24.黒フードとバトル×2(と傍観者)
ギィン!ガキィン!!
村の外れと思われる方向へと駆けて行くと、徐々に炎の音にかき消されて届かなかった剣戟の音が聞こえて来た。
離れれば小さくなり、近くなれば大きくなる。
その音で、大体の距離をはかりながら、俺とミーシャちゃんは戦いの中心と思しき場所へと近付いて行った。
「シンジュ様。どうやらあちらみたいですね」
「ああ」
そこは、村の為に切り開かれている土地の、最も隅だった。
建物はなく、ただ通る為の道としてスペースが作られているような感じだ。
一口にどのくらいの広さ、とは言えないが、学校の教室二つ分くらいだろうか。
周囲はすべて森に囲まれており、決して戦いやすいとは言えなさそうな場所。
そこで、大きく分けて二つの戦いが繰り広げられていた。
「あー、もうサイアクッ!」
一か所目では、中学生か高校生か、そのくらいの女の子の金切り声が、剣戟の音に交じって響いていた。
声の主は、あの黒フードと同じデザインの黒フードを被った人物だ。
顔はフードのせいで殆ど分からないが、チラチラ見える身体付きや服装から、人間系統の少女であることが分かる。
「タッくんがどーしてもって言うから来たけど、超メンドーなコトになって来てんじゃん!意味分かんない!」
戦闘音に似合わないような、女子高生の愚痴に似たテンションで叫ぶ少女。
けれど、それ以上に異常なのは、彼女が振るう武器だ。
その身の丈以上もあるのではないかと思われる程に、巨大な斧。
柄よりも刃の方が長く、大きいかもしれない。
そんな物を、彼女は軽々と振るい、攻撃を防ぎ、或いは攻撃する。
…何だあれ、化け物か。
「ちょっとビショップ!話が違うんですけど!!」
「余所見してんじゃねぇ…っよ!!」
「ちっ」
少女が、もう一人の黒フードへ声をかける。
その隙をついて短刀で斬りかかるのはユーリャくんだ。
短刀による、スピードを活かした素早い複数攻撃。
途切れないそれを、少女は舌打ちしつつも、斧の一振りでなぎ払ってしまう。
「あたくしもおりましてよ!」
それではまだ終わらないとばかりに、ユーリャくんが次の攻撃へ移るスパンに的確にニーカさんがその手の鞭を操る。
まるで生きた蛇のように自在に動き回る鞭の動き。
予測不可能にも見えるそれを、それでも少女は重いはずの斧だけで防ぐ。
…というか、ニーカさんの武器、鞭だったのか。
「もー!ウザいウザいウザーい!!」
悔しげに地団太を踏む姿は、間違いなく子供だが、ユーリャくんとニーカさんの苛烈な攻撃に、ある意味では顔色を変えずに対応しているあたり、相当な実力者と見える。
「ちょっとビショップ!もうメンドくさい!あんなボロ村、滅ぼしちゃおうよ!」
なんてこと言うんだ、あの子は!
分かりやすいくらいにテンプレ悪役だな。
顔見えないけど、きっとすっごい悪い顔してるんだろうな。
そんな能天気なことを考えていると、ビショップと呼ばれた黒フードが、杖から炎を放ちながら返事をした。
「何を言うんですか、ルーク。貴方、何の為に私と共に来たのか分かっているのですか?馬人語を扱えるのは貴方だけなんですよ。早く役目を果たしてください」
「もー、御神体なんて燃えないだろうし、村滅ぼしてからゆっくり探そうよ!」
「駄目です」
話し方から言って、間違いない。
あっちの黒フードが、この間の黒フードだ。
少女からは、ビショップと呼ばれていた。
少女は、ルーク。
…チェスの駒みたいな呼び方だ。
コードネームだろうか?
「つーかよ、そっちのお前!この間の野郎だろ!どうやって身長伸ばした!?」
「おや。人違いではありませんか?」
「うるせぇ、俺様のこと甘く見るんじゃねーよ!生体エネルギーを見りゃ、幾ら変装しようが分かるんだよ!!俺様の探知レベルなめんな!」
良く戦いながら会話が出来るものだ。
ということはともかくとして、ユーリャくんの疑問はもっともだ。
この間ミーシャちゃんを誘拐した黒フードは、森の子鬼で、身長は俺達より、結構低めだった。
それが、今は馬人族の平均くらいだから、俺達より寧ろ高い。
別人だという可能性は、今のやり取りで消えた。
白々しすぎる。
どうせ、隠す気もないのだろうが。
だとすると、どうやっているのか。
「そうね。あたくしはそちらのお嬢ちゃんにお伺いしたいですわ。貴方、先程から何語で話しておりますの?妙に耳に同時に音が入って来て、不愉快になるのですけれど、何かからくりでもあって?」
そうだ。
それも気になっていた。
さっきから、あの少女…ルークの言葉が、やけにエコーがかかって聞こえている。
エルフ語と、馬人語と…あと、日本語が入り混じって聞こえているのだ。
これは、どういうことだろう。
「はぁ?教えるワケないでしょ?バカじゃないの?このおっぱいお化け!べー!」
「おっぱいおば…っ!!……死なない程度に痛めつけて差し上げましてよ…!!」
やはり、素直に教えてくれるつもりはないらしい。
チラと見えたフードの内側で、ルークが舌を出したのが見えた。
正面にいたニーカさんにははっきり見えただろう。
…女の戦い怖ぇ。
『おい!いい加減分かる言葉で話せ!何故我らを…同胞を襲う!?』
会話がクロスはしていたが、本来ここで戦っていた二か所目。
それは、黒フードことビショップと、そしてマヤちゃんとスレイさんコンビだ。
今までのやり取りから察するに、全然ここは言葉が通じていないのだろう。
何だろう、その不毛な戦い。
戦争の歴史の要因を見てしまった気がする。
「はぁ…。残念ながら私は、言葉はキングの与えてくださった魔術具のお陰で理解出来るのですが、話せないのですよね。困りました。ルークはあの調子ですし…」
少し訂正。
ビショップは、理解していたらしい。
完全なる一方通行だ。
…それにしても、キングと言うのがボスだろうか。
ここで彼らを倒せば終了、とはいかないようである。
はぁ。気が重い……。
『理由があるならば申し開け!今ならば聞いてやらんこともないぞ!!』
手にした、完全に鈍器としてしか使わなそうな、傷だらけの鉄製の杖を振りかざして、マヤちゃんが叫ぶ。
腰に手を当てて杖を構える様は本当に格好良い。
ただ、いかんせんマヤちゃんは幼くて、言葉は相手から戻って来ない。
何だか少し残念な光景である。
『村長。どうやらヤツは言葉を話せない様子。我々が聞いても無駄だろう』
『何だと!?馬人族なのに通じないことなど有り得るのか!?』
『理由までは…分からないが』
スレイさんが、マヤちゃんに声をかける。
その内容に、マヤちゃんは驚愕している様子だが、理由までは二人共分かっていないみたいだ。
確かに、理由は色々考えられる。
まったく他の馬人族のいない場所で育ったとか、生まれつき持っているはずの語学スキルが、何故か得られずに生まれて来たとか。
考えられても、確定は出来ない。
少なくとも、今の時点では。
『ただ、捕らえさえすれば、そこの森のエルフの女や、シンジュには言葉が分かるのだから、後で聞けば良い話だ』
『なるほど、確かにな。冴えておるぞ、伯父上。それではまずは全力で、相手の動きを封じようぞ!』
『ああ』
グッとマヤちゃんは杖を、スレイさんは槍を構え直して、ビショップに向かって行く。
マヤちゃんのレベルは上がったばかりだが、息の合ったコンビネーションで、隙のない攻撃を繰り出している。
恐らくは、スレイさんがカバーしながら動いているのだろう。
スレイさんのレベルは見ることは出来なかったが、あの動きを見ると、実力は相当高いように見受けられる。
良い意味で予想が外れた。
これは、上手く黒フード二人を捕縛出来るのではないだろうか。
「…しかし、ルークではありませんが、確かに面倒ですね」
「もー!あんたがあん時、取り逃したせいでしょ!」
何故か、仲間割れもしているし。
取り逃したというと、もしかして俺のことだろうか?
俺のことを殺そうとしていたくらいだし、本当にそうかもしれない。
ここで出て行ったら、また嬉々として狙われかねないな。
「あれは狙っても意味がないと話したでしょう?」
「分体だろうが本体だろうが、全部消しちゃえばタッくんの為だよぉ!」
「くっ…どうしてキングはこんな人と組ませたのか…」
ポロポロと情報を話してくれているんだが…。
ありがとう、ルーク。
ビショップは、あまり俺達の前で情報を話したくないように見えるが、ルークの方はお構いなしに、色々話してくれている。
おかげで、返事をするビショップも、ある程度内部情報を口にしなければいけなくなっているし。
ルークが口を開く度に、ビショップのイライラが増しているように見える。
もうこのまま仲間割れで足元をすくわれれば良いのに。
そう願ってもみるが、惜しいことに彼らの動きは鈍っていない。
相変わらず、それぞれの攻撃を軽くいなしている。
「もう良いです、ルーク!そちらは私がお相手しますから、馬人族の村長たちを頼みます。早く情報を聞きだしてください」
それでも、ビショップは焦りを感じ始めたのだろう。
もう、自分達の目的が明るみに出ようが、情報を得ることを優先することにしたようだ。
まぁ、賢明だろうな。
仲間内にペラペラ喋ってしまう、口の軽いヤツがいたら、俺でも急ぐ。
…けれど、当の本人にはそれが伝わっていない様だった。
「はぁ?最初になるべくこっちの情報は隠しておきたいから、全部指示通りに話せーって言って来たのビショップでしょ!何でここに来て投げるワケ!?」
不満げに、声を荒げるルーク。
というか、やっぱりそういう指示を受けていたんだな。
だよなぁ…なんて言えばルークに失礼なんだろうが、敵だから知らん。
「事情が変わったんです、諦めてください」
「何言ってんのよ!ウチは勉強ニガテだっつったじゃん!交渉なんてムズかしーこと任されたって出来るワケないよぉ!」
何だか、親近感を覚える少女だな、ルークは。
いや、俺が勉強が苦手だとか思っている訳ではない。
言い回しが、何だかこの世界の人とは異なっているような気がするのだ。
価値観が変わっているというか…。
……いや、この考えは突拍子過ぎるな。
やめよう。
「いいから、急いでください。キングに嫌われても良いんですか?」
「それはヤダ!」
パッと顔色を変えて、慌ててマヤちゃんたちの方へ向かおうとするルーク。
その前に立ちはだかるのは、ユーリャくんだ。
流石、動きが速い。
「おぉっと!どうやらそっちに行きてぇみたいだが、それを許す程俺は甘くないってことを教えてやるぜ!」
「何よ、こいつ!さっきっから全然エルフっぽくない!神秘的じゃない!ウチは、エルフは物静かな方が好きなんですけど!だからアンタなんて落第なんだから!」
「お前に認めてもらおうがもらうまいが、俺様ほど完璧なエルフはいないぜ。多分だけどな!」
状況とまったくマッチしていない会話だ。
ただ、会話の内容はともかくとして、戦闘内容は苛烈になって来ている。
残念ながら、俺の目が追いついていないらしく、今一体どんなやり取りが行われているのか、良く分からない。
なんてスピードだ。
これ、俺一瞬で死ぬヤツじゃないか。
良く平然と会話してるな、あいつら。
「ユーリャ!行きたいなら行かせて差し上げなさいな。その代わり、あたくしたちは、あちらの方の相手を致しましょう」
「はぁ?何言ってんだよ。相手の狙いに乗って良いのか?」
鞭を手元に戻したニーカさんが、チラリと黒フード二人を確認すると、ユーリャくんに、そう指示を飛ばした。
ユーリャくんは刃を交わしながらも、そう疑問を口にする。
しかし、俺もニーカさんに賛成だ。
下手にあのルークを押しとどめるより、彼女に交渉させた方が、逆にこちらに情報が入って来る可能性が高い。
それは、恐らくビショップも分かっているはずだ。
しかし、それでも指示したのは、恐らく、これ以上戦いが長引けば、もっと別の情報をルークが漏らしてしまう危険性を考えてのことだ。
そちらの方が、彼らにとって避けたい事態なのだろう。
とは言え、俺達がそれを狙うにしては、長期戦にしなければならないのだから、こちらのリスクも大きくなる。
素早く、そして確実に、一定の成果を狙うには、行かせた方が良い。
内心で賛同していると、ニーカさんも再度同じような旨を伝える。
「その通りでしてよ。乗ってあげた上で…すべてのたくらみを叩き潰して御覧にいれますことよ!」
「…ニーカ姉が本気だ……。分かったよ」
「…な、なんかよく分かんないけど…ウチはそっちとやれば良いんだよね!」
ザッと地面を蹴り、バク宙のような動きで距離を取ってニーカさんと合流したユーリャくん。
攻撃して来ないと悟ったのか、訝しげに二人を見た後、ルークは素早くマヤちゃんたちの方へと向かった。
ビショップの炎に翻弄されていたマヤちゃんたちは、近付いて来るルークに、更に毛を逆立てて警戒を強める。
『何だ?交代か?』
『事情は良く分からんが…村長、気を付けろ』
『分かっておる。子供扱いするでない、伯父上よ!』
これは…マヤちゃん達の方へ行くべきだよな。
情報が漏れるとしたら、ルークからだろうし。
…ただ、何かを知っていそうなのは、寧ろビショップなんだよなぁ…。
「(シンジュ様)」
軽く唸っていると、ミーシャちゃんが精神感応で語りかけて来た。
俺は、一瞬思考を停止して、彼女の方を見る。
「(どうしたんだい?)」
「(彼らが敵なのですよね?)」
「(ああ。うん、そうだね)」
「(シンジュ様は、どうお考えですか?倒した方が良いと思いますか?それとも、捕縛した方が良いと思いますか?)」
倒すか捕まえるか?
俺は少し考えてから、軽く頷いて答える。
「(それはやっぱり、捕まえた方が良いと思う。情報が圧倒的に足りていないからね。本当のことを言うとも思えないけど)」
「(そうですよね!かしこまりました)」
そう言うと、ニッコリ微笑んで、それきり黙ってしまったミーシャちゃん。
…何が聞きたかったんだろう。
てっきり、殴り込みに入るタイミングでも聞かれるのかと思ったけれど。
…まぁ、良いか。
まだそのタイミングではないし。
こんなところでのんびり介入でもしたら、燃やされてしまうのがオチだ。
「ねー、馬の人たちさー。アンタたちエライから知ってるよね?御神体ってドコにあんの?」
『っ…御神体が狙いだったか!そう易々と我らが口を割るとでも思うたか!?』
一瞬でマヤちゃんたちの間に緊張が走る。
身体が、遠めに見ても強張ったから、そうだと思う。
…御神体が狙いってのは最初から分かってた。
何しろ、ルークが「御神体なんて燃えないんだから」と言っていたし。
しかし、突きつめると分からない。
何が目的だ?破壊?奪取?それ以外?
「ウチら、超忙しいんだよね。だからさ、さっさと答えてくんない?じゃないと、殺しちゃうよ。だってメンドーなんだもん」
『何だと…ヒトの命を何だと思っている!?この度の襲撃も…一体何人の者が傷付いたか分かっておるのか!?』
身体を震わせながら叫ぶマヤちゃん。
なんて立派な村長なんだろうか。
俺は密かに感動して、やはりミーシャちゃんを襲ってきたあの馬人族二人に、違和感を覚えてしまう。
こんなに良い人達が、果たして、他人を襲うだろうか?
幾ら、憎しみを感じている相手だとしても。
「命?何言ってんの、NPCのクセに」
『えぬ…?貴様こそ、何を言うておるのだ?』
「ワケ分かんない。だって、ここはゲームの世界だよ?だから、何したって許されるんだもん。それに、ウチはヒロインだしね!…まぁ、NPCに言っても分かんないかぁ」
……何だ?あの女は、一体何を言っている?
ゾッとして、身体が硬直する。
木製の身体に、そこまでの感覚が宿っているのかは分からないが。
冷や汗が止まらない。
ーNPC。
そんな言葉を、この世界の人間が知るはずがない。
ゲームという言葉くらいは、存在するかもしれない。
ヒロインという言葉だって、存在するかもしれない。
だが、NPCなんて言葉があるのか?
あったところで、普通にそれを口にする人がいるのか?
時折聞こえる日本語。
それを口にする女。
……あながち、俺の考えは突拍子過ぎることでもなかったのかもしれない。
魔術によって、AIに似た技術があると考えることの方が、この場合、寧ろ突拍子もないことと言っても良いのだろう。
何しろ、俺自身がここに、こうして存在している時点で、前例はあるのだから。
「ウチはさ、ヒロインとしてタッくんの為にガンバんないといけないんだよね。だからさ、さっさと吐いて。御神体にはさ、タッくんが大っキライな人が住んでるんだって。だから、壊してあげないと」
『…何を言っているのか分からんが…貴様の好きにはさせんぞ!』
これ以上の情報を得るのはムリだろうか。
まぁ、あれだけ話してくれただけでも、十分な収穫だ。
ルークは日本人。
確定して良いだろう。
彼女の正体が、そのまま日本人の姿のままか、この世界の他の種族か、それとも別の何かなのかまでは分からない。
しかし、まず一つ目の収穫だ。
そして、黒フードたちはキングという人物の指示で動いている。
キングは御神体の破壊を目指している。
これも確定して良いだろう。
ルークの勝手な発言ではないことは、ビショップがそれを否定しないことから見ても明らかだ。
ただ、「御神体なんて燃えないんだから」と言っておきながら、壊そうとする意味は分からないし、また、何故壊すのか理由も分からない。
ルークの言うことだけでは、すぐに矛盾が生じるし、曖昧だ。
彼女も良く知らないのかもしれないが。
御神体に嫌いな人が住んでいるって…訳が分からないぞ。
この二つの情報の収穫。
思ったよりも得られた情報は少ないが、最低限これだけあれば十分だ。
他の種族の持つ御神体も狙っているだろう、という推測が立つから。
ならば、この場を一旦治めれば、これから取るべき行動も分かって来る。
まぁ、一旦村に戻って村長に相談するけど。
とりあえずは、目下の目標は、あの二人を捕らえること。
それに尽きる。
しかし、俺は普通の主人公みたいな力は何もない。
スキルは色々取ってみたものの、あのレベルの戦いに混ざれる程ではない。
レベルが上がったばかりのマヤちゃんが戦えているのは、彼女の動きを良く理解したスレイさんがサポートしているからだ。
下手にあの中に、気心の知れない俺なんかが混ざれば、逆効果になりかねない。
ユーリャくんやニーカさんの中にも、同じ理由で混ざれない。
ちょっとレベルが違う。
足手まといは要らないだろう。
さて、俺達はどうしたものか。
そう思っていると、急にこちらにビショップの視線が向いた。
俺はギクリと肩を揺らす。
気付かれた?
気配は消していたはずだが…。
「くっ…何故ここにいるのですか!いや…貴方たち二人がいる時点で予想は出来ましたね…。戦いの気配で探査が鈍ったか…」
「あら。気付くのが遅かったようですこと。ミーシャ!やっておしまいなさい!」
「了解です、ニーカ姉様!!」
ん?
前々から作戦を立てていたかのような、絶妙なタイミングで、ニーカさんからミーシャちゃんへ指示が飛ぶ。
ブラフ的なものかと思っていたら、そんなこともなく、俺の身体に触れた手から一気に魔素が流れ込み、出て行く。
その激しい動きに眩暈がしてしまう。
いやいや、駄目だ。
ここで気絶している場合ではない。
「参ります!」
ミーシャちゃんのかけ声と共に、彼女の身体の周りを、半透明な薄緑色の光の帯がうごめき始め、それらはシュルシュルとこの開けた空間を覆って行く。
村全体を覆った結界に近いけれど、それよりもかなり小規模で、色も違う。
状況がつかめない俺を余所に、魔術は進行して行く。
「くっ…ルーク!あのエルフを止めるのです!早く!」
「はぁ!?アンタのが近いっしょ!ウチに命令しないでよ!!」
慌てるビショップの様子から、ミーシャちゃんがやろうとしていることは、相手にとって相当に不利なことだと理解する。
これだけ大規模な魔術、準備なしに出来るものだろうか。
もしかして、ミーシャちゃんはずっとこれの準備をしていたから黙っていた?
……どうしよう。
俺の隣にいる子、相当優秀だった。
「これで…詰みですよ!!」
光の帯のドームが閉じる。
直後、ビショップとルーク。
二人の姿を隠していた黒いフードが弾けて消える。
更に、彼らが持っていた武器も、光の粒になって、光の壁に吸い込まれて行く。
「くっ…」
「何?これウソ!タッくんがくれたヤツ壊れちゃったじゃん!サイアクなんですけど!っていうか、出らんない!どーなってんの!?」
…え、強制的に無力化?
ちょっとこれチート過ぎませんかね?
「森のエルフの聖域。如何ですか?これで、貴方たちに逃げ場はありませんよ」
隠れていた茂みから姿を現して、後ずさるビショップとルークに近寄って行く、我らがミーシャちゃん。
それを呆然と見送る俺。
どうやら、気付いたら一瞬で、事態は詰みに入って来たようだ。
木「ヒロインはミーシャだろ」
ルーク「はぁ?ヒロインはウチですけど!」
マヤ「いや。貴様らにこの愛嬌は出せまいて!」
ニーカ「あら。このあたくし以上の美貌と色気を、貴方がたのような小娘に出せまして?まだまだ甘くてらっしゃるわ」
ミーシャ「シンジュ様が一番ステキです!」
木「あれ?何でミーシャ審査する側にいるの…?」