14.不思議な二人組(男)と遭遇事件
更新いつもより遅くなりました。
ギルド再生を託された初日、結局明確な進展はないまま家へと戻った。
進展はないけど、色々あったような気はするけどな。
えーと、おっさん達に同情するなら金より知恵をくれって言われて、他ギルドの様子を調べに行って、その内一か所のイケメンと美女に何故か注目されて、人員足りねーから、人を集めに行って、ヴェルデと遭遇して…。
結構てんこ盛りだな。
でも、不思議と何にも進展してないんだよなー。
あははは。
それから、街での騒動はお前の仕業かとばかりに、ばあやからの説教を頂いた。
何故バレた。
変身しようが何しようが、ばあやから見れば、すぐに俺が誰か分かるらしい。
それって…他の人にもバレる危険性があるってことだろうか。
もしそうなら、俺変態確定するんだけど。
そう言ったら、それは平気だろうって返って来た。
ばあやが特別らしい。
流石は俺のばあやだ。
そんで、今日の俺は久々?に貴族のユリアナたんモードで行動だ。
基本的に、学校に入るまでは、他の貴族と交流とかは無いんだけど、今回は特別らしい。
全世界に存在する美術品、芸術品を収集するマニアの人が、展覧会を開いてくれることに決まったから、参加しないといけないらしい。
これは貴族に名を連ねる者は、絶対行かねばならないイベント。
ついでに位の高い方とお近づきになろう!
…みたいな思考に基づいてみんな行動するから、参加しないと駄目らしい。
因みに俺は、上の人って言ったら、王子しかいないから、その辺は気にしないで芸術品を見る目を育てとけって指示された。
それはそれで、面倒が少なくて良いんだけどー…面倒だ。
ただ今日は、クリスも一緒だから、ちょっと幸せだ。
やっぱり定期的にお色気要素は身近に欲しいもんな。
ん?そんなことない?
「ふぅ…緊張しますねぇ、ユリアナ様」
ドーン!とそびえたつ城を見上げて、クリスがそう呟く。
俺も合わせて城を見上げるけど、特に緊張はしない。
つーか、ワクワクして堪らん。
何だこれ。
シンデレラ城よりよっぽどデカいぞ。
そんで、乙女チック過ぎず、軍事国家的にイカついこともなく。
丁度良い加減だ。
「あらクリス。そのようにうろたえるなど情けないですわ。貴女は我が国でも歴史の長い、由緒あるロディーオの娘なのですから、胸を張ってくださいまし」
「ユリアナ様…」
俺の珍しい激励の言葉に、クリスは感動したように目を潤ませる。
だが、甘い!
それで終わらないのが俺の嫁、ユリアナたんだ。
「それに貴女は今日、私の世話係として参加するのですよ?自信の無さそうな顔をしたまま私の側にいないで頂けます?私の評価が下がってしまいますわ」
スラスラーッと余計なひと言ふた言をプレゼントする俺。
ユリアナたんは、いついかなる時も、単純に優しいだけの言葉はあげないのだ。
いつだって自分が中心。
それがユリアナクオリティー。
「もっ、申し訳ございません!私、頑張ってお仕えさせて頂きますね!」
ピンと背筋を伸ばして、焦った様にそう言うクリス。
いやぁ、焦った顔も可愛いなぁ。
特にあの、緊張しきって若干震えてる腰のラインを撫で回したい…。
「ユリアナ様。涎」
「はっ!」
狙い澄ましたかのようなタイミングで飛んできた指摘に、俺は思わず口元に手をやって、特に汚れていないことに気付くと、眉を寄せた。
「……ついてないじゃありませんの、ウルシ」
「さて、なんのお話やら…」
ついー、と視線を逸らすウルシは、絶対確信犯だ。
と言うか、つい数日前まで浮浪児だったこの子が、何でこんな城で開かれるような規模のイベントに顔を出せるんだ。
そりゃあ、ばあやの許可が出たからな訳だけど。
何で許可下りた!
実はウルシがこの世界の主人公なんじゃないかとさえ疑ってしまう。
ホント、優秀過ぎるだろこの子。
「そんなことよりもユリアナ様。早く会場に参りませんと、席が埋まってしまうのではありませんか?」
どこかウキウキした様子でそう言うウルシ。
表情まったく変わってないけど、俺には分かるぞ。
ウルシはきっと、この「美の神に愛されたと評判の絶世の美女が、結婚式で着用した、宝石を各所に散りばめられた贅の限りを尽くした最高級品のウエディングドレス」が見たいのだろう。
ほら、ウルシだって女の子だしな。
だから決して、壁に張られた手書きのポスターの隅の方に書いてある、「怪奇!所有した者たちから漏れなく幸せを奪い取った嫉妬の神をあしらった呪いの宝冠」を見てワクワクしてる訳じゃない。
そのはずだ。
うん。
…と、まぁそれはともかくとして。
今日開かれるのは美術品の展覧会だか何かだ。
別にそう急ぐ必要もないだろう。
「…ウルシ。何か別の催しと勘違いしておりませんこと?本日は展覧会なのでしょう?席などないのですから、慌てる必要などないかと思いますけれど」
「そうなのですか。それなら良いのですが」
「えっ?」
ホッとしたようにジッとポスターの怪奇…じゃない、ドレスを眺めるウルシに対して、意外そうな反応を見せたのはクリスだった。
「何か言いたいことでもありまして?」
ジッと見つめて尋ねると、クリスの目が泳ぎ始める。
何か失敗したとでも思ってるのだろうか。
いやいや、俺意味もなく怒らないから。
正確に言えばユリアナたんじゃないし。
「何も失敗していないのなら、責めたり致しませんわ。何か訂正したいことがあるのでしょう?」
「あのぅ…そのぉ…」
「回りくどい話は結構」
ポンと軽く手を合わせると、面白いぐらいうろたえるクリス。
ちょ、おい。
俺がSに目覚めたらどうしてくれるんだよ。
あんまり可愛い反応されたら、イジメたくなっちゃうだろ。
「寧ろ、ここで正直に話さなければ怒りますわ」
「は、はいっ!では、僭越ながら…」
半ば胸を反るようなポーズになるクリス。
ああ…冒涜的なレベルのお胸様が強調されて、何と美しいことだろう。
今俺、女の子の姿で良かったー。
「あの、通常我が国で行われる展覧会は、ステージの上で展示物が順番に紹介されていく形式ですので、席はございます」
「あら…」
貴族を歩かせる訳にはいかないってことか?
つまり、俺のイメージするオークションみたいな形になるんだろうか。
ステージと席の関係を聞いてみれば、大体そのイメージで良さそうだ。
ソースはクリスだから、どこまで正しいか知らんが。
「ならば、急がなくてはならないのですね」
「いいえ、まさか!ユリアナ様のお席は前の方に取ってあるはずです」
「そうなの?」
「はいっ。だって、ユリアナ様は公爵様の令嬢でいらっしゃいますもの」
ニコニコと言うクリス。
うーむ、やっぱこの辺りの感覚慣れないな。
チヤホヤされるのも注目されるのも好きだが、ベースが日本人だしな。
なかなか落ち着かない。
お前縁故で就職先決めてたじゃねーかって声が聞こえてくるようだ。
別に家が金持ちだったって訳じゃないんだよ。
俺ん家、普通に普通のサラリーマン家系だったし。
たまたま縁があったんだよ、たまたま。
だから、上に見られるのに慣れてるって訳じゃないんだ。
「…残念だが」
「え?」
「そっちの令嬢の言う通り、席なんてない。飾られている展示物を動かす予定もない。自分から歩いて見に行ってくれ」
ふと、仏頂面としか言いようがない程、不機嫌そうに眉を寄せた男が言葉を挟んで来た。
俺達に用があってやって来た、という様子ではない。
たまたま、俺達の会話が気になって割り込んで来た感じだ。
現に、言うだけ言って何処かに消えようとしている。
「せ、席がないのですか!?」
クリスが仰天したように軽く叫ぶと、男は足を止めた。
そして、振り返る。
改めて見てみると、不気味な印象のある男だ。
不健康そうな青白い肌に、少しこけた頬。
あまり手入れされていなさそうな、艶のないバサバサの長い黒髪。
全身を覆うローブは、魔法使いっていうよりは、呪術師っぽい感じ。
それ以上に印象的なのは、その目だ。
自分の興味のあるものしか見ていないような、暗い目。
…何このヤンデレ枠みたいな男。攻略キャラ?
思わず漏れそうになった俺の感想。
慌てて口を噤むが、気付かれはしなかったようだ。
セフセフセーフ!
「美術品には、最高の展示の仕方というものがある。見る者がその規格に合わせるのは当然のことだろう」
「えっ、でも…」
「俺は、美術品にとって、最高の環境でのみ展示すると聞いたから、了承した。だから、当然すべての見学者に、そのルールは周知徹底されているものとばかり思っていたのだがな。見当違いだったか…」
クリスの困惑の言葉自体は、男に届いていないようだった。
既に何回か、同じ質問を受けているのかもしれない。
それで不機嫌なのか。
…つーか、口ぶりから言って、この人が主催者か?
いやいや、主催者って言うか、提供者のマニアな人?
そんな人の機嫌に、ここでトドメを刺す訳にはいかないよな。
俺達のせいで中止云々なんてオチになったら、まったく笑えない。
笑えないっていうか、逆に笑えるわ!
多分、王様か誰かに招待されてるんだろ?
そんな人怒らせたら最悪なんてもんじゃねーよ!
「大変申し訳ございませんでした」
「…」
スッとクリスの前に出て謝罪する。
日本人の必殺技、とりあえず空気読む。発動だ!
何か、前世でコイツに超似た知り合いがいたから、そいつの機嫌を取る時みたいな話をしよう。
それで失敗したら…メンゴ!
「美術館、展覧会は、絵画や彫刻など、適正な温度、湿度、照明…様々な要素が複雑に絡み合って出来る、至高の結晶ですものね。見る者に合わせて行うことなど、出来ようはずもございません。配慮が足らず、本当に申し訳ございません」
あー、でもこれ、全然ユリアナたんっぽくないなー。
つーか、俺っぽくもないけど。
本当なら、お黙り!くらい言いたいんだけどなぁ。
それで失敗出来ないし、俺の想像した知り合いに、そんな偉そうな感じでいったら絶対失敗するし…うん、仕方ないよな!
あーあ。
「…お前」
すると、不思議なことに、男が不思議そうに目を瞬き始めた。
あれ、これ俺成功した?
機嫌とるの成功した?
うわー、それはそれで微妙な気分だわー。
微妙じゃないか?
男相手に、好感度上がる瞬間なんて見てもさ。
大体俺、悪役令嬢だよ?
駄目だぞ、花咲かせたら。なんちゃって。
「もしかして、せ」
「おー、いたいた。クライハルトー。王様が呼んでたぜー」
「…チッ」
「ん?俺、お邪魔だったか?」
男が何かを言いかけた直後、また別の男が現れた。
男ばっかだな、マジで!
イライラしてくるんだが、ガチで。
ここは男子校か!
おっぱ…クリスはいるか!いるな!
ウルシはいるか!いるな!
…よし、こっそり盗み見て癒しを得ておこう。
「いやぁ、スマン!まさか、クライハルトとマトモに話が通じる貴族女性がいるなんて夢にも思わなかったから、普通に声かけちゃったぜ!」
「ちゃったとか言わないで下さいよ」
あはは、と爽やかに笑う男。
すんげーアホみたいにド派手な紫色の髪の毛してるんだが、大丈夫か。
イケメンってか…ラブコメ系の漫画のヒーローっぽい顔してるけど、性格は問題ありそうだな。
俺も人のこと言えないけど。
「うちのクライハルトが失礼したね、お嬢さん」
「いえ。そのようなことはございませんでしたわ」
「え、マジ?こいつのことだから、どうせ美術品にムリかけるようなこと言ってんじゃねーよボケカス…くらい言ってたんじゃねーの?」
「流石にそこまで空気読めなくないです」
「平たく言えば、そのくらい仰ってましたね」
「…」
ポソリと呟かれたウルシの言葉を、不機嫌そうな…クライハルトと呼ばれた男は耳ざとく聞きとった様で、ウルシを睨んだ。
ウルシは鮮やかに俺の後ろに退避する。
ど、どこの世界に主を盾にする従者がいるんだ、ウルシ!
…ま、まぁ良いけど。
「あ、俺ジルってーの。よろしく、お嬢さんっ」
「うっ」
華麗な動きで、ジルと名乗った男は俺の手を取ると口付ける。
あまりの衝撃に、思わず呻いちまったぜ…。
OH…俺の無垢な手の甲が…。
後で拭こう。
まぁ、手袋はしてたけどさ!!
「じゃ、早く戻るか。行くぞー、クライハルトー」
「ひ、引っ張らないでください!」
「じゃあねー!」
ヒラヒラと手を振って去って行くジル。
クライハルトは首元を引っ張られて、更に顔色が悪くなっているようだ。
そんなやり取りを、どこかで昔、見たことがあるような…。
うーむ。
思い出せないと言うより、思い出したくない感じだ。
忘れよう。
そんな記憶なんて、どうせロクなもんじゃない。確信。
「…わ、私たちも参りましょうか」
「は、はい」
「…結局、急がないと見れないのですか?急がなくても良いのですか?」
不満そうなウルシに答えを返すことが出来ないまま、俺は唸る。
今日くらいはゆっくり出来ると思ったんだが…そうでもないだろうか。
くそー…早く自由に遊んだりしたいー…。
こうして、展覧会の幕が開くのだった。
クロ「花を咲かせるって表現は、乙女ゲーマーなら分かると思うけど、攻略対象者と恋愛していく過程で必要な条件とかフラグを、乙女ゲームでは基本好感度で表現してて、ざっくり言うと、恋人同士になるには好感度が一定量欲しいんだけど、その好感度が上がった瞬間に、ゲーム会社によっては、ってか大抵そうだけど、効果音とか花が開くエフェクトとかでプレイヤーに教えてくれるって機能が付いてるんだよな。だから、花が開くと言えば、大体イベントに成功して、攻略対象者に良い印象を与えて、一つヒロインのことを好きになってもらえたってことになる訳だけど、偶にそれが罠で、好感度を上げたら攻略出来ないみたいな鬼畜キャラもいて、あの時は一週間どころか一カ月悩み続けてムカついた…」
ウル「どうしよう。ご主人様がキモい」
クリス「読み飛ばして問題ありませんのでー!」
ばあや「花開かないタイプのゲームも多々あるそうなので、ご注意くださいませ」
クロ「あっ、そこばあやが補足するんだ?」