05.王子とイベント?女の子とにチェンジプリーズ!
「お前がユリアナか。少し話せ」
「す、すみません…」
名指しで話しかけられた瞬間、俺は気付かれないように溜息をついた。
おいおい、どうして我がニスナン王国の双子王子が、俺みたいなしがない公爵令嬢に直々に出向いて話しかけて来るんだよ。
こちとら完全に想定外で内心ガクブルだ。
これ、対応間違えりゃ殺されるんじゃねーの、俺?
ほら見ろよ、ばあやすら想定外って顔してるぞ。
ばあやが叩きこんでくれた今日の俺の動きに、そんなのは入って無かったし。
想定内だったら、絶対ばあやは教えてくれてたと思うんだよ。
てか、そうじゃないと俺に対してスパルタ過ぎだろ。
テキトーに頑張れってか?
つーか、何でクリスは目を輝かせてるんだ。
あの目には…見覚えがあるぞ。
俺の知り合いのオタク女が、萌えキャラを見てる時にあんな目をしてた。
…言っとくが、こんなところでロマンスは始まらんぞ。
何しろ、中身はこの俺だからな!
ボーイズラブは全力で拒否する!
俺は乙女ゲームはやるが、男好きって訳じゃないんだ!
…さーて、青年の主張は終わったし、どうすっかなぁ。
いつまでも現実逃避はしてらんねーぞ。
誤魔化すように、優雅に茶を飲んでみてはいるが、いつまでも無視してる訳にはいかないしな、当然だけど。
とりあえず、俺の方から挨拶行かなくても良かったんだよな?
つーか、王子様に対して、幾らパーティーとは言え、アポ無しで直接話しかけに行くのは失礼だよな?失礼であってくれ。
向こうから俺に話しかけてくる分には大丈夫だよな?
別に話しかけてくれなんて頼んでないし、大丈夫だよな。うん。
「…仰せのままに、王子殿下」
考えてても良く分かんねーし、話してみることにした。
席を優雅に立って、頭を下げて、目線を合わせないで…。
「いい、顔を上げろ。話を聞きたいと言っているだろう」
「かしこまりましてございます」
国によって礼儀が違うのは、日本とアメリカとかでもそうだった。
最低限しか習ってない俺に生き延びることが出来るんだろーか。
ああ…蜘蛛の子を散らすみたいにいなくなったアイツらマジ羨ましい…。
いやいや、駄目だ駄目だ。
ユリアナたんは完璧な淑女、そして悪役令嬢だ。
俺がイメージを壊す訳にはいかん。
羨ましがってる場合じゃないぞ。
「それで?」
「?」
「話すべきことがあるだろう。僕達に」
「はぁ…話すこと、ですか」
突然偉そうにそんなこと言われても分からないんだが。
話すべきことなぁ。
俺の言いたいことならあるけど。
主人公のリラちゃんと出会うまで、他の女に声かけてんじゃねーよ!とか。
やっぱプレイヤーとしては、他の女に目移りして欲しくないんだよな。
男としては、こんな美幼女がいたら、声かけたくなるのも分かるけど。
ほら、完璧過ぎるし、ユリアナの容姿は。
可憐で高潔で愛らしくて美しくて可愛らしい。
ほら、完璧。
「御挨拶が遅れてしまいまして、大変申し訳ございませんでした。私、マルトゥオーゾ公が娘、ユリアナと申します」
流石の俺も、自重という言葉くらいは覚えている。
5歳の子供相手に、ブッ飛んだ会話テーマをぶつける気はない。
無難なところで、挨拶をしなかったことへの謝罪を述べておく。
ただし、よろしくとは言わない!
俺、別に便宜を図ってほしい訳じゃないからな。
変に穿った見方で見られたら堪らない。
くそー…これだから立ち場のあるヤツって面倒なんだよなぁ。
「そうだ!お前、何故挨拶に来なかった?」
「何故、と仰いますと?」
そもそも選択肢にすらなかったよ。
チラとばあやの表情を窺う。
うおう、睨んでる睨んでるー。
これ、素直に答えたら打ち首だな、リアルに。
「僕達のメイドが言っていたぞ。まるとぅおーぞの家に娘が生まれたのなら、僕達のこんやくしゃになるだろう、とな!こんやくしゃとは、父様と母様のような関係の者で、一生一緒にいる者のことだろう?」
「はぁ…」
「ならば、挨拶に来るのがスジというものではないのか?」
アルカ…お前、意味分かって言ってる?
いやぁ、これあんま分かってないだろうなぁ。
俺は溜息をつきたい気持ちでいっぱいになる。
確かに、嫡男だと殺されるらしいから、娘にしよう!ってバカな発想からこんな格好してるし、対外的にも娘になっちゃってるが、俺はれっきとした男だ。
両親もそれは認めてるし、予言にある18歳を過ぎれば男に戻してくれると……言ってはないが、まぁそういう感じっぽいから、恐らく両親は、俺に婚約者を作るつもりはないだろう。
貴族って言えば、結婚とかでいかにマウントポジションを取るかで争うイメージがあるが、うちの国も結構そういうのはあるらしい。
だから、本当なら俺にも早い段階で婚約者の一人や二人、決めておきたいっつーのが両親の本音だとは思うが…俺の現状では不可能だ。
幸いにして、うちの国の婚約から結婚までにかけての平均年齢は、結構遅い。
めちゃくちゃ早い人もいれば、めちゃくちゃ遅い人もいる。
一応、25歳くらいが平均だったかな?
最近の日本に比べりゃ早いか。
最近っつっても、俺もこの世界に生まれて5年だからな。
今はどうなってるか分からんか。
あっはっは。
だから、5歳そこそこで婚約者を決める必要性はあっても義務はないし、予言を潜り抜ける予定の18歳以降に決めても、何ら問題はない。
それまでは、両親が頑張って手を回してくれるんだろう。
頼むぜ、両親!
「(ただ…この話持って来たのが、俺より上の立場っつーのがイタイなぁ…)」
下手にその意思がないと取られても厄介そうだし、逆にめちゃくちゃ結婚したいと思ってると取られても厄介そうだ。
つーか、パワーバランス的に、俺ら結婚させて大丈夫なのか?
変に権力強い者同士が結婚しても良くなかったりとかー…分からんけど。
あー、グダグダ考えてると疲れて来るわー。
別にどう取られても良いか。
ガンバ、両親!
「アルカ殿下は、私とそんなに話がしたかったのですね。まさか、そんな風に思ってくださっているとは、夢にも思いませんでしたわ。気が回らず、お二人の時間を邪魔してはならないと遠慮しておりましたが…逆に御足労かけてしまうとは…どうぞお許し頂けませんでしょうか…?」
スラスラーと、あんまり思ってもないことを言う。
ちょいと失礼かもしらんが…どーでも良い!!
これ以上考えたら、頭パンクする。
「怒ってはいないから、許すも何もないが、お前と話したいと思ったのは、僕ではなく、弟の方だ」
「シエロ殿下が?」
「わああっ!お、お兄ちゃん!」
顔を真っ赤にして兄の後ろに隠れるシエロ。
見えてる見えてる。
ってか、何だ?
その噂話してたメイドの差し金とかじゃなくて、純粋にシエロが俺に興味持って接触して来たの?
えー…どうせなら、女の子に興味持ってもらいたかったー。
お姉様ー!とかさ。憧れねぇ?
あと、俺実は男なんだけどな…っていう背徳感みたいなの、凄く味わいたい。
「光栄にございます。それで、何のお話を致しましょうか?」
「えっ?あ、あの…ぼ、僕、その…ただ、さっき、立派に儀式が出来てて、カッコ良いなぁって思っただけで…えっと」
しどろもどろなシエロ。
うーん、これが内面はともかく、外面は心優しい完璧王子になるんだから、時間って不思議だよな。
てか、マジで言ってる?
俺カッコ良かった?ユリアナカッコ良かった?
いやぁ、嬉しいじゃねーか!
純粋な子供の意見ほど嬉しいもんはない。
なんてったって、まだこいつら5歳だからな。
そんなえげつない嘘ついたりはしないだろう。
つまり、本音!
「うふふ。立派に儀式をこなせるのは当然の話ですわ。私は、ユリアナ・マルトゥオーゾですもの!」
「わぁ…!」
ドヤァ!と胸を逸らしてみたら、シエロが目を輝かせてくれた。
ばあやには睨まれたけど。
ごめん、ばあや!
沸き上がる衝動を堪えることが出来なかったんだ。
これはあれだよ、俺の業みたいなものだよ。
くっ…中二心が疼くぜ!!
「あれ、シエロ。僕達呼ばれてるぞ」
「あ…本当だ」
パッと見てみると、世話役なのだろうか、男の人が此方へ向かって来ている。
おお、お迎えか。
そういや、周囲に大人の姿なかったし、独断で動いて来たのか。
いやー、良かった良かった。
これにて一件落着ってところだな!
「あ、あの、お話してくれて、ありがとうございました…」
「時間を取らせたな。僕達はもう行く」
「ええ、お気を付けて」
「その内また話すぞ。じゃあな」
「さようなら」
優雅に手を振って見送る。
ふふふ。
また話そうっつー言葉に対して、返事を濁す大人のズルさよ。
ま、些細な抵抗だろうけどなぁ。
どーせそんな細かいこと、あいつら覚えてないだろうし。
「ユリアナ様!あんなに殿下とお話になるなんて素晴らしいですわ!」
「ユリアナ様は、王子殿下と御結婚なさるの!?」
「ぼ、僕ともお話していただけませんか?」
おおー。
王子二人がいなくなった直後、さっきまで俺を遠目に見守っていた奴らが、ザッと押し寄せて来た。
王子効果マジウケる。
いなくなった瞬間にやって来るとか。
「普通のことでしてよ」
サラリと答えれば、キャーカッコ良い!と黄色い声。
これだよ、これだよ。
中には男もいるけど、女の子に騒がれるのって男の夢だよな!
あれ、俺だけか?
良いんだよ、理解者がいなかろうが、俺は夢だったんだよ。
「ただ、結婚は遠い未来のお話ですもの。国や家の為になる結婚ならば、喜んで致しますけれど…まだ分かりませんわね」
おっとなー!みたいに言ってる女の子たち、超可愛い。
あと、すげーマセてんな。
だって、ここにいる子たち、みんな5歳だぜ?
俺らの5歳の頃なんてこんな感じだったっけか?
俺なんてその頃、常に公園に繰り出してたから女子の話なんて知らないからな。
「少々よろしいですかしら?」
「あら」
ボーッとどうでも良いことを考えていると、キリッとした、将来美人になるだろうなっていう雰囲気の女の子が、睨みつけるが如く近寄って来た。
またザッと空間が開く。
けど、今度の来客は大歓迎だ。
何しろこの子は…俺のマリアンヌだったからだ!
「ローゼンシュタック家の、マリアンヌ様でしたかしら」
「!わ、私のことを御存知なのですか?」
「ええ、勿論ですわ。貴女みたいなお美しい方を覚えないはずがございません」
あれ、厭味に聞こえたのかな。
何か悔しそうに唇を噛み締めて俯いてるんだけど…。
…あ、違う。
これ照れてるんだ。
ほっぺ赤いもん。
何だこの可愛い生き物は!撫で回してぇ!
「恐れながら!ユリアナ様は、本当に殿下と結婚するか分からないのですか?」
「ええ、勿論ですわ」
「殿下ほど、す、素敵な方が相手ですのに、どうして?」
ん?
結婚する気ないって話になってる?まぁないけど。
女の子の話は、良くブッ飛ぶから分からんな。
えーっと、どう解釈するべきだ?
誰か俺にモノローグをくれ!!
「私は家の為に生きておりますので、私の意思など関係ございませんわ」
「ユリアナ様…!」
感動したような顔してるけど、俺当たり引けた?
本当ならなー…こんな政治的な話じゃなくてさ、趣味の話とか菓子の話とかで気を引いて、俺の魅力にメロメロにしてあげる予定だったんだけどなー。
これじゃ、スタートダッシュは失敗だ。
まぁ、人間生きてるんだから、そー簡単にゃいかないよな。
諦めないけど!?
「良かったです!私…私、殿下のお嫁さんになりたいんです!でも、ユリアナ様には勝てないと思ったから…だから、嬉しいです!」
笑顔眩しいっ!
っつーか、そういう意味かい。
牽制に来たってことか?
女子怖い!!
そこまでの意味はないんだろうが、俺が王子と結婚する気ないよ!って情報を裏打ちしに来た感じになってるよ。
やべぇな、俺のマリアンヌ。超可愛い。
そして、おい王子。
どっちか知らんが、俺のマリアンヌの気を引くとは許すまじ。
俺なんて恋のライバル認定しか受けてないっつーのに。畜生め。
「それでは、御前を失礼致します!」
「ええ、また」
マリアンヌにはまたって言うぞ。
幾らでもまたの機会を作ってやるぞ。
そんで、いずれ王子越えしてやる…!!
幼女だからって手は抜かないからな。
ギャルゲーと乙女ゲーで鍛えた恋愛テクが火を吹く時が来たようだな。
待ってろよ、マリアンヌ!!
「ユリアナ様。少々よろしいでしょうか?」
「何ですの、ばあや。私、今考え事で忙し…」
「ユリアナ様?」
「……分かりましたわ」
つっても、本気出すのは明日からだ。
俺はこれから、ばあやの説教部屋という名の戦場に行かないといけないらしいからな。
気付いたらパーティーももうお開きっぽいから、これは逃れられない強制イベントと言っても過言ではない。
俺これ死ぬかもしれない。でも生きる!
…はぁ、明日から頑張ろう。
クリス「うふふ。ユリアナ様、素晴らしいですぅ。男の子に囲まれる姿は女の子、けれど中身は男の子。うふ…うふふふふ……」
クロ「…クリスって、もしかして腐じょ……コホン。聞かなかったことにしておこう」