09.これからについて
村長から、まず具体的には何から始めるのか、と尋ねられ、俺は軽く腕を組んで考え始める。
まだ考えていなかったのか、と言われれば、それは濡れ衣だと返そう。
一応考えてはいた。
まずやらなければならないことは、自分に出来ること、そして森のエルフ達に、どんな人がいるのか、それぞれ何が出来るのか、の確認だ。
ただ、その優先順位とか、詳しい内容とかを考えていなかっただけだ。
「(まず、自分のステータスの確認するか…)」
これに関しては、許可とか確認とか何も必要なしに出来る。
俺はおもむろにステータスを開いた。
[状態][道具][技芸][称号]
【名前】名無し
【種族】???
【年齢】0歳
【性別】無し
【称号】考える植物
【戦闘】
〔総合〕1
〔耐久力〕15/15
〔瞬発力〕5/5
〔体力〕6/6
〔魔力〕20/20
〔気力〕50/50
〔力〕5
〔知力〕10
〔頑丈〕6
〔速さ〕0
〔技力〕無手・G
〔術力〕無し
【生活】
〔エルフ語〕基礎・G
折角新たな肉体を手にしたのに、まったく数値に変化は見られない。
と思ってから、はたと気付く。
そう言えば、自分で設定しないと、自動的に技を覚えたり出来なかったな、と。
俺は素早く技芸の欄を開く。
すると、戦闘欄は相変わらず空欄だらけだけど、生活に幾つか選択出来るものが増えていた。
【エルフ語】
<基礎:ランクアップ条件達成。ランクアップしますか?⇒はい/いいえ>
【身体操作】
<基礎:取得条件達成。取得しますか?⇒はい/いいえ>
【並列思考】
<基礎:取得条件達成。取得しますか?⇒はい/いいえ>
【分離】
<取得条件達成。取得しますか?⇒はい/いいえ>
【合体】
<取得条件達成。取得しますか?⇒はい/いいえ>
……なんか、凄く多くないか?
いや、多いように見せかけて、そうでもないなこれは。
新たな肉体を得た結果だろうか。
そこそこの条件を達成しているようで、選択肢が羅列されている。
はい、とかいいえ、とかってこんな字だっけ?と、少しばかり眩暈を覚える。
一つずつ確認していく。
まず一つ目は簡単だ。
肉体を得てから、しばらく話していたから、エルフ語のランクが上がったのだ。
これはすぐにはいを選択する。
考えるまでもない。必要なことだろう。
続いて、身体操作。
これは図鑑を見る限り、身体を動かすのに必須の生活スキルのようだ。
これ持ってなかったから、ちょっと違和感があったのだろうか。
そうでもなかった気がするんだが…。
不思議に思いながら取得。
すると、さっき以上にすんなりと身体が動くようになる。
関節とかギシギシ鳴ってたのが、普通に動く。
ちょっと感動した。
それで、並列思考は、ヒトの形をしたこの身体と、木の身体で同時に考え事をしても酔わないという生活スキルらしい。
早速取得してみて実践してみたものの、やはり酔う。
Gランクでは駄目か…。
最後。
分離と合体は、ある意味同じ生活スキルだった。
要するに、俺は本体である木に、自由に戻ったり出たり出来るらしい。
何に役立つか分からないけど、一応取っておく。
不利益にはならなそうだしな。
…よし、これでスキルは全部取ったぞ。
【生活】
〔エルフ語〕基礎・F(up)
〔身体操作〕基礎・G(new)
〔並列思考〕基礎・G(new)
〔分離〕G(new)
〔合体〕G(new)
うん。
これでちょっとは見られるステータスになって来ただろうか。
レベルとか全然上がってないが。
「急に黙ってどうされましたか?」
「考え事」
首を傾げて尋ねるミーシャちゃんに軽く頷いて答える。
…そう言えば、この世界で相手のステータスを見るには、必ずアイテムが必要と説明されていたけれど、俺には状態確認という特殊能力がある。
もしかすると、ミーシャちゃんのステータスも見れたりするのだろうか。
確認しておく必要があるよな。
[状態][道具][技芸][称号]
【名前】ミーシャ
【種族】森のエルフ
【年齢】
【性別】
【称号】未設定
【戦闘】
〔総合〕5
〔耐久力〕20/20
〔瞬発力〕18/18
〔体力〕35/35
〔魔力〕43/43
〔気力〕24/24
〔力〕27
〔知力〕10
〔頑丈〕30
〔速さ〕16
〔技力〕無手・D+、短刀・F、弓・D
〔術力〕撹乱・E-、木葉・G
【生活】
〔エルフ語〕基礎・B
〔身体操作〕基礎・C
〔マナー〕基礎・C
〔精神感応〕基礎・F
幾つか空欄があるな。
バグなんてないだろうし、俺のレベルが低くて見れないとかだろうか。
…いや、年齢はともかくとして、性別くらい載せても良くないか?
見れば分かるだろ、見れば。
いや、そんなのは別に良いか。
それよりも、戦闘欄とか生活欄だ。
数字が予想より高いというか低いというか…。
どこに着目したら良いのか。
…知力の低さか?
ていうか、妙に力と頑丈さ高いな。
どっちだ。逆に知力と速さが低いのか?
うーん。
勝手に見てしまって申し訳なかったけど、これだけ見ても俺にはさっぱりだ。
ここはひとつ、きちんと腹を割って相談した方が良いかもしれない。
もっとレベルを上げれば分かるのかもしれないけど。
「???私のことをジッと見てらっしゃいますが…何かついておりますか?」
「何でもないよ。それより、俺、偵察したい。得意な人いる?」
自分のステータスを見ても良く分からなかったし、そうなるととりあえずやるべきこととして、他種族の偵察だろうか。
俺はそう思って尋ねてみる。
まさか、俺一人で特攻しようなんて、そんな無茶なことは思っていない。
「いるにはいます。…が、シンジュ様。出来れば私は、それよりも先に村人との交流を深めて頂きたく思います」
「村長。何で?」
「いざという時、この村には一体どんなヒトがいるのか、誰はどんなことが得意なのか…そういった情報が頭に入っていなくては困ってしまうでしょう?」
にこりと微笑んでそう言う村長になるほど、と思う。
確かに、いざ何かが起きた時、それを分かっていないと、より効率的な行動を取ることが出来なくなってしまう。
…あれ、でもそれで困るのって、寧ろ村人の安全を守る義務のある村長じゃ…。
ん?俺が不利益を被ることもあるのか。
裏切られる可能性云々を無視しても、助けて貰える機会を捨ててしまうことになりかねないって考えると、そうなるか。
俺は、うんうん唸りながら村長の言う事を噛み砕く。
でも結局は一つの可能性に思い至るとまた一つの可能性に思い至る…みたいな感じで、話が進まないから、適当なところで切り上げるんだよな。
うん、分かってる。
分かってるから、深くは考えないで頷いておこう。
「村長はどうしたら良いと思う?」
「まずは村人と交流を深めてください。そうしながら、隠密活動が可能になるくらい修行をします。シンジュ様は、まず情報を集めたいとお考えなのでしょう?で、あれば焦りは禁物ですよ。地盤を固める事から始めるのが良いかと考えます」
…考えてみれば、最初に言っていた魔素への抵抗力を付けるというのも必要だし何よりも急がれるのは修行なのか。
修行と言うと…一番最初に思いつくのって、普通に剣の素振りみたいな地味だけど必要なヤツとか、ファンタジーらしく、モンスターを倒すみたいなものだ。
何をすれば良いんだろう。
…こうしてみると、俺本当に何にも分からないんだな。
まぁ、普通に日本で生きてればそんなもんだよな。うん。
「分かった。まず、皆にあいさつする。後は、何をする?」
「シンジュ様!よろしければ、私と共に修行を致しましょう!」
「ミーシャと?」
「はい。私も村の為になるべく、日々修行を重ねております。何かシンジュ様のお力になれるのではないかと」
…なんか妙に不安になるのは、気のせいだろうか。
ミーシャちゃんに失礼なのは分かってるけど。
ステータスを覗き見してしまったせいだろうか。
ステータスの伸びに偏りが出そうな気がしてしまうんだよなぁ。
「僭越ながら、私も村長としてシンジュ様の修行に協力致しましょう。私も年ですので、共に修行…とは参りませんが、訓練内容を考えるくらいであれば、力になれるやもしれません」
「本当か?」
「はい。この森の為になることです。喜んで」
村長だと、違う意味で不安になる。
俺、騙されてるんじゃないかなーって気になるのだ。
いやいや、見てみろよこの清廉潔白そうな美しい笑顔を。
腹黒そうだなんて気のせいだから。杞憂だから。
ミーシャちゃん一人にお願いするより断然安心だろ。
「頼む」
「はい」
「…シンジュ様。私とは修行して下さらないのですか…?」
返事を頂いていないのですが、と哀しげに眉を下げるミーシャちゃん。
どうしよう、とても胸が痛い。
そんなつもりだったんじゃないんだ。
顔には一切出ないんだけど。
それは俺のせいじゃなくて、木製の身体のせいだからね。
「ミーシャもよろしく」
「!はいっ」
慌てて頷くと、ミーシャちゃんは弾けんばかりの笑顔を向けてくれた。
美人の笑顔は、見ているだけで幸せな気持ちになって来るな。
こうなったら俺、ミーシャちゃんの笑顔の為に頑張ってみようかな、修行。
目的が不純?
いやいや、純粋な人助け精神だから。
「それでは、早速今日から顔合わせを行って頂けますか?ミーシャ。シンジュ様をご案内しなさい。私はその間に、訓練内容を考えているから」
「分かりました。シンジュ様、準備が良いようでしたら、私について来て下さい」
何となく、これRPGで良くあるイベントのような気がするなぁ、と思いつつ、俺は軽く頷いて椅子から立ち上がる。
RPGだったら、馬鹿みたいに長時間待たせておくことも出来るけれども、ここは現実世界なのだから、流石に気持ちの整理がつくまで、なんて言って何時間も待たせる訳にはいかない。
ここで躊躇う時間なんて無駄だ。
俺はそう思いながら、すぐさま歩き出す。
「それでは、参りましょうか」
ミーシャちゃんはそう言うと、丁寧に村長に頭を下げて部屋を出た。
俺もならって頭を下げてから彼女の後に続く。
玄関の外はすぐ外だった。
木の身体で見ると、広場の正面の家が村長の家だったらしい。
俺の木の身体が、ドドンと立っているのが見える。
…うーん。
こうして見ると、たった数日前に生えて来たものとは思えない大きさだな。
木としては小ぶりだけども、数日前に生えたものとして見ると、かなり大きい。
微妙に誇らしい気持ちになる辺り、俺は精神的にも木になってしまったのだろうか。
それとも、やたらと順応力が高いのか。
…どちらも喜ばしいことではなさそうだけど。
「皆さん、落ち着いてください」
ミーシャちゃんの言葉で、家の周りにたくさんの人が集まっていたことに、ようやく気付いた。
どうやって中の状況を知り得たのか。
それとも、最初から集まっていたのか、村人全員なんじゃないのか、という人数が家の前に集合していたのだ。
「彼は身体こそ別ですが、確かに新しいシンジュ様でした」
ミーシャちゃんが、良く響く声でそう宣言する。
これ村長の仕事じゃないの?と思ったけど、ミーシャちゃんが自信満々で説明してるから、大丈夫なんだろう。
「ミーシャ様がそう言うんならそうなんだろうな」
「守ってもらえるんなら、それで良いけど…」
…村人たちも、一応は俺を受け入れてくれる動きらしい。
とてもありがたい。
何の脈絡もなく、燃やされたくないしな。
俺の焼死フラグは、未だ立っていないと信じたい。
「これからもシンジュ様はこの村をお守り下さると約束して下さいました。それに当たって、シンジュ様は村人全員と言葉をかわしたいとお望みです。どうか、協力をお願い致します」
ミーシャちゃんの言葉に、ざわつきが起こった。
…けど、すぐに鎮静化して、俺はミーシャちゃんに連れられて、順番に自己紹介をして回ることになった。
全然俺のこと説明していないように思えるんだが、大丈夫なんだろうか。
寧ろ村人よりも村人のことを心配する俺をよそに、村人たちは予想外に優しく俺のことを受け入れてくれた。
最初は懐疑的な態度だった人も、なんか握手までしてくれた。
「よろしくお願いします、シンジュ様」
「うん」
こんな態度最悪な俺で良いの!?
良く分からないんだが、村人的にはOKだったようだ。
何か、木の身体にも挨拶してくれてるし。
「シンジュ様。とりあえず、今現在村にいる者の挨拶は終わりました。それでは、一旦家に戻りましょうか」
「修行したい」
「そうですね」
何事もなく挨拶は終了した。
…こんな感じでチョロ…ゴホン。簡単に、すべての事が済めば良いのだが。
俺は、そんな有り得ない期待を抱きながら、ミーシャちゃんについて家に戻ることになった。
話が全然進んでいない?
ストックが切れたせいです。