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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第一章/木になった俺と、最果ての森の四種族
17/91

16.話し合い(2回目)

 黒フードは、「日本人」の存在を知っていた。

 そんな、恐ろしい事実が判明してしまった。

 世界に争いの種を蒔きたい的な、頭の沸いたことを言う人物が、「日本人」自身か、もしくは関連するものを探しているなんて、嫌な予感しかしない。


 そんなヤツに、「探し物」と言われて、「薪にしてやる」と危うく殺されそうになった俺、プライスレス。

 ところで今更だけど、炎操りながら薪にしてやるって、もしかしてアイツ馬鹿?

 あっ、今燃やして薪として使ってやるって意味か?

 …どうでも良い現実逃避するもんだな、俺も…。


「シンジュ様。何か気になることはありましたか?」

「…いや、話を進めてくれ」


 村長から尋ねられるけど、俺は素知らぬふりだ。

 まだ確定でない情報までは共有したくない。

 普通に、シンジュを狙って来てのセリフだったかもしれないし。


「…分かりました。それでは、ひとまず今後、その「ニホンジン」という言葉に関する情報も探って行く事にしましょう」


 村長は、この話題を置いておいてくれることにしたらしい。

 本当にありがとう、村長。

 多分俺が、ヤベェ!って顔してるの分かったんだな。

 俺、基本無表情なんだけど。

 だからミーシャちゃんも心配そうな顔してなくて良いからね。


「リョーニャ。続きを」

「はい。と言っても、村長にまとめて頂いた以外、特筆して報告すべきような内容はありませんでした」


 つまり、黒フードの質問にリョーニャさんが答えないと分かると、それ以上無理矢理聞こうとする訳でもなく、一旦仕切り直そうと言って、その場を離れた、と。


「その後にイヴが合流したんだったな。イヴ」

『このタイミングでは、あんまり変わったことはなかったの。見張りは私に気付かないで暇そうにしてたし、私もリョーニャから話を聞いて戻って行っただけだっただけなの』


 本当に変わったことはなかったみたいだ。

 何かしらかの異変がその時点であったのだとしても、分からなければないものも同然と言えよう。


「その後は俺らだな。イヴの戻りを待って友情を深めてたぜ!」

「深めてない」

「照れるなよ、シンジュ様ー!」

「お兄様!」


 この場の流れに一切関係ない、どうでも良い話をし始めるユーリャくんを、真面目なミーシャちゃんが叱る。

 妹に叱られるユーリャくん、情けないったらない。

 本人は、何で叱られてるのか分かってないみたいだが。

 いやいや、分かろう?


「良く分からんが続きか。イヴが、あの怪しいヤツは、穴から二人を出した後、一旦村に戻ったから、戻るのにはしばらくかかると思うって、リョーニャが言ってたみたいなこと報告して来たから、助けるなら今じゃねーかなぁ、って思って、とりあえずもう一回イヴに戻らせたんだよな、確か」

「ん?」

「あれ、間違ってたか?」


 …そう言えば、村長の丁寧な説明を聞いてた影響で、すんなりとイメージが頭に入って、今の今まで思い出せなかったが…。

 イヴちゃんあの時、黒フードは、落とし穴からミーシャちゃんたちを出した後、どっかに行った、って言ってたよな!?

 あれ、リョーニャさんがそう言ってたって聞いたけど、リョーニャさん洞窟の中でしっかり黒フードの尋問受けてるじゃないか。

 どういうことだ?


「…イヴ?」

『うっ…』


 チラとイヴちゃんに視線をやると、イヴちゃんは気まずそうに目を逸らす。

 …伝達ミスか。


『ご、ごめんなさいなのぉっ!!』


 わーん、と泣き始めるイヴちゃん。

 いや、仕方ないよ。

 伝言ゲームなんて、間違うものだよ。


「イヴ…お前なぁ。洞窟から出て行ったのがついさっき、って言ってくれりゃ、俺だって、あの野郎が気まぐれに戻ってくる可能性くらい考えたぜ?ったくよぉ…」


 呆れたように言うユーリャくん。

 まぁ確かに、あの時点でそう情報がもたらされていれば、もう一度イヴちゃんに行かせることはなかったかもしれない。


「そしたら、真後ろに急に現れるのは避けられなかったにしても、ある程度後ろに警戒くらい出来たんだぜ?」

『うう…ユーリャ(バカ)に指摘されるなんて、最悪なの…。末代までの恥なの…』

「(そこまで!?)」

「何言ってんだ、イヴ。お前子供出来ないから、末代も何もないだろ?」

「(そこなのか、ユーリャくん!?)」

『それはセクハラなの、ユーリャ!』

「(セクハラこの世界にもあるのか!?)」


 この二人の会話、何かズレてるんだけど、何だこれ。

 て言うか、イヴちゃんユーリャくんの名前、変な風に呼ばなかったか?

 ん?俺の聞き間違いか?


「落ち着きなさい、二人共。問題は、間違ったことではなく、これからどう行動するかにかかっている」

「へーい」

『はい、なの…』


 イヴちゃんが、すっかりしょげてしまった。

 何だか可哀想だ。

 結局は正確に伝えていようが、あの状況になったような気がするし、指摘しないであげれば良かったのではないだろうか。

 …指摘したのユーリャくんだから、俺がそう思おうが関係ないけど。


「そんで、俺らはアイツが出てくるまで待機してたって感じだ。変なことは他に何もなかったな」

「ああ。感じることもなかった」


 とりあえず話を進めることにする。

 ユーリャくんの言葉に、俺は記憶を辿りながら頷く。

 違和感なんてものは存在しなかった。

 だからこそ、急に声をかけられて驚いたのだ。


『私は、洞窟の中でリョーニャに助けに入るって話をしようとしたら、入った様子もなかったのに、アイツがいて…さっき話した会話したの』


 妖精程度が云々の話か。


「私から見ると、また洞窟の外からやって来たように見えたのですが…」

「いんや。俺らが見てる間に、出て来たヤツも入って行ったヤツも、イヴ以外にはいなかったな」

「そうですか…」


 リョーニャさんは、訝しげに眉を顰めている。

 と言っても、ユーリャくんの言葉を疑っている訳ではなくて、あの黒フードの正体不明な移動手段について考えているのだろう。

 瞬間移動が一般的じゃないらしいこの世界において、そんな離れ業をやってのけた黒フードは、チートと言っても過言ではないだろう。

 そんなチート野郎を理解しようとしても、簡単に出来るものではない。


「それから、戦闘に入ったんだね?」

「おう」


 ここからは、ユーリャくんが俺と別れる直前までを説明した。

 俺は特に口を挟むでもなく、頷きながら聞いていた。

 多少の誇張表現はあったものの、現実からあまりにもかい離した様な話はしていなかったから、問題はない。


「俺は、見張り二人を昏倒させて、ミーシャたちと合流して逃げた」

「流石はシンジュ様です!」


 説明としては最悪だけどね!

 この口、エルフ語のレベルが低いからか分からないけど、全然上手く話せないからな。


「おや。それでは総合(レベル)も上がったことでしょうね」

「ん?」


 あれ。

 そう言えば、この世界のレベルって、どう上がるか知らなかったな。

 普通に敵を倒せば上がるのか。

 殺さないと経験値が入らないって言われたらどうしようかと思ってたけど、そうか、戦えば普通に経験値が入るのか。

 後で確認しよう。


「後で確認する」

「ええ、そうしてください」


 村長の言葉にうんうんと頷く。

 俺、頷いてばっかりだな。

 何ていうポンコツ。

 いや、ほら、まぁ俺…ただの木ですから。


「さて、もう一回俺の番だな!」

「後は頼む」

「ああ!そう…あれは、シンジュ様に後を託された俺が、宿命の敵と対峙して…」


 …あれ、そのテンションで説明するのか、ユーリャくん?

 少し嫌な予感がしたが、的中してしまった。

 軽いユーリャくんオンステージだった。

 ユーリャオンステージ……自重しておこう。

 いや、自重して欲しい。


 そんな願いは虚しくも絶たれ、軽く一時間は語られた。

 重要な情報がそもそもどこにあるのか、俺はさっぱり分からなかった。

 ちょっと黒フードの性格も改ざんされてないか?大丈夫か??


「…という訳だ」


 どういう訳だ。

 最後まで聞いても理解出来なかった。

 普通に長編映画を見た様な気分だ。

 真面目に考えなければならないと言うのに、この体たらくで良いのか。


「ふむ。軽くまとめれば、「黒い被り物をした人物の攻撃は主に杖を介した魔術」であり、「杖がなければ使えず」、攻撃範囲は彼から「半径十メートル圏内」で、漏らした独り言から、彼は「誰かの為に世界に争いをもたらしたい」と考えている…といった感じになるか」


 …村長!

 あの長い話をそんな簡潔にまとめたのか!?

 有能過ぎる。


「流石は俺の親父。その通りだ!」

「それなら最初からまとめて話して下さい、お兄様!」

「それは出来ん!ロマンだからな」

『ロマンなんて美味しくないのー!』


 ユーリャくん…ロマンを手放せばまともに話せるのか…?

 ま、まぁその辺は突かないでおこう。

 俺も男だ。ロマンは理解出来る。

 …同じ男であるはずの村長とリョーニャさんは、呆れた様な顔してるけどな。


 気を取り直していこう。


「因みに、どうやって逃げ切った?」

「話聞いてなかったのか、シンジュ様?だから、幾度も拳を交えた俺達の間には、絆とも呼べるような不思議な縁が出来てだな…」

「それはもういい」

「…シンジュ様がいなくなって割とすぐ、これ以上戦う意味はないってアイツが言い出してさ。仕方ないから帰って来たんだよ」


 確かに逃げる為に戦ってたんだしな、と軽く笑うユーリャくん。

 何だ、じゃあユーリャくんもすぐ逃げて来れたのか。

 それは良かった。


「説明はこれで以上か?」

「そうだな。後は、一応背後を警戒しながら来たから、思ったより時間かかったってくらいか」

「他に罠とか…追手が来るとか…そういったことはなかったんですね?」

「ああ。かなり気を張って探って来たからな。その辺は安心して良いぜ」


 ふふん、と鼻を鳴らすユーリャくんに対し、皆納得しているところを見ると、何だかんだ言いつつ、やっぱりユーリャくんの実力は認められているのだと、俺は密かに失礼なことを考える。

 密かだから、良いよな!


「未だ分からないことは多いか…。全体を通して、他に何か気になった点がある者はいるか?」


 村長が唸りながら問いかける。

 すると、ユーリャくんが元気良く手を上げた。


「何かあったか、ユーリャ?」

「ああ。というか、ミーシャの話が終わった後に話そうとしてたんだけどさ…」


 そう言えば、ユーリャくんも、イヴちゃんと同じように手を上げていた。

 その後何も言わないから、てっきりイヴちゃんと同じ疑問なのだと思っていた。


「…イヴの意見とは違ったのか?」

「ちょっとな!」

「何故イヴの話が終わった時に言わなかった」

「忘れてた!てか、イヴの話の方に疑問持っちまって」


 やっちまったぜテヘペロ!…じゃないぞ、ユーリャくん!?

 俺も人のことは言えないんだが。


「イヴはさ、アイツが性格的に驚くなんて有り得ないって言ってたろ?」

『なの』

「俺はさ、あの落とし穴を設置したのがアイツらなら、何で首謀者っぽいヤツが驚いて逃げんのかなーって疑問に思ったんだ」


 それって、何かおかしいだろうか?

 俺は首を傾げる。


「驚いた振りをすることで、深追いしやすい空気を作って、ミーシャたちをハメようとしたのではないか?」

「…そう言えば、あの怪しいヒトは、私を見て吃驚したようでした」

「ミーシャを?」


 俺も村長の意見に賛成なのだが、ミーシャちゃんが軽く否定する。

 騙そうとする雰囲気ではなかったと。


「はい。見間違えではないと思います。確かに、驚いていました」

「ミーシャ様を騙そうと、振りをしたようには見えませんでした」


 また一つ、解決しない疑問が浮かび上がる。

 もう、アイツについては疑問しか出て来ないんじゃないだろうか。

 本人を捕らえた訳ではないし。

 資料がある訳でもないし。


「知り合いか?」

「まさか!私は、シンジュ様を探して村を出るまで、一度も村を出たことはなかったのですよ?」

「まして、ミーシャが生まれてから、村によそ者がやって来たことは一度もありませんでした」


 無難に考えれば、驚くような知り合いに似てた、とかかな。

 他のエルフの女の子とか?

 監視とか色々甘いなぁ、と思ってたけど、ミーシャちゃん相手に手加減してくれてた可能性はありそうだ。

 思ったより良いヤツなのか?

 …世界に争いの種を蒔くとか言ってるけど。


「とりあえず、俺からは以上ー!どうだ?ありがたい意見だったろ?」

「確かに。…それで、他にはありませんか?」


 村長が軽くユーリャくんの言葉を流す。

 慣れ過ぎですよ、村長!

 俺も見習おう。

 いちいちユーリャくんにヘコまれたら、大変だし。


「あ」


 そんなことよりも、俺も気になることがあったんだ。

 ここで言わないとまた忘れてしまう。

 俺はそっと手を上げる。


「シンジュ様も、何かおありでしたか」

「ん、幾つか。一つ目、アイツ炎しか使わなかったの何で?二つ目、洞窟そんなに深く無かったのに、何で見張りイヴちゃんとの話し声に気付かなかった?そもそもあの黒フード、見張りと情報共有ホントにしてた?三つ目、やっぱり瞬間移動ってあるの?気配を探る方法もあるの?四つ目、森の子鬼(フォブリン)の共通語って何?」


 忘れない様に一気にいくぞ。

 既に忘れたものに関しては仕方がない。

 そのまま忘れていよう。

 …じゃない、思い出したら順次解決していこう。


「一つ目はあれだな。普通に考えりゃ、アイツの属性が炎だから」

「戦略の関係で、他の属性を出し惜しみしていた可能性もありますよ」

「属性?」


 簡単に説明をしてもらうと同時に、用語が開放された。

 俺は図鑑を開いてみる。


【属性】new


<この世界に存在するすべての者には属性が備わっている。

通常、属性は一つでありその属性から逸脱した環境では生活出来ない。

また、自らの持つ属性以外に分類される魔術は習得することが出来ない>


 …やっぱり属性とかあるんだ。

 俺なら何だろう。

 やっぱり木とか?


「我々森のエルフ(フォレルフ)は少し変わっておりまして…すべての属性を所有しているのが、一般的になっています」

「え?す、すごいな…」

「恐れ入ります。ただ、その代わり何かに魔素を通さねば魔術を扱えないという、重大な欠点もございますが」


 それで、図鑑には「魔術の習得可能範囲が非常に広い」とあったのか。

 なるほど、納得だ。


「因みに、属性はどうやって確認する?」

「おや?シンジュ様はステータスを見ることが出来たはずですよね?」


 不思議そうにする村長。

 これは、普通にステータスに載ってるってことだろうな。

 …状態確認(ステータスチェック)にも、きっとレベルがあるんだ。

 それで開放されてないんだ。

 俺はそう結論付けると、後で確認する、とだけ答えておいた。


「二つ目は、俺には分からなかったな。リョーニャは?」

「残念ながら…」

『私も分からなかったの』

「あっ!後半の方は何となく分かるな。答えは、共有してなかった、だ」


 ユーリャくんが頷きながらそう答えてくれる。

 うーん、やっぱそう見えるか。


「共有してたら、シンジュ様が飛びだした時点であんな取り乱さねぇってか…そもそも見張りしながら寝ないだろ?」

「…御尤もだ」


 後半は分かってて聞いたんだけどな。

 念の為だ。念の為。


「三つ目は、難しいですね。話を聞く限り、タイミングから言っても、少なくともその人物はそうした手段を行使しているように思います」

「私には何とも」

「私も、見ておりませんので…」

「俺は親父に賛成。姿を消したくらいじゃ、この俺の目は誤魔化されねーし!」


 もし姿を消して、洞窟の中と外を行き来していただけならば、看破出来たはずだと、ユーリャくんは胸を張る。

 ユーリャくんの言葉を信じるとすれば、やはり瞬間移動か。

 …いいなぁ…俺も使ってみたいなぁ…。


「気配を探る方法は、俺みたいにヒトの生体エネルギーを探れる「探知」って生活スキルと、魔素を探れる「探査」って生活スキルがあるぜ」

「それぞれを無作為に感じ取る生活スキルが「感知」ですね」


 …むむ??

 ユーリャくんと村長が説明してくれるけど…。

 俺、エルフ語の違い分からないよ…。

 「探知」と「探査」と「感知」って、何が違うんだ??

 …おいおい覚えていこう。


「後は、魔術にも幾つか気配を探る術がございますよ」


 あ、ごめんミーシャちゃん。

 それ後で教えて。

 今はもうムリ。


「それと…四つ目は、何の意味があるのですか?」


 ミーシャちゃんは不思議そうにしている。

 質問の意図をはかりかねているようだ。

 でも、これが最も重要な質問だ。


森の子鬼(フォブリン)の共通語は、子鬼(ゴブリン)語ですが…」

「ん?おい、待てよ。何で俺ら、アイツの言葉分かったんだ?」


 ユーリャくんが、ふと声を上げる。

 それを聞いて、リョーニャさんもイヴちゃんもハッと目を見開く。

 …ちょっと待ってくれ。

 もしかして、誰も気付いてなかった?


「誰も子鬼(ゴブリン)語使えない?」

人間(ヒューマン)語ならちっといけるけどなぁ…」

『私、動物語なら自信あるの』

「申し訳ありませんが、エルフ語以外は何も…」


 お願い、気付いて!

 これ結構重要な情報だと思うんだよ!


「…やはり、そうでしたか。皆が相手の言葉についてやけに事細かに説明してくれるものだと内心驚いていたのですが…」

「村長。気付いてたなら指摘してくれ」

「シンジュ様が指摘してくださらなければ、最後に言おうと思っていました」


 後出しジャンケンという訳でもなさそうだ。

 まぁ、村長だし。

 やっぱり気付くよなぁ。


「シンジュ様の言葉の習得スピードは異常でした。通常、言語を修めるには、数年かかる…少なくとも、数か月はかかるものです」


 予想通りだ。

 この世界の人は、ステータスは気軽に見れるものじゃない。

 俺はいつでも見れるから、定期的にスキルとか覚えられるけど、覚えられることに気付くのに、通常は時間がかかるものだ


「少なくとも数か月…その言葉を使う者と生活を共にし、常にその言葉を聞き続けることで、ようやく覚えるだけの下地を手に入れ、この村においては村長である私…人間の国では、神殿のところへ行き、儀式を行うことで、初めて言語を修めることが出来るのです」


 やっぱり、おかしいと思ったんだ。

 比較的友好的な森のエルフ(フォレルフ)ですら、今はこんな状況で、他の種族との交流を絶っているというのに、一体どこからエルフ語なんてものを覚えて来れると言うのか。

 残る可能性は、交渉を行うような、偉いヒトである可能性だけか。


「つまり、現状森の子鬼たちが、エルフ語を身につけることは不可能。残る可能性は、争いが起こるよりも前に、既に覚えていた、という可能性ですが…私の知る限り、森の子鬼(フォブリン)の知識人は既に亡くなっているはずです…」


 彼らの寿命は短いですから、と村長は呟く。

 残る可能性はついえた。

 ならば、言えることはただ一つ。


「つまり件の森の子鬼(フォブリン)は、森の子鬼(フォブリン)であって森の子鬼(フォブリン)ではない…ということです」


 周囲を満たす沈黙。

 何と言うことだろう。

 魔術を扱えるだけでも脅威だと言うのに、また意味の分からない危険性が判明してしまったぞ。


「意味分かんねぇな」


 さっぱりと呟かれたユーリャくんの言葉が、今のこの状況を端的に表しているような気がした。

 混乱に陥った俺達は、一度考えを整理して、もう一度今後の対策について話し合おう、ということで一応の話し合いの決着を見た。


 あまりにも混乱して、気絶しそうになった俺は、その前にと本体(だと思う)木の元へ向かうと、合体した。

 こうしていると、本当に落ち着く。

 元は人間だったなんて信じられないレベルの木っぷりだ。

 最初、暇だーなんて言っていたことすら信じられない。


 頭をからっぽにして、眠りにつく。

 願わくば、このまままた平穏な日々が送れると良いのだが。

 そんな風に思うが、物語の主人公の如く、管理人から使命を言い渡されている以上、それもきっと厳しいのだろう。

 俺は深く溜息をつくと、今度こそ本当に眠りに落ちた。


兄「マジ意味分かんねぇ。結局この話し合い意味あったのか?」

木「なくね?」

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