ、そして今見逃すことになったのか…その流れが分からなくては、方向性を間違えてしまいそうな気がするのです」


 脅してたのか、説得してたのか。

 見逃してくれたのか、他に何か理由があったのか。


 分かっているか分かっていないかによって、随分違うと思う。

 ヴェルデは賢い子だし、適当なことでも言おうものなら、あの通りの男らしさを発揮して、プライドだけであそこに居座りかねない。

 けれど、見逃してもらったところで、助けて貰える訳じゃない。

 いつまでもあんな生活は成り立たない。

 俺は彼を、あのままにはしておけない。


 …つっても、全然綺麗事とかじゃない。

 ヴェルデじゃなかったら絶対助けないし。

 ただ単に、俺の我儘か傲慢だ。

 やっぱり攻略対象者には、幸せになってもらいたいのだ。

 実際、リラを幸せに出来るのは、ヴェルデかもしれないしな。

 まぁ、ここは現実なんだから、とんだ伏兵がいるかもしれんが。


「ばあや。調べていて何か分かりませんでした?その貴族は…少年に何と言って、土地を明け渡すように言って、そして手を引いて行ったのでしょう?」

「そうですわね…」


 ばあやは、しばし目を閉じて考える。


「愚考ではございますが」

「構いませんわ。聞かせなさい」


 そして、ゆっくりと口を開く。

 俺は、カチャリと軽くティーカップを傾けた。

 口の中を、お茶の甘さが満たす。

 フルーツティーじゃなくて、ハーブティーにすべきだったな。

 動悸がおさまらんぞ。

 めっちゃお茶波打ってるんだけど。


「街の者から聞いた話によりますと、つい先日まで身なりの良い男たちが、あの近辺を歩いていたと言います。度々、争うような声が聞こえていたとも」

「ええ…」

「ですが、丁度命名式のあった日の直後から、そのような争う声は聞かなくなったとのことでした」

「…命名式の?」


 どういうことだ?

 パンピーだったら、偶然だろ、で済ませられるが、相手は貴族だ。

 タイミングが近いんなら、多分何らかの関係があるのだろう。

 考え過ぎか?

 いや、でも乙女ゲームの世界だぞ?

 全部関係があるって思うくらいで丁度良いんじゃないか?


「私が考えますに、ヘスモンティー侯爵は、命名式の日に何か重大なことを知ってしまい、それに気を取られて、領地のことまで気が回っていないのではないでしょうか?」

「根拠はありますの?」

「証拠と呼ぶ程に強いものではございませんが、実直なヘスモンティー侯爵が、先日行われた領主会議に出席なさらなかった、という話がございます」


 …命名式の日に、とまでは限定出来ないが、何かあったとみて良さそうか。

 でも、それはつまり、ヴェルデは敢えて目こぼしされてる訳じゃなくて、偶々のタイミングで見過ごされてるってことか?


「とは言え、殆ど私の想像に過ぎません。どうぞ、お忘れください」

「いえ。案外鋭いかもしれませんわ」


 まだ可能性はたくさんある。

 特定するにはまだ早い。

 だからと言って、何も考えないのもつまらない。


「ばあや。この件が済みましたら、またきちんとお勉強致しますので、もう少々付き合って頂けません?」


 ここまで協力してもらっといて何だけど、ここで手を離されたら大変な話だ。

 ばあやが本気で、後回しにしなさい!って言ってきたら、俺詰んじゃう。

 つーか、ヴェルデの人生が詰んじゃう。

 ヴェルデなら、ユリアナのところに行かなくても、たくさん人生はあった、と思うは思うんだが、アイツ…ユリアナ様に仕えてる時が一番幸せ~とか言ってるシーンあったし、取り上げたくないんだよな。

 うん、俺の為だけど。


「分かっております。何やらきな臭い印象もございますし…ばあやは、ユリアナ様にお付き合い申し上げますよ」

「ありがとうございます、ばあや!」


 よーし、これで百人力だ。

 あとは、ウルシが戻ってきたら、もうちょっと話し合いして、そんで、ヴェルデのところに殴り込みだ!

 ギルドの方も何とかしないといけないから…忙しくなるぞ。


 いやぁ、楽しみだなぁ。

 あっはっは。


 …はぁ。

 面倒だなって思う俺もいるんだよなー、これが。

クロ「疲れるー」

ウル「わたしがお菓子を買って参りますから、もう少し頑張ってください」

クロ「マジで!?」

ウル「はふっ…もぐもぐ……残ってたらですけど」

クロ「ウルシー!!」

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