18.修行結果(基本他の人の)
「シンジュ様ー!見ろ見ろーっ魔術だぞーっ」
「ああ。頑張ったな、ジーマ」
黒フードとの交戦を終え、村長からヒマなら修行したら良いんじゃないかい?との提案を受け、早速実行に移してから数日が経過した。
表向きは、非常に平和な時間を送っている。
空欄ばかりのポンコツ図鑑でも、森のエルフの皆に話を聞いたりしている内に、大体どこにどんな魔術やスキルが表示されるのか、と予測が立てられるようになって来た。
そうすると、一体何をどうしたら魔術やスキルを入手出来るのか、その条件も大体の予測が立てられるようになる。
その結果、俺はそこそこの魔術やスキルを入手することに成功し始めていた。
たくさん、という訳ではないところが、何とも俺らしい。
あと、入手難易度のせいなのか、使えるのか良く分からないものが多いのも、俺らしいような気がする。
それよりも、目に見えて成長しているのは、毎日飽きずに俺に構って来る、ジーマくんとソーニャちゃんだ。
毎日のように、「シンジュ様、今何してるの?俺もやる!」「私も!」と元気よく話しかけて来て、俺が入手条件を話してやると、早速挑戦し始める。
そして、いつも俺より早く魔術やスキルを入手するのだ。
「またシンジュ様より早かった!」
「…そうだな」
「へへーんっ」
自慢げに鼻を鳴らすジーマくんは、そよ風を発生させている。
決して偶然風が起こっている訳ではなく、これも先程覚えたばかりの魔術だ。
ところで通常森のエルフが魔術やスキルを覚えるには、シンジュの身体に手を触れて、自分の可能性を問う、という工程が必要らしい。
村長から、チラッと聞いて覚えていた俺は、最初にジーマくんたちが簡単に練習をしたのに、使えないと文句を言っているのを見て、木の方の俺に触れさせて、何か覚えられるような感じがないかと挑戦させてみた。
自分の可能性を問う、というのがどんな感じか、具体的には分からない俺には、詳しいやり方を説明してあげることは出来なかったから、まぁ出来たら儲け物かなくらいの軽い気持ちだった。
そうしたら、管理人のせいなのか、俺自身のせいなのか、それともシンジュとしての力が成せるものなのか、予想以上にその工程は簡単だった。
【戦闘】
〔総合〕1(1001/25)<ランクアップ条件達成。ランクアップしますか?⇒はい/いいえ>
まず最初に、自然と状態確認を起動した時のような画面が表示された。
ただし、普通に状態確認を起動した時には現れなかった、俺自身のステータス画面のような、ランクアップの選択肢が表示されていた。
ジーマくんのこの経験値量どうなってるんだ。
驚きつつも、俺は「はい」を選択した。
すると、レベルが1から一気に6まで上昇した。
そして、ページを切り替えると、やはり俺自身のステータス画面のように、スキル等の入手に関する選択肢が羅列される。
しかも、やたら数が多い。
俺はすべての効果に目を通して、有益そうなものを取得させてあげた。
それから、ソーニャちゃんの方にも目を通して、同じようにしてあげる。
ソーニャちゃんの方が、覚えるものやレベルが少なかったり低かったりしたが、多分それは、普段ジーマくんの方が身体を動かしているからだろう。
素振りくらいでも経験値が入ると村長が言っていた。
これは活発な男の子に軍配が上がるのは仕方がない。
と、そんなこんなで結果、ジーマくんとソーニャちゃんがが物凄く強化された。
その時点でジーマくんに至っては既にミーシャちゃんを上回るレベルになっていたし、ソーニャちゃんですら、覚えたスキルはミーシャちゃんを上回っていた。
幾らなんでもおかしいと思った俺は、ミーシャちゃんを傷付けないよう、村長に何故こんなことになったのか尋ねてみた。
何らかの行動を開始したのだろう村長は忙しそうにしていたから、代わりにリョーニャさんが答えてくれることになった。
リョーニャさん曰く、最近は前のシンジュ様の力が落ち始めていたから、これ以上負担を掛ける訳にはいかないと、魔術やスキルを覚えるのは避けていた、のだと言う。
走り回ったり訓練したりして、どんなに経験値が溜まっても、レベルも何も上げられない状態が50年近く続いていたらしいから、ひと言でジーマくんのレベルがミーシャちゃんより高いと言っても、本当に正しい差かは分からないとのことだ。
敵味方として対峙した時のレベルの差は、そのまま勝敗や、最悪生死に関わることも有り得るが、こうして俺がそれを出来るのであれば、ただのタイミングの問題として捉えて良い、ということになる。
ホッとした俺は、すぐにミーシャちゃんにそれを伝えた。
すると、ミーシャちゃんは嬉々としてレベルを上げて欲しいと願い出て来た。
俺に否やはなく、その日すぐに実行した。
それで、ミーシャちゃんも色々と覚えたんだが、多いので割愛しよう。
とりあえず、レベルが5から30に上がったということで。
多いんだか少ないんだか良く分からないが、強化されるのは良いことだ。
ミーシャちゃんは、汚名を返上するのだと気合いを入れて、俺との修行に臨んでいる。
他の村人たちも噂を聞き付けてレベルを上げに来た。
自衛手段を得るのは望ましいことだと、村長からの伝言を受けた俺は、順番にレベルを上げて行った。
平均して、全員10レベルくらいになった感じだ。
それを見ると、やはりミーシャちゃんは相当なものだったのだろう。
…あと、生きた年数から考えて、ジーマくんとソーニャちゃんも凄い。
まぁ、そんな流れで、村全体が大幅にレベルアップを果たした、という話だ。
その日以来、頑張れば何かが出来るようになる、ということを覚えたジーマくんとソーニャちゃんは、以前にも増して俺に付きまとうようになった。
そして、俺が何をやっているのか聞くと、実践する。
実際に頑張れば魔術すら使えるようになる、という実体験をしたからか、普通の子供であれば、すぐに飽きてしまうような条件でも、二人は実直にやる。
強いて言えば、ソーニャちゃんの方は疲れて見学になる流れが多いけれど、それでも頑張っている。
そして数日経った今日もまた、二人は新しく魔術を覚えた、という訳である。
「あたしもあたしも!魔術だよーっ」
「ああ。ソーニャも良くやってる」
「えへへっ」
自慢げな二人の頭を撫でてやる。
木製の手は少し硬いだろうに、嬉しそうに目を細める二人は可愛らしい。
俺は、ほっこりとした気持ちになりながら、改めて二人のスキルを見て行く。
まずジーマくん。
【戦闘】
〔技力〕無手・D-、剣・F、弓・G、短刀・F+、投・G、棒・D
〔術力〕蛍光・G、木葉・G、送風・G(new)
【生活】
〔エルフ語〕基礎・F-
〔身体操作〕基礎・F
〔魔術耐性〕水属性・G(new)
〔状態耐性〕毒・G、麻痺・G、混乱・G、睡眠・G、笑・G、怒・G、泣・G
〔気配調節〕G
〔回避〕基礎・G
〔頑強〕基礎・G
〔根性〕基礎・G
〔集中〕基礎・G
と、まぁ大体こんな感じだ。
耐性がやたら多いのは、村のはずれに生えた毒キノコを食べた影響だ。
毒に侵され、麻痺し、混乱しながら眠くなり、笑ったり怒ったり泣いたりと、かなり大変な事件だった。
拾い食い、駄目、絶対。
…と言いつつ、俺も耐性取る為に食べたんだが。
ほら、俺木製だから。
そう思ったら、苦しまなかったせいで取れなかった。
元々耐性持ってるみたいなものだもんな、仕方ない…。
そう思っていたら、無効が取れた。
取れたというか、持っていることを自覚した、みたいな感じか。
結果オーライである。
で、ソーニャちゃん。
【戦闘】
〔技力〕無手・G+、剣・G、弓・D-、短刀・G、投・D、棒・G
〔術力〕蛍光・G、水浴・G(new)
【生活】
〔エルフ語〕基礎・F
〔身体操作〕基礎・G+
〔気配調節〕F+
〔回避〕基礎・F+
〔推測〕基礎・G
〔料理〕基礎・G
〔集中〕基礎・G
ジーマくんと違って、毒キノコを食べたりしていないので、耐性はない。
でも、何となく隠密的なスキル構成な気がする俺。
そうそう。
因みに、ジーマくんに水属性の耐性が付いてるのは、さっき覚えたてでコントロールを失敗したソーニャちゃんの水魔術を受けたからだ。
可哀想なジーマくん。
でも、スキルを得れば強くなれるし、頑張れ、ジーマくん。
「エライな、二人とも」
「ん?」
「たくさん覚えた。頑張った」
もう一度よしよしと頭を撫でる。
木製の身体とは言え、多少なりとも感覚があって良かった。
二人のふわふわな髪の感触が堪能出来る。
…決してロリコンショタコンという訳ではないので、あしからず。
「シンジュ様は覚えたか?」
「まだ一個も出来ない?」
「んー…そうだな」
そう、そこで俺の話に戻ろう。
何故か俺は、条件を満たしているはずなのに、魔術を一つも取得出来ていない。
推測される条件の中でも、特に簡単そうなものに挑戦して、何故か二人は取得条件を満たすのに、俺は満たさない。
スキル類は覚えるのに…不思議なものだ。
俺も風を起こしたり水を起こしたりしたいのだが。
…ロマン的な意味もあるが、自衛手段的な意味の方が大きいと言うのに。
「シンジュ様。今お時間よろしいでしょうか?」
「ミーシャ」
ふと、ミーシャちゃんから声がかかる。
そう言えば、今日は今朝から姿を見ていなかった。
何か用事があるのだろうと思っていたが、終わったのだろうか。
俺はジーマくんたちから手を話すと、ミーシャちゃんの方へ視線を向ける。
「どうした?」
「はい。お父様から、今後の方針が決まったので、シンジュ様のご意見が聞きたいから、お越し頂くよう頼まれまして、呼びに参りました。区切りが良いところで構いませんので、少々よろしいでしょうか?」
今後の方針…。
という事は、村長は何か重要な情報を得た、ということだろうか。
これは、俺自身の今後の進退にも関わるかもしれない。
しばらくは平穏を満喫できたけれど、これからはそうはいかないのか…。
「どんな話か聞いているか?」
「それが…他種族へ交渉に行く…とだけ……」
「交渉!?」
えっ、この一触即発的な空気の中で?
本当にどんな情報を得たんだ、村長は。
何の根拠もなく打って出るような人ではないと思うのだが。
ということは、根拠を得たということだよな。
うむむ…。
「…他種族というと?」
「そこまでは…。ただ、ここで何か行動に移さないと、この森はもうダメかもしれないと…」
村長がそこまで言うとは。
他種族の弱みでも握った…だけではなさそうか。
森全体についての懸念まで漏らしているとは。
ここで考えていても仕方ないな。
俺自身も情報収集出来るようなスキルを得られれば良かったんだが…。
流石に透明になったりする手段は、開放条件が分からなかったからなぁ。
「分かった。今行く」
「ありがとうございます」
ホッとしたように胸に手を当てるミーシャちゃん。
何でそんなに緊張していたんだろうか。
俺、今までそんなに村長とかミーシャちゃんのお願い、断ってただろうか?
うーん。
絶対に付いて来てもらうように、と念を押されていたとか?
…って、そんなどうでも良いことは考えなくても良いよな。
「えー、シンジュさま行っちゃうのー?」
「しょーがないなぁ…。オレらはあそんでるから、終わったらもどってこいよ!」
「分かった分かった」
大分聞き分けの良くなった二人は、パーッと俺から離れて行った。
二人で、かくれんぼなりおにごっこなりするのだろう。
俺は一呼吸つくと、ミーシャちゃんについて村長の家に向かった。
「(簡単な話で済むと良いんだけどな…)」
また長々とした話になってしまうと、訳が分からなくなる。
是非ともシンプルに終わることを祈るばかりである。
…まぁ、交渉に行くという時点で、そう簡単に終わるような気はしないのだが。
木「で、結局俺何覚えたか公開してなくない?」
子供たち「「オレ(あたし)たちよりは覚えてない!」」
木「…さいですね……」