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異世界×転生×etc.~気付けば木とか豚とか悪役令嬢とかだった人達の話~  作者: 獅象羊
第一章/木になった俺と、最果ての森の四種族
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00.プロローグ


 ある物語を記し、残そう。

 それは、とても現実とは思えない、不可思議な物語。

 けれど、それは確かに、本当にあった物語。


 どこから語るべきなのか。

 彼か彼女か、或るいは他の誰かなのか。

 発端は、絡み合う糸の根っこはどこにあるのか。

 語ることが僕には出来ない。

 どこから語ることが相応しいのか、分からない。


 だから、迷いなくここが全員の物語の始まりだったと。

 そう言える、あの秋の終わりから語ろうと思う。

 後世のヒトがこれを読んだとして、伝わらないのならばそれで良い。

 僕は、物書きではない。

 語るべき言葉など、持ってはいない。

 僕に託したヒトの判断が、間違っていたというだけの話だ。


 そう、あの秋の終わり。

 僕達は恐らく、その人生を終えた。

 恐らくというのは、一切実感の伴わないことであったからだ。

 話を聞くことが出来た全員が、そう言っていたことから、これは全員に共通の認識であると言っても過言ではないだろう。


 いつもと同じような日だった。

 僕達は通っていた高校に登校し、授業を受け、部活へと顔を出す。

 部活に所属していない者は、既に帰宅していたのかもしれない。

 だが、僕は会ってもいない人間の行動など把握していないのだから、明言は出来ないので、割愛させてもらう。

 少なくとも、何らかの用事があって学校に残っていた者は多かった。


 午後5時。

 季節柄、少し空が薄暗くなっているような時間だった。

 書き手が僕なので、僕の視点になることはあらかじめ容赦してもらうことにして僕の認識における直前の出来事を説明しようと思うが、その時僕はいつものように美術部に顔を出して、絵を描く他の部員たちの手元を眺めていた。

 そうすると、やはりいつものように、生徒会長が酷く真面目な表情をして、僕を呼びに来る。

 それらは僕にとっていつものことだった。

 恐らくは、僕の知らないところでも、日常の営みが行われていたのだろう。


 そうして、生徒会長はいつも適当で反りが合わないのだろう漫画研究部へと僕を引きずって行き、他の生徒会役員と共に、生徒会への提出書類の不備を指摘。

 顧問の若い男の教師は、カラカラと笑いながらそれを謝罪するが、悪びれる様子は一切なく、それに生徒会長は人の良さそうな笑みを浮かべながらも、どこか癪に障るようで、苦々しそうにしっかりしてもらわないと困ると、苦言を呈した。


 そうすると、生徒会長の幼馴染だとかいう漫研部員の女子が顧問を庇って生徒会長に文句を言う。

 表情は一切変わらずとも、生徒会長の機嫌は目に見えて悪くなった。

 その場にいた他の生徒会役員と、漫画研究部員たちは、揃って溜息をつく。

 普段は完璧に仕事をこなす生徒会長にも、弱点はあるものだと、大して興味はないが、最初に見た時、少しは驚いたのを覚えている。


 これは、僕から見たその瞬間の出来事である。

 他の場所にいた者たちがどうしていたのかは分からない。

 ただ、何度でも言おう。

 僕達は、ただいつも通りに生活していた。


 そんな時、周囲から一切の音が消失した。


 何の予兆もなかった。

 周囲の人間が、驚きの声を上げたのが見えた。

 しかし、見えるだけだった。

 口をパクパクと動かしても、音は出ない。

 いや、出ていないのか、それとも僕達の耳が聞こえなくなっていたのか。

 今となっては確認しようはないのだが。


 状況を理解出来ない内に、漫画研究部の顧問が、普段は見せない真剣な表情で、僕達生徒を守るべく、身振り手振りで部室の中央に集まるよう指示を出した。

 明かなる異常事態の中で、彼の指示が正しいものだったかは判断に困るが、少なくとも、混乱する場を収拾する、という意味では、英断だったのではなかろうか。


 次いで、漫画研究部の部長が同じように指示を出す。

 僕達はその指示通りに、恐らくは状況を把握しきるまでは安全だろうと思われる部室の中央に集まった。

 ある者は震え、ある者たちは手を握り合い、又ある者は油断無く辺りを見回す。


 僕は、そんな彼らを、どこか遠くで起きている出来事のように眺めていた。

 この異常事態が現実であることを、僕は理解していたが、それだけだった。

 僕は、自分の命や彼らの命よりも、家の方が心配だった。


 直後、ほんの瞬きの一瞬で、僕は見知らぬ部屋に寝ていた。

 後世の読者からは説明が足りないと、指摘を受けるだろうことは分かっている。

 承知の上で、そう記している。

 まるで手品か魔法か。

 まったく理解に苦しむが、僕は気付くと赤ん坊で、見知らぬ男性と女性が、僕の両親だと、聞き覚えのない言葉で名乗っていた。

 それは、本当に一瞬の後のことだった。


 かなり後のことになるが、他の面々も気が付いた場所や状況に差はあれど、大体はそのような形で、誰からも何の説明もなく、自分達を取り巻く現状が一体何であるのかと理解出来るだけの時間も与えられず、気付くと見知らぬ場所で、見知らぬ誰かに生まれ変わっていた。


 いずれも同じ、西洋風のファンタジーな異世界に。

 ある者は田舎の村人の子として、ある者は魔族の貴族として、またある者は獣人として、更にまたある者はモンスターや動物に。


 そう。

 これは、僕の残す記録ではあるが、それぞれの立場で、それぞれの視点で紡がれる、まったく異なる物語。

 それでいて、いずれ重なる物語。


 面倒ではあるが、歴史遺産としての記録は重要だ。

 願わくば、可能な限り多くの同郷の者と会い、この物語が詳細に、分厚くなっていくことを。

 一人の歴史と美術を愛する者として。


 記録人としては面倒極まりないので、早く終わることを願っているが。

 …それは、蛇足というものだ。


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