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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第一章/木になった俺と、最果ての森の四種族
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02.不親切な百科事典(仮)

 [世界]の欄が開くように強く念じると、再び電子音のようなものが響く。

 身体が植物な事もあり、こういった音を耳にしていると、余計にVRゲームでもやっているような気持ちになる。

 …いや、ここまでリアルなVRゲームは未だ存在していないのだから、あり得ない事は理解しているのであるが。


 それはともかく、電子音が止むと、[世界]と書かれたアイコンの下に、ズラッと新しいアイコンが並ぶ。

 また目次か。


 [全体][国・地域][ヒト]


 うーん…?

 良く分からない時は、とりあえず端からだ。

 俺はそう考えて、全体を開く。

 すると、まだ目次が出て来た。

 多い……少しだけ億劫になる。


(まぁ、でも今の所これしか状況を改善出来る可能性はないし…)


 [概要][詳細][歴史]


 幸いにも、これで終わりそうな感じのタイトルだ。

 俺は胸を撫で下ろしながら、概要を開く。

 すると、今度は目次が出てくるのではなく、今まで開いて来たアイコンの下方に文字が現れ始める。

 どういう理屈なのか、見やすいように薄っすらと半透明の下地が付いている。

 ますますゲームだ。


(えーと、なになに…?)


 [概要]


 <箱庭世界ネダーグ。地球から見ると、『異世界』にあたる>


(……これだけ??)


 この文章をそのまま信じるのであれば、ここが異世界である、と確定しただけということになる。

 そもそも、こんなシステムのような物を体験しながら、今更異世界だとか確定出来たところで、メリットってあるのだろうか。

 とりあえず、死亡に関する懸念事項が増えただけだ。


 俺はつけるのか分からないが、溜息をつきたい気持ちに駆られながら、もう一度同じ文章を読んで行く。

 すると、下の方に小さく注意書きのような物があるのを発見した。


 <※情報の開放条件は以下の通りです>


 何度でも言おう、ますますゲームだ。

 開放条件って何だ。

 要するに、その条件を満たせば、もっと詳細な情報が見れるって事か。

 ゲーム以外の何ものでもない。


 とりあえず、俺は開放条件を眺めてみる。

 けれど、今のところ開放出来ない、という事が分かるだけだった。

 あと、開放条件が多過ぎる。

 情報によって細かく条件が分けられていると見るべきだろう。

 ややこしい!


 ここまで来て、俺は何となく嫌な予感に晒される。

 考えてもみて欲しい。

 世界に関する概要で、これだけ公開されている情報が薄いのだ。

 他の詳細なんて、当てになる訳がない。


 俺は慌てて画面を開いた時と同じように、閉じるように念じる。

 すると、思い通りに前のコマンド選択へと戻る。

 そして、すぐさま詳細を開く。


 [詳細]


 電子音と共に詳細のページが開く。

 かと思いきや、今度は文字が開くのではなく、左端に一つアイコンが現れた。

 そこには、最果ての森、と書かれている。

 俺は迷わず選択した。


 【最果ての森】


 <フローリカ大陸最東端に位置する広大な森。

 四種族が覇権を争い続ける土地として有名。一時的に停戦協定を結んでいるが、完全に安全とは言い難い。水、木、風の魔素が強い>


 俺の良く知るファンタジーだ。

 いや、冷静になれ。この文章、注意すべき事が書かれてるぞ。


 四種族の内容までは分からんが、覇権を争うって、結構ヤバいだろ。

 俺、植物だぞ。

 巻き込まれて燃やされたりしないだろうな。


 まぁ、俺は植物だし、敵対関係にはならんだろうが。

 寧ろ火をかけられたり、一方的に蹂躙される可能性の方が高いな。

 何それ怖い。


 この取扱説明書?というか、百科事典?に、何とか対処して生き延びる方法でも載っていれば良いんだけどなぁ…。


 そう思いながら、俺は目線を下にずらす。

 そして俺は、入手条件と書かれているのを発見する。


 <達成【最果ての森】情報入手条件:最果ての森に足を踏み入れる>


 どうやら、俺が詳細を読めたのは、この森にいるかららしい。

 足を踏み入れるって言うか、俺()えて来たんだけどな。多分。


 他の用語で少し色が赤いのは、リンクが出来るって事だろうか。

 そう思いながら、フローリカ大陸を選択するように意識する。

 すると、今度は下の方に条件が現れた。


 <未達成【フローリカ大陸】情報入手条件:大陸全体の八割を踏破>


 八割って…無理だろう。

 俺はガクリと肩を落とす。落とせる肩があったら、だが。

 ともかく、この一つに拘っていられない。

 諦めて他に…と思ったら、もう二つ別の条件がある。


 <フローリカ大陸の地図を入手>

 <フローリカ大陸について詳しいヒトから説明を受ける>


 どうやら、いずれかを達成した時点で解放されるようだ。

 けれど、俺は今足を持たない植物。

 しかも人里も見えぬ森の中。

 いずれも達成出来るようには思えない。

 …まぁ、八割を踏破、よりは余程現実的だけどな。


 とにかく気を取り直して、俺は更に詳しい説明が見れそうな単語を探す。

 結果は…まぁ予想通り、と言った所だったが。

 種族に関する情報の入手条件は、その種族と会話を一定数会話をかわす、と言ったそこまで難しくない条件になっているが、俺は会話が出来ない。

 絶望的だ。


 属性、魔素なんて言う心躍るワードも、それらについて教授を受ける、実際に使うなど、今の俺には出来そうもない条件ばかりだった。


 因みに、画面を戻って歴史。

 真っ白だった。

 条件ばかりが羅列されていて、読ませる気ないだろ、と突っ込みたい気分だ。


 歴史は諦めて、更に画面を戻し、国・地域を選択。

 案の定真っ白だ。

 けれど、入手条件は非常に分かりやすいもので、該当の国・地域に足を踏み入れる、とシンプルな一行だけだ。

 歩ければ非常に簡単に情報を得られるのだ。


 ……そう。歩ければ。


(何で俺植物なんだ…ガッカリだよ!!)


 ああ、動きたい、歩きたい。

 失くした記憶も気になるが、目の前に広がる広大な世界は、ファンタジー世界だとなれば、今はそちらを冒険したい、という欲求の方が大きい。

 馬鹿だと思われるかもしれないが、仕方あるまい。

 これはロマンというヤツだ。


 勇者じゃなくて良い。魔王にもならなくて良い。

 最強じゃなくて良い。ハーレムじゃなくても良い。

 ただ剣と盾を持って、広大な世界を冒険したい。

 魔法使いたい。


 …やめよう。虚しくなる。


 話を戻して、ヒトの欄に移動する。

 すると、先程までと違い、アイコンが幾つか出現している。

 しかし、選択出来なさそうな灰色だ。

 文字も解放されていないのか、???的な表記だ。

 スペースから言って、四つ単語があるみたいだし、多分、さっきの争ってるとか言う四種族の名前が出る予定なんだろう。

 まぁ、見れないし、現時点ではどっちでも良いんだが。


 もし、詳細から選択していたら、こっちのページに飛ぶって訳だろう。

 いちいち画面移動を操作しなくても良いのは楽だな。覚えておこう。


(次は…道具か)


 最初の画面に戻す。

 世界の欄は、殆ど収穫はないが、全て見終えた。

 そして、次のカテゴリは道具。

 …これは飛ばして良さそうだ。


 その内手に入る優秀な道具もあるのかもしれないが、後回しで構わないはず。

 何しろ、今の俺は何も持てないのだから。


(道具の次が、技芸か。これは期待出来そうだな…!)


 技芸、というあまり使わない言葉で表されているが、これは間違いない。

 ファンタジー世界の常識!魔法の事だろう。

 あとは、現実では有り得ない剣技とか。

 期待が高まる。


 [技芸]


 意気揚々と技芸のアイコンを選択する。

 すると、予想通り下に幾つかのアイコンが出現する。


 [(スキル)][(スペル)]「特殊(ギフト)


 初めてルビが振られている物を見た。

 これは期待を確信に変えても良さそうだ。


 技…スキルは、俺のイメージが合ってれば剣術とか体術かな?

 術…スペルは、多分だが、魔法。

 特殊…ギフト……贈り物?プレゼント?これは良く分からん。


特殊(ギフト)が気になるな。…よし、これを見てみよう)


 俺は少しの間悩んでから、特殊(ギフト)を選択した。


 [特殊(ギフト)


 <ネダーグの管理人が指定した対象に与えられる、(スキル)にも(スペル)にも当てはまらない特殊な技能の事>


 ネダーグの管理人…また重要そうなキーワードが出て来たな。

 俺は思わず(うな)る。

 …まぁ、少し葉っぱがカサッと言ったくらいだったが。


 俺についてはともかくとして、管理人というと、神様みたいなもの、という解釈で良いのだろうか。

 寧ろ、宇宙人という考え方はどうだろう。

 もしそうであるなら、俺がこんな風にゲーム画面みたいなものを操作出来ていることへの、上手い説明になる気がする。

 最先端の科学で、俺の精神をどうにかして植物に埋め込む。みたいな。


 ……荒唐無稽過ぎるだろうか?

 いや、そもそもこうして植物に意識がある時点で荒唐無稽なんだ。

 これくらいの考え方をして普通だろう。


 いずれにせよ、この良く分からん百科事典によると、この世界には管理人がいるということになる。

 そいつなら、俺がどうして植物になったのか、記憶がないのか分かるだろうか。

 仮に分かっていた所で、説明してくれる気なら、もうとっくにしているよな。

 期待は出来ないか…。


 それから俺は、左端に並んでいるアイコンに視線を移す。

 気を取り直そう。

 本番はこれからだ。


 【状態確認(ステータスチェック)


 <異世界からの来訪者にのみ与えられる特殊能力。

 自分の状態や、レベルを上げれば、敵味方問わず、体力などを数値化して、客観的に確認出来る。分かりやすく言うと、RPGにおけるステータスや鑑定能力>


(急にメタっぽいこと言い出したな……)


 思わず呆れてしまった。

 これを書いたヤツ…管理人か?は、何を考えているんだろうか。

 いやいや、今はそんな事よりも、ステータスだ。


 正直、これは有りがたい。

 ステータスと言えば、種族が付いてたりする。

 それを見れば、俺が一体何の花を咲かせるのか一発で分かる…。


 ……って、そうじゃない。

 俺が一体何者なのかのヒントになり得る。

 場合によっては、この状況を打破出来るヒントすら見つかるかもしれないのだ。


(えーと、使い方は…と)


 <未達成【状態確認(ステータスチェック)】取得条件:実際に使用する>

 <以下、使用方法>

 <01:百科事典を開いている場合は閉じる>

 <02:利き手を対象者に向ける。腕がない種族の場合、対象をイメージする>

 <03:状態確認(ステータスチェック)開始(オン)と言う。或るいは、頭の中でイメージする>

 <04:詳細を見たい項目は、その項目名を読み上げ、詳細(イン)と言う>

 <05:元のページに戻る場合は、項目名と詳細終了(アウト)と言う>

 <06:状態確認を終了する時は、確認終了(チェックオフ)と言う>

 <以上>


 ……結構面倒臭いなこれ。


 百科事典って、これの事だよな。

 これを開いたままじゃダメって…視界がゴチャゴチャするからか?

 良く分からんが…試してみないとだよな。


 えーと、まずは百科事典を閉じて…。

 ……よし、消えたぞ。

 次は対象をイメージか。

 俺、植物、俺、植物。

 ……合ってるのか分からんが、よし、このまま……。


状態確認(ステータスチェック)開始オン!)


 [状態][道具][技芸][称号]


 【名前】名無し


 【種族】???


 【年齢】0歳


 【性別】無し


 【称号】未設定


 【戦闘】


 【生活】


(うおっ、すげ…)


 思わず変な声が出た。頭の中で。

 …頭もあるのか謎だけど。


 殆ど視界に浮かぶ画面の構成は百科事典と変わらない。

 ただ、内容が結構違っている。

 分かりやすく言えば、ゲームのステータスだ。


 幾つも気になるところがあるが、まずは上から行こう。

 今は状態、が選択されているみたいだ。

 とりあえずここから見るのが良いだろう。


 俺、名前ないんだ。

 名無しって、名前を呼んでくれる人がいる訳でもなし、構わないのだが、何だか妙に寂しい気がする。

 これはどういうことだろうか。

 俺が、自分の名前を覚えていないから、名無しと判断されているのか。

 それとも、植物に生まれ変わってから、誰も俺に名前を付けていないから名無しなのか…判断に困る。


 俺はふと、項目毎に詳細を見ることが出来るという説明があったのを思い出す。

 恐らくは何も分からないだろうが、やってみないと分からない。

 俺は、試しに名前の詳細を見てみる事にした。


(名前詳細(オン)


 そうすると、画面が切り替わって、名前に関する説明が出て来た。


 【名前】


<生物、無生物を問わず、該当の個体に与えられる識別用のコード。生物によっては特定の名前を引き継いだり、何らかの意味を付与して与えられる場合もある>


 本当に名前に関する説明だった。

 これは俺の知りたい情報ではない。

 少しガッカリしながら画面を見ていると、下の方に名無しについての説明があることに気付いた。


 【名無し】


<名前を持たない者。名前を失った者>


 随分とふわっとした説明だ。

 期待してしまった俺のワクワクを返して欲しい。


(名前詳細終了(アウト)


 というか、日本語の後にカタカナ英語ってどうなんだ。

 名前オンって、語呂悪くないか。

 ガッカリし過ぎて、どうでも良い事に思考が移ってしまう。落ち着け、俺。


 俺は、微妙に溜息をつくような気持ちになりながら、読み進めて行った。

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