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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第二章/乙女ゲームの悪役令嬢になった俺は冒険者ギルドにテコ入れする
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10.INギルド雪解け華

「おい。あれ、雪解け華の暴れ牛じゃねぇか?」

「男と見りゃ突進してくるって噂のあの?うわ、アイツ何したんだよ。暴れ牛リンダを怒らせるなんて自殺行為だぜ」


 モブ共が好き勝手に噂してくれちゃってるが、俺はそれどころじゃない。

 まさかそんな高名な冒険者が、俺なんかに絡んでくれるとは、完全に想定外だ。

 どうしてだ。

 俺の変装…否、変身は完璧だったはず。

 こんな地味な筋肉男に攻撃を仕掛けてくるだなんて、さてはこの女、脳筋か!?


「おい、余所見をするな!また他の女子を厭らしい目で見るつもりだろう!?」

「今の俺は、目の前の美女に夢中だから、それどころじゃねぇよ」

「おのれ…別種族の女すらそのような目で見るとは…下劣の極み!殺ぉす!!」

「えっ、そんなに?」


 どうやら火に油を注いでしまったようだ。

 マジで意味が分からん。

 俺としては褒めたつもりなんだが。

 ビキニアーマー(上のみ)なんて、超エロい格好に加えて、ロリコン殺しのあの盤石なツルペタスタイル。

 あれで男を誘惑しないはずがあろうか。いや、ない!


「だって、リンダだっけ?君が可愛いから仕方ないだろ」

「っ!?黙っていっぱつ殴られろ!それで終わりにしてやる!」

「いや、それ食らったら俺死ぬでしょ?御免だって!」


 下半身が牛だからか、細かい動きには付いて来れないらしいリンダ。

 俺は彼女の怒りに任せた攻撃を、ヒラリヒラリとかわし続ける。


 穏便に終わらせたいんだけどー…どうしたもんかな?

 俺のセリフ、そんなに変だったか?

 素直に言っただけのつもりなんだけど。


 ここは、俺の乙女ゲーム知識が火を吹く時が来たな!と、言いたいところだが、こういうタイプの女の子が出てくるゲームなんてあったか?

 普通リラちゃんみたいな大人しいけど芯は強い、みたいなタイプだからな。

 なかなかこういう気が強い上に、最初から殴り殺して来ようとする子なんていなかったような気がする。

 一般的には気が強いヒロインは落ちればツンデレって感じで好みだが。

 ツンデレはなー…落とすまでが大変なんだよなー。

 ……因みに、ユリアナたんは孤高なツンデレだから、単に気が強い系って訳でもないのであしからず!


「くそっ…何故当たらない!」


 こう見えても、ばあやの死の猛特訓で生き延びてるからな。

 ばあやの剣術に比べれば、そうでもないさ。

 見た事ないヤツは想像もし辛いかもしれないが、ばあやの剣術は凄いぞー。

 さっきまで右狙ってたかと思えば、急に方向転換して、気付いたら反対側の服が斬れてたり。

 なんか切っ先がめっちゃたくさん見えたり。

 巨大な石像を、豆腐みたいにあっさり切ったり。

 とにかく凄い。

 流石は俺のばあやだ。

 ババァとか言ってごめん、ばあや!


「俺は回避特化型だからな」

「なっ…そんな逃げに特化している者の見た目じゃないぞ!?」


 そうイメージして変身してるし、驚いて貰えて嬉しいです。

 なーんて言ってる間にも説得しないと。

 俺があまり避け続けるから、周りのテーブルやイスへの被害が広がっている。

 俺のせいじゃないけど。


「だけど、事実だって、アンタも分かってるだろ?」

「…」


 俺がそう言うと、リンダは押し黙る。

 血管抜き出てるし、めっちゃキレてるんだろう。

 だけど、ここで抑えないと…ウルシにゴミを見るような目で見られてしまう!

 ただ市場調査をするだけだったはずなのに、そんな簡単なことも出来ないんですか?って絶対言われる。

 だから是非納得してください!


「なぁ。何度やっても無駄だから諦めて、俺の話を聞いてくれない?」

「ばっ…バカにするなぁ!!」


 キッと涙目で睨みつけて来るリンダ。

 迫力ないし超可愛い。

 牛の耳とか、ぷるぷる震えてるし。

 悔しさからか赤く染まった頬が、白い髪に生える。

 やべ、撫で回したい。


「死ねぇ、変態が!!」

「うおっ」


 そんなことを思っている場合じゃなかった。

 バキ、ゴキ、みたいなイヤな音を立てて、次々にテーブルが破壊される。

 待って、威力上がってるんですけど。

 怒りによる影響ですか。

 いかりによって、受けたダメージ倍返しってか?

 アッハッハ。

 …って、冗談じゃねぇ!


「せ、折角美人なんだから、そんな怒るなよ!大体誤解だし!」

「いちいち破廉恥なことを言って…何が誤解だ!」

「俺は女の子を見に来たんじゃなくて、ギルド自体を見に来ただけだからー…」

「納得がいくか!いつまでも何も無い壁に向かって…おかしいと思っていたんだ」


 リンダの中の俺像が最悪になってるっぽい。

 自業自得?

 誰だ、そんな酷いこと言うヤツは。

 この場に来て見ろよ。

 リンダの魅力に、我を忘れること請け負いだぞ。

 ケモナーじゃないから平気?

 バカ者が!

 リンダは真のケモナーにはウケない見た目だ。

 何しろ、上半身は人の格好だからな。

 だから、普通の好みの人も絶対いけるぞ。絶対だ。


「リンダ。おやめなさい」

「っ!!」

「お?」


 アホなことを考えていると、涼やかな声が響いた。

 こんな状況でも落ち着きはらった、大人~な感じの声。

 美人の予感!

 俺はバッと声のした方向へ向いた。

 すると、そこには、予想通り美人が立っていた。


「まったく…すぐ頭に血が上るのは、貴女の悪い癖ですね」

「ま、マスター・アレクセイ…」


 そこに立っていたのは、透けるような薄い黄緑色の髪に、青い海のような目を持

つ、スレンダーな美人。

 陶器のような白い肌に、整った顔立ちなんて、作り物みたいだ。

 こんな美人初めて見たぞ。

 なんつーか、一人だけ生きてる世界が違うっつーか…。


 ……ただし、男です。


 何でだよぉぉ!!

 声とかめっちゃ美しいんだけど、男!?

 ちょっとハスキーな女の人って感じじゃん。

 ここでどうして男!!

 耳とか尖ってるし、エルフ系だろ?

 初エルフが男!!


「その人には、きちんと話を窺ったのですか?」

「は、え、その…」

「貴女のことですから、一面だけを見て斬りかかったのでしょう?」

「う…申し訳ありません……」


 リンダが、しゅんと肩を落とす。

 アレクセイと呼ばれた男は、仕方ないなとばかりに微笑んで頭を撫でる。

 嬉しそうにはにかむリンダ。


 …俺、何を見せられてんの?

 ノロケ?ノロケなら要らんわ、ボケが!

 俺にはウルシがいるから良いけど!

 ふんっ、拗ねてなんかないぞ。


「うちの子がご迷惑をお掛けしました、お客人」

「え?あー、いや。此方こそ、変なことを言ってスミマセンでした」


 一応謝っておく。

 ほら、角が立たない様にしておくのも大人の良識っていうかさ。

 本当に俺も日和ったもんだぜ。


「それで、何か収穫はありました?」

「へ?」


 ニコニコと、一切の邪気なんかないとでも言うような笑みを浮かべながら、俺に問いかけるアレクセイ。

 ちょ、質問の意味がマジで分からないんだが。

 コイツ、何か俺のこと疑ってる?

 だって、このギルドでも強いっぽいリンダが言う事聞く相手ってことは、この人絶対エライヤツだろ?

 そんな男が、こんな地味な筋肉男に何の用があって声かけるんだよ。


 うえー…何?俺探り入れられちゃってる?

 だから駆け引きなんて苦手なんだよ、俺はぁ。


「貴方、今日一日だけで辺りのギルドをすべて回ったそうじゃありませんか。ですから、何か目的があって回っていたのかと思いまして。違いました?」


 顎に軽く手を当てて質問を続けるアレクセイ。

 どっかのおっさんと違って、一切むさくるしくないのが不思議だ。

 寧ろ神々しい。

 エルフって違うよな。


「いやぁ、違わないけど。何か問題があったか?俺はただ、所属するなら何処が良いか、見学して回ってただけで、迷惑なんてそこのリンダ以外にかけてないぞ」

「…どうせ余所には女が大していなかったからだろ」


 ボソッと呟かれたリンダの言葉に、思わずギクリとしてしまう。

 いやいや、ギクリとする必要はないんだけど。

 ははは、不思議だな。

 反射かな。


「ふぅん、ギルドに所属を、ね」


 含み笑いを浮かべるアレクセイ。

 超ラスボスっぽい。

 美し過ぎて毛穴が全部開いちまいそうだ。


「貴方のような身分の方が、ですか?」

「へ?」


 おい、ちょっと待て。

 コイツ、マジでどこまで知ってる?

 身分って、俺がユリアナ・マルトゥオーゾだってバレてる?

 思わず垂れた冷や汗。

 いやいや、待て待て。

 身分って言ったところで、カマをかけただけだろどうせ。

 だとしたら、過剰反応した方が怪しいってヤツだ。

 ここは素知らぬふりで…。


「何のことだ?俺は一介の旅の者だけど」

「おや、不思議ですね。ここしばらく、貴方のような人の入国記録がないことは、既に確認させて頂いていますが」


 …マジっぽいな、これは。

 ちょ、冒険者ギルドどんだけ力持ってるんだよ。

 っつーか、何で俺のこと疑ってるの?

 どこ?どの辺まで疑ってる?

 結構末期?


「入国記録がないだけで、男なんてもんは、皆人生の旅人だぜ…」

「……」


 リンダに、何言ってんのコイツバカなの死ぬの?みたいな目で見られた。

 場を濁せる訳ないけど、つい言っちゃうんだよ、仕方ないだろ。


「貴方がどなたかを尋ねるつもりはありません。ただ…気になっただけです」

「何が?」

「貴方の身のこなしは、古代ニスナン王宮剣術のものに酷似しています。それは、今現在扱える者はごく限られているはず…少なくとも、貴族に類する者でない限り学ぶことは出来ません」


 …えっ、そーなの!?


 うわー、これは盲点だった。

 つまりアレクセイは、俺がそんな貴族の技を使ってるから興味を持ったと。

 うへぇ、これからは適当に戦うことも出来ないじゃんかよ。

 どーすっかな…バレないようにする為には、別の格闘技習う?

 うーむむむ。


「ですが、私もそこそこ貴族の方々とは交流を持っていると自負していますが、貴方の存在を、見たことも聞いたこともありませんでした。貴方は…何者ですか?」

「どなたか尋ねるつもりはない…って言ってたじゃないかよ」

「おや、失敬。これは個人的興味ですよ。我がギルドに、引いてはこの国に、弓引く可能性がないのであれば、それで良いのですが…」


 つまり、身元を明らかにすりゃ、見逃してくれるってか?

 でもなぁ…ここで身元明らかにしてたら世話ねーよな。

 後から動きにくくなるし。

 大体、何でこんな地味な筋肉男に扮してたのか分かんなくなるってもんだ。


「残念ながら、教えてやる義理はないな。ただ…アンタらに敵対する意思は一切ないよ。証拠はないし、証明もしないけど」

「何だと、お前!マスター・アレクセイの問いに答えないと言うつもりか!?」


 ああ…リンダ癒されるわ、マジで。

 アレクセイとの会話、何かが擦り切れて来るから。

 何だろうな。

 美人の迫力なのか、頭良さそうなヤツの迫力なのか。


「とりあえずはな。俺にも色々あるんだよ」

「そうですか…。では、もう少々話を伺わせて頂きたい」


 あっ、納得してもらえなかった。

 残念ではあるが、仕方ない。

 俺だって、俺みたいな怪しいヤツがいたら疑うし、流石に。


 だが、捕まる訳にはいかない。

 そしたら、ばあやに殺されるし。

 俺の将来に暗雲がさしてしまう。


「残念だが時間切れだ。俺はもう行く。じゃあな!」

「何を…我がギルドから逃げられるとでも…」


 アレクセイが何かを言いかけた瞬間、俺は変身した。

 化けたのは、小さな小さな蚊だ。

 潰されたら終わりだが、一瞬で小さくなったし、多分目が追いついてないだろ。


「なっ、消えた!?」


 あー、良かった。

 うっかり剣の達人的な感じで、目で追われたら死んでたな、俺。

 もう少し変身するものは考えた方が良いんだろうなぁ。

 面倒だからしないけど。


「(じゃ、オサラバだぜ!)」


 挨拶なんて聞こえないだろうが。

 俺はそう言って飛び去った。

 拍子抜けするくらい、追手も何もないままに、俺は無事に帰還に成功する。


 色んなギルドがあったが…「雪解け華」は要注意だな。

 つーか、全然違う格好に変身して行った俺、超グッジョブ。

 貴族かも?って疑われはしても、それ以上は平気っぽかったし。

 よしよし、こんな哀しい事件は忘れて、ギルド造りを開始するぞー!


 おー!

アレク「敵対する意思はなさそうですが…果たして」

リンダ「殺ぉす!あの男、次に会ったら殺ぉす!!」

アレク「…白でも黒でも、リンダが殺してしまいそうですね…」


クロ「うおぉ!なんだ今の寒気は!?はっ…風邪か」

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