03.俺の光源氏計画を聞けー!
さぁ、今日はいよいよ命名式だ!
さて、面倒ではあるが、一応どういうものは振り返っておこう。
命名式とは!
5歳未満で亡くなる子供が多かった頃、うちの国の貴族は跡取りとして公表してから、その子供が亡くなってしまうことによって起きる、相続における混乱を防ぐ為に、5歳に達する前の子供は、自分の子供として認識しないことに決めた。
その頃から残ってる名残の儀式で、貴族の子女は生まれた年を0歳として、一年を経る度に1歳年を取って行くという、数え年マイナス1歳計算で5歳になった時に、晴れて名前を与えられ、ようやくその家の子供として認められる。
そんな儀式である。
その年に5歳になるうちの国の貴族の子供全員を集めて、盛大に行われるのが命名式の本体になる訳だが、その前日とか、数日前に内々で名前を決めて、門外不出の家系図にその名前を書き足すっつー流れも、命名式と呼ばれるらしい。
俺はそっちはもう終えている。
ちゃんと男としての名前を書いておいたから安心してね、って母さん言ってたけど、大丈夫?信じて良いんだよね?見せてもらえなかったけど、ユリアナって書いてないよね?
ふいー。
若干5歳にして、既に疑心暗鬼だぜ…。
女の子の身体に変身出来て、キャッキャウフフしてたけど、俺は別に心底女の子になりたい訳じゃないからな。
男の俺の居場所も認めてね、母さん!
「それではユリアナ様。着つけを致しますので、変身して頂けますか?」
「分かっておりますわ」
ああ、そうそう。
昨日ちょこちょこ実験して判明したんだが、超変身は、別に口に出さなくても、頭の中で思い描けば変身出来るらしい。
そんで、テンション上がりまくって、色んな格好に変身してみたんだが、気付いたら寝落ちしてたっぽくて、朝起きたら、何かすげーイケイケの風俗嬢みたいな姿だったんだよな。
これって、自分の意思で解除したい!って思わない限り、変身解けないってことだろう!?すげぇ!
因みに、俺が正確に造りを思い描けるものに関しては、動物から物から、何にでも化けられることも分かった。
何なら、姿は変えずに服だけ変えることも可能だった。
口に出さなくても変身出来て、自分の意思で解除しない限り変身は解けなくて、俺が勉強すれば何にでも化けれる?
超変身、マジ万能!!
これからも、超変身先生にはめちゃめちゃお世話になるだろう。
いやぁ、先生には足を向けて寝らんねーな。
あっはっは。
「あら、まぁ。良く似合っておりますわね、流石私の娘」
「お母様、お久しぶりでございます!」
俺は、麗しの母さんの声に、パッと可愛らしい笑顔で振り返る。
ああ、任せろ。
今の俺は最高に輝いている。
誰も中身がアラサーお兄さんとは思うまい。
ん、誰だおじさんじゃないかって言ったのは。
鈍器に化けてブン殴るぞ。
「お会い出来て、ユリアナは嬉しゅうございますわ」
「あらあら。甘えん坊さんだこと」
思い切り抱きつきに行けば、母さんは優しい笑顔で抱きしめてくれる。
くふふ。堪りませんな。
何だこの細い腰は、けしからん。
これで人妻だぞ?信じられるか、皆の衆。
俺の母さん世界一!
「ああ…会いたかったよ、僕の息子!クロー……ド?」
母娘の感動の再会を果たしていると、品の良い、でも妙に気が弱そうな男がやって来た。
母さんとは全然タイプの違う、茶髪に金目の男だ。
おう、何じゃこら。
何でこんな天使みたいな子を見てフリーズしとるんじゃ。
失礼だろが、コンチクショウめ。
内心で悪態をつきながら、疑わしげな視線を向けていると、男はハッと我に返ったように、母さんに視線を向けた。
「僕の息子が娘になってる!?ちょ、え、どういうことですか!?」
「落ち着いてくださいませ。それでもマルトゥオーゾ公ですの?」
母さんが呆れた様な視線を返す。
マルトゥオーゾ公ってことは、やっぱ親父ってことだよな。
ちょ、全然似合ってないんだけど、この夫婦。
母さん、もっと相応しい人いたんじゃね?
「いやいや、だって!魔術破り装備してる僕の目すら欺く魔術を覚えたなんて聞いてないですよ!?僕の息子は天才ですか!?」
「何度も言わせないでくださいませ」
母さんのピシャリとしたひと言で、ようやく親父は黙る。
そして、マジマジと俺のことを見つめる。
ここはひとつ、完璧なこの俺の挨拶を見せてやるか。
「お初にお目にかかります、お父様。私、この度ユリアナという名を頂戴することに相成りました。これからもマルトゥオーゾ家の名に恥じぬよう精進して参りますので、今後ともよろしくお願い致します」
スッと習った通りにスカートをつまみあげて一礼。
ふっ…完璧だぜ!
どうだ、どうだ親父?
可愛いだろ!
そっと顔を上げて、親父の顔を盗み見る。
すると、急にダーッと滝のような涙を流し始めた。
…急にどうした親父ィ!?更年期か!?まだ若そうだが!
俺と同じ年齢に見えるが!!
「初めての子が…期待してた通りに息子だったのに…どうしてこんなことに…」
「泣くのはおよし下さいませ。あれ程話し合ったではありませんか」
「…確かに、死ぬよりは…いや、やっぱり死ぬ程辛い!ごめんな、クロード!」
ガシッと俺を抱きしめる親父。
ちょいちょい、痛い痛い。
抱き締められるなら母さんが良いよ。
だって、親父細身に見えて意外と筋肉質だもんさ。
精神的にも、同年代の男に抱き締められるとかイタイぜ。
けど言わないさ。
俺はこう見えて、空気は読める男だからな。
「うぅ…クロード。せめて家族しかいない家の中では、いや!せめて僕の前くらいでは、普通に男の子でいてくれて構わないからね…」
「本当!?」
「勿論!約束するよ」
思わず嬉しさのあまり声を上げてしまった。
いかんいかん。
年がいもなく興奮してしまったようだ。
男でいて良いって言われて、ここまで嬉しく思えるとは。
意外とストレスだったようだ。
…親父!ガス抜きさせてくれるなんて、良い人だな!
母さんに似合わないって言ってゴメンな。
最高にお似合いの夫婦だぜ!!
え、調子が良い?
おいおい。それが俺ってもんよ。
「ところで、クロードって俺の名前?」
「そうだよ。普段はまぁ…ユリアナって名乗ってもらわないといけないけど、君の名前は、ちゃんとクロードって男の子の名前だからね!」
ほほう。
何か結構格好良い気がするのは俺だけか。
この場でそんなこと聞ける相手いねーし、俺がそう思えばそれで良いな。
格好良いぜ、クロード!
しかし、何か前世の名前と似てないか?
黒斗。クロード。
……クロードのが格好良いな。カタカナって何か良いよな!
カタカナ表記じゃないけどさ。
「ユリアナ。気を抜いてはなりませんよ」
「お母様」
「これから我が家の娘として紹介されれば、嫌でも注目の的になります。決して貴方の秘密が漏れないよう、細心の注意を払わねばなりません」
「お任せください、お母様」
「うぅ…クロードぉ…」
母さんの言葉に、俺はニッコリと完璧な笑みを浮かべて軽く腰を折る。
親父っつー男の俺の味方がいれば、俺は平気さ!
ま、いなくても全然大丈夫なんだが。
親父のがヘコんでるし、それは言わない約束ってヤツだな。
「それでは、二人共。ユリアナのこと、頼みましたよ」
「承知致しました」
「精一杯努めさせて頂きますぅ!」
母さんに、ばあやとクリスが深く一礼する。
満足そうに頷いた母さんは、まだ名残惜しそうな親父を引っ張って退室する。
うーん。見事なカカァ天下。
親父って、多分爵位的に超エライ人っぽいんだけど、あれで大丈夫なんかな。
「ユリアナ様。気を取り直しまして…きちんと式次第は頭に入りましたか?」
「勿論ですわ、ばあや」
「では、当家にとって付き合うべき人とそうでない人は?」
「うふふ。お任せくださいな」
ばあやの最終確認に、俺は悪い笑みを浮かべる。
やっぱ、マルトゥオーゾ家は爵位が高いから、付き合うべき人には気を付けなければならない。
耳タコレベルで、めちゃくちゃ言い聞かせられた。
当然暗記はしたんだが……それよりやらねばならないことが俺にはある!!
神官を前にした儀式が終わると、社交パーティー的なお披露目会がスタートするんだが、5歳の子供に、そこまでレベルの高いことが出来るはずもない。
実質そこは、親同士の繋がりを求める場だ。
とは言え、子供から何らかの繋がりを得られる場合もある。
爵位が高いうちは、繋がりを求めて話しかけてくるヤツらの中から、取捨選択して友達を選ぶ立場にある。
まさに、選びたい放題だ。
その中で俺は…ユリアナたんの取り巻き3人衆と友だちになってやるのだ!!
分かる?分かるか?
悪役令嬢には取り巻き、取り巻きには悪役令嬢。
切っても切り離せない関係にある3人は、全員貴族令嬢だ。
ゲーム中の会話から、全員同い年だというのは分かっている。
つまり!今回の命名式で必ず会えるはずだ。
一人は、マリアンヌ・ローゼンシュタック。
気が強くてプライドが高くて美人。
取り巻きのリーダー格。
一人は、カティナ・フロウゼルン。
単純明快猪突猛進。
ちょっと脳筋タイプのお嬢さん。
一人は、サフィヤ・メストイア。
穏やかほんわり癒し系。
食いしん坊なぽっちゃりさん。
果たして、彼女たちはどんな幼女なのか。
今から楽しみ過ぎる。
純粋に会うのも楽しみだが、考えてもみてほしい。
俺の中身は大人だ。
それで、彼女たちの成長した姿は頭に入っている。
つまり!
幼い今の内に知り合っておけば、場合によっては俺の好みの感じに矯正することが可能なのではないか!?
これは俺の人生にとって、超重要なイベントになるぞ。
名付けて、光源氏の紫の上育成計画!
…まんまだな、変えるか。
クロードのクロードによるクロードの為の光源氏計画!
…地味だな。
まぁ、良い。名前なんて器でしかないのだ。
何でも良いんだよ、何でも。
例えばだ。
ゲーム中では、気が強くて、ユリアナを慕ってはいるっぽいけど、どこか打算的な雰囲気のするマリアンヌを、ベッタベタに懐かせることが出来るだろ。
例えばだ。
ゲーム中では、考えなしで、結構すぐにユリアナを引っ張り回す雰囲気のあるカティナを、思慮深い落ち着いた美人にすることが出来るだろ。
例えばだ。
ゲーム中では、常に何かを食べていて、ぽっちゃり…通り過ぎてね?な感じのサフィヤを、スレンダー美女にすることが出来るだろ。
あっ、俺ぽっちゃりも好きだけど、好きだけどさ!!
夢が膨らむ。膨らむぜ…!
分かる?俺の取り巻きだよ?
これから先の貴族人生、常に彼女たちと共にあるんだよ?
俺の好みの女に育てて何が悪い!!
そう上手くいかねーだろ、と思ったそこの紳士諸君。
俺はやるっつったらやるタイプだぞ。
知らないのか。
任せろ!俺のハーレムを上手く築いてみせようぞ。
幸いにして、地位だけは無駄にあるからな。
超キモい、と思ったそこの淑女諸君。
男なんてこんなもんだ!と言って石を投げられるのはゴメンなんで、一応言っとこう。
多分俺だけだ。こんなこと考えるのは。
根拠ないけど!!
「準備はよろしいですか?参りましょう」
「さぁ、どうぞ此方へ…」
ばあやの声がかかる。
クリスが部屋の扉をゆっくりと開く。
あっ、今日だけはドジ属性発動させなくて良いからな!
「ええ」
厳かに頷く俺、プライスレス。
3人に尊敬される、完璧なお姉様を演じなければならない。
だが、完璧なお姉様像なら頭に入っている。
オールオッケーだ。
「では、参ります!」
さぁ、勝負の幕が開くぞ。
ここから、一歩でもミスれば、俺のハーレム計画は早くも頓挫してしまう。
気を抜くな、クロード!頑張れ、ユリアナ!
俺はやったるぞー!!
………。
…………そういや、攻略対象の王子も同じ年だったな。
……………別にどうでも良いか。男だし。
クロ「夢が膨らむぜ~!」
管理人「(ああ…不安が膨らみます…)」