23.馬人族、被襲撃
『すまんが、手短に頼むぞ。私は村の皆を救わねばならないのだ』
『分かってる』
村長ちゃんの要求に、俺は深く頷いて答える。
今まさに襲われている中で、ちんたら考え事をしている余裕はない。
流石の俺にも分かっている。
まずは、現在のステータスの確認だ。
まだ幼い村長ちゃん。
最近衰え始めた御神体。
そう考えれば、大体のデータの推測はつくが…。
【名前】マヤ
【種族】馬人族
【年齢】10歳
【性別】女性
【称号】馬人の姫長
【戦闘】
〔総合〕1(500/10)<ランクアップ条件達成。ランクアップしますか?⇒はい/いいえ>
〔耐久力〕5/5
〔瞬発力〕2/2
〔体力〕10/10
〔魔力〕32/32
〔気力〕11/11
〔力〕5
〔知力〕7
〔頑丈〕10
〔速さ〕6
〔技力〕杖・F-
〔術力〕無し
【生活】
〔馬人語〕基礎・A
〔身体操作〕基礎・D
〔威厳〕基礎・F+
…名前聞く前に名前が分かってしまった。
村長ちゃんは、マヤちゃんと言うらしい。
なんだか日本語と名前の響きが近くて、親しみを感じる。
とは言え、今はそれどころではない。
とりあえず、予想より魔力が高いな。
荷物持ちに適してるって言ってたくらいだから、もっと力に特化してるのかとも思っていたんだが、これは魔術師タイプか?
タイプとか俺が適当に考えてるだけだから、実際まったく分からんが。
今現在はほぼ何も覚えていない状態と言っても差し支えがなさそうだ。
ならば、覚えることの出来るスキルから組み立ててあげれば良い。
問題は、それがどれ程あるのか、だ。
俺は、急いでレベルを上げてやり、取得スキルの取捨選択を行っていく。
馬人族、魔術全然覚えないな。
折角魔力が高めだと言うのに、美味しさがないぞ。
んー…レベルが上がって、頑丈さが増したが…利点はあるか?
いや…でも、技力のところに、新しい文章を発見したぞ。
これは、所謂攻撃スキルか?
術力に比べて分かりにくいが…これがあれば、戦えそうだろうか。
…うむ、こんなところか。
【戦闘】
〔総合〕9(50/100)
〔耐久力〕25/25(up)
〔瞬発力〕20/20(up)
〔体力〕22/22(up)
〔魔力〕49/49(up)
〔気力〕27/27(up)
〔力〕21(up)
〔知力〕18(up)
〔頑丈〕31(up)
〔速さ〕15(up)
〔技力〕杖・F+<百連杖・G(new)、円打杖・G(new)>
〔術力〕無し
【生活】
〔馬人語〕基礎・A
〔身体操作〕基礎・D
〔威厳〕基礎・F+
村長ちゃん…じゃない、マヤちゃん魔力強いのに、本当にまったく全然魔術が生えなかったのは惜しかったな。
まぁ、それは仕方ないとして、杖に二個ほど、見覚えの無い表記が生えた。
詳しい説明を見ている暇はないから飛ばすが、杖で打撃する技だろうか?
とりあえず期待しておこう。
本当は称号効果とか、色々見てコンボとかも考えるべきなんだろうが、残念ながら今は時間がない。
俺は手早く貴族さんにも声をかけた。
『あんたはどうする?』
『…結構だ。俺は最近町の方で確認して来た』
…えー。
町に行った?
俺だって、シンジュとか御神体に頼らずにレベルを上げる方法は、簡単にだけど聞いているから知っている。
けれど俺がそれを交渉の材料にしようと考えていたのは、村から…更にはこの森から出て、人間や他種族の町に行って、レベルを上げるのは難易度が高過ぎるだろうと考えてのことだった。
だから、それが出来るなら、別に俺に声をかけなくても良かったような。
…俺の知らない何か条件とか色々あるということだろうか。
貴族さんは特別、とか。
って、違う違う。
考えるのは後だ。
マヤちゃんの強化が上手くいったことを祈って、今は一刻も早く村の様子を確認しにいかないとならない。
俺がそう口を開くよりも前に、マヤちゃんが飛びだした。
足速!
ステータスの速さはそうでもないのに!
『遅れるな、伯父上!速やかに皆を救うのだ!』
『分かっている』
貴族さんも足速いな…。
追いかけようと思った瞬間には、もう姿が見えなくなってしまった。
「あの、シンジュ様。先程からやけに熱いような気がしますが…今、何が起きているのですか?」
「ミーシャ…」
ミーシャちゃんの、どこか呑気な問いに、俺は息を吐く。
そうだそうだ。
言葉が通じないから、現状が分からないのか。
ある程度予測出来るだろう、と思わなくもないが、今までずっと村の中にいたのなら、そこまで危険への予測に慣れていないだろうし、仕方ないか。
「敵の襲撃だ」
「えっ」
「恐らく、相手はあの黒フード。もしくはその仲間」
「それでは汚名返上のチャ……コホン。馬人族を救わねばなりませんね!早く参りましょう、シンジュ様!」
ちょ、今ミーシャちゃんチャンスって言おうとしなかったか?
何でこうたくましいんだ、君は。
何だか営業回りするサラリーマンに見えて来たぞ。
「ああ。急ごう」
「はいっ!」
そんな逸れた思考を忘れるように俺は頷き、既に、戸としての機能を果たさなくなった板を踏みつけて家外へと飛び出した。
すると、すぐ外は炎に飲み込まれていた。
掘立小屋以下の簡素な造りの、家と呼んで良いのか良く分からない草の塊に、火が燃え、また燃え移り、悲鳴が響き渡る。
…どうしてだ?
あの黒フードの魔術が森に当たっても燃えなかったのに、今はこんなにも轟々と広がり続けている。
反射的に村の外を見ると、延焼すべきはずの場所が、まったく燃えていない。
……俺は炎の魔術を扱えないから実験は出来ないが、やはり、これは魔術の効果範囲を指定出来るととらえて良さそうだな。
つくづく使いやすいものだ、この世界の魔術は。
「これは…酷い!」
一瞬足を止めて、ミーシャちゃんが顔を歪める。
本当に、酷い。
これでは明日から、馬人族は住む場所を失ってしまう。
それとも、敢えて家に炎を放っていると言うことは、全滅させようとしている?
いや、森のエルフにはそこまでの攻撃をして来ていないということは、違う?
…俺の、というかミーシャちゃんの結界があるから手出しして来れないだけで、本当はすべての種族を滅ぼすつもりか?
……有り得るぞ。
あいつは、世界に争いの種を云々と言っていた。
その足掛かりなのか、それとも幾つも滅ぼしてきた後の流れなのか、予想はつかないが、この森の種族もすべて滅ぼしてしまうつもりなのかもしれない。
だとすると、他の種族も危険かもしれないが、そんな、視界に入らないところにまで手を伸ばす余裕はない。
本体の意識を確認すれば、森のエルフの結界の方は無事な様子だ。
それだけ確認出来れば十分。
今は目の前の問題を解決すべきだ。
「またあいつがいるのなら、私がボコボコにしてみせましょう!」
「…それより、村人を避難させる」
「!シンジュ様…なんとお優しい…」
感動してくれてるところ悪いが、俺は火が苦手だ。
ほら、俺木だし。
耐性を持てないんだか知らないが、今現在持っていない状態で、相性が悪そうな相手に挑める程、俺は向こう水にはなれない。
今素手だしな。
それより、人を助ける方が確実に必要だし先決と見た。
「どこなら安全だと思う?」
「ん…やはり、今まで居たあの家ではないでしょうか?まだ燃えていないみたいですし…」
「だよな」
俺もそう思う。
風上にでもあるのか、範囲指定外なのか、マヤちゃんの家は無事だ。
急いでここに避難させよう。
そう決めると、俺達は近場から馬人族を助け始めた。
『ひぃぃ!森のエルフまで来おったぞ!もう一貫の終わりじゃぁぁ』
『安心しろ。助けに来た』
『馬人族の言葉を話す化け物まで来おった!?この世の終わりじゃぁぁ』
『…だから、助けに来た』
『わしゃもう死ぬんじゃぁぁぁあ』
『……勝手に助けるぞ』
『イヤじゃぁぁあぁ』
…こんな風に、まったく人の話を聞かないじーさんもいたが、概ねは恐怖に震えつつも、俺の指示に従ってくれた。
見た目が、敵だと思ってる森のエルフに、意味の分からない茶色い人型なんだから、怯えるのは仕方ないんだが…難しい気持ちになる。
とは言え、綺麗事として見ても、恩を売る行為として見ても、上々だ。
視界に入った人はすべて誘導に成功しているし。
しかし、問題は何分経っても、マヤちゃん達や犯人と遭遇しないことだ。
村はそこまで広い訳ではない。
森のエルフよりは人口も多くて、5~60か、それ以上いるみたいだが、それでも、日本の小さな村より狭いと思う。
そんな中で、ここまで遭遇しないものなのか?
「シンジュ様!もう一人見つけました」
「分かった」
足を怪我して倒れている馬人族を発見する。
俺とミーシャちゃんは急いで駆け寄る。
…意識はどうやらあるようだ。
『無事か?』
『お前…さっき村に入って来た…』
顔を見ると、貴族さんと門番をしていたもう一人だ。
足からは血がドクドクと流れ出ている。
それを見ると、ミーシャちゃんが急いで懐から布を取り出すと、物を清潔にする魔術のかかった魔術具を当てて、綺麗にしてから傷口に当てる。
本当は、怪我した時に下手に布をあてると、傷口にくっついてしまって、治りが逆に遅くなるとか不潔だとか言われているのを俺は聞いたことがあるんだが、こんな埃っぽいところで、清潔な水をたくさん出すことも出来ない中で、布を巻かないよりは、巻いた方が余程清潔だろうと、口を噤んだ。
…優しさアピールには最適だしな…なんて。
『お前ら…何で助ける?』
ほら、馬人族は良い人ばかりだから、こんなテンプレートなセリフを言ってくれるしさ。
助けてくれるから良い人とも限らない。
恩を売られるとか、そんな考えはないのだろう。
良く今まで無事でいたな、この種族。
…まぁ、有用な力を持っているから、なのかもしれないが。
…俺、考え方汚いなぁ。
『…俺達の目的にお前達は必要だからだ』
『…』
男の身体がこわばる。
うん、中途半端に良い人じゃないアピールをして、罪悪感を消そうと思った俺が多分悪かった。
諦めて、物凄い綺麗事を言うヤツか、物凄い打算的で汚い人間を目指そう。
多分、その方が気持ちが楽だ。俺の。
『何でもない。それより、聞きたいことがある』
『……何だ?』
『ここに来るまで見つけたヤツは、全員村長の家に避難させた。まだ外にいる馬人はいるか?』
『全員、だと?』
『俺達の視界に入ったヤツは全員だ。お前も連れて行くから、確認を頼む。まだ外にいるようなら、助けに行く』
馬人族の男は、目を何度か瞬く。
俺達の行動が理解出来ない、といった表情だ。
説明は面倒だし、あれだからしないが。
ミーシャちゃんに目線で合図を送ると、ミーシャちゃんは頷いて、ひょいと馬人族の男を背負う。
自分よりも体格の良い男を背負い上げるミーシャちゃん、本当に格好良い。
多分ヒーローってこんな感じなんだろう。
『な、何をする!?』
「?彼は何を言っているのですか、シンジュ様?」
「すごい助かる。ありがとうって言ってる」
「そうなのですね!ふふ、急いで助けてみせましょう!」
『何だ!?何で張り切ってる!?』
『人助け出来て嬉しいって』
翻訳が適当?
いやいや、ニュアンスは通じてるからオーケーだ。
何て言おうが助けるのは決定事項だから。
助けられる側の意見なんて知らない。
『それより、お前、何が起きたか見たか?』
『…あいつが…黒い被り物をした村の外から来た馬人族が、急に杖を振って村を焼き始めたんだ。信じられねぇ…オレは止めようとしたんだが、魔術には勝てなかったよ……』
グッと項垂れる馬人族。
表情には、悔しさが滲んでいる。
…まぁ、馬面だから、顔の変化なんて良く分からないがな!
雰囲気で察しろ。
『今は誰が交戦中だ?姿を見なかった』
『…最初にスレイさんが…オレと一緒に門番してたヤツが斬りかかって、途中から勝手に村に入って来たあの森のエルフ二人が混じった』
貴族さんは、スレイさんと言うのか。
覚えておこう。
しかし、あの二人はやはり待てが出来なかったのか。
どうしてこう森のエルフは外見に反して血の気が多いんだ。
人を助けるでもなく斬り結ぶ方を選ぶとか。
まぁ、人助けと言えなくもないか。一応。
それよりも、ニーカさんの実力は知らないが、まだ戦ってるのか?それだけ人数がいれば、もう終わっていても良さそうなものだが…。
『敵は一人?』
『え?聞いてないのか?二人だよ、二人。同じような被り物してるから、見ればすぐ分かると思うぜ』
二人!?
くそ、攻略難易度上げて来やがって!
何となく黒フード一人だと思っていたせいで、頭を鈍器で殴られた様な気持ちになってしまう。
考え直さないとならないかもしれない。
…戦略とか諸々。
だが、チャンスと言っても良い。
相手の狙いを明らかにするには、あの敬語の黒フード一人では心元ない。
是非、口の軽いヤツがいてくれると助かる。
…最悪、相手の方が強過ぎて全滅パターンもあり得るが。
「着きましたよ」
マヤちゃんの家に到着すると、ミーシャちゃんが空いていた椅子に背負っていた男を下ろしてやった。
やり遂げた様な綺麗な笑顔を浮かべるミーシャちゃんだが、避難して来ていた人たちは、華奢なミーシャちゃんが、本人より体格の良い男を背負って来ていたことへの畏怖の視線を送っている。
気付いているだろうか。
…気付かない方が幸せだろうか。
『全員いるか?』
『…ああ。村長とスレイさん以外は全員だ。……すまん、ありがとう』
お礼まで言えるなんて、なんて出来た種族なんだ。
馬鹿だとか言って申し訳なかった。
『なら、俺達は様子を見に行く。後は頼んだ』
『ああ!歩けはしないが、様子を確認するくらい出来るさ。任せとけ!』
俺は大きく頷くと、再び家の外に向かう。
目指すは敵のいるところ。
…勿論、戦うよりも状況確認が先決だ。
「あとはあいつを捕縛すれば完璧ですね、シンジュ様」
「ああ。……いや、それより情報を得ることが先だ」
「頭脳戦は重要ですね。分かりました!」
ミーシャちゃん、本当に分かっているだろうか。
避難に関しての功労者ではあるが、非常に不安になる。
森のエルフこんなんばっか。
…実際は、期待以上の動きをしてくれる、優秀な一族だけどな。
「よし、行こう!」
そして、出来る限り気配を消して駆け出す。
敵の目的をもっと具体的にしなくては。
俺の平和の為にも!
村長「はっ!シンジュ様の枝がひとりでに折れて…どうか、無事でいてくださいね」
木(本体)(…えっ、村長フラグ立ててる?もしかしてフラグ立ててる?)
木(人型)「(…なんか悪寒が…)」