02.超変身能力を手に入れた!
はいはい、皆の黒斗くんだぜー。
うーむ。イマイチ!
もうちょっと面白い名乗りを考えないと、後世の人に飽きられちゃうよな。
後で考えておこう。
俺が母さんから、女の子になりなさい!ってな衝撃的な指示を受けて数日後。
一体何を仕込まれるんだろう、とちょっとは戦々恐々としていた訳だが、予想より遥かに面白い手段で女の子になる、とのことだった。
「坊っちゃん。…いえ、ユリアナ様。これから私がお教えするのは、変身と呼ばれる魔術です。自らの姿を変える、少し特殊な魔術ですが…ユリアナ様は筋が良くていらっしゃいますから、すぐに覚えられるでしょう」
「はーい!」
「ユリアナ様!返事は伸ばさない。それと、お嬢様らしくですよ」
「分かりましたわ」
「よろしい」
お嬢様言葉なら任せろ!
俺の嫁、ユリアナたんの話し方は完璧にマスターしている。
どれだけやり込んだと思ってるんだ。
…まだユリアナたんルートプレイしてなかったけどさ。
おっと、それよりも、俺に与えられた指示は、人前に出る一週間後までに、完璧に魔術を習得しろ、とのことだった。
変身という魔術を覚えれば、妨害魔術とかを仕掛けられてない限り、まず本当は男だと気取られることはないらしい。
つってもなー。
妨害魔術使える人のところに行ったら、俺変態認定じゃん?
まだ良いけど、俺女装18歳くらいまで続けるんだろ?
その頃にはすっかり変態じゃん。
別に良いがな!
なんて思いつつ、俺は一生懸命練習に取り組んだ訳だ。
まぁ、さっぱり全然上達しなかったけど!
あはははー。
「笑いごとではありませんよ、ユリアナ様!明日までにマスターして頂かなければマルトゥオーゾ家の子としてお披露目が出来なくなってしまいます!」
「いやぁ、なんとかなるって、ばあや!」
「その根拠のない自信はどこから来るのですか?まったく…あと言葉づかい!」
「何とかなりますわよ、ばあや」
「はぁ…」
ごめん、ばあや!
根拠のない自信は昔からだ。
つっても、鏡を見てみれば、自分で言うのもなんだが、イケメンが映ってる。
これなら、化粧で何とでも誤魔化せると思うんだ。
魔術を覚えるまでに何とかすりゃ、別に良くね?
『……』
「ん?」
「どうかなさいましたか、ユリアナ様?」
「ばあや。今何か言いまして?」
「いえ。クリス、今何か言いましたか?」
「わっ、私ですか?め、滅相もございません!」
ふーん、聞き間違いかな。
あ、因みにクリスってのは、あの巨乳メイドちゃんの名前だ。
マルトゥオーゾより下の位の貴族の娘で、行儀見習いに来てるらしい。
道理で品の良いおっぱいだと思ったぜ。
是非いつかペロペロさせて頂きたい。
『…し、』
うーん、やっぱ聞こえるな。
俺は、一旦休憩したいと言って自分の部屋に引っ込む。
疲れから来る耳鳴りとかも考えたけど、そういう訳でもなさそうだ。
はっ!もしかすると、神からの天啓か!?
よし、耳を傾けてみよう。
『とな……に、…超変身……です…』
メタモルフォーゼ?
何だ、その魔法少女的な言葉は。
首を傾げながら、更に耳を澄ませてみたが、それ以上は何も聞こえなくなった。
やっぱ気のせいだったのかな。
まぁ良い。
とりあえず挑戦してみよう!
マジで神様からの天啓かもしれんし。
丁度人はいないからな。
俺は、パッと全身を映せる鏡の前に立つと、日曜朝のライダー的なポーズを決めながら、決めゼリフを叫んでみた。
「いくぜ!超変身!!」
そりゃ何も起こらんよな。
…っていう言葉を用意していたんだが、直後、一瞬で俺の身体が変化した。
「……おいおい、成功してるぞ……」
流石の俺も唖然として鏡を眺めた。
そこには、俺の想像した通りの、気が強そうなつり上がった大きなお目目に、幼児体型、クリクリのドリルが似合いそうなロングヘアーと、三拍子揃った美少女、いや、美幼女、ユリアナたんが映っていたのだ。
「うおおおお!!ユリアナたん!やべぇ、天使!俺の理想がそこに!!」
残念ながら、それは俺なんだが、それはどうでも良い。
俺は急いで胸を触り、股間を触った。
言葉を濁せ?うるせぇ、それどころじゃねぇ。
ないんだけど!
どっちもないんだけど!
…ああ、いや、胸はまだないな。幼女だし。
っていうか、相棒がいねぇ!
変身の魔術って、所謂幻覚的なもので、触れられればバレちゃうって聞いてたけど、これ普通にありませんけど!?
「ばあやー!クリスー!!大変ですわ、来てくださいましー!!!」
慌ててても、ちゃんとお嬢様言葉言う俺、偉いだろ。
そういう場合じゃないけど。
「どうなさいました、ユリアナ様って、あいたー!!」
「お行儀よくなさい、クリス!…ユリアナ様、如何致しましたか?」
バン!と扉が開いて、ドジっ娘属性も備えた、優秀な巨乳メイド、クリスちゃんが突入しながら滑って転ぶ。
可愛いわー、癒しだわー。
俺はほっこりしながら、ばあやの方を向く。
「変身は使えませんでしたけれど、もっと素晴らしい魔術を習得致しましたわ!」
「こ、これはまさか……」
ばあやが、驚いたような顔をしながら、慌てて俺に近付いて来て、ペタペタと全身をまさぐる。
いやん。優しくしてね。
「ユリアナ様。どのようにしてこのような魔術を?」
「わぁ!可愛いです、ユリアナ様!本当の女の子ですね~」
「そうです!それよりも、元に戻れるのでしょうか?」
「落ち着いて下さいな、ばあや。勿論、元にも戻れましてよ。超変身!」
元の姿を思い浮かべて唱えれば、また相棒が帰ってくる。
ふ、お帰り我が友よ。
小さくても、やっぱりお前がいないと寂しいぜ。
「こ、こんな魔術が存在するだなんて…ユリアナ様は天才ですわね…」
ばあやが、目を丸くして呟く。
長く生きてるばあやがそんなに言うなんて。
俺って、マジ天才。
やべぇな、マジで第二の人生チョロいんじゃね?
「うふふ。当然ですわ。私を誰だと思っておりますの?」
渾身のドヤ顔を二人に送ると、拍手が返って来た。
いやいや、それ程でも。
「しかし、これでお披露目パーティーも安心ですね。ばあやはホッとしました」
「心配かけて悪かったですわね、ばあや」
「いいえ。ばあやはユリアナ様を信じておりました」
「素晴らしいです、ユリアナ様~」
もっと褒めてくれても良いのよ?
俺は調子に乗りまくりながら、もう一度ユリアナたんの姿になる。
とりあえず、この姿に変身した状態でどんくらいもつのか確認しないとな。
おっと、誰だバカにして来たのは。
俺だってそんくらい考えるわ。
「ユリアナ様、その魔術はどのくらい継続出来そうですか?」
「試してみないと分かりませんけれど、今のところは問題なさそうですわ」
「それでは、今の内に明日着る衣装の準備を致しましょう。クリス!」
「はわわっ、急いで準備致します!」
ばあやの指示を受けて、慌てた様子でクリスちゃんが部屋を飛び出した。
遠くの方から、あいたー!って聞こえてくるんだが、大丈夫か。
ドジっ娘メイドは伊達じゃねぇな。
俺には真似出来ないあざとさだぜ。参考にしよう。
「それにしても、本当に良く化けておりますね…」
「ふふふん。私、魔術の天才かもしれませんわね!」
「調子に乗らない!」
「かしこまりましたわ」
まぁ、調子に乗るんだけどな!!
だって俺スゴくね?
何か神の天啓もらって一発成功って、神ってね?
つーかこれさ、もしかして他の姿にも変身出来るんじゃねーかな。
俺は、ばあや達の着せ替え人形と化しながら、そんなことを考える。
トイレまで出来る、完璧な幼女に変身出来るこの魔術なら、なりたい姿に変身し放題って訳だ。
何だその俺の天下っぷりは。
やっぱ俺第二の人生神がかってんな。
早速試してみよーっと。
「ふむ。衣装はこちらで良いでしょう」
「わああ!ユリアナ様可愛い!素敵ですぅ!」
「まぁ、ばあやの手にかかれば、このくらい当然ですわね」
「褒めても何も出ませんよ、ユリアナ様」
ハッと気付くと、衣装は決まっていた。
えーと、何だっけ。
明日のお披露目パーティーで着る衣装だっけか。
春の妖精を思わせる、ふわふわとした薄桃色のでっかいリボンの付いたドレス。
可愛らしく編み込まれた黒髪。
…天使!!
何だこの天使は。嫁か?俺だ!
内心でものすごーく感動しながら、ばあやを褒めておく。
ちょっと嬉しそうなばあや。
ばあやの好感度上げちまったぜ、テヘ。
興奮して、ほっぺがちょっと赤くなってる俺。
普通に俺の姿だったら気持ち悪いだけだが、外見は俺の嫁、ユリアナたん。
しかも幼女バージョン。
可愛い以外感想なんてないぜ!
何で俺なんだ!畜生、悔しい!でも感じちゃう!萌えを!
くるり、と一回転すれば、鏡の中の美幼女も一回転。
ふわりとスカートが揺れる様は、どう少なく見積もっても天使。
うっとりと鏡を見つめていると、ばあやから指摘が入った。
「コホン。お気持ちも分からないでもありませんが、自重なさい。ユリアナ様、あなた様は普通の女の子なのですよ。そのような顔で自分を見たりは致しません」
「き、気を付けますわ」
どんな顔で見てたんだ、俺。
ちょっとうっとりしてただけだよ?
ヨダレとか出てたけど、可愛いだけだったよ?
だってほら、俺まだ5歳だし。
「でも、本当に可愛らしいですねー、ユリアナ様。見惚れちゃうのも分かります」
ニコニコと褒めてくれるクリスちゃんも天使だわ。
何食べたらこんな良い子が出来あがるんだ。
そっと甘える感じでおっぱいに寄りかかってみたら、撫でてくれた。
はわわー、なんて最高の環境なんだー。
鏡に映る姿は、天使しかいないし。
やべぇ、このまま昇天しそう。
「ユリアナ様?」
「はっ!べ、別に撫でてもらって嬉しくなんてありませんことよ!」
ばあやの後ろに般若が見えたんで、俺は慌てて離れた。
柔らかい感触が離れてしまって至極残念なんだが、命には変えられない。
まだ、ここは俺の死に場所ではないのである。
「明日は、多くの人が集まりますから、油断なさいませんよう。これから式次第も覚えて頂きますからね?」
「任せてくださいな。私に不可能などありませんことよ!」
ドン、と小さな胸を叩く。
やっぱり、悪役令嬢ユリアナとしては、何でもソツなくこなさないとな。
別にイメージを頑なに守ろう、とまでは思わないが、俺の嫁が完全にこの世界からいなくなるのはイヤだし。
ツンデ令嬢ユリアナたんは、何でも出来てこそのユリアナたんだしな。
中身が俺であろうが、俺の嫁は俺が守ってみせる!
「お父上もいらっしゃいますから、頑張ってくださいね」
「えっ、お父様が、ですか!?」
ばあやの言葉に思わずギョッとする。
おいおい、父親って初めて会うんじゃないか?
サラリーマンの親父よろしく、俺が寝た後に帰宅してたーとかならあれだけど、俺父親と会ったことないぞ。
記憶にない、記憶にない。
「そう言えば、直接お会いになるのは初めてでしたか」
「ええ…」
「大丈夫ですよぉ!旦那様は穏やかで優しい、素晴らしい方ですから!」
クリスが、ポッと頬を赤らめてそう主張する。
ちょ、親父どんだけイケメンなんだよ。
ちょっと楽しみになって来たじゃないか。
いやー、顔は肖像画で見てて知ってるけど、穏やかで優しい素晴らしい方、なんて褒められ方するってことは、中身もイケメンってことだろ?
すげーな。流石ユリアナたんの親父。
そうでなくっちゃ。
「分かりましたわ。私、お父様に恥じない、素晴らしい淑女を演じてみせます!」
「演じるでなく、そうなってください。ユリアナ様」
「…善処しますわ」
いやいや、内面からはムリでしょ。
中身、俺だよ?
アラサーの、俺だよ?
外見だけで許して、ばあや。
俺、頑張るからさ!
「さぁ、時間はありませんよ。早速練習を開始しましょう…まずは……」
さて、辛い時間が幕を開けるが、なぁに。
人間やる気になりゃ、何でも出来るもんだ。
俺はやってやるぞ!
折角チート変身能力を頂けたんだ。
楽しまなきゃ損ってもんだからな!!
「ユリアナ様!腰が引けていますよ!もっと優雅に!!」
……流石の俺も、楽しめないかもー。
管理人「ああ…上手く伝わったでしょうか…(ハラハラ)」
ユリアナ「イエーイ!俺の天下ァァ!」
管理人「…駄目かも…」