15.取り巻き入手イベント…とは言えないか?
怪しい二人組…と言ったら失礼なんだろうが、提供者っぽい二人組が去っていったのを見送ってから、俺達も中へ向けて歩き始めた。
その直後、改めて城の使用人の人が俺たちを案内してくれた。
いやー、そうだよな。
幾らなんでも、あんなコミュニケーションレベル不足してるっぽい提供者が、サラッと出て来て終わり、なんてことはないよな。
結構ホッとしながら、俺はそれでもお嬢様モードを崩さずに、ナチュラルに城内に入ることに成功した。
ここで失敗すると、超特大の雷が待ってるからな。
気合い入れねェと。
そんで、城内なんだが…なんつーか、煌びやかだった。
床は、大理石なんだか全然違う素材なんだか知らんが、つるつるのピッカピカだし、壁に描かれた模様なんて、いちいち細かいし、ぽつぽつと置いてある花瓶も、多分相当高価なんだろうなぁーって感じだった。
…俺じゃリポート出来ねぇけど!!
駄目だ、魅力が伝えきれない。
仕方ないだろ。
俺、あんまボキャブラリーないんだからさぁ。
美術専門じゃねーし。
まぁそんで、案内された先は、多分中庭だ。
たくさんの数のテーブルとイスが並べられていて、そこにはお茶会セットが準備されている。
どっちかっつーと、俺はお茶会とかよりビアガーデンに行きたい。
…いやいや、今はそんな場合じゃないよな。
気を取り直して、可能な限り優雅に、優美に、周囲を見回してみる。
細かく手入れされてるっぽい植木は、完全に和風より洋風だ。
やっぱり線対称だよね!とばかりに、シンメトリーになっている。
恐らくは今日の為に設置されたのだろうテーブルたちも、整然と並べられているあたり、やべーなこの城。
成長したら、その内俺もホストやらないといけない訳じゃないか。
ほら、女の貴族ってそういう仕事があるからさ。
でもなー…これムリじゃね?
覚えらんねーし、配慮出来ねーよマジで。
えーっと、で、中央にドーンと建ってる建物が、噂の美術館らしい。
今日だけの為に建てられたらしいんだが、嘘だろ…。
流石に眩暈を覚えそうだ。
どうなってんだ、この国の経済事情。
…いや、公共事業を作るのも貴族の仕事みたいなもんか。
にしてもデカ過ぎ…。
これ、本気で終わったら壊すつもりなのか?
普通に国会議事堂くらいあるように見えるんだけど。
呆気に取られつつ、案内されるままに中に入る。
入って、更に呆気に取られた。
まんま、俺の知ってる美術館だった。
美術品を、一番美しく見せる為に作られた建物。
「ユリアナ様…何と美しいのでしょうね…」
「ええ…本当に」
ほう、と息をついて、うっとりとドレスを眺めるクリス。
俺は正直、クリスの方が美しいと思うんだが、余計なことは言えない。
何しろ、今の俺はユリアナたんだからな。
ユリアナたんが、そんなこと言うはずがない。
「…ユリアナ様。素晴らしいです…」
「……そ、そうですかしら…」
一方で、おどろおどろしいオーラをまとった宝冠を見て目を輝かせているウルシも、非常に可愛らしいのだが…いやいや、目腐って無いか?
確かに見た目は綺麗だが…オーラめっちゃ淀んでるぞ。
呪われるだろ、こんなもん持ってたら。
「まぁ、ユリアナ様。ご機嫌麗しゅうございますわ」
「あら、マリアンヌ様。久しぶりですわね」
呪いの宝冠が仕舞われたガラスケースに額を押しつけて離れようとしないウルシを呆れながら眺めていると、聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
俺は、内心の興奮を抑えながら振り向く。
そこには、確かに俺の未来の取り巻き筆頭、マリアンヌが立っていた。
相変わらずお淑やかで可愛い。
年齢に似合わない大人びた表情も素敵だ。
おっと、うっかり涎が出てしまいそうになった。
抑えないと最悪の未来が訪れてしまう。
変態のレッテル貼られるのも悪くはないけど、今はそれどころじゃないからな。
「貴女は何を見にいらしたのかしら?」
「いえ。特にこだわりはございません。興味深い品ばかりで、今の所、すべて見せて頂いておりますわ」
笑顔が眩しい!
マリアンヌは貴族のお嬢様としてちゃんとやってるみたいだな、偉いな。
俺なんてほら。
その言葉で、ようやく全部見ないといけないんだったなーって思い出したぞ。
全然肥やしになってねーし。ウケる。
「あら。本日の主催は陛下だと聞き及んでおりますわ。私、てっきりマリアンヌ様は、王子殿下を見にいらっしゃったのかと思っておりましたわ」
「ま、まさかそんな!私、そ、そのようなつもりでは…っ」
俺の言葉に、一瞬で真っ赤に染まるマリアンヌ。
はぁぁぁ可愛い。
何だ、この生き物は。天使か。
頬に両手を当てて、おろおろする姿なんて、永久保存物じゃねーか。
おいおい、こんな美少女に想われてるとか、何処の王子だ。
畜生、自分が攻略対象者だからって調子に乗りやがって。
こちとら悪役令嬢だぞ。
恋愛フラグなんて持ってねーけど!!
「ふふふ。ほんの冗談ですわ」
「そ、そうですの…」
ホッと肩を落とすマリアンヌ。
あんまイジリ過ぎて、嫌われても困るな。
程ほどにしておこう。
だから、睨むなってウルシ!
「あの、ユリアナ様。よろしければ、ご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
「勿論構いませんわよ」
「まぁ、嬉しい!」
俺も嬉しいよ、マリアンヌ!!
しかし、何でこんな提案して来るんだろう。
あっ、家柄のせいかな?
うち、こんなんでも公爵家だからな。
ああ…俺、ユリアナで良かった!
……いや、良くはないか。
そのせいでユリアナたんに会えないんだしな。
「では、参りましょうか」
「ええ」
颯爽と歩きはじめる俺について来るマリアンヌ。
こいつは、今日グッと距離を縮めておくべきなんじゃないか?
そうだよな。
貴族関係は、なかなか会う機会ねーし。
つまり、ここはお茶会席の方に行くべきなんじゃねーか?
絵とか見て談笑でも良いけど、私語は出来る限り御遠慮くださいって説明受けてる気がするし、さっきの変な男に睨まれても嫌だし。
よし、そうするか。
サクッと決めた俺は、そそくさと美術館を出ると、手頃な席に腰を下ろす。
ベストなタイミングでウルシがイスを引いてくれる。
流石はウルシだ。
俺が言わなくても、ちゃんと仕事はしてくれるぞ。
褒めるつもりでニコッと微笑んでみたら、舌打ちされたけど。
くっそ、ステータス画面は何処だ。
ウルシの俺への好感度最悪なんじゃねーの!?
「もう中は見なくてよろしかったんですの?」
「ええ。少し疲れてしまいましたの」
「広いですものね」
「ですから、マリアンヌ様。私との話に付き合って頂けます?」
「ええ、喜んで」
はぁぁ、天使だぁ。
やっぱさ、折角貴族女子なんだから、貴族女子に囲まれないとな。
ギルド云々とかやって、おっさんの顔見てると鬱陶しいもん。
いや、でもテコ入れしまくっていけば、俺の理想のあらゆるジャンルの受け付け女子を取りそろえた、完璧な環境にはなるんじゃないか…?
だよなぁ。
やっぱあっちも頑張っていかないとな。
おっさんが泣いて頼んで来るし。
「ところで、ユリアナ様は、本日は王子殿下とお話したりは…」
「しておりませんわ。会ってもおりません」
「そ、そうですの…」
ガッカリしたような表情になるマリアンヌ。
おう…これは、俺の地位云々じゃなくて、王子と会える可能性が高いと思って、俺について来てただけか。
許すまじ、王子…。
こうなったら俺、お前以外の攻略対象者応援しちゃうぞ、この野郎。
あっ、でもそうすると、王子フリーになるな。どうしよう。
「きゃぁあああ!」
流石に、王子っぽい影を見つけたら、挨拶しに行かないといけないよなぁ。
なんて嫌だなーと思っていた時、漫画っぽいノリで悲鳴が聞こえて来た。
俺は反射的に立ち上がると、颯爽と声のした方へ歩き出す。
え、駆け出すじゃないのかって?
まさかまさか。
今の俺はユリアナたんだから。
決してそんな焦るような動きはしないから。
「えっ、ユリアナ様?どちらへ…」
「悲鳴など、普通ではございませんもの。確認して参りますわ」
っつーか、普通にデバガメですけど!
だって、面白いだろ悲鳴とか。
見に行かなきゃ損損!
**********
割とすぐに現場に到着した。
そりゃそうだよな。
結構普通に悲鳴聞こえて来てたし、近いに決まってるよな。
「下りて来てくださいませ、カティナ様!」
必死に叫び声を上げるのは、クリスと同じ年くらいの女の子だ。
何故か空を見上げている。
…いや、視線の方を見てみれば、決して空を見ている訳ではないと分かる。
「平気だよ、平気!ボクは落ちないよ~」
木の上の方に、女の子がいたのだ。
理髪そうな雰囲気の、ドレス姿の女の子が。
「そういう問題ではありません!カティナ様!!」
カティナって…俺の取り巻きか!!
あの青い髪には見覚えがある。
そうだ、カティナだ。
俺は思わず口角が上がるのを感じた。
前までには、なかなか接触する機会がなかったって言うのに、ここに来て集合しつつあるってか。
これは、俺に今日決めろ!って言ってるんだろ、神様。
分かってるよ、見てろ神様。
俺は今日、男になる!
……って、なれねーよな。知ってたけど。
「カティナ様!」
「もー、ウルサイなぁ。ボクはこの子を巣に戻してあげないといけないんだよ!」
邪魔しないで、と不満そうな声が上から降ってくる。
うーん。
ゲーム本編でも、ちょっと男まさりっつーか、お嬢様っぽくはないなぁ、と思ってはいたが、まさか幼少期、ここまでお転婆だったとは。
…普通に好みですが。
「まぁ。あれは、フロウゼルン家のカティナ様ではございませんこと?」
ようやく追いついたマリアンヌが、木の上の人影に気付く。
そして、不快そうに眉を顰めた。
「何とみっともないのでしょうか。伯爵令嬢があのような…ねぇ、ユリアナ様?」
「そうですわね」
ここは同意しておかないといけないだろうな。
分かるか。
好感度を上げる為には、時にイエスマンにならなければならないということを!
特に、ハーレムエンドとか狙ってる時な。
すげー浮気性な男、或いは女になるんだ。
あれは厳しいぞー。
好感度チェックとか、タイミング間違うと、普通にルート入るし、ギャルゲーだと、爆弾爆発したりするしな。
つーか、爆弾!狙ってもねー時に勝手に好感度上がった挙句、勝手に大きくなってんじゃねーぞ、あの野郎。
何度苦しめられたことか。
あの押しかけ女房め。
でも好き!
「はい、オッケー!」
見ると、カティナが小鳥を巣に戻し終えたらしい。
これは…テンプレ展開だな。
大丈夫大丈夫と言いながら、下りてこようとした瞬間に落ちるっつー。
…助けたい。
物凄く助けたい。
好感度ダダ上がりイベントだろ、これ。知らんけど。
そういうイベントは逃さずにやっていきたいんだよな。
ほら、現実でもそうだろ?
助けてくれた人に、悪い印象ってなかなか抱かないし。
つっても問題がなー。
俺、今ユリアナたんだし。
別に、そりゃあ取り巻き3人組は、普通にユリアナたんの取り巻きとしていて欲しいっつーファン心理から、そうなるように意識してるだけだから、男の俺への好感度を上げる必要性はまったくないから、これで良いんだけどな。
「じゃあ下りるよー!」
「か、カティナ様!危ないっ!!」
ひょいっと、木から身を躍らせるカティナ。
え、え!?
ちょ、飛び降りた!?
まさかだろ、この展開は。
俺は目を見開いて、ハラハラと見守る。
助けに?入れる訳ないだろ。予想外過ぎるんだよ。
「はい、着地ー!」
ストン、とカティナは、まるで体操選手が着地を決めた時みたいなポーズをして満面の笑みを浮かべる。
勿論無傷だ。
マジでやってるのか、この子。
邸内の木とは言え、そこそこ高さあるぞ、この木。
2~3Mは普通にあるよな。
…ファンタジー世界の不思議だ。
それはともかくとして。
俺、普通に要らなかったな、この場に。
デバガメしようとして来ただけだから、良いっちゃ良いが、相手はカティナ。
出来るなら、何らかのアプローチを決めたいんだが…。
さーて、どうすっかなぁ…。
クロ「大団円エンドってのもさ、結構難しいんだよなー」
ウル「そんなことよりも、ご主人様。あの宝冠欲しいです」
クロ「あらゆる意味でムチャ言うな!?」