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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第一章/木になった俺と、最果ての森の四種族
12/91

11.救出チーム合流

 一旦村長さんの家に戻って、ミーシャちゃんたちの行方を追う為の準備をする。

 と言っても、そこまで大した準備ではない。

 元々腰に剣はぶら下げていたし、短刀も隠し持っていた。

 弓矢を背負うくらいか。

 傷薬とかは、俺には知識がないから、持っていてもあまり意味はないし。


 …そうそう、この世界における傷薬は、知識がないと使えない。

 塗り薬から飲み薬から、種類は色々あるけど、すべて見た目がやけに似ている。

 においとか、その他色々で判別して使うらしい。

 少なくとも俺は、状態確認で見れば名前は分かるから、区別、という問題はないんだが…残念なことに症状によって使用すべき量とか時間とかタイミングが決まっているらしく、素人が適当に使うと、寧ろ悪化するんだとか。

 何それ超怖い。


 けど、その代わり効果は高い。

 結構な重傷でも、適切に処置をすれば、物凄い勢いで治る。

 是非とも覚えたいと思って、勉強はしているが、スキルの一つも生えない。

 もしかすると、才能がないのかもしれない。

 まぁ、状況を見てちゃんと覚えられれば覚えるけどな。


 傷薬だけでなく、回復出来る魔術も存在するらしい。

 でもそっちもお察しと言うか何と言うか、俺には使えない。

 その内使えるようにならないと、後々困ることになりそうな気がする。

 俺だって怪我をしたら治さないと、痛覚的には平気でも、腐ってしまうかもしれないからな。

 そうしたら死んでしまうし。


「シンジュ様。準備はよろしいですか?」

「平気だ」

「そろそろ約束した時間です。今来ると思うのですが…」


 村長さんが、窓の外を眺めてそう呟く。

 待っているのは、戦闘に長けた者、とやらだ。

 村長の子供たち他数人、戦闘能力の高い人たちは、現在村の外の情勢を掴むべく所謂密偵とか、そういう役割を担っているらしい。

 確かに、森の中の争いごとだけに気を取られている内に、森全部が燃やされた、なんてオチになったら笑えない。


 それで、今回呼び戻すのは、その中でも比較的村に近い場所にいる人らしい。

 まだ、どんな人なのかまでは聞いていないんだけど…どんな人だろうか。

 こんな時でもなければ、新しい人との出会いに、多少ワクワクするのだが、状況が許してはくれない。

 俺は何を言う訳でもなく、ジッとその人が現れるのを待った。

 すると、村長が今来ると思う、と言ってから五分も経たない内に、バン!と勢い良く扉が開いて、威勢の良い声が響いて来た。


「親父!今帰ったぜ!!世界のユーリー様、只今推参!つってな。この俺様が来ればもう安心だ。大船に乗ったつもりでいてくれて構わないんだぜ?」


「……」

「ああ、お帰り。ユーリャ」


 思わず呆気に取られた俺、間違っているだろうか。

 サラサラの薄緑色の髪を太いヘアバンドで押し上げ、オールバックのような髪型になっている、少しばかり軽薄そうな印象のする甘い垂れ目の青年。

 その髪色と、耳がとがっていること、そしてセリフから、彼が村長の息子だとすぐに分かったのだが、何だか納得がいかない。

 サラッと髪をかき上げる動作とか、女の子の一人もいないこの場でやってどうするつもりなんだろうか。

 イケメンなのは分かるけど、本当にこの人が戦闘に長けた人、なのか疑問に思ってしまう。


「シンジュ様。彼が今回呼んだ私の子…ユーリャです」

「どうも」

「へぇ…アンタが新しいシンジュ様か。ふーん」


 ズカズカと家に入って来て、ジロジロと俺を眺めながら、俺の周囲を歩きまわるユーリャくん。

 くん…さん?

 外見年齢的には、高校生か大学生か、くらいに見えるけど、どっちだろう。

 まぁ、どっちでも良いか。

 口に出そうとすると、何故か敬称が行方不明になるし。

 スキルレベルが低いせいなんだろうけど。


「話には聞いてたけど、マジでヒトみたいな格好してるんだな」

「まぁ」

「面白ぇじゃん!今までのシンジュ様より断然良いぜ。結界は張ってくれるわ、話相手になってくれるわ、大活躍だって話じゃん?俺さ、つまんねーヤツは嫌いだけど、アンタみたいに面白いヤツなら大歓迎だ。ヨロシクな」


 あんまりエルフには似合わない、ニカッとした満面の笑みを浮かべて、俺の手を握ると、上下にブンブン振るユーリャくん。

 何だろう…。

 女の子のこと、遊んで捨ててしまいそうな、甘くて軽薄そうな雰囲気に反して、無邪気というか素直というか…。

 どうやら、良い人っぽい。

 …まぁ、相変わらず本当に戦えるのか、疑いは残っているんだが。


「ユーリャ。シンジュ様に対して失礼が過ぎるぞ」

「平気だ、村長」

「ですが…」

「本人が良いって言ってんだから、別に良いじゃん。なー!」


 気軽に肩とか組んで来たよ、こいつ。

 何でこんな吃驚する程軽いんだろう。

 確かに、森のエルフ(フォレルフ)は他のエルフに比べて閉鎖的じゃないって説明はあったけど…これは行き過ぎじゃないか?

 神秘的な外見裏切り過ぎだと思う。


「まったく…。ユーリャ。お前の準備は済んでいるんだろうな?私はついていけないのだから、しっかりやってもらわないと困るんだぞ?」

「心配し過ぎだよ。俺だって親父の子だからな。森のエルフ(フォレルフ)としての心構えくらいちゃんと持ってるさ」

「なら良いんだが…」


 ユーリャくんは、茶化すように肩をすくめているが、その目は真剣だ。

 これは、不安に思って失礼だったのかもしれない。

 何だかんだ、村長から情報収集を託されている人なんだから、当然か。

 俺はちょっと安心しながら、村長の言葉に首を傾げる。


「村長は行かないのか?」

「はい。いざという時のことを考えて、私はシンジュ様の本体と共にここに残ります。最悪、私は村の結界を強化したいので」

「なるほど」


 結界を張れるのは、長一族の者だけ。

 力の強いミーシャちゃんがその任を預かっているけど、今は安全が確認出来ていない状況だ。

 その中で結界をコントロール出来るのは、村長だけだ。

 その選択は、自然なものかもしれない。


「ユーリャと二人で行くのか」

「ああ。シンジュ様も結構な腕前って聞いてるけどな、俺が行けばアンタの活躍の場はなくなるから、悔しいだろうけど、見守っててくれよな」

「……そうか」


 バチコーンと、効果音でも付きそうな程自然にウインクを決めるユーリャくん。

 ああ…イケメンって、何させても決まるなぁ。

 何かちょっとイラッとしたけど。


「俺、まだ初心者だけど」


 ちょっぴりウザいユーリャくんを適当に流して、俺は村長に尋ねる。

 剣とか弓とか、色々教わってはいるけど、実戦レベルなのかと聞かれれば、俺としては微妙なところだ、と答える。

 それで、ユーリャくんには結構な腕前、と伝わっていることに違和感を覚えたのである。

 すると村長さんは苦笑気味に答えてくれた。


「確かに、達人と呼べるかと言われれば難しいでしょう。ですが、シンジュ様はもう既に、十分戦うことが可能だと思います」

「そう感じないけど…」

「シンジュ様の中の戦える者、のイメージが大き過ぎる為でしょう。これは、村の外に出てみればすぐ分かることだと思いますよ」


 俺の頭の中にある戦える人というか、理想というかが、物凄くハイレベルなのは認めるけど、そんなに?

 スキルで底上げはしてるけど、俺多分今日本に帰っても、プロのボクサーには、普通に殴り殺されるレベルだと思う。

 それで戦えるって言われても…。


「戦えるかどうかはさておき…シンジュ様の本体は村にある訳ですから、村の中で最も追跡には向いていると思いますよ」


 最悪殺されても平気ってか。

 村長…なかなかえげつないこと言いますね。

 俺自身も思ってたとは言え、直接言われると結構ショックだな。

 …死なない様に頑張ろう。


「シンジュ様は俺が守ってやるから。そう心配するんじゃねーよ」

「……任せたぞ」


 こん、と拳で軽く肩を叩かれる。

 物凄い自信満々な笑みを浮かべているが、ユーリャくん。

 君、本当に大丈夫なんだろうな?

 俺は、口元を引き攣らせながら返答する。

 木製の身体は表情が豊かでないから、その辺りの微妙な感情が上手く伝わらないらしく、ユーリャくんは任されて嬉しそうにしている。

 …うん、その調子で頑張ってくれ。本気で頼むから。


「よし、それじゃあ行くぜシンジュ様!遅れるなよ!!」

「先に行くのか!?」

「シンジュ様!有る程度行った場所に、イヴが戻っていると思いますので、まずはあれと合流して下さいね!!」


 珍しく声を荒げる村長の声を背に、颯爽と俺を置いて飛びだして行ったユーリャくんを追いかけ、俺も駆けて行った。

 なぁ。本当にユーリャくんって戦闘に長けて……以下略。


**********


「シンジュ様。遅いぞ。この俺様の溢れんばかりの脚力に追いつけないのは仕方ないとは思うが…もう少し頑張ってくれ」

「はぁ…はぁ……すまん…」


 どうして俺が謝る羽目になっているんだろうか。

 一刻を争う事態だから、足が遅い俺が悪いのかもしれないんだが…。

 文句をグッと飲み込んで、俺は息を整える。

 あまりハァハァ言っていたら、敵に気付かれてしまうかもしれない。


 しかし、折角木製の身体なのだから、息なんて切れなければ良いのに。

 そうは言っても、恐らくは瞬発力というステータスの影響を受けているのだろうから、あまり文句は言ってられないか。

 恩恵も多く受けているし。


 俺はそう思いながら深呼吸をしつつ、改めて辺りを見回す。

 木々が生い茂っており、先を見ても木、木、木…。

 最初に見た景色と、一体どこが違うのかと聞かれても答えられない程、殆ど違いの分からないくらい、森、という感じだ。

 野性児なら分かるのかもしれないが、こちとら生憎普通に町暮らしだった。


 下を見ると、あの落とし穴から結構進んだにも関わらず、変わらずに引きずったような跡が残っている。

 ここまで来ると、やはり罠を疑ってしまう。

 実際に、引きずられて行く二人を見た訳でもない、という事実が、余計に俺の心配を増して行く。

 跡を睨んで唸っていると、ユーリャくんがしゃがんで、同じ跡を眺め始める。


「どうかしたか?」

「ああ…ミーシャの魔素が濃くなって来ている。これは近いかもしれないぜ」

「分かるのか?」

「当然。俺様は村の中でも一、二を争う程、探知能力が高かったからな。流石は世界のユーリー様、と褒めてくれても罰は当たらないんだぜ?シンジュ様」

「……凄いな」


 自慢げに口角を上げるユーリャくんを、俺は素直に賛美する。

 どうやったのかは分からないが、彼は言う通り、相当探知能力に長けているのだろう。

 俺は跡を見てもさっぱり何も分からない。

 黙ったユーリャくんに、俺はこっそり状態確認(ステータスチェック)を行ってみる。


 【名前】ユーリー(ユーリャ)


 【種族】森のエルフ(フォレルフ)


 【年齢】


 【性別】男性


 【称号】自称世界のユーリー様


 【戦闘】


 〔総合〕

 〔耐久力〕 /

 〔瞬発力〕 /

 〔体力〕 /

 〔魔力〕 /

 〔気力〕 /


 〔力〕

 〔知力〕

 〔頑丈〕

 〔速さ〕53

 〔技力〕無手・C、暗器・A-、短刀・B、弓・D-

 〔術力〕


 【生活】


 〔エルフ語〕基礎・B-

 〔身体操作〕基礎・A+

 〔気配操作〕基礎・A

 〔気配探知〕基礎・B+


 空欄多いなー…。

 これはつまり、かなりユーリャくんのレベルが高いってことだろうか。

 よく分からないけど…称号酷いなー。

 これもう少し詳細分かるだろうか。


【自称世界のユーリー様】new


<自信を持つのはとても良いこと。でも、行き過ぎるとマイナスになることも?

称号設定効果:自信を持つことに2倍補正。他人への心証にも2倍補正が入る>


 何だこの称号の効果。

 ヤバ過ぎるだろう、これ。

 それでやけに自信家だったのだろうか。

 それとも、自信家だったからこの称号を得たのだろうか。

 後者っぽいけど…それよりももう一つの効果だ。


 他人の心証に補正って、プラスの印象を持った相手には更に良い印象を与えられて、悪い印象を持った人には更に悪い印象を与えるってことだろう?

 隠密行動には向かないんじゃないだろうか…。

 見るんじゃなかった。

 余計に心配の種を増やすことになってしまった。


 …ここはひとつ、見るところを変えよう。

 ほら、戦闘の数値は見れないけど、技力はちょっと開いてる。

 軒並み結構高いじゃないか。

 戦闘が得意って言うのは、本当のことだったんだ。

 俺は無理矢理そう思って安心する。

 数値以上の不安要素を抱えているのには、見ない振りだ。全力で。


 しかし、それにしてもユーリャくん、急に黙ってないか?

 ボーッと考え事をしているように見える俺に対して、何となくおしゃべりな印象があるユーリャくんが話しかけて来ないのって、おかしくないか?

 失礼かもしれないが、この三十分くらいのやり取りで、俺はそんな印象を得ていたのだから、仕方ない。

 俺はウインドウを閉じて、ユーリャくんを見る。

 見て、ちょっとギョッとした。


「……」


 どうして顔を真っ赤にして目を泳がせているんだ、君は!?

 急にどうしたんだ、本当に。

 何も起こってないのに、その反応はおかしい。

 俺は疑問符に埋め尽くされそうになりながら、理由を尋ねてみる。

 …あんまり聞きたくないけど、今は緊急事態だし、聞かざるを得ないだろう。


「どうかしたのか、ユーリャ?」

「えっ、あっ、そ、その…」


 口ごもるユーリャくん。

 相変わらず目が合わない。

 照れてる…のは分かるけど、何故だ。

 理由が皆目見当もつかない。


「シンジュ様…」

「うん?」

「今…凄いって、言ったか?」

「言った」


 何を聞かれているんだ、俺は。

 確かに、凄いと思ったから褒めたけど……。

 ……えっ、まさかそれで?それで照れてるのか?何で??


「へへっ、そうか!シンジュ様は、俺のこと凄いって思うのか!」


 ユーリャくんは、非常に嬉しそうだ。

 美形がもじもじするとか、誰得。

 これが女の子だったら、普通に俺得なんだろうけど…。

 ユーリャくんは、中性的な村長に比べて、ハッキリと男の子だからなぁ。


「何か久しぶりに凄いって言われて照れちまったぜ…。……あっ、いや、別に俺が褒められないような面倒臭いヤツって訳じゃねぇからな、シンジュ様!」


 勘違いすんなよ、って言われても…。

 この子、大丈夫だろうか。

 俺は、一周回ってユーリャくんのことが心配になって来た。

 ちゃんと友達とかいるんだろうか。

 もしかすると、称号の効果で、周囲の人から素直に褒めてもらえないんじゃないだろうか。

 …俺くらいは、ユーリャくんに優しくしてあげても良いかもしれない。

 こう素直な反応をしてくれれば、そう悪い気もしないしな。


「ユーリャ」

「ん?」

「期待してるからな」

「!!任せろ」


 尻尾が見える。

 この子、エルフなんだけど。

 俺は生温かい目線を向けながら、イヴちゃんの気配を探った。

 イヴちゃんは、翅音とかさせないから、あんまり気配なんて感じないんだが、一応まったく気配がないって訳でもなかったから、近づいてくれば分かるんじゃないだろうか、という考えからだ。


『二人共!見つけたの!』


 そして、割とすぐにイヴちゃんの声が聞こえて来た。

 残念ながら気配なんて感じなかったが…合流出来たのだから、スルーしよう。


「どうだった、イヴ!?」

『ユーリャ…相変わらず暑苦しいの…』

「さしものイヴも、この俺の溢れんばかりの魅力に耐えられなかったか…」

『うう…ウザくて堪らないの……』

「イヴ。ユーリャは無視だ。報告しろ」

『分かったの、シンジュさま!』


 スイーッと俺の方に近寄って来るイヴちゃん。

 なんて素直なんだろう。

 本気でユーリャを哀れに思いながら、俺はイヴちゃんの言葉に耳を傾ける。


『考えてた通りだったの。この跡を辿って行ったら、小さな洞窟があって、その前に、森の子鬼(フォブリン)たちが(たむろ)してたの』

「そうか」

「少なくとも、あの罠を張ったのは森の子鬼(フォブリン)でビンゴってことだな」

『それで、姿を消して中に入ってみたら、洞窟の一番奥に、ミーシャたちが縛られて転がされてたの!見張りもいっぱいいたから、私じゃ何も出来なかったけど…とりあえず、話だけは聞いて来たの!』


 イヴちゃん…なんて有能なんだ。

 偵察が得意とは言っても、そんな怪しげな洞窟の中に突入して、場所まで特定して帰って来るなんて、なかなか出来ることじゃないだろう。

 俺は密かに感動しながら続きを促す。


「それで?二人は無事か?」

『無事なの。ただ、リョーニャは意識があるけど、ミーシャはなかったの。呼吸はしてたし、怪我とかもしてなかったみたいだから、無事ではあるけど、心配なの』


 リョーニャさんが、今回ミーシャちゃんと一緒に連れて行かれたとみられていたおばあさんの息子さんだ。

 あのおばあさんの息子さんだから、結構な年齢で、おじさんといった外見ではあるのだが、ナイスミドル、といった感じの、やはり美丈夫だ。

 エルフの中にいると、いちいち自分の顔と比較して見てしまうが、今は木製の身体なので、気にしないことにしている。


『リョーニャは、ミーシャと一緒に結界を確認しに出て行ったら、誰かの気配を感じたらしいの。それで、二人で警戒しながら気配がした方に歩き出したら、落とし穴に落ちちゃったって言ってたの。気絶したミーシャを抱えて出ようとしたけど、思ったより穴が深くて、二人じゃ出られなかったの』

「意識がありゃまだ別だが、確かにあの深さじゃ意識のないミーシャを抱えて上るのは、俺でも厳しいだろうな」

「そうか…」


 それで、あの土が削れたような跡がたくさん残っていたのだろうか。

 リョーニャさん、頑張ってたんだな…。


『それで、一旦助けを呼びに一人で穴から出ようと思った時に、森の子鬼(フォブリン)たちが現れたらしいの』

「?だが、アイツらもそう力は強くないだろう。体格も俺達より小さいし…。人数がいたところで、ミーシャだけならともかくとして、がっしりしたリョーニャまで拘束して穴から出てくるのは厳しいだろ。どうやったんだ?」

『それが……』


 イヴちゃんは、ユーリャくんの問いに眉を下げる。

 自身も聞いてきた話を信じられない、といった様子だ。


「何があったんだ?」

『黒いフードを被った森の子鬼(フォブリン)が、杖を振ったら二人の身体が浮き上がったって…そう言ってたの』


 魔術か。

 魔術を使えるようなヤツがいるとなると、なかなか厄介だな。

 交渉してる最中に殴りかかって来るのよりも対処の難易度が上がる。

 淡々と対策について考えていると、ユーリャくんが首を傾げる。

 何か変な話があったか?


「妙だな」

『そうなの』

「どうした?」

森の子鬼(フォブリン)は、魔術を扱えないはずなんだよ」

「何で?」


 ゴブリンメイジみたいなのっていないんだろうか。

 これはRPG的発想ってことか。


『魔者と魔獣は、基本的に身体を構成するのに魔素を使っているの。でも、魔術を扱うのにも魔素を使うでしょう?なの。だから、身体を構成するのに魔素を使ってない種族に比べて、魔術を扱うのが格段に難しいの』

「それって…」

『下手に使うと、身体を構成してる魔素まで使っちゃって、灰になっちゃうの』

「うわ…」


 何だそれグロイ。

 そんな高難易度の技は、森の子鬼(フォブリン)に使える訳がないと。

 何となく理解した。

 あっ、決して彼らをバカにしている訳ではないのであしからず。


「よく分からんが、それだけ優秀な個体が生まれたのか…?」

『要注意なの』

「…そいつに警戒しつつ、もう少し近付いて様子を窺おう」

「そうだな。よし、俺に着いて来い二人とも!魔術使いだろうが、俺の相手じゃないからな!」

『不安なの…』

「…本当に頼むぞ……」


 実際二人が捕らえられていることの裏も取れた。

 あとは二人を救出するだけなんだが…。

 何とか無事に行くことを、あとは祈るのみだな。

 下手にイベントとか起きなくて良いんだからな、神様!

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